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猫と私  作者: 桜妃梨華
猫が私で私が猫で
1/2

 私は、ベッドに寝っ転がってお気に入りの本をめくっていた。

 義母(はは)が彼女の趣味で買い、私も気に入っている本のうちの一つ。 一言で言えば魔方陣の本。

 非科学的?ファンタジー? そんなのどうでもいい。結局は自分が楽しむ為のもの。

 義母にとっては趣味であり資料でもある。

 義母は素直にその世界を楽しんでいるようだったけれど、私はどちらかというと"完成された"その陣の有様が興味深くて仕方が無い。

 そう言えば、義母は 成程、そういう見方もあるね、と言ってくれた。良くも悪くも理解のある人なのだ。


   ぱたん


 ・・・十二時か。


「よし寝る前に語ろう。」


 義母は明日休日のはず。

 とても寝穢いというか低血圧故に朝が超をいくつ付けても足りないくらいに苦手な義母は、頑張って午前一時には寝るようにしている。

 そうすれば寝過して昼過ぎに起きるという事は回避しやすいらしい。それでも"しやすい"なのは、彼女の体質としか。

 本を本棚に戻し、部屋を出ようとした、


「・・・え?」


 扉を開けたらなんか薄暗くて階段一段分ぐらいの段差があった。


  ちょ待っ、ウチの家にこんな段差無いって?!


「っひゃぁっ!?」


  更には何かにぶつかった! あったかい・・・いきもの・・・??


「にゃぁぁぁ?!」(私ぃぃぃ?!)


  ・・・え? な、え、今、何て言った私??


「・・・にゃ?」(・・・何?)


  ・・・ね、こ?


「にゃぅんっ?!」(猫っ?!)


  な、何が起こった!! え、猫化?ファンタジーじゃあるまいし!! 夢かこれは夢か?!


 思わず頬を引っ張ろうと伸ばした手に、気付く。


  猫の手・・・い、や、まえ、あし?


 触ったことは無いが、動物大好き好きな友人に言わしてみればとても触り心地が宜しいらしい、肉球、が。


『 猫 、 煩い 』


 猫猫猫何で猫、と脳内を猫化のことで一杯にしていると、突如、響いた声・・・、いや、意識?感情? ・・・意思が一番近いか。

 断片的に届いたそれの意味は、猫猫と煩い、というもので。

 しかもそれは、目の前の自分から発されたものだと、何故か判ってしまって。


「・・・にゃにゃにゃに・・・?」(・・・入れ替わり・・・?)


  何か昔そんなドラマあったなぁ、小説とか漫画とか、創作物の中でも一つのジャンルとして確立してるもんなぁ。


 納得してしまってから、漸く把握。 うん落ちつけ私。

 状況判断をしよう。 さっき私は義母に語り合いと言う名の夜更かしを唆しに行った・・・、否、行こうとして、私は部屋の扉を開けた。

 そしたらあるはずもない段差があった。階段一段分、数値にすると二十センチくらいか? の。 勿論、よっぽど運動神経の良い人でなければ踏み外すだろう。

 義母と、そして身体能力的には彼女よりマシ程度だったらしい実母と違い、父に似たらしい私は運動神経は並の上。 しかし上の上ではない。

 盛大に踏み外した。 ただ、無意識に体勢を何とかしようと、後ろに倒れるだろうところを前に倒れ掛かってしまった。


  ・・・普通に後ろに倒れつつ受け身を取った方がまだマシだったのかな・・・


 それでもまあ何とか身体をひねって受け身を取ろうとした。今度は足が滑った。 それはもう、大きな音が聞こえる程に、ずるっ、と。


  ・・・家の中だったし裸足なんだけど・・・いや、裸足でも滑る時は滑るか・・・


 そんでもって滑って何とかしようとしたら滑り込みセーフみたいな体勢になって、おでこを何か ―― これは多分、この、猫 ―― にぶつけた。

 気付いたら猫になっていた。


  うん、多分きっと入れ替わりなんだろう。


『 いれかわり ・・・? 』


  そうそう、何ていうの、中身が入れ替わっちゃってるんだよ私達


『 入れ替わり 正しい 。 戻る 僕 どうする ? 』


 ・・・ええと、入れ替わっているのは事実だと肯定してくれたようだ。んでもって、どうすれば戻れるのか聞かれてるっぽい。


  んなもん知らん!


『 !! 主様 凄い 賢い 魔道師 。 僕 使い魔 。 主様 頼む !! 』


 ・・・何か聞き捨てならん言葉があった。それも複数。

 あるじさま? まどうし? つかいま? 何ソレどこのファンタジー?

 よし落ちつけ私。(二回目。)


 ・・・魔道? 魔法、があるの・・・?


『 ある 。 主様 魔法 使う 。 』


 肯定されちゃったよオイ。

 この猫は ―― 薄暗いせいで肉球のみ浮かび上がって見えたので、何色のというかどんな種類か把握できていない ―― "主様"とやらにかなり心酔しちゃってるらしい。 まぁ"使い魔"らしいから当然か。 ・・・当然なのか?


  ・・・ってか、どーやってその"主様"に助けを求めるの?


『 ?? 』


 質問の意味がわからんって顔だな。


  つまりは猫君、君私の身体で喋れるのかという事だ。


「・・・んみ?」


 私の口から洩れたのは、明らかに人間らしくない一言。


 無理ぽ。

 ・・・こうなったらぁ・・・


「ティナル?どこだ?」


  のぁぁぁぁ!?


「ああ、そこにいたのか・・・うん?」


 男の人。柔らかいテノールの声。姿はよく見えない。だって薄暗いし猫視線だし。 微かに、男の着ているとっても長いらしい服の裾らしきものが見えた。


「・・・何者だ?」


  はい、多分きっと恐らく異世界人だと思われます。


『 異世界 ・・・? 』


 あ、猫君が反応した。


「・・・喋れないのか?」

「・・・みぃー」


  あ、こら。


「・・・・・・・・・」


 何とも言えない空気が漂った後、男は溜息をつき何事か言った。


「みぁ!!」


 その言葉を残し私の姿が消える。・・・え?


「さぁ行こうかティナル」

「にゃぅっ!?」


 突然抱きあげられ初めて男の格好が見えた。

 ・・・ローブだな、これ。たぶん。白を基調とした、灰蒼や若草っぽい色が所々に修飾された、何かかっこいいというか如何にも魔道師って格好だ。


「これくらいで驚くなんて珍しいな・・・」


 にしても、あの少女・・・


 ぶつぶつと抱きあげた私・・・というか猫をそのままに歩き出す男。ちょっと不安定だけれど落としはしないだろうという信頼感はある。 これは猫君の感情かね。


(・・・ってゆーかどうしよう)


  そもそもここはどこなんだああ猫君、君はどこへ行った!!?


 落ち着け落ち着けーと唱えながら、状況把握を努めることに専念することにした。

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