現在・栞編−止められぬ想い−
「おい、栞? 栞、聞いてるか?」
「ん? 何? 何か言った?」
私は あの尊とのこと以来、家でも ぼーっとして物思いに耽ることが 多くなった。
旦那が 何か話かけても こんなふうに 気の抜けた返事で返すことがよくあり、
「最近、何か 悩みでもあるのか? おかしいぞ、ぼーっとして。疲れているのか?」
と 旦那に優しい言葉をかけられると 余計、自分が 情けなくなる。
「疲れてるように、見える?」
そういって 鏡を見て またぼーっとする。
昔 尊に 恋をしていたころに戻った ように 鏡をみることが増えた。
そして ため息ばかり。
尊とは あれから 連絡をとっていない。
仕事に行く途中に 見かける程度で 向こうも 避けているのかもしれない。
凛子伯母さんの写真が 気になってはいたが、あんなふうに言われた以上、もう、会えない。
そして、十日が過ぎた。
職場の昼休みに 携帯を見ると 着信が一件。
尊から だった・・・。
どうしようかと 迷ったあげく、メールで用件を聞いた。
『着信があったので メールしました。ごめん、この間、アルバム忘れて帰ったみたい。どうしたらいい?』
昔から知っているけれど、メールをしたのは 初めてだった。
筆不精だった彼は 一度も手紙を書いてくれたことはなかったが メールは返してくれるのだろうか・・・・
っていうか 何か 連絡を取り合うことが怖い。
しばらくして 私の携帯が再び鳴った。
尊からの電話。
緊張で電話を取る手が振るえそうになる。
「もしもし?」
「あ、ごめん、今昼休み?」
「うん・・・」
「こないだは なんていうか、・・悪かったよ。・・・・オレ、メールって苦手だからさ、連絡しにくかったんだけど。ごめん。」
尊は 時が流れても 変わりないな。と 安心した。
「ねえ、前沢くん、さっきから 謝ってばかりだよ。」
こんな 尊は 初めてだ。
「そうかなあ。・・・あれから じいちゃんのこと うちの母親に聞いたんだ。・・・知ってたよ。こっちの出身だって。」
「桜子伯母さんのことも?」
「そこまでは 知らなかったみたいだけど・・」
「そうなの・・・」
「でね、今度、じいちゃんの命日に、墓参りに行こうと思うんだ。・・・一緒に行ってくれないか?」
私は まさかの 尊からの誘いに どうしたらいいかわからなかった。
この前の 尊の酷い言葉がまだ 耳に残っている。
「オレ、運命とかさ、そんなの信じないけど、オレらが また 会った意味は、 そういうことじゃないかって 思うんだ。」
「前沢くん・・・」
私はため息混じりに言った。
「じいちゃんに 美月さんを逢わせることで 何か区切りが つく気がするんだ。」
「わかった。一緒に行くよ。お墓はどこにあるの?」
「え? 北九州。」
「そっか、そうだよねえ」
行くと言ってしまったものの、やっぱり後悔の気持ちがない訳ではなかった。
尊も やはり 私と再び逢ったことで 苦しんでいるのだろうか?
家族に 何と言おう・・。
その日の夜、帰ってきた旦那に 恐る恐る 聞いた。
「北九州にいる、大学時代の友達のところに 久しぶりに 遊びに行こうと思うんだけど・・・」
「ああ、いいんじゃないか? 最近疲れているみたいだし、たまには 羽根を伸ばして・・・」
「う、うん。」
旦那は 私の変化に 気がついていないみたい。
もう、これきりにしよう。
すべて、これで最後。
その翌日のことだった。
凛子伯母さんが 持病が悪化して 入院した と母から聞いた。
私は仕事が たまたま早く終わったので お見舞いに行くことにした。
「おばちゃん? 大丈夫?」
「ああ、栞ちゃん。わざわざ来てくれたんだね。」
「具合はどう?」
「たいしたことないよ。すぐ退院できるらしいよ。」
「おばちゃん、この前、借りたアルバム、もうちょっと返すの待って」
「いいけど、なんで栞があのアルバムに興味があるの?」
凛子伯母さんは不思議がった。
「ねえ、おばちゃん、私、知ってるのよ。学思さんの 孫を。なぜか 出会ってしまったの。」
私は 学思さんと 尊のこと、学思さんが なぜか郷里のことを 話したがらなかった ことを 凛子伯母さんに 話した。
「そうなの・・・お孫さんがね・・・。娘さんもこちらにおられたなんて知らなかった。・・・・学思ちゃんがね、こっちに帰って来なかったのは、桜子への負い目があったのかもしれないね」
凛子伯母さんは、またぽつりぽつりと昔のことを話しだした。




