15:見ていたもの
「そっか……。そこを見て回るしかないかしら?」
わたしがそう言うのとほぼ同時に、キッポが、
「ちょっと待って。――『アルプラチノ』が話してる。ボクに向かって話してる」
「――!?」
「はい。はい。宝珠ですね?」
キッポはどこか遠くを見て、1人話しながら、ポケットから宝珠を出した。
「ドルイドとしてお願いします。『あなた』が見た、本当の出来事、光景を私に教えてください……。了!」
白い光がスパークした。眩しくて目を開けていられない。光は輝き続けて……。
「ドルイドとして。私を選んでくださり、ありがとうございました」
キッポがお礼を言った。目をゆっくりと開ける。何とも信じがたいことに、キッポが手にしている宝珠から光が出ていて、家屋の壁に鮮明な景色が映し出されていた。わたしは一目で分かった。これは高原が滅ぼされる前の光景だ。わたしが実際に見たのは焼け崩れた景色だけど、あらゆる部分に見覚えがあるもの。
「キッポ。――これって、高原の様子よね?」
「うん。『アルプラチノ』が見ていた景色だよ。先輩のドルイドじゃなくて、どうしてかボクを選んでくれたみたい。本当の光景を知らせること。――見ててね。続きがあるから」
言われるまま、幻想的なドルイド魔法をわたしたちは見た。
1人の老人が家屋から出て来て、集落の住人全員を集めた。これは……。
「師匠だ。間違いない」
ルカスの言う通りだろう。師匠と思われる男性の老人が、背中に長剣を斜めに下げている。全員で7、8名だろうか。集落の人々が高原からいなくなる様子が映っている。その直後。炎の波が高原を飲み込んだ。おそらく。闇魔道の『豪炎』だろう。一瞬で高原が焦土と化した。火の手があちこちから上がり、煙が満ち、何も見えなくなった時点で映像は終わっていた。でも。肝心な魔道を使った人物、おそらくはティアリアさん、が映っていない。誰が高原を滅ぼしたのかは、分からないままだった。
「ドルイド魔法じゃないよ。きっと、魔道。リムノなら分かる?」
キッポが言った。わたしはうなずく。
「たぶんだけどね。闇魔道の『豪炎』だと思うわ。今のわたしには、とてもじゃないけど扱えない魔道」
「魔道か。ティアリアかは分からないが、おそらくは」
「これだけの魔道を使えるなんて。もしティアリアさんだとしたら、ものすごい力の持ち主ね。わたしには、まだまだ使えない。そんなハイレベルの魔道だから」
だって、ほんの数秒間で、高原を火の海にしたんだもの。信じられないレベルだわ。ルカスは、
『滅びの魔道に秀でていた』
って言うけど、ここまでの力だ。どんな魔道でも自在に操れるだろう。――そう。異形生物を召喚し、部落や村を襲わせることさえも。それにどんな意図があるのか、わたしにはまだ、分からないけどね。もしかしたら、暴走してしまっている復讐心から来ているのかもしれないし。――思わず、震えが走った。こんな力を持ったティアリアさん(おそらく、だけど)と、ルカスは戦おうとしているのね。お互いに愛し合ったのに。ルカスに宝石まで残したのに。それでも、今度会ったら戦うことしか残っていないなんて……。どうにかして、他の方法を探したいわ。
「ルカス。師匠をまずは探して。そして話しましょう。ティアリアさんとルカスが戦うなんて、あるべきことじゃないと思うの。――違っていたらごめんなさい。でも、師匠ならティアリアさんを説得してくれるんじゃないかって……。そんなことを考えちゃうわ」
キッポも、
「師匠と会いたいんでしょ? ティアリアさんの前に、師匠を探してみた方がいいんじゃないかなあ」
と、同意した。ルカスはまた無精髭を抜くと、
「そうとも思うが……。師匠には、迷惑をかけたく、無いんだ。オレの勝手な考えとは分かっているがな。しかし、そうか。――師匠と会うことを、最優先にしても、いい、か」
考えながら話した。続けて、
「師匠なら、ティアリアのことも良くご存知だ。戦いを避けられるかもしれないな。もしかしたら、だが。――甘くは考えられないからな」
それであっても。可能性を考えるのは、決してムダなことじゃないだろう。少なくとも、破滅の道に進むことだけは避けられると思う。ルカスが諦めてしまうこと。それは何とかしてでも止めて欲しい。もし。
――もし、ティアリアさんと戦うことになったら、わたしだって(おそらくはキッポもね)力を貸したい。レベルが全然違っても。だけど、ルカスのことだ。キッポがチップルと対峙したように、力を借りることを否むかもしれないけどね。
「師匠を探しましょ。とりあえずご健在なことは分かったんだから、そこから考え始めても遅く無いと思うの。ルカス?」
「そうだな。キッポがくれた薬草で疲れも癒えたし、心当たりを探してみるか。いいか、それで?」
「ボクもそれがいいと思う」
わたしたちはうなずいた。ルカスのため。わたしたちのため。今こそ力を合わせましょ。




