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第91話 始業式

 9月1日。とうとう、学校が始まった。昨日、校長から電話が来て、聖君には始業式が始まる15分前に校長室に来て下さいと言われた。

 聖君は、母、祖父、そして祖母を車に乗せ、学校まで行くことにして、私は菜摘と普通に登校することにした。


 高校は、仕事に行くサラリーマンやOLとは逆方向にある。学生はいるものの、始発で電車にも乗れるし、ちょっと早くに出て行けば、余裕で座って学校に行くことができる。 

 菜摘とは、いつもより10分早く、待ち合わせをした。そして、電車に乗り込んだ。


「桃子のスカート、特注でしょ?」

「うん。ウエストにアジャスターがついてるの」

「そうか。じゃ、大きくなっても大丈夫なの?」

「ううん。もっと大きくなったら、紺色のジャンパースカートを着てくださいって、校長から言われたんだ」

「ふうん」


 私たちは駅に着くと、のんびりと学校に向かった。早かったので、登校している生徒もまだ、まばらだ。

「なんだか、緊張する」

 私がそう言うと、菜摘は、

「大丈夫だよ。私も蘭もいるし、ほら花ちゃんもいるんだし」

と言ってくれた。


 教室に入ると、まだ、4~5人しかいなかった。でも、私たちを見て、

「おはよう。菜摘、焼けたね~~」

と元気に話しかけてきた。

「椎野さんは、色白いね。海行かなかったの?」

「うん」

 それからも、いろいろと話しかけられ、でも、ほとんど菜摘が答えてくれた。


 5分後、花ちゃんと蘭が私たちの教室に来た。

「桃子!」

 蘭が私の席にやってくると、

「大丈夫?」

と聞いてきた。


「うん、大丈夫だよ?」

 何を大丈夫って聞かれたかわからないけれど、そう答えた。

 それから次々と人が増え、あっという間に教室はにぎやかになった。

「ねえ、椎野さんって…」

 そんな中、私のことをこそこそと話しているのが聞こえてきた。


「太ったんじゃない?」

「彼氏と別れて、やけ食いかもよ」

 くすくす。

「何勝手なこと言ってるんだろ」

 それを聞いていた菜摘が腹を立てた。


「言わせておきなよ。ああいうのは、やっかみなの。私もあれこれ言われるけど、彼氏のいない人のひがみなんだから」

 蘭はかなり大きな声でそう言った。わ。それを聞いて、蘭のことを睨んでいるよ。

「蘭ちゃん。今の聞こえてたよ」

 花ちゃんが小声で言った。

「聞こえてもいいじゃん」

 蘭が言った。


「だめだよ。桃ちゃんが恨まれるようなことは言わないほうがいいよ」

 花ちゃんが心配そうにそう言った。蘭は、はっとした顔をして、

「そうだよね、ごめん、桃子。これから気をつけるよ」

と謝ってきた。


 え?そんな…。蘭は私のために言ってくれたのに。なんだか、らしくないな。そんなことで謝ってくるなんて。やっぱり、罪悪感を感じたままなんだろうか…


 予鈴のベルが鳴り、先生が教室に入ってきて、

「ほら、始業式が始まりますから、移動してください」

と、声をかけた。生徒たちは、ばらばらと教室から廊下に出て、並んで移動を始めた。


「いよいよだね、桃子」

 菜摘が言ってきた。

「う、うん」

 わ~~。緊張だ。めちゃくちゃ緊張する。聖君は私の話もするのだろうか。

 いや、話をしてもしなくても、教室で担任からは話をするんだろうな。


 今日かな?いきなりかな?でも、いつかは話をするんだし、みんなには知れちゃうんだし。

 ああ、私覚悟できてるなんて言って、こんなに不安になってる。退学の覚悟はできてたけど、学校に通う覚悟はできていなかったんじゃないの?私。


 体育館はすでに、1、2年生の生徒でいっぱいだった。みんなが、思い思いに話をしているので、すごくにぎやかだ。

 校長と理事長の姿は、まだなかった。でも、先生方の奥の席にPTA会長が座っているのが見えた。


 会長の娘さん、この学校に通っているんだよね。自分の親の話をされられるの、嫌じゃないのかな。大丈夫なんだろうか。

 そして、小百合さんは?今日から転入だよね。いきなり知らない人ばかりの中で、それも妊婦で、それも、理事長の孫だなんてみんなに知られて、学校通うの辛くならないかな。

 そして、私は…?


 ブワ…。言い知れぬ不安が襲ってきた。クラ。目も回りそうだ。

 私、もしかして、こんなに不安だったの?大丈夫って強がってただけだったんだろうか。


「桃子、平気?」

 隣にいる菜摘が声をかけてきた。

「え?」

「真っ青だよ。大丈夫?」

「うん」

 本当は大丈夫じゃない。立っていられるかどうかも、わからないほどだ。


「ねえ、あれ誰?」

 ザワ…。さっきまでのにぎやかさとは違う、ざわめきが体育館に起こった。

「若いしかっこいいよ」

「すごいイケメン。まさか、新任の先生?にしては若すぎるよね」

 みんなが見ている方向を見た。あ!聖君だ!聖君が校長や、理事長、そして小百合ちゃんと体育館の端を歩いている。


「あれじゃない?教育実習の大学生」

「ああ!そうかも。でも、こんな時期だったっけ?」

「ね、あの後ろから歩いている髪の長い生徒は誰?」

「なんだか、あのイケメン、さっきからあの生徒のこと、気にしながら歩いていない?」

 え?


 聖君を見ていると、確かに、一番後ろから歩いてくる小百合さんを、伺いながら歩いている。もしかして、小百合さんも具合が悪いのかもしれない。

「なんだろうね。校長と一緒に歩いてるのは、あれ、理事長だよ」

「え?そうなの?はじめて見た」

 前の二人がそんな話をしている。ああ、やっぱりみんな普通じゃないなって気がつくんだな。


「兄貴、来たね」

 菜摘がそっと私に耳打ちしてきた。

「うん」

「ジャケットなんか着てるから、先生に間違われるんだよ」

「うん」

「桃子、大丈夫?」


「え?うん」

「兄貴、家を出るとき、なんか言ってた?」

「緊張しないでいいからねって言ってくれた」

「兄貴は緊張していないの?」

「開き直ってるって言ってたよ」


「ははは。開き直ると強そうだもんね、兄貴」

「うん」

 ドキドキ。今度は鼓動が早くなってきた。

 聖君。聖君をただひたすら見た。ああ、今すぐに走っていって、抱きつきたいくらいだ。聖君のあの、優しいオーラに包まれたいよ。


「静かに!今から始業式を始めますよ」

 教頭先生の一声で、ざわめきが静まった。

「では、校長。どうぞ」

 校長が、舞台に上がった。


「皆さん。おはようございます」

 おはようございますという、生徒のあまり元気のない声がした。

「2学期が始まりましたね。皆さん、元気な顔がまた見れて、私たちは嬉しいです」

 し~~ん。覇気のない生徒たちの顔は、元気な顔とは言えないかもしれない。


「毎年、夏休みが明けると、いろんなことがありまして、先生方もドキドキしながら、2学期を迎えるんですが、今年は、皆さん元気で本当になによりです。夏の間に、怪我をしたとか、事故にあったなどの報告もなく、胸をなでおろしていますよ」

 ああ、そういえば、昨年は事故にあって、入院していた生徒がいたっけな。その前の年には、突然、退学した生徒もいた。でも、一ヶ月も不登校だったんだよね。


「もう数年前になりますが、夏休みの間に、自殺未遂をした生徒がいました」

「え~~~!」

 ざわざわ。生徒たちがざわめきだした。

「皆さんは、知らないことだと思います。学校側でも、そのことはふせていましたし、特にマスコミなどに知られないよう、十分な配慮をしましたから」


 まだ、みんなざわついている。菜摘までが、

「知らなかった」

と、つぶやいている。

「でも、未遂で終わって、その後学校は辞めて、お母さんの田舎に越して、元気になって、今は大学で心理学を学んでいます。将来は心理カウンセラーになりたいと、がんばっていますよ」


 生徒たちが、静まり返った。

「自分の経験を生かして、悩んでいる人たちのお役に立ちたいと言っています。彼女のことを思い出し、この前電話をしました。あのとき、なぜ命を断とうとしたか、今ではわからないとも言っていました。ただ、自分の命は尊いもので、親が育ててくれた、大事な命だったんだと、あとから実感したそうです。だから、命の尊さを伝えていくことをしていきたいとも言っていました」


 し~~ん。体育館は、誰も話す人がいなくなった。

「その次の年には、夏休み中に妊娠をして、中絶をした生徒がいました。確か2学期から別の高校に編入しましたが、彼女にもこの前電話をして、話をしました」

 え?そうだったんだ。校長、電話したんだ。


 体育館はまた、ざわめきが起こった。いったい、今日はどうしてそんな話をするのだという、そんなざわめきと、そんな話をこんな大勢の前でしてもいいの?っていう、そんなざわめきだ。

「皆さんは知らないことですよね。これもまた、皆さんに知られないよう、処置をしたことですから」

 またざわめいた。


「彼女は高校を変わってからも、その高校になじめず、結局やめてしまい、美容師を今はしています」

 生徒たちがまた、静まり話を聞きだした。

「中絶の後、生理が不順になり、しばらくは病院にも通い、治療もしていたそうです。中絶するしかなかったけど、でも、産むという選択もあったのかなと、この前話していました。彼のほうも、もし産むと言ったら、責任は取るつもりだったと、あとから言ってくれたそうです」


 ざわ…。

「皆さんが、ざわめくのもわかります。いったいなんでそんな話をしているのか、気になっている人も多いでしょう。実は、これからも命のことについて、二人の人に話をしていただくことになっています。これは、とても皆さんにとっても、いい機会だと思いまして、理事長とこういう機会を設けることにしたんです」


「理事長が?なんで~?何かあったんじゃないの~?」

 また、そんなことを周りのみんなが言い出した。

「理事長からも、ちょっとお話をしていただきましょうか。理事長、いいですか?」

 校長は理事長を舞台に呼んだ。


 理事長の隣には、緊張している小百合ちゃんの姿が見えた。その横には、聖君がいる。聖君はまっすぐ前を見ていたが、ちらっと小百合ちゃんを見て、何か心配しているようにも見えた。


 理事長が舞台に上がった。

「では、わたくしからも、少しお話させていただきますね。あ、皆さん、立っているのが大変ですね。その場に座って聞いてください」

 理事長がそう言うと、みんなは、床に座った。そのときにも、いったいどうしちゃったんだろうねとか、なんだかかったるいとか、そんな話をする生徒たちで、ざわめいていた。


「この高校は伝統があります。わたくしはその伝統を守ってきました。そのためには、校風にそぐわない生徒には、やめていただくこともありました」

 ざわ…。また、生徒たちがざわめいた。

「妊娠していた生徒に、中絶を勧めたり、転校するように言ったのも、私や、当時のPTA会長、それから、その生徒の担任でした」


「しょうがないよね、それは」

「え~~。ひどい」

 生徒たちの意見は、まっぷたつに分かれていた。


「でも、その生徒を本来は守っていくこと。その生徒の人生も守っていくこと。そして応援していくこと。それが教育者としての、本当のすべきことではなかったのか、そうこの夏の間に、思うことがありました」

 生徒たちが黙りだした。理事長は、生徒たちを見回してから、また話を始めた。


「自殺未遂をした生徒のことも、田舎で療養してくださいと、きっぱりと切り捨てました。だけど、本来はどうしてそのようなことになったのか、未然にふせぐことはできなかったのか、そして何より、生徒の命を守ることを一番に、考えるべきではなかったのか、そう今は感じています」


「どうしちゃったの?何があったんだろうね」

 後ろの子達が話しているのが聞こえた。

「ね、話って、あの転入生とイケメンと関係あるのかな」

「それより、あの人どこかで見たことあるって思っていたけど、あれ、椎野さんの彼氏じゃない?」

 その子の一言で、周りの子がざわめきだした。


「そうだよ。車で迎えに来てたよね、すごいイケメンだったから覚えてるよ」

 違うクラスの子までが言い出した。

「椎野さんに関係するの?それとも、あの転入生?」

 ざわざわ…。一気に、体育館がまた、うるさくなりだした。


「夏休みに命のことについて、話をしてくれた人がいて、わたくしは感動しました。それがきっかけで、考え方まで変わったほどです」

 理事長は、ざわめきに消えないようにと、声を大きくして話し出した。

「その方に、ぜひ、皆さんにも命の話をしてくれないかと頼みました。今日、これからお話をしてもらいます」


 まだ、ざわついている。

「では、まずお一人目。今年からPTA会長を務めてくださっている、綿貫さんです。よろしくお願いします」

 PTA会長が席を立った。

「なんだ。あのイケメンじゃないじゃん」

 そんな声が、生徒たちから聞こえた。


「こんにちは。皆さんには、4月にもお会いしましたね。綿貫と申します」

 PTA会長が、舞台でそう挨拶をした。とてもはきはきとした、切れのある声で、みんなが一瞬静まり返った。

「私がこれから話すことは、私のことです。私の娘もこの高校に通っていますが、娘にはもう、小学生のころから、この話をしていますから、今日ここで、私が話をすることには賛成してくれました」


 そうだったんだ。ちゃんと娘さんの了解を得ていたんだ。

「私の父は、教員をしていました。高校の教師だったんです。母は、父の教え子でした」

 ざわ…。

「何~?もしかして、女子生徒に手を出しちゃったとか?」

「うそ~~」

 そんな声がした。


「今、聞こえてきましたが、そのとおりです。私の母は私を妊娠しました。もちろん、退学になったし、父は教師をやめさせられました。でも、私の命は守ってくれました」

 ざわざわ…。

「やっぱり」

「そりゃ、生徒に手を出したら、やめさせられるでしょ」

 後ろからそんな声が聞こえた。


「両親が、必死に私を守ってくれて、結婚して私を産んで、育ててくれたから、今の私がいて、娘がいます」

 しん…。ざわめきがなくなった。

「私が生まれてこなかったら、娘はこの世にいません。命がつながっていくことは、できなかったんです」


「そうだよね」

「うん、そうだね」

 生徒たちがそれを聞き、うなづいている。

「だから、私は両親に感謝をしています。そして、父は高校はやめましたが、その後塾を経営し、いまだにそこで、塾長としてがんばっています」


 し~~ん。みんなが黙って、話を聞いている。

「両親は、私を生むこと、結婚をすることを選択して、本当によかったと、いまだに言ってくれます。特に孫が生まれてからは、痛感しているようです」

「…」

「自分の命、そして、子供の命、それを簡単に粗末に扱ってほしくない。とてもかけがえのない命だということを、皆さんにも知ってもらいたいと思っています」


 綿貫会長は、みんなを見渡して、それから、小百合ちゃんのほうを見た。

「夏休みの間に、私は校長から相談を受けました。実は、この高校の生徒の中にも、私の母のように、高校生で妊娠をした生徒さんがいられるんです」

 ざわざわ…。

「妊娠?だれが?あの子、関係してるの?」

 みんなが一気にまた、話をしだして、また体育館はうるさくなった。


「前のこの学校の処置の仕方でしたら、即やめてもらうことになっていたでしょう。ですが、今回はちょっと前とは、違っている点がありました。それは、まず、この高校に転入してくる生徒であること。前の高校では妊娠していることが知れて、すぐに退学になってしまったそうです」


「やっぱり、あの子だよ。それでこの高校に転校してきたんだ」

「でも、妊娠してる生徒をなんで受け入れたの~~?」

 また生徒たちが、思い思いに話をしだした。私の周りも、ざわついている。そのうえ、勝手に、

「あの男の人が、赤ちゃんのお父さん?」

なんて、言っている。


「でも、椎野さんの彼でしょ?」

 そんな声も聞こえる。

「その生徒さんは、理事長のお孫さんです。やはり、理事長も人の子。お孫さんを退学になったまま、ほっとくことはできませんですからね」


「理事長の孫?だから転入させたの?」

「でも、前に妊娠した生徒はやめさせたんでしょ?勝手じゃない?」

 もっと生徒たちが、ざわついてしまった。

「皆さんが言いたいことは、わかります。理事長は、中絶を勧めましたよ」

「え~~!」

 みんながいっせいに声をあげた。


「でも、彼女の意思で、産むことと、結婚することを決めたんです。ね?小百合さん」

 小百合ちゃんは、こくんとうなづいた。

「その強い意志と、その隣にいらっしゃる榎本さんの命のことについてのお話を聞き、理事長の考えは180度変わってしまったんです。ね?理事長」

 今度は理事長がうなづいた。


「榎本っていうんだ、あのイケメン」

「椎野さんの彼氏?」

「もしかして違うんじゃない?あの子の彼氏じゃないの?」

「椎野さん、別れたとか?」

「え~~?」


 うちのクラスの子達だ。みんなして私を見ている。

「大丈夫?桃子」

 菜摘が心配して聞いてきた。私はこくんとうなづいた。

「高校を守るのではなく、生徒たちを守っていくんだと、理事長の意思が変わってしまうほど、彼の話は感動的でした。皆さんも、これから、結婚をして、子供を生むことでしょう。子供というひとつの大切な命を育てていくことになるかもしれないんですよね」


 しん…。会長の声は澄んでいて、みんな、その声でまた、静まり返った。

「この機会にぜひ、命のことについて考えていただきたい。では、榎本さん、お話していただいていいですか?」

 綿貫会長にそう言われ、聖君は席を立った。


 ドキ!ドキ!鼓動が早くなってきた。ああ、どうしよう。息苦しささえある。

 ぎゅ!そんな私のことがわかったのか、菜摘が手を握ってくれた。それに二つ向こうの列にいる蘭が、私を見てくれているのもわかった。

 大丈夫。聖君が話をするんだもん。私もちゃんと聞く。


 聖君が舞台にあがった。

「かっこいい~」

「だれ?」

「すごいイケメンじゃない?」

 そんなざわめきが聞こえる。


「おはようございます」

 聖君が、マイクで挨拶をした。ああ、マイクを通すと、ほんのちょっと声が変わるんだ。でも、きれいな透き通る声だ。それに、今日はVネックの白のTシャツに、グレイのジャケットと、紺のチノパン。すごく大人っぽくて、おしゃれでかっこいいよ。かっこよすぎちゃうよ。


「えっと。今、紹介してもらった榎本といいます。あ~~、あまり、堅苦しい話をするつもりはないので、もっと皆さん、リラックスして聞いてください。そのほうが僕も、話しやすいですし」

 聖君はそう言うと、ぼりって頭を掻いた。それから、舞台の上から、みんなを見回して、私のことを見つけたようだ。ちょっとだけ、私を見てから、また視線を外した。


「かっこいいよね」

「うん、すごい好みのタイプ」

「いったいなんの話をするの?」

「やっぱり、理事長の孫の彼?」

 そんな声が、周りでする中、私はじっと聖君を見ていた。


「う、いよいよだね。こっちが緊張する」

 菜摘が横でそう言った。

「うん」

 私も、すごく緊張している。聖君は?緊張してない?あの顔は緊張していない顔かな?

 ドキドキ。心臓が早くなる。だけど、私はしっかりと聖君を見て、話を聞こうと覚悟を決めていた。


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