表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

12:滅ぼされた高原

 わたしたちは、部落のドルイド3人と一緒に、アルプラチノ高原へ再び向かった。誰しも足取りが重たい。――ムリも無いわよね。滅ぼされた場所の調査なんだから。斜面を、押し込められたような沈黙と共に登って行く。沈黙(・・)。キッポたちドルイドじゃなくても分かるわ。森に小動物たちの気配が無いこと。イヤな予感ばかりが脳裏をよぎる。

 まだ少しだけ、くすぶりが残っている山道。でも、火の手はほぼ消えたようだ。煙が流れて来ない。脚が速まる。

「先輩方。森が……」

 キッポが、部落のドルイドたちに向かってつぶやいた。

「そうですね。会話がありません。こんなひどいことを、一体、誰が」

 また。

 ルカスが遠い目をしている。何か話せないことがあるのね。いつか打ち明けてくれるかもしれないけど。水臭いなあ。わたしたちに話してくれても、ううん、話してくれないなんて、長い間一緒に過して来たことが役立って無いわ。

 視界が開けて来た。丘陵が穏やかに弧を描いている。焼けて葉を落とした木々に囲まれるようにして、背の高い樹木が1本だけ大きく立っていた。これが、

『アルプラチノ』

なのね。一本樹だけは、まるで何かに守られているかのように、葉を茂らせていた。巨きなおおきな樹木。その下に、焼け崩れた集落があった。誰もいる気配が無い。

「――ひどいな」

 ぽつりとルカスが言った。ことば無く、わたしたちもうなずく。

「とにかく、集落を調べてみましょう。キッポさん、人間様。宜しくお願い致します」

「はい」

 ドルイドのことばに、キッポが返事をする。わたしたちは用心しながら、崩れた集落へ向かった。――遠目に見えていたのより、かなりひどい崩落だ。まだくすぶりがあって、細い筋の煙が揺れること無く立ち昇っている。人の気配はまるで無い。

「ルカス。師匠のお住まいはどこだか分かるの?」

 わたしは訊いた。これまで崩れていると、家屋の特徴が分からない。

「ここ、のはずだ」

 ルカスの歩む先を行く。完全に燃え尽きていた。恐るおそる見てみたけど……。焼死体は見当たらない。

「やはり、避難されていたんだな」

 ルカスのことばに心中、安堵のため息をついた。とりあえず、安全なところへ向かってくれたのだろう。

「キッポさん。そちらはどうですか? こちらには被害に遭われた方々はいないようです」

 ドルイドの1人が言った。それを聞いて、ちょっと安心。

「こちらも大丈夫なようです。事前に察知されていたようですね」

 キッポが答える。

「火の手の原因は分かりますか?」

 わたしは訊いてみた。それが分かれば、今後の目途も立つ。

「自然火災とは考えにくいですね。――『アルプラチノ』にも訊いてみましょう」

 そう言うと、宝珠を取り出した。キッポの宝珠は白い光だけど、このドルイドの宝珠は薄いブルーの光。きらめきが一瞬あふれる。

「――やはり。詳しくは分からないようですね。『アルプラチノ』はこの高原の、(もり)のものとされた樹木ですが……。それでも、何も伝えられないところを見ると、火を付けた者は、よほどの力を持っていたのか。もしくは『アルプラチノ』がタイミングを計り、今は伝えられないとしているのか。申し訳ありませんが、そこまでしか推測出来ませんね……」

 なるほど。『守のもの』か。それで今でも、葉を茂らせているのね。だけど、その樹木が分からない、伝えられないとなると、よほど強力な魔法・魔道が使われた可能性が高いわ。でも、どうして。

 この高原を滅ぼさないといけなかったのだろう? ルカスの言う通り、秘匿情報とされた師匠の存在が関係あるのかもしれないけど……。

 何か。前も感じたけど、何か知られたくない・触れられたくない秘密が、この高原にはあったんじゃないだろうか? ルカスがまだ情報を知っているようだけど、話したくないみたいだし。――いつか話してくれるかしら? わたしやキッポから、ムリに聞き出すことは気が引けるしなあ。

「――リアか」

 小さくルカスがもらした。微かな声だったので、聞き取ることは出来なかった。誰かの名前だったみたいだけど。誰だろう。

「何のこと?」

「ん? ああ、何でも無い」

 また。ルカスが口をつぐむ。わたしの問いには答えてくれず。――ルカス。知ってることがあったら、話して欲しいわ。自分だけで抱え込まずに。

「キッポさん、人間様。とりあえず被害の状況はつかめたので、一旦、部落に戻りましょう。ご協力、感謝致します」

「はい。――ルカス、リムノ。帰ろう?」

 キッポのことばに、わたしはうなずいた。

「ルカス。――ルカス?」

「すまない。何だ? キッポ?」

「帰ろうよ」

「そうだ。そうだな」

 キッポの問いかけにも、気の無い返事。どうしちゃったの、ルカス……? 全然、いつものルカスらしくないわ。

 それでも、わたしたちは高原を後にした。せめてもの救いは、往きと違って、森に小動物の気配が蘇ったことだろうか。小鳥たちのさえずりや、下草の中を動く生物が感じられる。焼けてしまった森は、元に戻るまで(キッポなら分かるのかな。きっと)長い時間が必要だと思うけれど、こればかりはどうしようも無いことだ。また無言のまま、わたしたちは部落へと急いだ。とにかく、老師と相談して今後のことを考えないと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ