第87話 他人事だけど
部屋に行くと、携帯が点滅していた。名前を見ると、花ちゃんだ。電話をくれたみたいだ。
「籐也君のことかな」
「髪、乾かしちゃうよ?」
聖君が私の髪を乾かし始めた。すると、ブルル…。携帯が振動した。
「もしもし」
「桃ちゃん、今いい?」
花ちゃんだ。
「電話くれたよね?ごめんね、お風呂に入っていたから」
「ううん。いいの。今は大丈夫?」
「うん。あ、音うるさいかな。ドライヤーの音」
「髪乾かしてるの?ドライヤー使いながら電話は大変じゃない?」
「うん。でも、聖君が乾かしてくれてるから」
「え~~?何それ?」
花ちゃんは、ものすごく驚いている。
「いつもなの?」
「うん」
「いっつも髪乾かしてくれてるの?」
「うん」
「うひゃ~~。仲いいよね~~~」
「そ、そう?」
「お風呂も一緒に入ってたんだよね?」
「うん」
「まさか、髪も洗ってもらってたり」
「うん」
「え~~~~~!!!」
あ、ものすごいおたけび。
「そんなにやっぱり、驚くことかな」
「まさか、体まで」
「う。それは、その、あの、背中くらいだけで、その」
わあ。私はしどろもどろになってしまった。
「あやしい~~。その慌てぶりは」
「それより、籐也君のことで、電話くれたんじゃないの?」
「そう、そうなのよ~~。桃ちゃん~~~!メール昨日、桃ちゃんが言うようにしてみたの」
「うん。あ、お礼のメール?」
「そう。今日はありがとう。練習が見れて嬉しかったって」
「そうしたら?」
「うん。1時間くらいしてようやく、こちらこそ、ありがとうってそれだけのメールが来た」
「よかったね」
「よかったんだよね?返事が来たんだもんね?でも、それだけかってちょっとがっかりしちゃって」
「うん」
「私、欲が出ちゃって、今日もメールしちゃったの」
「なんて?」
「今度のライブ、楽しみにしているね。今度会うのは、ライブでだねって」
「そうしたら?」
「返信が来ないの。それを夕方送ったんだけど、ぜんぜん来ないの」
「え?でも、まだ今日だし。忙しくてなかなか返せないのかもよ?」
「そうだよね。きっとそうだよね?うっとおしいとか、そんなこと思われてないよね?」
「うん、大丈夫だよ」
「あ~~。なんだか、こういうのって怖いね。コーチのときにも、ドキドキしたけど、籐也君だと、さらにだよ」
「なんで?」
「籐也君って、だって、よくわかんないんだもん」
「コーチもでしょ?」
「コーチは大人の人だって、そう思ってたから、それで相手にされないだろうなって初めから思ってたし」
「籐也君は?」
「きっと私のことは、ファンの一人くらいに思ってるだろうけど、でも」
「うん」
「だけど、もっと仲良くなりたいって思っちゃうし、こっちの気持ちがぐちゃぐちゃで、ちょっとした籐也君の言葉や、リアクションに、一喜一憂しちゃってて」
「わかる。それ、すごくよくわかる!」
私はつい、興奮して話そうとしたら、
「桃子ちゃん、今、頭動かさないで。これから髪の毛とかすから」
「え?うん」
と、聖君にそう言われて、私はおとなしくした。
「もしかして、今、部屋に二人でいるの?」
花ちゃんが聞いてきた。
「うん」
「二人きりの甘い時間に電話してたら、悪いかな」
「そ、そんなことないよ。全然、大丈夫っ!!」
私は真っ赤になりながら、そう言った。私が大きな声でそう言ったからか、聖君の髪をとかす手が一瞬、止まっていた。
「桃ちゃんもあった?聖君の言葉で一喜一憂してたこと」
「あったよ、いっぱいそんなことあったよ」
「そっか~~」
「反応も怖かったもん」
私がそんな話をしていると、聖君はちょこんと私の前に座り、私の顔を覗き込みながら、電話の会話を聞いている。う、その顔がまた、かわいい。
「桃子ちゃん」
「え?」
聖君が私の足を持った。
「何?」
「爪、切ってあげようか?」
「いい、いい。自分で切れる!」
「そう?」
わ、残念そうな目で見てるし。
「今のも聞こえたんですけど!もう電話切ろうか?聖君に爪、切ってもらいなよ~~~」
「いい。大丈夫。そんな気を使わないでも」
私は慌てて、花ちゃんにそう言った。
聖君はようやく、自分の髪を乾かし始めた。
「あれ?まだ髪の毛乾かしてもらってるの?」
花ちゃんが聞いてきた。
「ううん、聖君が、自分のを乾かしてるよ」
「そっか…」
花ちゃんは、それからしばらく黙り込むと、
「あ~~~。羨ましいな~~。いっつも一緒にいるんだよね?」
と言ってきた。
「うん」
「朝まで、隣にいるんだよね?」
「うん」
「毎日だよね?」
「うん」
「あ~~~。本当に羨ましいな~~」
「そ、そう?」
「ねえ、桃ちゃん。電話もう切るけど、もし、メールがなかったり、メールがきたら、桃ちゃんにメールしてもいい?」
「うん。あ、電話でもいいよ」
「それは遠慮しておくよ。思い切りいちゃついているときだと、悪いもの」
「だ、大丈夫だよ。それは…多分」
「メールにしておくよ。じゃあ、ドキドキしながら、籐也君のメールを待つことにするよ」
「え?うん」
「それも恋をしてるときじゃなきゃ、味わえないことだもんね?」
「うん」
「じゃあね」
「うん、おやすみ」
私は電話を切った。
「あれ?もう切っちゃったの?あと1時間は電話してるだろうから、俺、何をしようかなって今、考えてたのに」
「悪いからって切っちゃったみたい」
「俺らの邪魔をするからってこと?」
「うん」
「なんか用事だったんじゃないの?」
「籐也君にメールしたけど、返信が来ないんだって」
「昨日から?」
「ううん。昨日したメールはくれたみたい。でも、今日メールしたのが、来ないみたい」
「そっか~。あいつ、まめかどうかもわからないからな。メールってまめなやつはすぐに返ってくるけど、そうじゃないとこないじゃん?」
「籐也君は、どうなのかな」
「さあね」
聖君はドライヤーを片付け、それから、まだ髪がぼさぼさなのにもかかわらず、凪に日記を書き出した。
「ママは、今日もパパに、すごく優しかったです」
と、そんなことを言いながら、書いている。
「え?そんなこと書いてるの?」
「うん」
聖君はそう言うと、私の似顔絵も描き出した。その横に、多分、聖君であろう男の子を描くと、
「パパ、幸せ」
とふきだしをつけた。
わあ。そんなこと書いちゃって。なんだか、恥ずかしい。
でも、凪は喜ぶかな。なにしろ、ラブラブの仲のいい両親なんだし。いや、呆れかえるかな。
「あのね、花ちゃんが、ものすごく羨ましがってたよ」
「何を?」
「聖君といっつも一緒にいること」
「ふうん」
聖君はあまり興味がないのか、ふうんって言ったきり、凪の日記にあれこれ、絵を描き加えている。
「でもさ、ここまで俺らがバカップルだとは、想像もしていないだろうね」
「花ちゃん?」
「うん。そう。ここまで、仲がいいとは思ってないんじゃない?」
そう言うと、聖君は私を抱きしめ、髪にキスをしてきた。
「そ、そうかも」
うわ。くすぐったい~~。でも、嬉しいからそのままにしていた。すると、今度はいきなり、聖君の携帯が鳴り出した。
「なんだよ。いちゃついてるときにっ!」
と聖君は文句を言いながらも、電話を手にした。
「誰だ?知らない番号だな」
聖君は、
「はい?」
と、ちょっと無愛想に電話に出た。
「あ、あれ?なんで、俺の携帯の番号知ってるの?」
誰かな?
「え?母さんに聞いたの?ったく、なんだよ、母さん、勝手に教えやがって」
誰だろう。口調からしてみたら、まったく知らない人じゃなさそうだし、女の子でもなさそうな気もするけど。
「で、何か用事?」
う~~ん、この無愛想さは、誰だろう?
「え?何?もしかして相談事?」
じ~~~。聖君を見た。すると、
「あ~。でも、今、俺、けっこう忙しい」
と聖君は私を見て、そう言った。
「う~~ん、じゃ5分だけね。で、何?」
この話し方は、女の子じゃないよね?ね?
「え?花ちゃん?」
花ちゃん?!
「ライブ?ああ、来月なんだ。いいじゃん。来るって言ってるんだろ?」
え?まさか、籐也君?!
「そんなの知るかよ。自分でどうにかしたら?」
何?何?なに~~?
「自分から誘えばいいだけじゃん」
花ちゃんを?何に?
「そうだよ。簡単だろ?なんでもいいじゃん。お茶でも、ご飯でも、映画でも、あ、また練習を見に来て、でも…」
え?
「だから~~、そんなの知るわけないだろ?断られたら、そんときまた悩めよ。お前ってけっこう、考えこむタイプだな」
断る?何を?誰が?
私が興味津々で、聖君のことをじっと見ていたからか、聖君は私を見て、
「代わる?」
と口だけ動かして聞いてきた。
クルクル。私は首を横に振った。でも、聖君の横にぴとっとくっついて、携帯に耳を近づけた。聖君も私の耳のほうに携帯を近づけ、話をしだした。
「で、なんだっけ?なんの相談だったっけ?」
「俺、まじで自信喪失です。どうしたらいいっすか?」
え?!
「は?なんで?なんで自信喪失?」
聖君もびっくりしている。
「花ちゃん、どうとも思ってないのかなって」
「お前のこと?まさか。しっかりと告白してたじゃん」
「あれ、告白っすかね」
「へ?」
「まだファンでいるってことじゃ、ないんすかね?」
「お前のそばにいてもいいの?なんていじらしいこと聞いてたよ?花ちゃん」
「だから、あれ、ファンでいてもいいの?ってことっすよね?」
「…。お前のこと、好きだってことだろ?」
「俺もそう取りましたけど」
「だろ?じゃ、なんで自信喪失してるんだよ?」
「メアド交換したじゃないっすか」
「ああ」
「昨日メール、早速くれたんです」
「よかったな」
「すごくあっさりとした、他人行儀なメールですよ?」
「え?」
ええ?花ちゃんのメールが?だって、練習見にいけて、嬉しいって…。
「それで、返信したら、もう返ってこなくなって」
え?だって、籐也君のメールのほうが、あっさりとしてた…。
「それで?」
聖君が、ちょっと深刻な声で聞いた。
「で、今日またメールきたんです」
「なら、いいじゃん」
「よくないっす」
「なんで?」
聖君がいらっとしている。
「今度会うのはライブでだねっていうメールっすよ?ライブまで、まだまだあるのに」
「だから、その前に誘えばって言ってるじゃん。それだけのことだろ?」
あ、聖君、切れそう。
「あ~~~~!いきなり、どうやって誘うって言うんですか?理由もないのに?」
「理由?そんなの、暇だからお茶しようでもいいし、なんでもいいじゃん。お前、だいたい、桃子ちゃんにはやたらとかまってたじゃないかよ。デートしようとか、そんなことも言ってなかったっけ?俺がいるっていうのにさ」
「あれは、だって、ゲームだったから」
「ゲーム?」
「落ちるかどうかの」
「ああ、そう。人の奥さんで遊んでいたわけね」
「それは謝ります!結婚してるなんて、思っても見なかったし」
「じゃ、その勢いで、花ちゃんもどんどん誘えば?どんどん押して押しまくれば?」
「んなの無理に決まってるじゃないっすか?」
「なんで、無理?!」
「…嫌われたくはないっすよ」
「嫌われないだろ?」
「嫌われないって保証は、ないっすよね」
「お前、かなり後ろ向きだな」
「聖さんって、すげえ前向きだなって思ってましたけど」
「え?」
「実は、かなり短気なんですね。確かこの前、俺も情けないところがあるって、言ってませんでしたか?」
「言ったよ。そうだよ。俺も情けないよ。そのうえ、お前が言うように、短気だよっ!」
「俺にだからですか?女の子にはクールだって聞いてたけど、男にもなんですか?」
「男にもだ。こんな調子で桐太にも葉一にも俺はずばずば言うよ」
「…」
「なんだよ。もしかして、俺だとストレートすぎて、傷つく?」
「い、いえ、そういうわけじゃ…」
「お前って、意外とナイーブなやつ?しょうがねえな~」
聖君はそう言うと、私に携帯を持たせてから、携帯のすぐそばで、
「片思いの気持ちも、女の子の気持ちも、俺よりもわかる桃子ちゃんに代わるから。桃子ちゃんなら、お前のこと傷つけたりしないよ」
とそう言った。
「え?そこにいたんすか?」
「ずっといた」
「ええ?!」
「そんなに驚くなよ。夫婦なんだから、一緒にいるよ。じゃ、代わるから」
聖君は、私の方を向いて、助言してあげてって、そう小声で言った。
え、えっと、なんて言ったらいいのかな。まさか、花ちゃんの思いを私が勝手に言うわけにはいかないし。
「えっと、桃子ちゃん?今の話は聞こえてたのかな?」
籐也君から聞いてきた。
「うん、聞こえてたよ」
「あ~~、情けないよね、俺」
「聖君に相談の電話をしたのは、素直に自分を見せられるって思ったからでしょ?」
「ああ、うん、まあ」
「情けなくても大丈夫だよ」
「サンキュー。桃子ちゃんがそう言ってくれると、ちょっと気持ちがあがるな」
「ちょっとだけ?」
「あ、いや、えっと」
「花ちゃんに言われたほうが、もっと気持ちがあがる?」
「花ちゃんには、ここまで、情けない俺、見せられないよ」
「そうなの?」
「もう、かなり嫌われたって言うか、どうしようもないところ見せてきたし」
「嫌ってないって言ってたよね?」
「だけど、女のことを落とすだの、モデルがんばるって言ってたのに、あっさりやめたりしてたらさ、そりゃ、呆れるだろ?普通」
「そうかな。あ、女の子を落とすゲームは、私はひいたけど、今はもう、そんなことするつもりもないんでしょ?」
「ないよ。っていうか、ひいてたんだ」
「私の中では、そういうの考えたこともなかったから、びっくりしちゃって」
「そうだよね。そんな世界じゃないよね、桃子ちゃんのいるところは」
「え?」
「もっと純粋で、あったかくって、優しい」
「…」
「そんなところに、本当に俺、惹かれてたけど、実はそういうところが、花ちゃんに似てるって思ってたんだ」
「え?」
「花ちゃんも、そうだったから。純粋であったかい。まっすぐで、綺麗。モデルの中の、ねたみや、足の引っ張り合いの、そんなどす黒い世界とは、まったく違ってて、だから、俺、いつも一緒にいると癒されてた」
「花ちゃんから?」
「うん。でも、一方では、きつかった」
「え?どうして?」
「俺のこと、呆れるんじゃないかとか、嫌うんじゃないかとか、そんな不安がいつもあって、これ以上深入りはしないようにしようって、自分が傷つかないようにしてた」
「そうだったんだ」
「情けないよね?離れていくのも、嫌われるのも怖いから、距離を置いてた。本気にならないようにもしてたし、自分の気持ちもセーブしてたし」
「…じゃあ、自分の思いを告げたことも一回も?」
「ないよ。自分でも自分の気持ちは誤魔化していたし。変な話、芹香のことを落とすだの、そういうことをしてたほうが気が楽だった。本気にならなければ、特に深手も負わないですむからさ」
「…。今は?近づくの怖いの?」
「怖いよ」
「じゃあ、また遠ざけるの?」
「…」
籐也君は黙り込んだ。それから、
「花ちゃんが、俺のそばにいてもいいのかって聞いただろ?」
「うん」
「やばいくらいに、あれ、嬉しかったんだ」
「え?」
「俺も、ずっと花ちゃんにそばにいてほしいって思った」
「…」
「モデルやめて、離れていってから、俺、相当ショックだったみたいで、でも、ショックを受けてるのも、必死に隠してきたんだ」
「自分で見ないようにしてたってこと?」
「そう。傷ついてないふりをした。大丈夫だって自分に言い聞かせた。夏前に俺、別れたじゃん」
「ああ、付き合ってた子いたんだっけ?」
「うん。あのときも、俺、冷めてた。ああ、またかって。去っていっても別に、たいしたことないやって。俺には夢もあるし、夢を俺は取るんだからってさ」
「うん」
「でも、あれもけっこう痛手だったみたいだ」
「そうだったの」
「…。俺、花ちゃんにはどこか、期待してる」
「期待って?」
「俺のこと、捨てたりはしないだろうなっていう期待」
「捨てる?」
「俺がプロになったら、また応援し続けてくれるんだろうなって。あの元カノみたいに、さっさと俺を見放したりはしないだろうなっていう期待」
「…」
「だけど、それはファンだったらなんだ。もし、付き合っちゃったら、そうはいかないんじゃないかっていう、怖さがある」
そうか。それで、ファンの子には手を出さないとか言ってたんだ。
「桃子ちゃん」
「え?」
「桃子ちゃんなら、どう?メールやたらきたり、何度も誘われたり」
「籐也君から?」
「う~ん、あまり好きな人じゃなかったら?」
「う、う~~ん、困っちゃうかな」
「聖さんだったら?」
「嬉しすぎる」
籐也君はぶっとふきだした。私を後ろから抱きしめながら、携帯に耳を近づけて話を聞いていた聖君も、隣でふきだしそうになった。
「じゃあ、桃子ちゃんさ、彼氏でもない。でもまあ、嫌いでもないってやつからだったら、どう?」
「え?」
「やっぱりひんぱんにメールがきたら嫌だよね?あ、じゃあさ、聖さんと付き合いだす前はどうたったの?」
「メール、そんなにこなかったから」
「あれ?そうか。たまにくるだけ?」
「うん」
聖君が、後ろで何かぶつくさ言った。
「そっか」
「ごめん、参考にならないね。でも、花ちゃんだったら…」
「うん?」
「私に似てるから、感じたことを言うだけだけど」
「うん」
「メールきたら、嬉しいんじゃないかな」
「え?」
「それに、会おうって誘われても嬉しいと思うけど」
「いきなり会おうって?」
「うん。お茶でもしようでもいいし、ご飯食べに行こうでもいいし」
「そんなのいきなり誘って、ひかない?」
「うん、多分」
引くどころか、ものすごく喜んじゃうよ。
「そっか。桃子ちゃんがそう言うなら、そうかな」
「うん。あ!そうだ。ライブまでまだ、日にちがあるし、その前に会おうかってメールしたら?」
「え?いきなり?」
「うん。もしかすると、本当にもしかするとだけど」
「うん」
「忙しいから悪いよとか、そういう遠慮のメールがきちゃうかもしれないけど」
「え?うん」
「それ、かなり気を使ってのことだと思うから、大丈夫って返してあげたらいいと思うんだ」
「気を使って?」
「きっと、なんてメールしていいかわからなくって、考えた末、今度はライブで会えるねみたいな、そんなメールだったと思う」
「…そう?」
「それに、昨日のメールも、勇気を出してメールしたんじゃないかな」
「花ちゃんが?」
「うん、私だって、聖君にメールするの、勇気いったし」
「そうなんだ」
「だから、その…。籐也君も勇気出してがんばって」
「…わかった。サンキュー、桃子ちゃん」
「うん」
「あ、聖さんにもありがとうって言っておいて。それと、二人きりの時間を邪魔してすみませんでしたって」
聖君がそれを聞いてぱっと携帯を取り、
「ほんとだよ。まだ何も始まってないときから、あ~だ、こ~だ言ってないで、はじめてから言ってこい。まあ、また何かあったら、聞いてやるからさ」
と、籐也君に言った。そして、じゃあなって言って、電話を切った。
「…」
私と聖君はしばらく黙って見つめ合った。
「すげ。なんだか、すげえことになってない?」
「うん」
「ちょっと俺、どきどきしちゃった」
「へ?」
「他人事ながらドキドキするね。あの二人、これからどうなっていくんだろ~~~!」
あ、聖君、面白がってる。
「く~~。桃子ちゅわん」
そう言って、また後ろから抱きしめてきた。
「何?」
「俺からのメールなら、ひんぱんにきても、嬉しすぎちゃうわけね」
あ、そうか。私、そんなこと言っちゃったんだっけ。
「もう、桃子ちゃんってば!可愛すぎる!」
もう、聖君ってば、そんなに喜んで可愛すぎる!私はぐるって聖君のほうを向き、聖君を抱きしめた。
「メール、花ちゃんから来るかな?」
「うん、きっと喜びのメールが来るね」
なんて言って、しばらく待っていたけど、メールがなかなか来なくて、いつの間にか私たちはぐっすりと眠りこけていた。