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第52話 陽だまり

 ショッピングモールを出て、生地屋に寄った。そこで、聖君は、ほしいイメージの生地を買うことができ、満足して私の家に向かった。

「良かったね。生地見つかって」

「うん。これに、母さんが刺繍なり、アップリケをつけるなりしたら、けっこういいのできそうだよね?」

「うん。でもお母さん、大変じゃない?」


「大丈夫だよ。母さん、こういうの大好きだから。好きなものって、作ってて楽しいじゃん?逆にいい息抜きになると思うよ」

「そうなんだ。いいな。私も刺繍やアップリケつけるの、やってみたいな」

「まじで?やる?今日、家に戻るのやめにする?」

「えっと。でも、お母さんやお父さんに、今日戻るって言っちゃったし。聖君が来るのを心待ちにしてると思う」


「あ、そうか~~。そうだよね。ご両親、桃子ちゃんにも会いたいよね」

「ううん。絶対に聖君に会いたがってると思うよ。特にひまわり」

「あはは。ひまわりちゃんも言ってたじゃん。お姉ちゃんを取られたくなかったって。桃子ちゃんがいなくて、寂しがってるよ」


「聖君は?」

「え?」

「杏樹ちゃんや、お母さんと離れて、寂しくないの?」

「俺は明日もバイトいくし、いっつも会ってるじゃん」

「あ、そっか~」


「それより、お店にもう桃子ちゃんがいないと思うと、めちゃくちゃ寂しいよ」

「え?」

「リビングに休憩にいってもいないんだよ?俺、またイルカ抱いて寝ることになるよ」

「…」

 私はぎゅって聖君の左手を握った。聖君も、握り返してくれたけど、ハンドルを切るので、一端手を離された。


「でも、あまり店に桃子ちゃんがいると、やばかったんだっけ」

「どうして?」

「籐也のやつが会いに来るから」

「…あれ、きっと冗談だよ」

「何が?」


「私に一目惚れだの、なんだのっていうの」

「からかったってこと?」

「うん、絶対にそうだよ」

「それはないと思うよ。あいつ、そんなにちゃらんぽらんじゃないし」


「でも、卒業したら、デビューするって言ってた」

「え?そうなんだ」

「知らなかった?」

「うん」

「それがもとで、彼女と別れたって言ってたよ」


「あ~、そうか~~。ふられたか」

「え?ふったんじゃなくって?」

「東京に出てくってことだろ?彼女のほうが、遠くにいったら、もう付き合ってられないとか言ったんじゃないの?」

「そうかな」


「ああ、そんで前にあんなこと言ってたのか」

「なに?」

「聖さん、彼女が自分と、夢とどっちが大事だって聞いてきたら、やっぱり、夢って言いますよねって」

「それで、聖君はなんて答えたの?」


「もちろん、彼女だって答えた」

「そうしたら、籐也君、なんて?」

「信じられない。聖さんには叶えたい夢がないんだって、そう言われた」

 う。そんなことないのに。聖君は、夢よりも、家族や私を選んでくれただけで。


「それ、桃子ちゃんと結婚したあとに聞かれたから、俺はもう夢を叶えちゃったよって答えたけどさ」

「え?」

「大好きな子と結婚することとか、家族を持つこととか。そういう夢。あ、具体的にはあいつに言ってないけど、なんだ、じゃ、夢をとったんじゃないっすかって、そう言われた」


「それで、聖君はなんて言ったの?」

「う~~ん、なんて答えたかな。多分、大事な人といられなかったら、夢も叶えられないんだよ、とか心で思ってたかな。口には出さなかったけど」

「…」

 きゅ~~~ん。感動して、聖君の言葉に、胸が締め付けられた。


 私、聖君の家に泊まって過ごしていて、すごく感じてたんだ。聖君のお父さんや、お母さんは、大事な人たちと共に生きること、それが夢であって、すごく幸せなことなんだって、それを毎日実感しながら、過ごしているんだなって。


 心の底から、聖君や杏樹ちゃんを大事にしてて、一緒に暮らしているのを、楽しんでいた。それから、夫婦であることも、すごく楽しんでいるように見えた。


 あの家は、毎日がきらきらしてたな。お店だっていろんな人が来て、出会いがあって、その出会いも大事にしていて…。

 聖君は営業用スマイルだなんて言ってたけど、すごくお客さんを大事にしてるっていうのが、伝わってきた。


 それに、みんなで私のことも、すごくすごく大事に思ってくれた。あったかい家だったな~~。

「ねえ、聖君」

「ん?」

「聖君の家、すっごくあったかいよね」

「うん」


 ああ、すごいな。うんって言えちゃうところが。

「母さんね、海で父さんに助けられて、れいんどろっぷすで働くようになったでしょ?」

「うん」

「それも一緒に寝泊りしながらさ」

「うん」


「すごくみんながあったかくって、どんどん癒されて、どんどん素直になれて、本当の自分になれたって言ってたよ」

「…聖君の、おばあちゃんや、おじいちゃん、それに、聖君のお父さんと一緒に暮らすようになってからだよね?」

「うん。あ、あと春香おばさんも」


「私が感じたみたいに、あの家もお店もすごくあったかいって、思ったんだね」

「うん」

「でもすごくわかるよ。おじいちゃんとおばあちゃん、すごくあったかかったもん」

「うん」

 聖君は、運転しながらにっこりとうなづいた。


「私も、そんな家庭を作りたいな」

「あはは。それ、絶対に大丈夫だよ」

「え?」

「桃子ちゃん、いるだけであったかいし、癒されちゃうし。だから、絶対に大丈夫」

「…うん。聖君がいるしね。聖君はお日様みたいだし」


「それは桃子ちゃんでしょ?」

「ううん。聖君はいつも明るいし、楽しいし、お日様そのものだよ」

「…じゃ、桃子ちゃんは、陽だまりって感じだね」

「陽だまり?」

「うん。なんか、ほっこりとあったまる陽だまりって感じがする」


「…お日様があたっている場所でしょ?」

「そう」

「じゃ、聖君の光に当たって、私はほっこりとあったかくなってるのかも」

「え?」

「聖君がいてくれるからだよ。いなかったら、私はずっと日陰みたいにじめじめしてて、暗かったよ」


「ふ…」

 聖君が笑った。

「桃子ちゃん、それ、なんだかいい考えだね。じゃ、俺らって、二人であったかい場所作っていけるって事だよね」

「うん」


「桃子ちゃん、やばいことに今、浮かんじゃった」

「何が?」

「いつか、俺らで店でもやる?」

「え?」

「店の名前は、陽だまり。あったかい場所。みんながほっこりとあったまれる場所」

「…れいんどろっぷすじゃなくって?」


「あそこは母さんの店だからさ。母さんだったら、まだまだ現役で働けそうだし。父さんも、父さんの仕事、パソコンってけっこう大変らしくって、そのうち仕事やめて、母さんと店やるのもいいかもなって言ってたし」

「じゃ、れいんどろっぷす以外に、お店を出すってこと?」

「今、ひらめいたことだから、また、変わるかもしれない。ただ、ちょっとそんなこと、思い浮かんじゃっただけ」


「うん。そうだね。そういうのも素敵かもね」

 そうだな。聖君とお店をするのもいいかもしれない。みんなが癒される、そんなお店。

「でも、海にかかわる仕事じゃなくなるよ?」

「だよね。あはは。だから、まだまだわからないことだけどさ。ちょっとそんなこと浮かんじゃっただけだから」


 そうだね。まだ未来のことはわかならい。だけど、ひとつしっかりとわかったことがある。それは、私は聖君がいてくれて、初めて癒しの存在になれるんだってこと。いつも私のことを照らしてくれるから、私はこのままの私でいいんだって思えて、陽だまりにもなれるんだ。


「聖君…」

「ん?」

「ありがとう」

「へ?何?急に」

「いつもこうやって、そばにいてくれて、ありがとう」


「くす。それを言うなら桃子ちゃんも、いてくれてありがとうだよ?」

「…うん」

 聖君はいつもそうやって、ありがとうを返してくれるよね。嬉しいな。

「いつも、そうやって、桃子ちゃんは俺に、嬉しい言葉をくれるよね」

「え?」


 今、私が心の中で言ったことを、聖君が言い当てたのかと思った。同じようなこと思ってた?

「そのたび、俺、すんごく心が満たされてるの、知ってた?」

「そうなの?」

「うん。めちゃ嬉しい」

「…素直に心のうちを言うのって、やっぱり大事なんだね」


「え?」

「これからも、ちゃんと伝えていくね」

「うん。サンキュー、桃子ちゃん」


 車を運転する聖君を、しばらく眺めた。やっぱりかっこいい。ぼけっと見とれていると、信号待ちの時、聖君は私にチュッてキスをしてきた。

「うわわ。こんなところで!」

 私が真っ赤になると、聖君は、

「あはは。真っ赤だ」

と、笑っていた。


 私の家に着いた。聖君は家の前で私を降ろし、そのまま車を駐車場に入れた。私は先に、家に入った。

「お帰り~~~~!」

 母が玄関にすっ飛んできた。

「ただいま」

「あら、聖君は?」


「車、駐車場に入れてるよ」

「そう。じゃ、今日はもう出ないのね?」

「うん。ひまわりは?」

「バイトよ、バイト」

「あれ?水曜もだっけ?」

「最近は、ほとんど毎日、行ってるわよ。あんたたちがいないんで、家にいるのが寂しくなったみたいよ」


「そうなんだ」

 やっぱり、寂しがってたんだな。

 ガチャ。聖君が玄関のドアを開けた。

「聖君!お帰り」

 母が元気に出迎えた。お帰りっていうのも変だよね?聖君からしてみたら、自分の家を出てきたわけだし。


「あ、ただいま、帰りました…」

 あ、やっぱり聖君、戸惑っている。

「おなかすかない?アイスあるけど食べる?」

 母は元気に聞いてきた。

「スコーン焼いたのをもらってきたの。それも、今日食べたいな」

 私はそう答えた。


「そうなの?あ、じゃ、スコーンの横にアイスつけちゃう?ちょっといい感じでしょう?」

 母はそう言うと、スコーンを受け取り、さっさとキッチンに行った。

 聖君は荷物を持って、リビングに行き、荷物をおろした。お店用の荷物は、車の中に置いてきたようだ。

「桃子ちゃんのも、俺が2階に持っていくからね」

「え?うん。ありがとう」

 聖君はそう言ったけど、ソファーに座ったまま、動かなかった。あれ?疲れちゃったのかな。


「はい。聖君、桃子。スコーンとアイス。飲み物は何にする?」

「あ、じゃあ、あったかいコーヒーで」

 聖君がそう言った。

「私はホットミルク」

「わかったわ。待っててね」


 母はまたキッチンに行った。

「…なんか、やべえ」

「え?」

 聖君の顔色が悪い。

「どうしたの?具合悪いの?」

「う~~ん、夏バテかな」

「部屋行って、休む?」


「うん。そうしてもいい?」

「いいよ。荷物もあとで、運ぶから。もう休んで」

「悪い。その前にトイレ。あ、それからスコーンは、お母さんに食べてもらって」

「うん」

 聖君は青い顔をして、トイレに行った。


「あら?聖君は、トイレかな?」

 母がコーヒーとホットミルクを持って、やってきた。

「なんか、調子悪いみたい。スコーンはお母さんが食べてって」

「お腹の調子が悪いの?」

「夏バテかもって言ってた」


「今日、具合悪かったの?なのに、無理してこっちに来ちゃったんじゃないの?」

「ううん。さっきまで本当に元気だったよ」

「大丈夫かしらね」

「うん」

 私も、すごく心配だ。元気のない聖君は、あまり見たことがないから。


 聖君はトイレから出てくると、

「俺の荷物だけ持って、2階に先に行くね。あとで、桃子ちゃんのも持っていくから、桃子ちゃんは持っていったら駄目だからね」

と言って、自分のカバンを持った。


「私が持っていこうか?大丈夫?」

 母が聞くと、聖君は、

「あ、これくらい大丈夫です」

と答えて、階段を上りだした。

「桃子のは持っていくから、聖君、ちゃんと休むのよ」

 母がそう言うと、聖君は力なく、

「すみません」

と答えて、そのまま階段を上っていった。


「心配…。本当に元気なかった…」

 私はぽつりとそう言って、スコーンの半分を残し、2階に上がった。

 部屋に行くと聖君はベッドに、うつ伏せになって寝ていた。

「大丈夫?」

「う~~~ん、駄目…」


 聖君がそう言って、少し顔をこっちに向けた。

「桃子ちゅわわん。ここにいてくれる?」

「うん、もちろん」

「は~~。なんか、いきなり来た」

「え?」

「俺、たまに腸やられちゃうんだ。今回は絶対に夏バテだな。冷たいものの飲みすぎか、店でエアコンに当たりすぎたか」


「薬、何か飲む?」

「悪い。カバンに、整腸剤入ってるんだ。いつものんでるやつ」

「わかった。水も今、持ってくるね」

「ごめん、桃子ちゃん」

 私は水を取りに行き、すぐに部屋に戻った。それから、薬と水を聖君に渡した。


「これのんだら、一日でたいてい良くなっちゃうからさ。大丈夫だよ、そんなに心配しないで」

「本当に?」

「うん。でも、ちょこっと寝かせてね」

「うん」

 ああ、聖君のこんな弱々しい声初めてだ。


 聖君はそれから、体を丸めて、目を閉じた。そしてしばらくすると、すうって寝息が聞こえてきて、聖君は気持ちよさそうに眠った。

 良かった。顔色もさっきより悪くない。

 私は聖君の横にねっころがった。


 そういえば、受験の時にも、お腹壊したって言ってたな。いつもこの整腸剤のむんだね。家にも用意しておこう。

 すう…。聖君の寝息、いつもと一緒だ。これなら、すぐに元気になるかな。

 私は聖君のお腹にタオルケットをかけ、それから、そっと部屋を出た。


 一階に行くと、母がすぐに、

「どう?聖君の様子」

と聞いてきた。

「今、寝てるよ」

「そう。早くよくなるといいわね」

「うん」


「桃子、スコーンの残り食べちゃう?残してももったいないし。お母さんはもう、いただいちゃったわよ」

「うん。食べる」

 ソファーに座り、残っている分を食べた。母は、キッチンで片付け物をしている。


 し~~ん。寂しいな。隣に聖君がいないのって、こんなに寂しいのか。

「桃子、高校のことなんだけどね」

 母が片付け物を終え、リビングに来た。

「何か、校長先生言ってきたの?」

「うん。昨日電話があったのよ。今日あなた、帰ってくるって言ってたし、報告は帰ってきてからでもいいかもねってお父さんとも話してたの」


「な、何て言われた?」

 ドキドキ。

「今、もめてるみたいなの。理事長や、PTAで、あれこれ」

「…じゃ、まだ結果は」

「出てないけど、だけど、PTAの会長が頑張ってるし、異例のことになりそうだって校長が言ってたわ」


「え?」

「ここだけの話なんだけど、っていっても決まれば、全校にも知れわたることなんだけどね」

「うん」

「理事長のお孫さんも、この夏に妊娠しちゃったらしいのよね」

「え?!」


「桃子と同じ高校3年生で、すごい進学校に通ってたらしいの。でも、そこを退学になっちゃって」

「…もう、退学って決まってるの?」

「妊娠してるってことがわかった時点で、すぐにね」

「それで?」

「すごく成績もいいし、将来も有望らしくて、高校は卒業させたいし、大学も進学させたいってことで、理事長が桃子の高校に転入させることにするって、言い出したらしくて」


「うちの学校に?」

「それ、もう桃子が妊娠してるってことを、校長に打ち明けた後だったし、校長は、PTAの会長にだけは、桃子のことを相談してたから、理事長のお孫さんを受け入れるなら、椎野さんも卒業までいさせるべきだって、二人で理事長に言ってくれたらしくて」

「その理事長の娘さんは、赤ちゃん…」


「絶対に生むって言って、きかないらしいわよ」

「赤ちゃんのお父さんは?」

「23歳だって言ってたかな。今年から働き出したみたい。もう働いているし、結婚もできるんだけど、理事長がそのへんは反対してるらしくてね」


「どうして?」

「優秀なお孫さんだから、いい大学いかせて、いいところに就職させてってしたかったみたい」

「だけど、赤ちゃんいたって、大学は行けるよね?」

「まあね~」


 そうか。そんなことがあったんだ。

「桃子、一回校長とPTAの会長も、それに理事長もあなたに会いたいって言ってるの。どうする?」

「私に?」

「話を聞きたいみたいよ。直接本人から。きっとその時、理事長のお孫さんも来るんじゃないかしらね」

「…」


「もちろん、お母さんも行くし、おじいちゃんだって、一緒に行ってもいいって言ってくれてるし」

「聖君は?」

「え?」

「聖君も一緒でもいいのかな」

「そうね~…」

 

 校長先生や理事長が、話を聞きたいというなら、全然行ってもいい。だけど、聖君が隣にいてくれたら、すごく心強いんだけどな。


 私は、いきなり聖君のことが気になり、自分の部屋に行った。そっとドアを開けると、聖君は起きていて、ベッドから私を見た。

「桃子ちゅわん…」

 あ、ものすごく弱々しい声。もしかして、心細くなってたのかな。


「起きてたの?」

「ついさっき、目、覚めて…。桃子ちゃん、横にいると思ってたから、いなくて今、寂しがってたところ…」

 寂しがってたのか…。

「ごめんね。下でお母さんと高校のこと、話してたの」

 私は聖君の横にねころがった。


「高校?あ、もしかして結果が出たとか?」

「まだだけど、直接私と話をしたいって、校長や理事長が言ってるんだって」

「桃子ちゃんと?」

「うん」

「俺も行こうか?」


「ついてきてくれるの?」

「いいよ」

「良かった。すごく心強いよ」

「いつ?」

「まだ、わからないけど」


「でもきっと、すぐだよね?俺、早く元気にならないとね」

「あ、そっか。いいよ、聖君。無理はしないで。ちゃんと体調が良くなってたらでいいから」

「…」

 聖君は黙って私を見ると、

「桃子ちゅわわん。ぎゅって抱きしめて。ぎゅって」

と甘えてきた。


 私はぎゅって聖君を、抱きしめた。それから聖君の髪をなでた。

「お腹、まだ痛い?」

「ううん。大丈夫」

「もう少し寝てる?」

「うん。でも、桃子ちゃん、横にいてくれる?」

「うん、いいよ」


「ああ、俺ってば、すんごい甘えてるよね」

「大丈夫だよ。聖君だって、もし自分の家ならもっと、安心していられるだろうけど、ここじゃ、不安にもなっちゃうよね?」

「…」

 聖君は黙ってまた、私を見た。


「桃子ちゃんが隣にいたら、俺、すごく安心していられる」

「え?」

「きっと、どこでも」

「…うん。それは私もかも…。私も聖君が隣にいてくれたら、安心する」

「桃子ちゃんは、ほっこりする陽だまりだもんね」

「聖君はお日様だもんね」


 聖君はふって笑って、それから目を閉じた。そして、すうって寝息をたてて、また眠った。

 私は、聖君の陽だまりになってるんだね。なんだか、嬉しいな。

 こうやって、聖君が弱っている時には、いつもそばにいて、あたためてあげよう。

 そっと聖君の髪をなでた。なんだかめちゃくちゃ、愛しくなる。

 聖君、おやすみなさい。聖君が元気な聖君に戻るまで、ずっとここでこうやって、陽だまりになっているからね。

 


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