第62話 告白の力
桐太がしばらくして戻ってきた。顔が真っ赤だ。桐太はカウンターの椅子に腰掛け、もくもくとランチを食べだし、グビグビっと水を飲んだ。
菜摘も私も、話しかけていいものかどうか迷ってしまって、ただ黙って桐太が何かを言うのを待っていた。
「桃子」
桐太はコップを置くと、私のほうを見て、
「言ってきた」
とぼそって言った。
「え?」
「告ってきた」
うわ~~。他人事ながら、ドキドキする~~~!
「そ、それで、麦さんは?」
「すげえびっくりした顔してたけど、黙って何も言わないし、隣で杏樹ちゃんや、聖のお母さんも話を聞いてたし、返事はバイト終わってから、店に来て聞かせてって言ってきた」
「そ、そうなんだ」
「…こんなに緊張してるの、初めてかも」
桐太はそう言うと、また水を飲もうとしたが、コップは空になっていた。
「は~~~~」
桐太はため息をついた。
「桐太、アイスコーヒー」
ちょうどその時、聖君がアイスコーヒーを持ってやってきた。
「あ、ちょうどよかった」
桐太は、ガムシロップもミルクも入れず、アイスコーヒーをグビって飲んで、
「げ、苦い」
と眉をひそめた。
「それから、桐太。食べ終わって店出る時、麦ちゃんのこと一回店の外に連れ出して」
聖君がそんなことを言うから、桐太は、ものすごく驚いて、
「え?なんでだよ?」
と、慌てふためいた。
「キッチンで仕事にならないんだ。伝票間違って捨てたり、ドレッシングをコロッケにかけてたり」
聖君は苦笑いをした。
「麦が?」
「うん。きっとお前のこと気になっちゃって、このあとも仕事にならないと思うからさ、一回、ちゃんと話をして、麦ちゃんのこと落ち着かせてくれない?そもそも、お前の言動が原因なわけだし」
「…」
桐太の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
「は、話っていっても」
「頼んだよ」
「え?おい」
「あ、その間悪いけど、桃子ちゃん、キッチン手伝ってもらってもいい?杏樹だと野菜切ったりするの、遅くって」
「うん、わかった」
私は、真っ赤になってる桐太の背中を、ぽんとたたいて、
「大丈夫だよ」
と声をかけ、席を立った。桐太は私に何かを言おうとしたけど、アイスコーヒーにガムシロップとミルクを入れ、ゴクンと飲み、は~~って息を吐き、気持ちを落ち着かせていた。
キッチンに行くと、真っ赤になっている麦さんがいた。
「聖君、ごめんね。私、失敗ばっかりしてて」
麦さんがそう聖君に謝っていた。
「いいよ。落ち着くまで、桐太と外で話してきて。店の中より、話しやすいだろ?」
聖君は、ホールを見渡しながら、小声で麦さんに言った。
「うん」
麦さんがうなづいた。
「じゃ、桃子ちゃん、キッチンのほう頼んだよ」
聖君は、水のピッチャーを持って、テーブル席を回りだした。
「桃子ちゃん、ごめんね。今日は手伝いできたわけじゃないんでしょ?」
「ううん、私だったら、全然」
そう言って、私は麦さんのしていたエプロンを受け取った。
「桐太がね…」
麦さんは耳まで真っ赤にさせて、小声でぼそぼそと私に話し出した。
「さっきの好きなやつっていうのは、お前のことだからってそう言いに来たの」
「そ、そうなんだ」
「桃子ちゃん、そういう話、聞いてた?」
「う、実は…。桐太、この前悩んでて、相談に乗ってたけど」
「悩み?」
「麦さんのこと、意識してるって。それって好きってことかなって、悩んでいたの」
「桐太が?」
「うん。それで今日、自分の気持ちに気がついたって、そう話してたんだ」
「あ、それでさっき…」
「うん。ごめんね。麦さんに話せなかった。桐太の気持ちもはっきりとしていなかったし、そういうのは、本人からきっと言ったほうがいいだろうって思って」
「ううん。あ、じゃあ、私が桐太を好きだっていうのは?」
「それも言ってない。麦さんから言ったほうがいいだろうって思って」
「ありがとう。そうだよね。私からちゃんと伝えないと駄目だよね」
麦さんはさらに真っ赤になった。
「ああ、まだ信じられないよ。このいきなりの展開」
「え?」
「昨日ね、朝、サーフィン一緒にしたの。なんだか、桐太と楽しく話ができて、こんなふうにずっと接していけたらいいなとか、そうしたら、そのうちに告白もできるかなとか、そんなこと今朝思ってたから。それを桃子ちゃんに、聞いてもらおうって、さっきまで思ってたところだったし」
麦さんは、恥ずかしそうにそう言った。その時、お店のほうから、
「あ~~、聖、ランチ代、ここに置いとく」
という桐太の声が聞こえた。すると、聖君がさっとキッチンのほうに来て、
「麦ちゃん、桐太、店出るよ」
と麦ちゃんを呼びに来た。
「え?うん」
麦さんは真っ赤になったまま、ホールのほうに出て行き、桐太のあとに続いて、店の外に出て行った。
「うわ~。私、目の前で、人が告白してるところ見ちゃったよ。こっちが恥ずかしかった~~」
さっきまで、黙って洗い物をしていた杏樹ちゃんが、私にそう言ってきた。
「びっくりしたわね~~」
と聖君のお母さんも、顔を赤くしながらそう言った。
「それにしても、麦ちゃんと桐太君がね~~。意外な組み合わせだわね~~」
聖君のお母さんがそう言うと、それを聞いた聖君が、
「そう?俺はお似合いだなって思ってたけどな」
と言い、カウンターを片付けに行った。
私は野菜を切ったり、盛り付けたり、ランチのセットの用意を手伝った。
「なんだか、ドキドキしちゃうけど、嬉しいわね」
横で聖君のお母さんが、話しかけてきた。
「え?」
嬉しいって?
「この店で、新しい恋が芽生えちゃうの。なんだか、嬉しくない?」
「そうですね」
お母さんは無邪気に笑って、嬉しそうにしているから、私まで嬉しくなってきた。それに、さっきから、他人事ながら、ドキドキしっぱなしだった。
二人の思いが今頃、通じ合っているんだ。良かった。
「いらっしゃいませ」
また、お客さんが入ってきた。聖君は桐太の食べた食器を片付けたあと、さっさと水とメニューを持ってホールに戻っていった。そして、お客さんと何か話をして笑っているのが聞こえた。
「ランチ二つと、アイスコーヒーとホット」
「は~~い」
聖君のオーダーの声に、お母さんが返事をした。
聖君が伝票を書いてる横から、私はちょこっとホールを覗いた。
「あ…」
高校生の女の子かな?すごく可愛い服を着て、綺麗にお化粧までしている女の子が二人。ずっと、聖君のほうを見ながら、こそこそと何かを話している。
ああ、絶対に聖君目当てだ。
「あの子達も、よく来るの?」
「え?ああ。前に2回来たことあるってさ。この前、旅行のお土産持ってきてくれたんだよね」
「そうなんだ。すごいおしゃれしてるね」
「ん?そう?」
関心なさそうだな。聖君。
「麦ちゃんと、桐太がここから見える」
「え?」
「桐太、さっきからテレまくってる。あんな桐太見たことないよね」
「うん」
「麦ちゃんは、嬉しそうだな」
「うん」
「あ~~、新カップル誕生か~~」
聖君はそう言って、にやついた。
「桐太のこと、これから思い切りからかって遊ぼうっと」
「ええ?」
聖君はあははって笑った。もう、聖君は~~。
ランチのセットが出来上がると、聖君は颯爽とテーブル席に運んだ。そして、女の子のお客さんに引き止められ、そこでしばらく話をしていた。
キッチンに戻ってこようとした聖君は、今度は芹香さんに呼び止められていた。芹香さんは、にこにこしながら、聖君に話しかけ、時々、聖君の手をぽんと触ったり、つかんだりしている。ああ、ここにもまた、スキンシップが好きな女の子がいたか…。
それに、芹香さんは、下から覗き込むようにして見たり、上目遣いで見てみたり、すごく女の子らしい、可愛い仕草をする。あれ、男の子だったら、誰でもドキッてしちゃわないかな~。それもあんなに美人さんに、そんな仕草をされたりしたら…。
聖君は始終さわやかな笑顔。でも、やたらと触られていた腕を、後ろに回して組んでしまい、芹香さんは、聖君の腕に触れることができなくなっていた。
そして、時より聖君は、窓の外を見た。芹香さんと話しながらも、桐太と麦さんのことを気にしてるようだ。
私もほんのちょっと、ホールのほうに出て、窓の外を見てみた。あれ!麦さんの頭を桐太がなでてるよ。うわ~~。麦さんが恥ずかしそうに、桐太を見てる。
うひゃ~~。こっちが恥ずかしくなってくる。
「桃子ちゃん」
後ろから声をかけられ、振り向くと、籐也君がいた。
「あれ?」
いつの間に席を離れてたの?ああ、トイレかな?
「あとで二人で話せない?」
「え?」
二人で?!
「芹香さ~~、聖さんともっと話がしたいんだって」
「え?」
何それ。
「で、二人で話をする時間を作ってやろうと思ってて。ね?その時、桃子ちゃんは俺と話をしていようよ」
何それ~~!!!
「なんで芹香さんは、聖君と話がしたいの?」
私はなんだか、頭にきて、そうぶっきらぼうに藤也君に聞いた。
「そりゃ、気に入ったからじゃん。芹香、誰かのブログで、聖さんの写真を見たらしくって、その頃から聖さんに惚れ込んじゃっていたからさ」
「え?」
あ、あの聖君の写真をのせてたブログか~~。
「あいつ、狙った獲物は絶対に落とす自信があるんだよね」
「獲物?」
それ、聖君のこと?
「聖さんにはもう、彼女がいるって言ったら、ますます落としがいがあるってさ」
「…?!」
駄目だ。何を言ってるのかも理解不能だ。いったいなんなの?
「でさ、俺はその聖さんの彼女のほうに、興味があるって言ったら、聖さんから奪えるかどうか、挑戦してみたら?って」
「奪う?」
「そう」
「聖君から、私を?」
「俺、かなり自信あるけど?」
「…」
「こういうのは、本来、その本人にばらしたりしないものなんだけど」
「え?」
「たとえばさ、聖さんが芹香とできちゃって、悲しんでいるところを俺が慰めて、桃子ちゃんを俺のものにするみたいな、そんな作戦を立てるわけ」
「作戦?」
「そう。でも、今回はね、真正面からいどうもうと思ってさ」
「ど、どういうこと?」
「俺、本気で桃子ちゃんに惚れたから。そういう小細工は一切使わない」
「…」
何?わけわかんない。
「前にも言ったけど、桃子ちゃん、俺のタイプ。びっくりしたもん。こんなに完璧に俺好みの子、会ったことないし」
「そんなわけないでしょ?だったら芹香さんのほうが美人だし、今見てても、すごく女の子らしい子だなって思ってた...」
「あれ、作ってるもん」
「え?」
「あいつの内側、俺知ってるし。あれは全部、計算づくの仕草。あいつ、てんで女の子らしくないからさ」
「…」
私は芹香さんを見た。どう見ても、可愛いし、女の子らしい自然な振る舞いに見えた。
「上手でしょ?あれで、ほとんどの男は落ちるね」
「…」
そんな子がいるんだ。現実に、実際に。うひゃ~~。ドラマの中とか、漫画の中だけかと思ってた。
「なんだか、面白そう」
後ろから杏樹ちゃんが、そう言ってきた。
「え?」
うわ。いつからいたんだろう。話聞かれてた?
「私も、お兄ちゃんから、桃子ちゃんを奪えるかどうか、見ててもいい?」
「へえ。聖さんの妹だよね?こういうの好きなんだ」
「ふふ。でも、敗北はもう決まってるけどね」
杏樹ちゃんは意地悪そうにそう言った。
「俺のってこと?」
籐也君が、口元を緩ませ、そう聞いた。
「そう。挑戦する前から、結果は出てるよ。お兄ちゃんから奪えるわけないじゃん」
「あはは。杏樹ちゃん。それはわかんないでしょ?やってみなくっちゃね」
「それに、あのひょろひょろの人」
「芹香?」
「そう、あの人もお兄ちゃんを落とせないよ」
「へえ。なんでそう思うの?」
藤也君は、面白そうに杏樹ちゃんに聞いた。
「だって、お兄ちゃんは、あの演技見抜いてるもん。だてに、何年も女の子にもててたわけじゃないから」
「え?」
藤也君の眉間にしわが寄った。
「お兄ちゃんはね、いろんな女の人見てたし、それが演技かどうかも見抜けちゃうんだよね。演技だってわかってても、あんなふうに店ではね、さわやかな笑顔を向けることもできちゃうの。何せ、プロ意識高いから」
「プロ意識?」
「客には絶対に笑顔」
杏樹ちゃんは力強くそう言うと、
「だけど、客じゃなくなったら、すごい冷たいよ。女の子にものすごくクールなお兄ちゃんを知らないの?」
と籐也君に、挑戦的に言った。
「…」
藤也君は黙りこんだ。
「杏樹、そのくらいにしておきなさい」
聖君のお母さんが、ぴしゃりとそう言うと、
「桃子ちゃん、今、キッチンも落ち着いたし、ランチ二つ分作っちゃうから、菜摘ちゃんと食べて。それから、杏樹は、そのあと爽太の分と作るから、リビングでも持っていって食べなさいね」
と、やわらかい表情に戻った。
「わかった~~」
杏樹ちゃんは、キッチンに入って、洗った食器を拭き始めた。私は、ランチを作る手伝いをした。
「桃子ちゃん、じゃ、またあとで」
藤也君が私にそう言ったが、私は聞こえないふりをした。
「面白い子ね」
聖君のお母さんは、籐也君が席に戻ったのを確認してから、私にそう言った。
「籐也君がですか?」
「そう。奪うだの、落とすだの。ゲーム感覚なのね。きっと、今まで誰かを本気で好きになったこともないんでしょうね」
「そうかもしれないですね」
「ちょっと不憫っていえば、不憫かな。あ、でも、これから本気で好きになる子に出会うのも、楽しみっていったら楽しみか」
「え?」
「ふふ。今までの自分を、180度くらい変えちゃう人と出会うの。なんか想像しただけで、わくわくしない?」
「180度変える?」
「そう。あのゲーム感覚でしか恋ができない籐也君が、誰かを本気で愛しちゃったら、もういろんなことが180度は変わっちゃうと思うわよ。そうなったら、面白いわよね」
「…」
聖君のお母さんの発想のほうが、よっぽど面白いと思うけどな。
「聖だって、桃子ちゃんと出会ってから、人生ががらりと変わったし」
「あ…。それって、結婚とか?」
「ううん。そういうことじゃなくて、意識の問題。人を大事にするようになったり、自分の生き方とか、在り方とか、そういうものを見出せるようになったり」
「……」
「あの子は、女の子苦手だったし、心を開ける相手もいなかったし、それが桃子ちゃんと出会って、心を開ける相手ができて、そりゃもう、あの子の中でいろんなものが、シフトしたと思うのよね。そういうの、爽太とも話してたの」
「…」
「私も爽太と出会ってそうだったし、爽太も私といると素でいられて、楽だって言ってたっけね」
「心を開ける相手?」
「そう。桃子ちゃんもそうでしょ?聖といると、安心するんじゃない?」
「めちゃくちゃ、安心します」
「聖もそうだもんね。なにしろ、桃子ちゃんに会うだけで、元気になっちゃうし」
「…」
ああ、よく聖君言ってるっけ。桃子ちゃんパワーって。
「ふふ」
聖君のお母さんはまた、楽しそうに笑って、
「あの子も、どんな子と本気の恋愛するのかしらね。楽しみね~~」
とそう言った。
私はホールを見た。聖君は、お店に真っ赤になりながら入ってきた麦さんと、レジの横で話をしていた。桐太はもう、帰ったみたいだ。
その聖君を、ホールにいるほとんど全員の女の子が見ている。あ、女の子だけじゃないか。もう聖君よりも年上で、大人だろうなって女の人までもか。
ああ。芹香さんの出現で、クラクラしていたけど、聖君を狙っている女の子は、こんなにも多いんだな~。芹香さんに始まったわけじゃないんだ。
「さ、桃子ちゃん、ご飯食べちゃってね」
聖君のお母さんにそう言われ、カウンターに行った。菜摘が、一人で携帯を操作しながら、暇そうにしていた。
「桃子ちゃん、ごめんね。ありがとう」
麦さんが私のところに来て、そう言った。
「桐太、もう帰ったんですか?」
「うん」
麦さんは、顔を赤らめた。でも、さっきよりずいぶんと落ち着いた感じだ。
「桐太にちゃんと話した。そうしたら、桐太、嬉しそうに笑って、明日もサーフィン二人でいこうねって」
麦さんもすごく嬉しそうだ。
「よかったですね」
「ありがとうね、桃子ちゃん」
麦さんはにっこりと笑ってそう言うと、私からエプロンを受け取って、それをつけながらキッチンに向かった。
麦さんと入れ替わりで、聖君が、ランチのセットを二つ持って、カウンターに来た。
「お待たせ。飲みものは何にする?」
聖君が聞いてきた。菜摘が、水でいいよって言うから、私も水でいいって答えた。
「了解。今、持ってくるよ。あ…」
聖君は一瞬戻りかけ、私のところに、また戻ってきて、
「さっき、籐也と何話してたの?」
と耳元で聞いてきた。
「え?特に何も」
「うそ。話し込んでたじゃん」
「芹香さんのこととかだよ」
「ふうん」
聖君の「ふうん」だ。ああ、うそだって見抜かれてるか。これ、きっとあとでも、しつこく聞かれるな。
聖君はいったん、キッチンに戻り、水を持ってやってくると、
「食べたらリビングか、俺の部屋にでも二人で行って、のんびりしてていいからね」
とにっこりと笑い、キッチンに戻っていった。
「なんだか、いろんなことが起きてたね」
菜摘がコロッケをほおばりながら、そう言った。
「麦さんと桐太のこととか、あの芹っていうひょろひょろの人のこととか」
「ひょろひょろ?」
「そう。兄貴に思い切り、こび売ってた。でも、兄貴、て~んで無視してたけど」
「無視?」
「桃子は見てなかったでしょ?藤也ってのと話してたもんね。面白かったよ。私ここから、ちょっと見てたんだよね。話も聞いてたんだ」
「う、うん」
どんなだったのかな。実はすごく気になってた。
「あとで話すね」
「え?」
「なんか、こっちを見てるから」
ちらっと後ろを向くと、確かに藤也君と、芹香さんがこっちを見ていた。
「なんだかさ~~」
菜摘が、水を一口飲んでから、
「私も夜、ちゃんと葉君と話そうって思ったよ」
と、穏やかな顔でそう言った。
「え?」
「桐太と麦さんを見ててそう思った。心のうちをきちんと相手に伝えないと、駄目だよね、やっぱり」
「うん」
「よし。私もがんばるよ」
菜摘はここにいて、みんなのことを見たり聞いたりしながら、自分と葉君とのことを考えていたんだな。そして、桐太の告白や、麦さんが素直に自分の気持ちを伝えたことは、今の菜摘に力を与えたんだね。
元気にご飯を食べている菜摘に、私は心の中で、元気になってよかったねとか、がんばってね、応援してるよって、そんなことをつぶやいていた。