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現在・栞編−小倉の夜−

私たちは その後、小倉の 大きな川の川添いにある ホテルに部屋をとり、レストランバーに夕食を食べに来ていた。



尊が メニューを注文しおわったとき、彼の携帯が鳴る。


『もしもし、パパ?』


電話の向こうから 幼い声が聞こえた。


「もしもし、塁か?どうしたんだ?」


尊は席を離れた。



私は 彼が気になり何を注文したかも忘れてしまった。



そうか、彼は もう あの頃の 彼ではなく 誰かの大切な 『パパ』なんだ。

急に現実に引き戻される。


「ごめん、ごめん、息子からの電話でさ。」

彼が 電話を終えて 席に戻った。


「塁くんっていうんだ。前沢くんらしいね。あなたが付けたんでしょう?」

「ああ。オレは野球やらせたいんだけどさあ、嫁さんのほうの親が 直射日光に長くあたるのは良くないから 武道をやらせろっていうんだ。考えられないよ。」


「そういうジジババっているのよね。好きにさせてやりゃいいのに。」


「だろ? 」



「ねえ、奥さんって ひとり娘?」

「そうだよ。」


「やっぱりね。大変だ、それは。・・で、塁くんはなんて? 」


「誕生日が近いから、プレゼント買ってくれって。」


「そう、それだけ?」


「ん〜、じゃないけど。美月さんとこは 大丈夫なの?」


彼は 話を反らした。


「うちは 小学生だし、もう大きいから 二人とも好きなことやってるよ。『たまには 楽しんどいで。こっちは大丈夫だから』って、さっき電話したら言ってた。」


「しっかりしてるね」


「子供はあっという間に成長するよ。でも まさか男と一緒とは 思わないだろうけど。」



また 二人の間が沈黙・・・・。


「まあ、飲もうか。」


ちょうど来たビールで乾杯した。


「何に乾杯だったの?」


「とりあえず、再会に」


「前沢くんと飲むのって初めてだよね。」


「だって、高校生以来だよ。」


「野球に燃えてたから、酒もタバコもオンナも NGだったんでしょう?」


「そう馬鹿にしたもんでもないよ。」


「そうなの?」


「美月さんは?」


「私は まあ、酒は強いほうだと思うけど。」


「男は?」


「弱いよ。ほんとに。女は 男で変わると思うよ」


しばらくして、私たちのテーブルに サラダが3種類も 来た。


「美月さんはベジタリアン?」


私は 爆笑した。


「前沢くんの電話に気を取られてさあ・・ごめん、責任持って 食べるよ。」


「相変わらず天然だよね」



彼は あまりお酒が言うほど強くなく、でも私も今日は潰れる訳にいかないからと かわいらしくカクテルを飲んでいた。



「あのさ、昔の女って、タンスの中から 久しぶりに発見した 古着のようなもんだと思わない?」


「なんだよそれ」


「何年ぶりだろう、懐かしい、って久しぶりに着てみたら 意外とまだ着れたって感じ。」


尊は 私の注文した サラダのひとつを食べながら、私から 顔を反らして笑いを堪えて 肩を揺らしていた。


「でもさ、昔とは違って、なんかしっくり来ないんだよ。自分も歳を重ねてるし、古着も何となく色あせてるし」



「美月さんて 酒飲ますとおもしれーな。」


「当たってると思ったでしょ。」



「でもさ、着なくなった服をさ、うっかり人にやったとするじゃん。 そいつが着てるのを見て、やっぱりオレのほうが 似合うって 奪い返してやろうかと思うことも、あるかもしれないよ。」



「前沢くん・・・できないくせに、っていうか そんな気 ないでしょ。」



「自分だって。全部棄てる気ないだろ? オレとは今夜限りって思ってきたんだろ?」


「前沢くんから 前にひどいこと 言われたし。あんなこと言われたら 無理だよ。ね〜、塁くんのパパ」


「うるせー。根に持つ女はムカつくんだよ。」



「ねえ、電話 なんだったの? 戻って来いって言われたんじゃないの?」



私はわざと 尊の気持ちを逆なでするようなことを言う。



「別に。そんなに気になる? オレのこと、昔と同じくらい 思ってんの?」



「思ってるから 来たんだよ」


「じゃあ、言わない。」


「なんか ほんと微妙ね、私たち。 イライラする」


私は 尊の残っていたビールを奪って 一気に飲んだ。

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