第77話 いろんな思い
リビングで本を読んでいた。でも、ほとんど頭に入ってこなかった。
蘭にはいつ言おうか。明日、会いに行ってこようか。
麦さんはどうするかな、桐太から聞いて。
2学期、学校に行くのが、なんだか怖いな。
ああ!いけない。不安になってどうするの、私。頭をぐるぐるって横に振り、また本を読む。
2時近くになり、2階からクロと一緒に聖君のお父さんがおりてきた。
「あれ?桃子ちゃん、リビングに一人でいたの?」
「はい」
クロがすぐに私の足元に来た。
「あ、ちょうどよかった。父さんと俺の昼持ってきたから、食べちゃおう」
聖君がお店から、二人分のお昼を持ってやってきた。
「お、グッドタイミングだな」
「仕事ひと段落着いたの?」
「うん、今ちょうどね」
聖君とお父さんは同時にいただきますと言って、おいしそうに食べだした。
「そうだ。今日来たお客さんに、報告したんだ」
聖君がお父さんに話し出した。
「報告?」
「俺の結婚の報告」
「ああ、そうなんだ。で、反応は?」
「驚かれた」
「はは、そりゃそうだろうな」
「桑田さん、知ってるよね?」
「うん、もう何年も、お店に通ってくれてるからな~。江ノ島茶屋の看板娘でしょ?」
「そうそう。あそこの店の…」
「桑田さんもいたの?」
「うん」
「ありゃ、じゃ、もう江ノ島界隈じゃ、お前が結婚したこと、2~3日中に広まるんじゃない?」
「やっぱり?」
「桃子ちゃんが妊娠してることも言ったの?」
「うん、来年春に子供が生まれることも言った」
「そっか~。こりゃ、しばらくはお店、大変かな」
「う、やっぱり?」
「いや、けっこうお客がぐっと減ったりしてね」
「そういうこともありえるよね」
「で、桑田さんの反応は?」
「うん。俺の高校の先輩でもあるし、応援してくださいって言っておいた。もちろんって言ってくれたけど」
「じゃ、大丈夫だよ。あの人、まじで自分が好きな人に対しては、悪口言わない人だから、きっといいふうに言ってくれるんじゃない?」
「そっかな」
「ま、いろんなこと言ってくる人もいるかもしれないけど、桃子ちゃんは気にしなくていいからね」
いきなり聖君のお父さんが、私に向かって言ってくれた。
「あ、はい」
「やっかみでものを言う人は結局、羨ましいだけなんだよ。幸せな桃子ちゃんを見て、羨ましくてあれこれ言うだけだからさ。そんな人にはね、もっと幸せを見せつけちゃえばいいんだよ。そのうち、本気で幸せになりたいと思ったら、その人も人生変えようって自分からするから」
「…」
これまた、考え方が、ほんと、変わってる。でも、こういう考え方が好きなんだ。さすが、聖君のお父さんだよ。
「じゃ、私は幸せ~~って、のんきにしてていいんですね」
「あったり前じゃん。桃子ちゃんは、幸せ満喫してたらそれでオッケー」
聖君もにっこりと笑ってそう言った。
「あはは、それはお前でしょ?毎日、毎日、桃子ちゃんといて、幸せ満喫中だよね?」
聖君のお父さんが笑った。
「う、うるへ~~。いいだろ、幸せ満喫しててもっ」
「だめとは言ってないじゃん。でも、俺、別に羨ましくないよ。俺だって、毎日幸せ満喫してるし」
「ああ~。のろけ?母さんといるからでしょ?」
「それもあるけど、聖や杏樹や、桃子ちゃんといるから!」
聖君のお父さんはにっこりとしてそう言ったあとに、聖君のお父さんを見たクロに向かって、
「あ!もちろん、クロもだよ、クロも!」
と微笑んで言った。クロは嬉しそうに尻尾を振った。
「俺のお気楽で脳天気は、絶対に父さん似だよね」
聖君はココナツカレーをほうばりながら、そう言った。
「はは、そうか?そうかもな」
「あ。でも最近わかったことがあるんだ」
「うん、何?」
聖君のお父さんは耳を傾けむけながら、カレーを食べた。
「菜摘のお父さんも、けっこう器がでかいっていうか、口うるさくないって言うか」
「え?」
聖君のお父さんは、食べるのを一回止めた。
「菜摘、葉一と旅行行ったこと、お母さんにばれちゃって、お父さんに報告されたら、絶対に怒られるってびびってたんだ。交際すら反対されるかもって。でも、お父さんにお母さんが話をしたらさ、お母さんの手前、怒った振りしてたけど、実はてんで怒ってなかったんだよね」
「へえ、そうだったんだ」
「うん、自分も大学のときに彼女と上高地に行ったとか、そのとき彼女のお母さんに旅行に行ったことがばれたけど、お父さんには内緒にしててくれて、寛大なお母さんだったんだとか」
「そんな話をしてくれたのか?」
「うん。で、笑ってた。葉一はまじめで、いい青年だって認めてたし」
「ふうん。じゃ、その辺もお前、似たのかもね」
「え?」
「あれ?そうでもないか。お前だったとしたら、かんかんに怒りそうな気もするな」
聖君のお父さんは、そう言ってにやって笑った。
「俺が?」
「杏樹にうるさいじゃん、お前。もし凪ちゃんが女の子で、高校生のとき、彼氏と二人で旅行に行きましたとかなったら、お前、簡単に許せる?」
「…」
聖君は黙り込んだ。
「ゆ、許せるわけない…かも」
そう言ったあとに、
「おお~~~!菜摘のお父さん、すげえ~~~!寛大~~」
と叫んだ。そして、
「父さんなら、どうする?杏樹が今の彼氏と、高校生になって二人で旅行に行ったら」
と聞いた。
「そうだな~~~。どうするかな~。あまり、行って欲しくはないってのが、本音だけど、でも、許しちゃうだろうな~~」
「なんで?」
「なんでって、俺も、もし好きな子と、高校くらいで旅行に行きたいって思ったら、行ってそうだしな~~」
「俺も、桃子ちゃんと行った。っていっても、俺の場合、菜摘と葉一も一緒だったけど」
「だろ?自分のことは棚にあげちゃうってことだろ?」
「だよね」
「今から、もっと寛大になれるよう、訓練したら?」
「父さんもしたの?」
「俺?まさか。最初からそんな、縛るようなことしたくないって思ってたし、まったくだけど」
「だよね。俺も杏樹もうるさく言われたこともないし、いっつも寛大だったよね、父さんは」
聖君は黙り込んだ。
聖君のお父さんは、カレーをたいらげ、水を飲み干すと、
「さてと。もう一個片付けないとならない仕事あるんだ。今、気分ものってるし、このまま、やってきちゃうよ」
と2階にあがっていった。
クロは私の足元で、まだ寝転んだままでいた。
「そっか~」
聖君は、最後の一口を食べ終わり、口を開いた。
「え?」
「俺、もっと心広くならないと、だめだね、桃子ちゅわん」
そう言って、
「ごっそーさん」
とスプーンをお皿にのせ、私の真横に座ってきた。
「桃子ちゅわん」
聖君は私にぴとっとくっついて、なんだか思い切り甘えん坊モードだ。何かな。傷つくようなことあったとかかな。
あ、あった。私、片思い中にもし、聖君がエッチな話題をしていたら、ショックを受けるかも、みたいなこと言っちゃったっけ。
「桃子ちゃんはさ、俺の前にも好きだったやつ、いたの?」
「へ?」
「桜さんが、桃子ちゃんも片思いのひとつやふたつしたでしょって言ったとき、否定しなかったじゃん」
「ああ、あれ?」
「うん」
あれ?それが気になってたの?
「片思いって言っても、本当に、口もきいたこともない相手だよ?」
「何それ」
「駅でたまに会うってだけの人だから、名前すら知らない」
「いつ?」
「中3のとき」
「じゃ、本当に見てただけで終わったの?」
「そう、見てただけ」
聖君だって、そうなってたかもしれない。菜摘や蘭がいなかったら、私何もできなかったんだろうな。
「なんだ、そっか」
聖君は、安心したように、ソファーに深く座りなおした。
「気になってたの?」
「うん、ちょっとね。もしかして、すげえ好きなやつとかいて、失恋もして、すげえ泣いたりもしたのかなって、ちょっと思っちゃって」
「…」
「桃子ちゃん?あれ?もしやいたの?ほかにも」
「ううん」
「じゃ、泣いたりした経験は、ないんだよね?」
「恋して泣いたこと?」
「嬉し泣きはよくしてるか」
聖君はそう言うと、へらって笑った。
私は聖君の腕にしがみついた。
「泣いたこと…」
あったな~~。聖君が沖縄行きを一人で決めてしまったときとか。それから、もう聖君のそばにはいられないって勝手に思い込んだときも。
ぎゅう。私はもっと力を込めて、しがみついた。
「ん?何?」
聖君が優しく聞いてきた。
「最近は嬉し泣きばかりだけど、付き合う前は、一人で暗くなってたときあったな」
「え?」
「って思い出してた、今」
「俺にたいしてってこと?」
「うん」
「俺、なんか傷つけるようなことした?」
「ううん。私が勝手に、聖君にはなにも思われてないって思って、勝手に聖君ともうお別れなんだって、思い込んでた」
「あ~~~。あれね。もう、聖君とは会えないとか、勝手に盛り上がってたっけね」
「…」
う、そうなんだよね。独りよがりもいいとこ。
「あれは焦ったよな~~。なんで別れちゃうほうばっかり、考えちゃうのって、俺のほうがびびったよ」
「びびった?」
「そうだよ。こっちは桃子ちゃんとずっと一緒にいようって思ってるのにさ、勝手に離れていこうとするんだから」
「ごめん」
「ほんとだよ。お腹に赤ちゃんがいるってわかったときもだよね?俺が離れていくって思って、暗くなってたんでしょ?俺が、桃子ちゃんから離れていくわけないじゃん。ほんとにもう…」
「ごめん」
私がそう言うと、聖君は抱きついてきた。
「ぜ~~ったいに離さないから」
「うん」
「絶対だよ」
「うん」
「桃子ちゃんにうざがられても、離さないから」
「うざがったりしないよ」
「まじで?」
「まじで!」
「よし!」
なんだかわかんないけど、聖君はそう言うと、私の頭をなでてくれた。
「あとさ。俺、エッチな本は買ったり読んだりしないから、安心してね?」
「へ?」
「それから、今までも、そんなに読んでないから。たま~~に、ごくたま~にだから。ね?」
「…」
やっぱり私のあの言葉、気になっていたのか。
くす。思わず笑うと、聖君は、
「何で今、笑ったの?」
と焦って聞いてきた。
「なんだか、聖君、かわいいなって思って」
「だ、だって、俺だって、桃子ちゃんに幻滅されたくないっていうか」
ああ、そんなこと口にしてるし。なんだか素直だな~~。
「いいよ、大丈夫」
「え?何が?」
「聖君がエッチでも、スケベ親父でも、幻滅はしないから」
「スケベ親父ってさ~~。俺は別に…」
「でも、聖君。ひとつだけお願いが…」
私の声のトーンが変わり、聖君がまた慌てた。
「え?何?」
「そのスケベ心を向ける相手は、私だけにしてね?」
「へ?」
「エッチな聖君も全然いいけど、私だけにエッチでいてね」
そう言うと、聖君はまっかっかになってしまった。
「も、もちろん。それはもう、もちろん。言われなくたって、もちろん」
聖君はしどろもどろになって、そう言ってから、
「うわ~~。そそそんなこと、桃子ちゃんの口から出てくるとは思わなかったから、めちゃびっくりした~~」
とまだ、真っ赤になっている。
「ぎゅ~~~」
聖君が抱きしめてきた。それからしばらく無言でいた聖君が、ぼそっと、
「そっか。桃子ちゃんには、エッチでいてもいいのか」
と耳元でつぶやき、ちょっとにへらって笑っているのが見えた。
あ。もしかして、ものすごく私はやばいことを言ってしまったのではないだろうか。でも、後の祭りかな…。
聖君は、私にチュッてキスをすると、自分と、お父さんが食べた食器を持って、お店に戻っていった。
私はクロと二人で、リビングでのんびりくつろいだ。クロがいてくれるから、さびしくはなかった。
そしてまた、本を読み出したが、さっきの聖君があまりにもかわいかったから、それを思い出し、結局は内容なんて、頭に入ってこなかった。
聖君の印象って言うのは、きっと人によってまったく違うんだろうな。私の中でも、大きく変わっていったし。
たとえば、メグちゃんから見た聖君は、さわやかで、かっこよくって感じかな。
クールだって印象を持っている人もいれば、優しいって思ってる人もいるだろう。みんながそれぞれの聖君を見て、中には勝手にイメージを膨らませてる人もいるんだろうな。
あ、藤井さんもそうだったっけ。ものすごい聖君像ができあがっていたっけな。
本当の聖君は…。
私だってまだ知らない部分がある。エッチな聖君なんて、ほんのちょっとしか知らない。
男である聖君。それはもしかして、男友達が知っていても、私には見せないようにしてる部分かもしれない。
そんな部分もさらけ出してほしいとは思わない。私だって、友達といるときと、聖君といるときとでは、違ってるかもしれないし。
なんとなく聖君の部屋に行きたくなり、クロと一緒に聖君の部屋に行った。
聖君の部屋、変わらない。机の上の写真も、そして壁の写真も。
本棚の参考書はなくなっていた。あれ?受験で使い終わったら、さっさと処分しちゃったのかな。その代わり、ダイビングの雑誌が増えた。
あれ?車の雑誌もある。それから、沖縄の本、ハワイの本。こんなの前からあったかな。
聖君は本当に、沖縄に行くこと、あきらめられたのかな。後悔することはないんだろうか。
沖縄の本を手にとって見た。なんとなく、中をぺらぺらとのぞいていると、ところどころにボールペンで、丸がしてあった。
綺麗な海だったり、ダイビングスポットだったり。それから、ホテルや、レストラン。
もしかして、旅行か何かで行くつもりなんだろうか。
はあ。なんとなくため息が出た。私、本当に聖君のしたいことや、夢を邪魔していないかな~~。
本を本棚に返そうとして、気がついた。あ!出産の本がある。それに育児の本まで。いつこんな本を買ったんだろうか。それもなんで、うちには持ってこなかったんだろう。
「くうん」
クロがドアをカリカリしてる。あ、一階に行きたいのかな。
「どうぞ」
ドアを開けると、クロが、
「ワン!」
と階段のところで、一声鳴いた。
「クロ?桃子ちゃん、上?」
聖君の声だ。
「うん、2階にいるよ」
私はそう答えた。聖君はタタタって、軽やかに2階に来た。
「なんだ。リビングにいなかったから、どこ行ったかと思っちゃった。はい、これ。おやつ。一緒に食べよ!」
聖君は、チーズケーキを二つのせたお皿を持っていた。
「飲み物も持ってくるよ。あ、俺の部屋暑かったら、エアコンかけてね」
そう言うと、聖君はまた、下におりていった。
私は聖君の部屋に戻り、聖君から渡されたお皿を机に置いた。それから、エアコンをつけた。
外ではまだ、蝉が鳴いている。まだまだ暑い。残暑も厳しいかな。
ベッドに座って待っていると、聖君はまた軽やかに2階に来た。片手に私のマグカップ。片手には聖君のコップを持って。
「クロのはないよ。クロは店行って、おやつもらってきなよ」
聖君の足元で、尻尾をぐるぐる振っているクロに聖君が言うと、クロは一階におりていった。
「お店、暇なの?」
「うん。もしかして、もう俺が結婚してるって噂が流れて、お客こなくなっちゃったかな」
「え?」
「あはは。それはないか!」
聖君は私にマグカップを渡しながら、そう言った。
チーズケーキを聖君は、
「うめ!」
と言って、ばくばくっと食べ、アイスコーヒーをゴクっと飲むと、はあってため息をついた。
「どうしたの?」
「え?何が?」
「今、ため息ついた」
「ああ、落ち着いたからだけど?」
「そっか」
私もチーズケーキを食べた。聖君はそんな私を、優しい目で見ている。
「あ、じゃあもう、休憩なの?」
「うん。いつもより早いけど、今日は夜のほうが忙しそうだから」
「え?どうして?」
「予約がいっぱい入ってるんだ。一組は、結婚記念日なんだって」
「え~~。素敵」
「だよね。ちゃんとシャンパンも用意したし、ケーキもその人達用に、母さん準備してた」
「そうなんだ」
素敵だな。結婚記念日に何かをするなんて。
「俺らは、婚姻届を出してきた日だね」
「うん」
聖君は私の肩を抱き、へへって笑った。
「何?」
「結婚一周年には、凪ももう生まれてるんだよねって思って。あ!じゃあさ、結婚記念日に式を挙げるってどう?」
「あ、いいかも」
「うん。ちょっと母さんや父さんにも相談してみるよ」
「うん」
「すげえ夏の暑い日かもしれないけど、ま、いいよね?」
「うん」
聖君、嬉しそうだ。ちょっと、怖いけど、聞いてみようかな。今なら、聞けるかな。
「聖君」
「ん?」
「沖縄の本とか、あるんだね」
「ああ、これ?」
聖君は本棚から、沖縄の本を取り出した。
「そのうち、凪を連れて旅行に行けたらいいなって思ってさ。この辺のホテルやレストランなんか、いいなって思ったんだ。ほら、ここ」
聖君が本を私に見せてくれた。さっき、ボールペンで丸が書き込んであったページだ。
「凪と?」
「本当は、桃子ちゃんと行きたくて買っておいた本。でも、凪が生まれてからでも、行けるかなって思ってさ」
聖君はかわいい笑顔でそう答えた。
「そうなんだ」
私と行く予定で買った本だったんだ。
「それに、出産や子育ての本も買ったの?」
「あれは、母さんからもらったの。聖も読んでおきなさいって」
「え?」
「いろいろと知っておいたほうがいいと思うって言われた」
「そっか~」
「休憩時間とかに、読んでるよ」
「うちには持ってこないの?」
「あ、桃子ちゃんも読みたかった?だったら、今日持っていこうか?」
「え?うん」
なんだ。なんかいろんなことを、私深く読みすぎてるのかな。
「チーズケーキ食べ終わった?」
「うん」
「じゃ、皿はこっちに置くね」
聖君はお皿を机に置いた。そして、私に抱きついてきた。
「本、読めた?」
「ううん。なかなか読めない」
「また眠くなった?」
「ううん、なんかいろいろと考えちゃって」
「何を?」
「これからのこととか…」
「高校のこと?」
「うん」
聖君は、私をぎゅって抱きしめ、
「いろいろと不安?」
って聞いてきた。
「う、うん」
「大丈夫だよ。俺がいるから」
「え?」
「桃子ちゃん、一人じゃないんだから」
「うん」
聖君に私も抱きついた。そうだよね。うん、聖君がいてくれるもんね。
聖君のぬくもりも、においも、私を安心させてくれる。
「聖君」
「うん?」
「大好きだからね」
「知ってるよ」
聖君はそう言うと、優しいキスをしてくれた。私は聖君の優しさに包まれ、不安はどんどんと消えていった。