14:ルカスの自嘲
でも、そのティアリアさん。
本当に高原を滅ぼしたのだとしたら、ものすごい力の持ち主だ。『アルプラチノ』すら分からないまま、力を使ったのだから。そして。
「ルカス。狗畜生や豚化物が多くなっていることも、もしかしてティアリアさんに関係あるのかしら? 闇魔道に、異形生物を召喚して操ることが出来るものがあるって、勉強した覚えがあるわ。そんな力があるのなら、可能性もあると思うの。チップルがスケルトンを操っていた時みたいに」
一気にわたしは言ってしまった。ルカスが痛そうな表情になる。
「おそらくは。滅びのための魔道に秀でていたからな」
「今でも好きなの?」
キッポが無邪気に訊いた。また痛そうな表情。
「そうだな。キッポの言う通りだ。オレは今でも……。こんなことが起こっても。愛してる」
ティアリアさん。そこまで魅力があるのね。でも、行いは許しがたいわ。力を滅びのために使うなんて。使い方を間違っている。私利私欲のために魔道を使うことは、禁忌に抵触しているもの。
「いつか。いつか決着は付けないと。オレもそう思ってる。ティアリアに対しても。オレ自身の気持ちにも。例え結果が最悪な滅びであったとしてもな。――オレは。滅びの渦の中でも、ティアリアとまた、1つになりたい。戻れない道だとしても、それが分かっている道でも。本当に……、すまん」
わたしは、
「謝らないでよ。ルカスが悪いわけじゃないもの」
力強く言った。
ルカスが、自嘲のあまり投げやりになりかけてる。それが痛々しかった。そんなルカスは見たくない。わたしたちの年長者として、いつでも落ち着いているルカスに、戻って欲しかった。
「ルカス。戦うの?」
単刀直入にキッポが訊いた。キッポらしいと言えばそうなんだけど、今のルカスには、ちょっと酷じゃないかしら……。
「いつか。いや、近いうちにかもな。もしまた出会えたら。今度の逢瀬はオレとティアリアの戦いになるだろう。確実に。ティアリアの考えが変わっていたら、避けられるかもしれんが、高原をあそこまでやったんだ。師匠とオレを許してはいないだろうさ」
そう言えば、ルカスの師匠。
「師匠はどこに避難されたか、見当は付くの?」
わたしは訊いた。災厄に気付き、避難することが出来るくらいの力。それがあれば、もしかしたらルカスとティアリアさんの衝突を回避出来るかもしれない。
「隠遁していらっしゃる身だ。麓に下りられたとは考えにくい。森のどこかにいらっしゃるといいんだが……。心当たりはいくつかある。狩猟や薪取りのために、小屋があるんだ。そこに避難されている可能性が、一番高い」




