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第66話 未来を創る

 6時になり、夕飯をリビングで食べた。聖君とお父さんとお母さん、それから杏樹ちゃんと菜摘と一緒に。

 杏樹ちゃんは、私も菜摘もいて、二人お姉ちゃんがいるって、大喜びだった。

「お兄ちゃんよりも、絶対にお姉ちゃんのほうがいいよ」

 杏樹ちゃんが言った。

 そうかな~。杏樹ちゃんはきっと多くの女の子から、羨ましがられてる存在だと思うんだけどな。

 それにものすごく自分が、お兄さんから大事にされられてることに、まだ気がついていないんだな、きっと。


 そして7時近く、葉君がお店に来た。

「菜摘、葉一が来たよ」

 聖君が菜摘を呼びに来た。

 菜摘は真っ赤になりながら、お店に行った。どうやら、しばらく二人っきりで、話をするようで、外のウッドデッキに行ったようだ。


「菜摘ちゃん、緊張してるね」

 聖君のお父さんが言った。

「あ、はい。きっと、これからのこととか、いろいろと葉君と話すのが、怖いんじゃないかな」

 私がそう言うと、

「でもきっと、大丈夫だ。うん」

とお父さんはうなづいて、2階にあがっていった。


 お店に聖君のお母さんが戻っていった。でも、聖君は休憩には入らなかった。いつもなら、さっさと夕飯を食べにやってきちゃうのにな。

 きっと、菜摘のことが気になってるんだ。

 しばらくして、聖君は、

「桃子ちゃん、俺、カウンターで飯食ってるから。何かあったら店に来てね」

と言いに来て、すぐにお店に戻っていった。


 気になる。私だって、菜摘のことがすごく気になる。

 リビングでのんびりとテレビを観ていた、杏樹ちゃんに、

「ごめん、ちょっとお店見てくるね」

と言い残し、私はお店に顔を出した。


「聖君」

「あ、桃子ちゃん」

 聖君はカウンターで一人、夕飯を食べていた。店には、3組のお客さんがいた。もう全部の席には、デイナーのセットが運ばれていて、のんびり、ゆったりと静かに食べているところだった。


「菜摘と葉君、どうした?」

「外で話をしてる。なんか、ずうっと話し込んでるみたい」

「そうなんだ」

 聖君はいつもみたいに、ご飯をがっついていない。時々振り返り、窓の外をうかがっている。

「葉一、また菜摘のこと、泣かせたりしてないよな」

「え?」

「あいつ、言葉が足りないんだよ、いつも」

 聖君もかなり、気になってるんだ。


 聖君がご飯を食べ終わったころ、菜摘がドアを開けて、葉君と入ってきた。顔はちょっと赤くって、恥ずかしそうだった。目も潤んでいるようだ。

「聖、俺も飯食っていってもいい?」

「うん。今、用意するよ。カウンターに座って待ってて」

「わりい」


 葉君は、席に着いた。その横に菜摘も腰掛けた。

「菜摘、ご飯もう食べたの?」

「うん、ごめんね。待っていたらよかったね」

「ああ、いいよ。遅れるかもしれなかったし、時間わからなかったからさ」

「大丈夫だったの?仕事…」

「ああ、大丈夫。ちゃんと終わらせてきたよ」

 なんだか、二人の声、優しい。特に葉君の声も話し方も。


 お客さんが一組、また一組と帰っていき、聖君は最後のお客さんが帰ったら、すぐにドアの札をクローズに変えた。

 それから、

「こっち来いよ」

と、菜摘と葉君を4人がけのテーブルに呼んだ。


 菜摘、葉君、私、そして聖君の4人でテーブルを囲んで座った。

「なんだか、落ち着いた?」

 聖君が二人に聞いた。

「うん。話したら、ちょっと」

 菜摘がそう答えた。

「そっか」

 聖君がにこりと笑った。


「悪かったな、聖。心配かけて」

 葉君がそう言うと、聖君は、

「なんだよ。いいって、謝るなよ」

と照れくさそうに言った。


「また俺、お前と比べちゃってたよ」

 葉君が言った。

「俺は、お前みたいに、責任をちゃんと取れるんだろうかとか、そんなこと考えてた」

「責任?」

「結婚のことだよ」


「ああ」

 聖君は下を向き、黙り込んだ。

「お前、やっぱ、すげえよ。それはまじで思う」

「すごい?」

「ああ、なかなかそんなに潔くはなれない」


「…菜摘のお母さんも、責任がどうのって言ってたっけ」

「うん」

 菜摘がうなづいた。

「結婚をすることって、責任をとるってことなのかな」

 いきなり、聖君が葉君に聞いた。


「そりゃそうだろ?」

「う~~~ん」

 聖君がうなってから、私を見た。

「俺は、結婚したいからしたんだけど」

と、そう聖君は言って、

「桃子ちゃんもだよね?」

と聞いてきた。


「うん」

 私はうなづいた。

「だから、そういうところがさ、前向きですごいところなんだって」

 葉君がため息混じりに言った。

「前向きか~~」

 聖君はまた、黙り込んだ。


「俺、桃子ちゃんとの結婚や、家族を持つこと、桃子ちゃんがれいんどろっぷすで働くこと、一緒に暮らすこと。そういうことひっくるめて、夢に見てたって言うか、思い描いてた」

 突然、聖君が、そんなことを言い出した。

「それ、わかってたよ。かなりリアルに聖は、思い描いてるなって」

 葉君が言った。


「そう。かなり現実的に、もうそうなるに決まってる、くらいの勢いで思い描いてた。当たり前に起きてくることだろうなっていうくらい」

「それは私も感じてたよ。兄貴」

 菜摘も話に入ってきた。私は、聖君の隣で、聖君、いきなり何を言い出したんだろうって、そう思いながら見ていた。


「父さんも言ってたことあるけど、お前らも聞いたことない?思考は現実化する。っていうかさ、思ってることが現実に起きてくる」

「聞いたことあるし、そういう本も読んだよ。前に聖が貸してくれたじゃん」

「うん。父さんのを貸してあげたんだよね?で、それ読んでどう思った?」


「難しいって思ったよ。思ったことが叶うって言ったって、そうそういいことを思っていられない。ポジティブシンキングだの、プラス思考だのって、結局はマインドコントロールするわけだし、かなり大変なことだよなってさ」

「でもさ。実際に思ったことが現実になるなら、口に出したことが、起きてくるなら、自分にとって、嬉しいことのほうがよくない?」


「そりゃ、そうだけど。でも、本当になるのかって不安にもなるし、叶わないと、へこむしさ」

 葉君は、ちょっと眉をしかめてそう言った。

「兄貴ぐらい、能天気ならね~」

 菜摘が葉君の隣で、小さな声でつぶやいた。


「まあね、能天気かもしれないけど、俺」

 聖君は、ちょっとすねた感じでそう言ったあと、

「だけど俺はね、もし責任って言い方をするなら、それこそ、自分の思考や言動に責任を持たなくっちゃって思ってるよ」

と、目を輝かせて言った。


「自分の思考や言動に?」

 菜摘が聞きかえした。葉君は黙って、聖君を見ている。

「だって、思考が創るんだよ?自分の思考が。それを他人のせいにしたり、環境のせいになんてできないじゃん」

「…」

 葉君は、一瞬目を丸くした。菜摘は首をかしげながら、聞いていた。


「それにさ。見方を変えてみるとね、いくらでも自分が望むような世界を、創れるってことだよ。あ、いきなり自分が望んでないようなことも、起きることもある。例えば、まさか菜摘が妹だなんて、思ってもみなかったことだし」

「そうだよね?桃子だって、まさか妊娠するなんて思ってもみなかったよね?」


「だけど、結果的には、俺は菜摘の兄でよかったって思ってるし、前にも言ったよね?そういうことがあって、家族の絆や友達の絆は深まったし、もっと言えば、そのおかげで、俺、桃子ちゃんと付き合うようにもなったんだしさ」

「すべては必然ってやつだろ?聖」

 葉君が言った。


「そう、それ」

「それはなんとなくわかるよ。一見悪いことが起きたように見えても、実はそのおかげでってこと、けっこうあるしさ」

「そう、それだよ、それ」

 聖君は葉君の言うことに、思い切りうなづいていた。


「だけどさ、それだと、自分の思考が現実を創ってるっていうのと、矛盾しない?」

「しないさ」

「なんで?起きてくることは、必然だろ?必要で起きてくる。それにそうなるように決まってたともとれるよな?」

「うん」


「じゃ、自分が創ってる世界じゃないじゃんか」

「それがさ、創ってるんだよ。ただ、どういうことが起きてきて、どんな人と出会って、っていうのは、それは自分がって言うよりも、なんだろうな、宇宙って言うか、創ってくれる何かがあるんじゃないの?」


「あ~~~。まったくわからないよ」

 菜摘が頭を抱えた。

「だから。例えばね、俺は桃子ちゃんと一緒にいたい。隣にいたい。ああ、もう一緒に暮らせるようになったらいいのに!って思ってたわけ。で、そんな暮らしぶりもイメージしたりね。だけど、それがいつ叶って、どんなふうに叶ってっていうのまでは、思い描いていないわけ」


「プロセスは描いてないってこと?」

「そう!結果だけだよ。俺が描いてたのは」

「じゃ、どうなってそれが叶うかはわからないけど、こういうことが叶ったらいいなって思い描いたことは、現実化してるってこと?」

「そうそう。だってそうじゃん。俺、まじでびっくりしたんだよ。まさか、俺だって、桃子ちゃんが妊娠して、すぐに結婚してすぐに一緒に住めるようになっちゃうって、思っていなかったし」


「…。あ。じゃ、兄貴は自分が思い描いたことだから、責任とって結婚したの?」

「ちょっとニュアンスが、微妙に違う」

 聖君が、眉をひそめた。

「どう違うの~~?」

 菜摘も同じように、眉をひそめた。あ、その眉、似てるかも。さすが兄妹。


「まあ、自分が思い描いた世界だっていうのは、そうなんだけど。もっと前から、それをイメージしたり、口で言うときから、それが叶うっていう意識がどっかにあって、いつも責任をちゃんと持ちながら、イメージしたり、口にして言ってたって感じかな」


「じゃ、叶っちゃったから、責任を取るんじゃなくて、叶えることに責任を取ったってこと?」

「う~~ん、やっぱり微妙に違う」

「わかんないよ~~」

 菜摘は頭を抱えた。


「やっぱ、責任って言葉を使うと、重すぎるかな。思考は現実化するんだから、自分が叶えたいことを、思考していようよって、ま、簡単に言うと、そんな感じ」

「思い切り軽くなったな」

 葉君がちょっと、呆れながら言った。

「なんで?自分が叶えたいことが叶ったのなら、あっさりと引き受けられるって言うか、やったって喜んじゃうくらいにならね?」


「あ、それでお前、桃子ちゃんが妊娠しても、簡単に受け入れられたし、結婚も決意できたのか?」

「うん。だって、まじで俺が望んでいたことだったから」

「…」

 葉君は聖君の顔を、まじまじと見て、ちょっと笑みを浮かべた。


「だから、お前、やっぱりすごいっていうか、変わってるよ」

「そうか?だけど、そういう生き方もよくないか?」

「え?」

「先のこと心配ばかりしたり、悪いほう悪いほう考えてたら、そっちの方向に流れていっちゃうんだぜ?そんなの嫌じゃない?」


「まあね」

「だったら、もっと嬉しくなるような、そんな未来思い描いてたほうがいいじゃん」

「まあね」

 葉君は、さっきから聖君の言うことにうなづいている。でも、菜摘はまだ、ぽかんとした顔をして聞いている。


「で、あれこれ悩んだり、別れようなんて考えたりしないで、今に生きたらいいんだよ」

「今?」

 その言葉に、葉君もえ?って顔をした。

「そう。今。未来は未来。こうなったらいいなって思い描いたら、プロセスはほら、宇宙が創ってくれることなんだから、どうなっていくかは任せてさ、今を楽しんでたらいいんじゃないの?」


「今を楽しむって?」

 今度は菜摘が聞いた。

「だから、今だよ。今は俺ら4人で話している。それを楽しんだらいい。飯を食ってるときは、食っていることを、風呂に入っていたら風呂に入っていることを、外散歩してたら、外の空気や、気温、日差し、そんなのを楽しんだらいいんだよ」


「…今ね~~」

 葉君がうなった。

「そ。俺、思考だけじゃない。今の感じてることとか、心の持ちようとか、在り方とか、それも未来を創る大事な材料になってると思うんだよね」

「ど、どういうこと?兄貴」

 菜摘が身を乗り出して聞いた。


「う~~ん、だからさ」

 聖君がどう説明しようかと、腕を組んで悩みだしたら、キッチンから聖君のお母さんがやってきて、

「今、幸せ~~って思ってると、幸せの未来が、今、不満を思っていると、不満を感じる未来が創られる。ってことよね?聖」

と、聖君の代わりに説明した。


「あ、そうそう。そういうことだよ。今、何を感じてるかで、決まってくるんだ。不幸だって思っていると、不幸なことが、豊かだって感じていたら、豊かさが、喜んでいたら、喜びが、悲しんでいたら、悲しみが、やってくるようになってると思うよ」


「え?じゃ、何?起きてくることのほうがあとってこと?」

 葉君が言うと、その言葉に菜摘は、どういうこと?って小声でつぶやいた。

「そうそう。そういうこと」

 聖君がうなづくと、また、菜摘が、どういうこと?と今度は聖君に聞いた。


「つまりね、菜摘ちゃん」

 聖君のお母さんが菜摘の横に立ち、話し出した。

「普通は、悲しい出来事があって、泣いたり、沈んだり、不幸だって感じたりするでしょ?」

「はい」

「でも実は、悲しんでいる思いが、悲しむような現実を創り出しているってことなのよ。思考が現実よりも先なの」


「どひゃ~」

 菜摘はわかったようで、顔を青くした。

「じゃ、私が不安に思っていたり、心配してると、それがどんどん現実に起きてきちゃうってことですか?」

「う~~ん、まあ、そういうことになるかしらね?」

 聖君のお母さんは、聖君を見た。


「だからね、あまり暗くなったり、心配したりする必要はないってことだよ」

 聖君は明るくそう言った。

「え?」

 菜摘が聞きかえした。

「俺が、桃子ちゃんと一緒に住めて、すぐそばにずっといられるって、勝手にそう思い描いて、わくわくしてるみたいに、菜摘も葉一とは、ずっと楽しくいられて、幸せでいるって、そう思い描いてたらいいんだから」


「そっか」

「だから俺、言ったじゃん。こうなったらいいなってことだけ考えて、あとは寝ちゃいなって」

「兄貴にそう言われたのに、実は暗いことも考えちゃってた」

「やっぱり?」

「うん」


「そうだったの?菜摘」

 葉君がそう聞いた。

「うん。もし別れようって言われたらどうしようかって」

「あ、それ、俺も思ってたかも。菜摘がこんな俺は頼りにならないから、もう別れようって言い出すんじゃないかって」


「あはははは」

 聖君は思い切り、笑い出した。

「なんだよ、聖」

「だって、同じこと思ってたんでしょ?なんつうの?引き合うって言うか、シンクロって言うか」

「え?」


「あ。俺らもあったね。俺が桃子ちゃんと、別れないとならないのかもって、一人合点して暗くなっていたら、桃子ちゃんも別の理由で、俺と別れなくちゃならないかもって、勝手に思って暗くなってたこと」

「私が妊娠したってわかったとき?」

「あ、そうそう。あのとき」

「うん、もう絶対体命だって思ってたから」

 私がそう言うと、菜摘と葉君が、ああ、あのときって同時にうなづいた。


「だけど、ふたを開けてみたら、聖君は大喜びしちゃうし」

「だって、俺、桃子ちゃんが桐太と付き合っちゃったのかと思ったんだもん。ちょうどあの頃、桃子ちゃんは卒業したら、俺の家に来て、一緒に住んで、お店手伝ってもらって、それで、そのうちに結婚して、子供もできて、家族になって、ずっと幸せで、なんてのを思い描いていた頃で、それなのになんで、桐太とくっついちゃうんだよって、俺も絶体絶命だったね」


「そういうこと思い描いてたのか、兄貴」

 菜摘が、目を丸くしたまま聞いた。

「俺にはそれ、話して聞かせてたよな」

 葉君が言った。

「そのうえ、いつか桃子ばあちゃん、聖じいちゃんって呼びあうんだとかさ」

「あはは。そういえば、葉一には話してたかも」

 聖君は無邪気に笑った。


「じゃ、本当に思い描いてたことを叶えちゃったんだ」

 菜摘がぽかんとした顔のまま、聖君に言った。

「そう。叶っちゃったの。妊娠してるってわかったときは、え~~~!じゃ、結婚だ、一緒に住めるんだ、うわ。もう叶った~~って、俺、おおはしゃぎ」

 聖君は、にっこにっこの笑顔でそう答えた。


「だから、それがお前のすごいところだって」

 葉君がぽつりとまた言った。

「あ、振り出しに戻ってる。じゃあさ、聞くけど、お前、未来、菜摘とどうなってたら嬉しい?そこには、母子家庭だしとか、給料安いしとか、そういった考えはいれないで、ただただ、どうなっていたいかってことだけ、思い描いてみ?」

 聖君にそう言われ、葉君は目をつむった。


 その横で、菜摘は顔を赤くしながら、そわそわし始めていた。

「あ、菜摘もだよ。思い描いてみなよ。こんなこと思ったら、悪いかなとか、そんな遠慮もいらないから」

 菜摘は、そわそわしたまま目をつむった。


「そうだな」

 葉君が目を開けた。

「なんとなく、菜摘とは、二人とも働いてるってイメージだな」

「え?」

 菜摘が目をあけ、葉君を見た。


「元気に朝、菜摘と駅に一緒に行くんだ。で、電車にも一緒に乗って、どこかの駅で別れる。今日も仕事がんばろうねとか言い合って」

「うん」

 聖君はにこにこしながら、聞いている。私は他人事ながら、ドキドキしていた。でも、もっとドキドキして聞いてるのは、菜摘のようだ。


「で、仕事終わったらメールしあって、どっかで帰りに待ち合わせして、近所のスーパーで買い物をしていく。それから家で一緒にご飯を作る。あ、一緒じゃなくてもいいな。当番制にして、料理係と、風呂係がいるの。どう?」

 葉君が菜摘に、どうって聞いたからか、菜摘は面食らったようになっていた。


「一緒に暮らしているっていう設定?」

 菜摘は、もじもじしながらそう聞いた。

「もちろん」

 葉君は、しっかりとうなづいた。

「そっか…」

 菜摘が下を向いた。


「あ、俺の描いた未来だから。菜摘が違う未来を描いたなら、それはそれで」

 葉君は、ちょっと慌てていた。

「私は…」

 菜摘はそう言いかけて、真っ赤になった。


「なになに?どんなの想像しちゃったの?」

 聖君がちょっと意地悪そうに聞いた。

「葉君と…」

「うん」

 聖君はにこにこ顔。葉君は、固まっている。


「デパートとか行って、食器を揃えたり、カーテンを買ったりしてるところを…」

「それって、俺と一緒に住むために、買い物に行ってるっていう設定?」

「うん」

 菜摘が真っ赤になった。葉君も赤くなった。


「な~~んだ。結局は似たようなこと思い描いてるじゃん。お前ら、そのうちに一緒に住みだしちゃうよ」

 聖君が、にこやかな顔でそう言った。

「そ、そうかな」

 さらに菜摘は赤くなった。


「結婚か同棲かはわからないけどさ。でも、一緒に生きていくってことだよな?」

「うん」

 二人が同時にうなづいた。

「それ、叶うよ。そうやって、嬉しそうに思い描いてたら絶対に」

 聖君は目を輝かせてそう言った。


「桃子ちゃんだって、ほんとよく、妄想してたしね」

「え?」

 なんで私のときだけ、「妄想」になるの。

「それも、叶ってるよね?」

「う…うん」

 私も顔がほてってきた。


「こういうふうに、イメージしてるだけで、なんだか幸せになるね」

 菜摘が言った。

「でしょ?悪いことばかり考えて、心重たくしてるより、ずっといいっしょ?」

 聖君は、にっこりと笑ってそう言った。

 ああ、これだよ、これ!聖君マジック。ここに惹かれちゃうんだよ、みんな。


 菜摘は赤くなりながらも、嬉しそうに笑っていて、その横で、これまた赤くなりながら、葉君は嬉しそうに菜摘を眺めていた。

 






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