10:山火事!?
キッポが大声で、
「ルカス! 森が泣いてる! 炎に包まれてるって!」
「本当か!?」
「うん。高原に火の手が上がってるみたい!」
――本当だ。もう少し進んだら、ほんのわずかだけど、物の焼ける臭いが漂って来た。チップルと戦った時のように、イヤな予感が満ちて来る。どうしてこんなにも、タイミングが悪いのかしら。
さらに進んでみたら、煙がもうもうと流れて来た。
「山火事かよ!」
ルカスが歩くスピードを上げた。これはもっと急がないと!
「森が苦しんでる。熱いって。痛いって」
視界が煙に奪われる。火の手が細い道の先にいくつも上がっていた。
「くそッ! これだと高原まで歩けない!」
「ルカス。森が……、森が答えなくなった。高原の森、考えたく無いけどみんな焼けちゃったみたいだよ……!」
「キッポ! ドルイド魔法でどうにか出来ないの!? わたしの氷系魔道じゃ、とても追い付かないわ!」
わたしの叫びに、
「手が付けられないんだ。もし『天候変化』の魔法が使えれば、消火が出来るかもしれないけど、今のボクには使えない!」
「ルカス! どうするの!?」
「――どうしようもない。高原への道はここしか無いんだ。諦めて……。諦めて、さっきの部落に戻るしかないだろ……」
ルカスはそう言うと、きつく唇を噛んだ。――断腸の思いだろう。郷里同然の場所が炎に包まれているのに、手をこまねいて、帰るしか方法が無いと言うのだから。でも……!
「でも! ルカスの師匠はどうするの!?」
「きっと予測されてる。高原にはもう、いらっしゃらない可能性が高い。火が消えたら。部落のドルイドたちに協力してもらって、様子を見に来るより、無い」
お守りである、青い涙滴形をしている宝石のペンダントをぎゅっと握り、苦しそうにルカスは答えた。本当に。誰が、こんなことをしたんだろう? キッポの旅が蘇る。あの時は、チップルの指示で聖堂が燃やされたんだった。今回も異形生物だけじゃなくて、誰かの意図で炎が放たれたのかしら? もしそうだとしたら、一体どんな……。とにかく、この山火事は自然に起こったとは考えにくい。北の大陸ならともかく、これだけ湿度のある森だ。空気は麓と比べれば確かに乾いているけど、ここまで火が回ることは不自然極まりない。
何者かの意図によって、高原が滅ぼされた。
これは間違い無い。高原には何か、触れられたくない何かがあったんだわ。ルカスは。想像が付いているのかしら? まだ言いにくいことがあるように、わたしは感じられるんだけど……。でも、訊けないわね。誰よりもルカスが一番、ショックを受けているはずだから。
「――戻ろう。部落に」
普段のルカスらしさは影をひそめ、絞り出すようにぽつりとつぶやいた。わたしとキッポは、ただうなずくより無かった。足取りが重たい。とりあえずは、老師に話すしか無いわね……。




