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現在・栞編−決意の旅−

数日後の土曜日、


尊との待ち合わせ場所は、二人が出会った 中学の前にした。


陽射しが暖かく、いい天気の朝だったが、私の心はなぜか晴れない。



「前沢くん」


「おはよう、美月さん」


私たちは 中学時代からそう呼び合う。


「久しぶりだなあ、中学も。随分変わったね」


「そうね。懐かしい」


しばらく、中学のグラウンドや校舎を 感慨深げに見渡した。


「さあ、行くか。」


私は 彼の車に乗る。


SUVの大きな車だった。

「息子とね、これがいいねって 相談して 買ったんだ。嫁さんは あんまり車に興味がなくてね、高すぎるって反対したんだけど・・・」


「かっこいい車じゃない。助手席乗るのに 抵抗あるな、私」


私は 長い髪を まとめて、尊が 何も言ってくれないけれど、 助手席に乗った。


彼の奥さんに対する敵意というより、罪悪感が先に立つ。



彼の車のオーディオから流れてくる曲は 女の人が歌うものばかりで、


「この曲、奥さんの趣味でしょ?」

ってきいた。


「よくわかるね。」


「だって 前沢くん、昔からこんな曲聴かないもん。」


そう言って 少し、沈黙。


私たちは 今置かれている立場が難しくて 手探りで 会話をする。


「曲、違うのにする?懐かしいのがあるよ」


尊が 流してくれたのは二人が昔夢中になったバンドの曲だった。




私たちは 広島の桜子伯母さんの 眠るお墓に向かった。


尊とは 話したいことが山ほどあった。

付き合ってた頃の思い出話や 別れてからのこと・・・・。


「ねえ、別れてすぐ、私が他の男と一緒にいるときに偶然出会ったよね。私、なんとか誤解を解こうと思ってさ・・・」


「あの時だけじゃないよ。美月さんが 男と一緒にいるところ 何回か見かけたよ。」

「えっ?知らなかった。」

「毎回 男がちがったけどさ」


「ちょっと待って、それも誤解よ」



「オレは 思ったよ。別れてよかったって。オレに縛り付けてたら かわいそうじゃん。あんまり会ってもあげられなかったし・・・」


「前沢くんと別れて 自暴自棄に なったのよ。一時期。誰といても 楽しくなんてなかった。友達でさえも。でも 月日が経つうちに 少しずつ癒えていった。・・なのに・・・」



また出会ってしまった。

・・言おうとして口ごもった。



また 沈黙になる。


私は 話を変えて、桜子伯母さんの その後の人生を尊に 話した。




「なんか、哀しい話だね」

尊は言った。



「ねえ、前沢くんのお母さんが 学思さんの故郷に来たのは 本当に ご主人の転勤だけが 理由だったの?」


「ばあちゃんから 実は、故郷は別にあることを聞いていたけど、じいちゃんは あまり昔のことに触れたがらなかったらしいよ。

たまたまオレの親父が転勤になったのが、じいちゃんの故郷でさあ、一緒に来ないかって うちの両親が 誘ったんだけど、首を縦に振らなかったって。

じいちゃんは一度も オレの家に 来たことはないよ。 美月さんの伯母さんのことが あったからかどうかは わからないけどね。」


「そう・・おじいさんはいつ亡くなったの?」


「オレが中学二年の頃かな?」


「出会ってたね。私たち。」


「あの時 美月さんに 会わせてたら じいちゃん、なんて言っただろうな」




やがて 私たちは 桜子伯母さんの眠るお墓のあるお寺についた。


墓地は 高台にあり、遠くまで 広島の街が見渡せた。ずっと向こうには 海も見えた。


お墓までには 急な階段が何段もあり、息を切らした私を見て、尊が


「しょうがないなあ」


と 手を差し延べてくれた。

あの頃のように・・

「ここに 前来たのは まだ小学生の頃だった。同じように 父か母に手を引いてもらった気がする。」



私たちは やっと 桜子伯母さんのお墓に たどりついた。


お墓のそばには 桜の木があり、花びらが 風に舞っていた。


「桜子伯母さん、久しぶり。」

私はそう言って 手を合わせた。


実際には 会ったことのない人だけど なぜか懐かしかった。


『伯母さん、ごめんなさい。連れて来ちゃった。彼が学思さんの孫よ。よく似ているでしょう? 私、でもこれきりにする。忘れられるように 力を貸してちょうだい。』


そばで 尊も 手を合わせていた。


桜の花びらが 散り、お墓の下に薄桃色の絨毯を作っていた。


桜子伯母さんは 今の私たちをみて 悲しむだろうか、運命の再会を喜ぶだろうか?




「そろそろ行こうか」

尊が言った。


私たちが 歩き出すと、向こうから 家族連れが歩いてきた。


すれ違い様、その中の中年の男性が 私をずっと見ていた。

「あの、ひょっとして、母の・・道上桜子の 親戚の方ですか?」


彼は 私に咄嗟に話し掛けてきた。



「道上? あの、桜子は私の伯母に当たりますが・・・ あなた、もしかして・・」


「はい。息子です。」



その四十代半ばに見える男性に どことなく 美月家の血筋を感じた。



「あの、失礼ですが、伯母のこと、いつからご存知だったんですか?」


「女房と結婚する時に 父親から 聞きました。」


そばにいた 奥さんが 私に礼をする。


「最初は 驚きましたが、そのうち 私には 母が二人もいて、幸せな人生だと思うようになりました。こうして 時々産んでくれた母に 孫の成長を見せに ここに来ます。」


「そうですか・・伯母は幸せですね。短い人生だったけれど、幸せな人生だったのでしょうね」


「ええ、産んでくれた母にも 育ててくれた母にも感謝をしています。」


「でも よくわかりましたね。私が親戚だって・・」


「以前見た、母の写真にそっくりだったもので・・ いとこ になるんですね。」


「はい、桜子伯母さんは父親の姉に当たりますから。」


「今後ともよろしく。お名前は・・」


「栞と申します。斎藤栞です。」

「斎藤・・、ご結婚されて・・ あのかたが ご主人?」


少し離れて待っていた 尊が ビクッとした。


「えっ・・まあ、はい」


「そう。じゃあ 今後ともよろしくお願いします。」


「こちらこそ。」



そう 挨拶を交わして 私は 尊のところに戻った。


「ご主人ってことに しといたの?」

尊は聞いた。

私は 顔を赤らめて言った。

「だって、初めてあった人に どういうの? ややこしいじゃない」


私は 下り坂をスタスタ尊よりも早く歩いて行った。


『お墓の前で 嘘をついた私は なんて罰当たりだ』と思いながら・・・




私たちは 再び車で北九州に向かった。


車の窓から見る 広島の街は とても 65年前に 原爆が落ちて 壊滅状態だったことが 想像できなかった。


太田川沿いには 家族連れが遊び、川岸には ビルが建ち並ぶ。穏やかな春の日だった。

この広島の復興に桜子伯母さんたちも 力を貸したのだろう。

平和な時代に 感謝をして 広島を後にした。

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