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現在・栞編−桜子の人生−

桜子伯母さんは 広島で 看護学校を卒業して 看護婦として 大きな病院で働き始めた。


広島では 原爆症に苦しむ人々が 後をたたず、桜子伯母さんは 20代をひたすらに その看護に費やした。

桜子伯母さんの心の中には、きっとずっと、学思さんがいたのだろう。

凛子伯母さんには 独身を通すと 言っていた。



でも その桜子伯母さんに、一人の男性との出会いがあった。


その人は 両親を原爆で亡くし、たった一人の身内だった、妹を また原爆による 白血病で 亡くしたばかりだった。



彼は 自分自身も 被爆者だから いつか原爆の影響が 身体に現れてくるのでは、と その影に怯えていた。


桜子伯母さんは 彼の亡くなった妹さんと 萌子が同じ歳だったので、妹のようにかわいがっていた。



その妹の葬儀に出た 桜子伯母さんに その男性は 抱えている不安を 吐き出すように話した。


桜子伯母さんは この人を支えてあげなければと思った。弱っているたくさんの人々を助けろっていう、学思さんとの約束の通りに・・・。

それがいつしか愛情に変わり 二人は 愛し合うようになった。


凛子伯母さんは 学思さんへの思いを断ち切ろうとする 桜子伯母さんの 背中を押してあげたと言っていた。



二人が 結婚したのが 桜子伯母さんが 31歳のとき。


やがて、二人の間に 赤ちゃんができるのだけど、桜子伯母さんも 雫子伯母さんのように 難産で・・・・今のように医学が発達してないから・・・亡くなってしまった。



「その時の赤ちゃんは、男の子でね。あんたの従兄弟になるんだけど、今元気に成長しているよ。・・・でも 父の再婚相手を本当の母だと思って大きくなったんだよ。しかたないのかねえ」



「そんな、桜子伯母さんがかわいそうよ。」


「栞、人生にはね、死んだほうが まだ 楽かもしれないってほど 悲しいことも あるんだよ。・・・・私たちの若い頃は戦争のせいで そんなことばかり経験してきた。戦争が終わっても 自分の身内が死んだりして、身を切るほどつらいことを 味わってきた。・・・でもね、乗り越えられるんだよ。支えてくれる人がいたら。・・・桜子の人生もつらいことが多かったけど、最後に 大切なひとの子供をこの世に残すことができて、幸せだったんじゃないかね。」


「自分のことを 我が子が知らなくても?」


「今のお母さんが 何不自由なく 成長させてくださった。感謝していると思うよ。」



「私、桜子伯母さんの お墓参りに行きたい。学思さんの孫も 一緒に行ってもいいかな?」


「二人で行くの?栞?」


「うん。そのつもりだけど」


「栞、一番 大切なのは 家族だよ。あんたは 自分から 身を切るような つらい思いを すすんでするようなことは 止めなさい。」


「おばちゃん?」


「わかったね。桜子もそういうと思うよ」


それから、凛子伯母さんは 一度だけ 学思さんから、桜子伯母さん宛てに手紙が届いた ことを 教えてくれた。


凛子伯母さんは 学思さんが 北九州にいることも 学思さんが 桜子伯母さんより早く 結婚したことも みんな知っていて 黙っていた。


学思さんの手紙には


終戦後 自暴自棄になっていた自分を 助けてくれた人と一緒になるから、自分のことは忘れるように。

桜子へのつぐないのため、故郷は捨てたと思う。


と書いてあった。



その手紙を 凛子伯母さんは お産で ちょうど里帰りしているときに 読んでしまったらしい。


桜子伯母さんのことを気遣い 黙っていたが、桜子伯母さんの死は 学思さんに伝えた。


学思さんからの返事の手紙は なかった。




「桜子に 学思ちゃんが亡くなったと思わせて 間違っていなかったよ。 でないとあの子は多分、 ずっと一人を通しただろうから」


「おばちゃん、二人がまた出会ってたら どうなっただろうね」


「きっと 今の あんたたちみたいに つらい思いをしただろうよ」



凛子伯母さんは すべてを悟っていた−−−。



私は 凛子伯母さんの病室を出て、 自己嫌悪に陥った。


私は 少し 浮かれていたのかもしれない。


尊に会えること、二人で遠くまで行けること、素直に嬉しかった。



だけど、このままでは 凛子伯母さんの言うように、自分で自分を 陥れることになるだろう。



この気持ちに ストップをかけることが できるのが大人なのだろう。


でも 私は 弱い。


尊に 会いたい・・・



病院を出ると 春の陽射しが 眩しく、もうすっかり風も暖かい。


今年も 桜の時期がきた。


病院の庭の桜の木は つぼみが 膨らみ始めている。


あの 桜が散るころには、尊と きっぱり さよならしよう。


私は そう誓った。


二人のお墓参りは 彼との決別を 誓いに行く旅にしよう。





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