16:師匠を探して
薪取りの小屋が、この細い道の先にあるとルカスが言った。高原から少し下りた、木々の生い茂る山道だ。道と呼べるほども無く、木々の枝をかき分けながら進む状態。幸いなことに、異形生物は現れなかった。今までの経過があるから、油断だけはしなかったけどね。キッポは木々の声を聞いて、異形生物が近付いて来ないか、探ってくれている。
部落の老師には、キッポが見せてくれた光景のことを、ありのままに話した。沈痛な面持ちになった老師は、
『キッポさんと人間様を信じます。調査を続けてくださいませ。部落のドルイドには、異形生物からなどの脅威に抵抗出来るよう、待機を命じますから』
と言ってくれた。部落の信頼を背に受けたわたしたち。さあ、しっかりしなくちゃ。部落のためでもあるし、ルカスの旅のためでもあるんだから。
不意に視界が開け、そこに粗末な茅葺の小屋が建っていた。今にも崩れそうで、中に入らずとも誰かがいる気配は感じられない。
「ここは違ったか」
ルカスが言う。
「仕方が無いよね。他を探そうよ。異形生物は近くにいないから。安心して」
キッポが、沈みがちになるわたしたちの空気を破って言った。こんな時は本当に、キッポの天然な明るさが嬉しく思える。いつしかキッポは、わたしたちの大切なムードメーカーになりつつあるなあ。
「そうね。いくつか小屋があるなら、片っ端から当たって行きましょ」
「すまん。頼んだ」
言いつつルカスは、ペンダントを握った。無意識の行動だろう。わたしがしょっちゅう魔道の額冠に触れてしまうように。
「あとあるのは、高原にもう少し近い方だ。山歩きで悪いが、行ってみるか」
「大丈夫。わたしはまだ歩けるから」
「『油断だけはしないで』って葉っぱが言ってる。ボクも平気だよ。『声』をちゃんと聞いているから。何か異変があったら、すぐに教える」
森の中では、キッポのことばを頼るに限る。森の民だものね。わたしやルカスが感じられないことも、察することが出来るんだから。キッポ……。出会ったころとは大違い。今では、幼さと力強さと言う相反するものを持ち合わせている。わたしが成長して無いだけかしら? それは無いと思いたい。
そんなことを考えながら、ルカスとキッポのあとを追う。沢をいくつか越えて、さらに木々の中に分け入った時。
「来るよ!」
キッポが小さく、でも強く言った。異形生物!?
「まだ間に合う! 気配を消して!」
どう言うこと!? とっさではあれ、わたしたちは歩みを止め、呼吸さえ隠すようにじっとした。
「ドルイドとしてお願いします。私たちを木々の一部にしてください……。了!」
キッポが素早く唱えると、不思議なことにわたしたちは、『樹の内側』に入りこんだ感覚に包まれた。そうか。魔法で同化させたんだわ。――波動! でも、魔道のものじゃないわ。魔法でも無い。強烈な畏怖感・脅威感・威圧感。
(どう言うこと? キッポ?)
(強い力がそばにあるんだ。安全のため)
ささやき合う。そうしたらルカスが、
「師匠!」
言ったかと思うと、『アルプラチノ』が見せてくれた光景にあった、長剣を背にした老人が姿を見せた。ルカスは『樹の内側』から抜け出すように、老人の前に出た。これが……、これがルカスの師匠なのね。ものすごい波動。対峙しただけで、身を凍らせてしまうかのような。何て言う力。これだったら、ほとんどの者は戦う以前に逃げ出してしまうことだろう。




