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第51話 久々のデート

 私と聖君は、お店から出て、そして車に乗り、まず近くのショッピングモールに行った。

「お昼、何が食べたい?桃子ちゃん」

「えっと…。パスタがいいかな」

「了解。美味しいイタリアンあるから、そこに行こう。もう食べに行く?混む前に行こうか?お腹すいてる?」

「うん。すいてる!」


 嬉しい!久々のデートだ~。私は聖君の腕に、しがみついた。

 ショッピングモールには家族連れ、カップル、女の子たち、いろんな人でにぎわっている。

 今日はちょっと曇っていて、暑いけど出やすかったのかな。セールも終わってるし、洋服屋さんはもう秋物が並んでいるのに、人がけっこう出ているんだな。


 イタリアンのお店はまだ、12時前だからか、余裕で入れてすぐに座ることができた。

 ウエイトレスが、オーダーを聞きに来た。あ、若い女の子だ。聖君を見て、顔赤らめたよ。いつものことだけど…。


 注文をし終えると、聖君は水をゴクンと飲み、

「今日、あまり暑くなくて良かったね、桃子ちゃん」

とにこっと笑って言った。う!その笑顔、胸きゅんだ。

「桃子ちゃん?」

「さっきも、オーダーの最後にその笑顔向けてた」


「え?」

「ウエイトレスさん、真っ赤になってた」

「気のせいだって」

「気のせいじゃないよ。今、私だって、キュン死にするかと思ったもん」

「はあ~~?」


 聖君は思い切り呆れたって顔をしてから、

「2箇所、行きたい雑貨屋があるんだ。よく行ってるところと、あと和雑貨の売ってる店」

と話し出した。

「桃子ちゃんは、どっか見たいところある?」

「うん。ベビー用品のところにいきたいな」


「気が早いね。いいけど」

「赤ちゃんのじゃなくて、そろそろマタニティがほしくって」

「あ、そっか~。そうだよね。うん、わかった。あとで見に行こう」

 パスタやサラダが運ばれてきて、私たちは食べだした。相変わらず、聖君は、美味しそうに食べている。


「え?本当だ。かっこいい」

 いきなり、耳にそんな言葉が飛び込んできた。視線も感じて横を見ると、高校生くらいの女の子が二人、聖君を見ていた。

 すごいな。まったく見知らぬ人からも、そう言われちゃうんだもんね。


「桃子ちゃんさ~」

「え?何?」

「短パンとかなら、俺のでもはく?それにTシャツも、俺のならけっこう大きいからいいかもよ?」

「…え?」

「あ、なんならパンツも」


「パンツはいい」

「あれ、そう?」

「Tシャツいいの?」

「いいよ。あ、だったら、家にあるの、もっと持ってくれば良かったね」

「…」


 聖君のTシャツ…。聖君のにおいするかな。きゃ~~~。なんか嬉しいかも。

「桃子ちゃん?」

「え?」

「黙っちゃったけど、嫌?そうだよね、俺のなんて可愛くないし、着たくないよね。うん、やっぱり可愛いやつ、選ぼう」


「違うの。聖君の着れるって思って今、喜んでたの」

「へ?」

「あ、私が着て、汚しちゃってもいいようなそんなものでいいから。もう着古して、捨てようかなっていうようなやつとか」

「…なんで?」

「汚したら悪いし」


「いいよ。気に入った柄のをあげるよ」

「うん」

 あ~~~。これは口にしないほうがいいね。よく、ほら、自分の好きなアイドルの着てた服、プレゼントとかあるとさ、すっごくほしいものじゃない?もしそれをもらえて、着れたとしたら、すんごく嬉しい。ってこういう感覚、やっぱり変態かもしれないし。


 いや、それじゃ、誰かのアイドルのファンに悪いか。ってことは私は、聖君のファンってことかな?だよな~~。

「お水のおかわりどうぞ」

 ウエイトレスさんが、お水を入れにきた。

「あ、すみません」

 聖君がウエイトレスさんを見ながら、そう言うと、ウエイトレスさんは真っ赤になった。やっぱりな~~。


 店を出て、雑貨屋さんにまず行った。よく行くお店らしく、店員が聖君に親しげに挨拶をしてきた。

「いらっしゃいませ。今日は何をお探しですか?」

 20歳は超えてるだろう女性の店員さん。でも、やっぱり顔を赤らめながら、嬉しそうに声をかけている。


「ん~~、秋のもの探しにきたんだけど、ぶらっと一回りして見てみます」

「はい、何か探しているものがあれば、いつでもお声をかけてください」

 そう言うと店員は、ちらっと私を見て、レジのほうに行った。

 私はどう思われてるのかな。彼女か、それとも…。


「桃子ちゃんも、お店に置いたらよさそうだってのがないか、探してみて」

「え?うん」

 私は聖君から離れて、ぶらぶらと店内を歩き出した。聖君を見ると、真剣なまなざしで、いろいろと見ている。


 ああ、あの真剣なまなざしもかっこいいな。ちょっと考え込む時は、あごに手をやって、眉間にしわを寄せる。その顔すら、絵になっちゃうんだよね。

 棚の下のものを取ろうとして、前髪をかきあげながら、覗き込む。う!あの仕草もすごく好き。


 だ、駄目だ。聖君じゃなくって、雑貨見ようよ、私。

 ああ、でも、こうやって外に出て聖君を見るの、久々だし、いっか、いいよね、許してね、聖君。

「かっこよくない?あの人」

 後ろからこそこそ話が聞こえた。ちょっとそっちを見ると、大学生か高校生の女の子が二人。


「わ、もろ私のタイプだ」

 え?

「かっこいい。一人で買い物かな?何買うのかな?」

 一人じゃないよ~~。私が一緒だもん。

「雑貨屋に男一人で買い物?それはどうよ」


 いいじゃん。お店のもの買いに来てるんだし!思わず、私は鼻を膨らませ、勝手に頭にきていた。

「すみません。このグラス、4個だけしかないですか?」

 聖君が店員に聞いた。

「はい。ちょっと今、在庫調べてきますけど、何個必要ですか?」

「う~~ん、そうだな。全部で6個、いや7個かな」

「はい、お待ちください」


 聖君は、店員が戻るまで、また店内を回りだし、

「やっぱ、ないかな~~」

とつぶやいた。そして、私のすぐ横にやってくると、

「桃子ちゃん、やっぱ、和雑貨も見に行こう。母さんがほしがってるような、ランチョンマットはないや」

と私に言った。


 ぼそぼそ…。また、さっきの子達が何か言っているようだ。ちょっと耳を傾けると、一人じゃなかったとか、どんな関係なのかとか、そんなことを言ってるみたいだった。

「このグラス、花を入れたら、可愛いと思わない?」

「思う」


「今あるやつ、一個俺、割っちゃったしさ。その前には、桜さんが割ってたし、テーブルによって花瓶が、違ってたんだよね」

「そうだよね。でもそれはそれで、よかったよ?」

「うん。だけど、そろそろ統一しようかなって思っていたから」


「お待たせしました。在庫が2個だけありました」

 店員が店の奥から、グラスを持ってやってきた。

「あ、じゃ、全部で6個?」

「はい」

「そっか~~、でも、どうにかなるかな。テーブル席に4個と、カウンターに2個で…」


「お店だよ、お店やってるんだよ。何屋さんかな」

 また、後ろからそういう声がした。聖君の耳にも入ったらしく、聖君がそっちを向いた。

「あ…」

 聖君が思いきり、彼女たちを見たから、二人は黙って固まってしまっていた。でも、顔は真っ赤だ。

「えっと~~、俺のこと?」

 わ。聖君、聞いちゃった。


「え?きゃ~~。どうする?」

 二人は真っ赤になりながら、戸惑っている。でも一人の子が、はいってうなづいた。

「カフェやってます」

 聖君はまったく動じず、さらっと答えた。

「え?そ、そうなんですか。それで、雑貨見に来たんですか?」

「ああ、はい。そうですけど?」


 聖君、答えてるし…。二人とも顔を赤くしながらも、話せたことを喜んでるし。

「どこでしてるんですか?」

「江ノ島です」

「江ノ島!?素敵。今度行ってみたい」

「ああ、どうぞ。れいんどろっぷすっていうカフェです。ネットで見れば、場所ものってますし」

「レインドロップス?」


「はい、あ、平仮名でれいんどろっぷす」

「へえ、可愛い!絶対に行きます。そこで働いている方たちなんですね?」

「あ、俺だけ。バイトだけど」

「そうなんだ~~。絶対に行こう、ね?」

 一人の子が、もう一人の子にそう声をかけると、もう一人の子が、

「その人は、もしかして、彼女さん?」

と私に聞いてきた。


「ああ、はい。そうですけど?」

 聖君が答えた。二人は一気に、顔が沈み込み、

「そうなんだ。へ~~」

といきなり冷めた話し方にまでなった。わかりやすいな~~。


「あ、すみません。6個いただくんで、包んでもらっていいですか?」

 聖君は、店員のほうに向いてそう言った。

「はい、じゃ、少々お待ちください」

 店員は、グラスを持って、レジカウンターに行った。聖君もカウンターまで行き、お財布を出していた。


 私は聖君の隣に並んだ。店員はグラスを箱に入れ、袋に入れ、会計をした。そして袋を渡しながら、

「彼女さんなんですね。羨ましいな、こんなかっこいい彼氏で」

と私に向かってそう言ってきた。


「え?は、はい」

 いきなり言われたので、思い切り私は戸惑ってしまった。

「じゃ、また来ます」

 聖君はそう言うと、袋を持って、お店を出た。私もそのあとに続いた。さっきの子達はもう、店内にもどこにもいなかった。


「聖君って、ああいう子に平気で話しちゃうんだね」

「店員さん?」

「ううん。お客さんのほう」

「ああ、俺、あまりこそこそ話されるの、好きじゃないんだよね」

「無視するのかと思った」


「そう?なんで?」

「学校だと、あまり女の子と話さなかったでしょ?」

「ああ。そういうことか。まあね。でも、嫌だったよ。こそこそ話が聞こえてくるのは。ああいうのはやっぱ、いい気がしない」

「そうだよね」


 聖君、大変なんだな。どこに行っても、注目浴びちゃうし。なんか、本当にアイドルと一緒にいる気分になってきちゃった。

「桃子ちゃん、いっつも俺と腕組んでる?」

「え?どうして?」

「そうしたら、一目瞭然でしょ?彼女だって」

「あ、そっか」


 私は聖君にひっついた。そういえば、さっきの子達も、私が彼女だってわかったら、とっとと離れて行っちゃったもんな。

 それから、和雑貨を見に行き、そこでも聖君はランチョンマットを見つけられず、結局、帰りにどっかの生地屋さんに入ろうっていうことになった。


「ベビー用品のところに行こう」

「え?なんで?」

「だって、桃子ちゃん見るんでしょ?」

「でも、聖君のTシャツ…」


「ああ、だけど、マタニテイ、可愛いのもあるかもしれないし、見に行こうよ」

「うん」

 私と聖君はそのまま、ベビー用品のお店に行った。

 そして、店内に入ったとたん、

「うわ!」

 聖君が、大きな口を開けたまま、止まってしまった。


「どうしたの?」

「すげえ!俺、こういうところ始めてきたけど、いっぱいある!」

「うん」

「桃子ちゃん、ちょっとこの荷物、ロッカーに入れてきて、本格的にいろいろと見てもいい?」

 あ、すんごいわくわくした顔になってる。こりゃ、聖君の好奇心に火がついちゃったな。

「いいよ」


「じゃ、ここで待ってて」

 そう言うと、聖君はすばやくロッカーに買ったものを入れに行き、すぐに戻ってきた。

「さ、まずは、あそこ!」

 ベビーカー売り場だ。聖君は私の手を取り、歩き出した。

「すげえ。いろんな形のが売ってる。これなんか、三輪車じゃね?三輪のベビーカーなんだ!」

 ああ、目が輝いちゃってるよ。


「あ!桃子ちゃん!ああいうのも絶対に必要かな?」

「え?」

 聖君が指差したのは、ベビーバスだった。

「聖君、お母さんが言ってたけど、ベビーバスはあまり使わないから、レンタルしたらいいって」

「レンタル?そうなんだ。こんなのもレンタルできるんだ」


「ベビーカーも、最初はレンタルしてもいいかもって。それに、車に乗せるベビー用のシートも」

「そっか~~。いろいろとレンタルできるんだね」

「産婦人科に、レンタルのパンフレット置いてあったよ。無料でお持ちくださいって書いてあった」

「まじで?もう、言ってよ。桃子ちゃん!今度行ったら、もって帰ってこようね」

「うん」


「そっか~~、そっか~~、ほんと、いろいろとあるんだね」

 聖君はまだ、目を輝かせ、店内を歩いている。

「可愛い!」

 私は思わず、足が止まってしまった。ベビー服のオンパレードだ。

「本当だ。すげえ、可愛い」

 聖君も、目を丸くしている。


「肌着とか、おくるみとか、いろいろと買い揃えないとね」

「え?何?そのおくるみって」

「赤ちゃんをくるむこともできるし、着替えの時や、外でオムツ替えの時、あると便利みたい」

「へ~~~」


「そうだった。編み物途中だった。秋になったら、冬用の毛糸も出るだろうし、またいろいろと編んじゃおうかな」

「そうだね」

「楽しみだな~~」


「桃子ちゃん、こっち、おもちゃがいっぱいあるよ」

 聖君はまた、私の手を取り歩き出した。

「すげ~~、いろいろとある。楽しい!」

 聖君はあれもこれも、手にとって、目を輝かせている。

「は~~、すごいね。こりゃ、母さんや父さんが来て、わくわくしちゃうわけだ」


「ベビー用品、買ってるもんね、もうすでに」

「うん」

「聖君!靴もある。あ、リュックや、あっちには、哺乳瓶も」

「哺乳瓶なんているの?」

「え?どうして?」


「桃子ちゃんのおっぱい、飲むんでしょ?」

「でも、出が悪かったりしたら、ミルクも飲むよ、きっと」

「出、悪いの?」

「わかんないよ、今はまだ」

「そっか~~」


 聖君はそう言ってから、じっと私の胸を見て、

「おっぱい出るように、今から俺が…」

と、何かとんでもないことを言いかけた。

「ストップ」

 私は聖君の口に手を当てて、

「それ以上は、いいから」

と言って、聖君の手を取り、その場をさささっと離れた。


「何?桃子ちゃん、どうした?」

「もう~~。今、隣で店員さんが、耳をダンボにして聞いてたよ~~」

「え?まじで?でもいいじゃん。夫婦の会話なんだから」

「よくないっ」

 私は顔が真っ赤になってしまった。


「あった、マタニテイ」

 私は売り場の、奥にあったマタニテイを見つけた。それから、あれこれと見ていると、聖君が、

「これ、いいじゃん。可愛いよ。桃子ちゃんに似合いそう」

と言って、可愛いチェニックを持ってきた。

「あ、本当だ」

 すごいな。服の趣味までいいし、私の好みの服も知ってるんだな。


「このへんのスパッツや、短パン買えば、聖君のTシャツに合うよね」

「このサロペットもすげえ、可愛い。桃子ちゃん、似合うよ」

「あ、ほんとだ。可愛い」

 って、本当にもう、聖君、なんで私に似合いそうなのいっぱい、わかるんだろう。

 私は聖君に、見たててもらったものを買った。会計の時も聖君は私の横にいて、にこにこしていた。


「プレゼントですか?」

 店員が私に聞いてきた。

「あ、違います。簡単に袋に入れてくれていいです」

「はい」

 店員がちらっと聖君も見て、それから袋につめ、

「お待たせしました。ありがとうございました」

と、品物を渡してくれた。


「桃子ちゃん!俺、凪のものも、何か買っていきたい」

 聖君、すんごくわくわくうきうきの声だ…。

「うん、いいよ。何にする?」

「えっとね、服がいいかな。おもちゃがいいかな、わ~~~、すげえ迷う」

「だったら、両方買えば?」

「あ!そっか~~~」


 聖君はてくてく歩き出した。

「でもさ、女の子か男の子かわからないから、服はどっちでも着れそうなのじゃないとね。難しいかな」

 聖君はそう言いながら、店内をぐるりと見回し、

「あ!あれ、可愛い」

と、すぐに見つけていた。見ると、オーバーオール。男の子でも、女の子でも、可愛いかもしれない。


「あ~~、でもな~~~。もし女の子だったら、こっちの思い切りふりふりの服も、いいよな~~~」

 え?まじで?すごふりふりのフリルの服だよ?

「あ~~~~。駄目だ~~。やっぱ、服は生まれてからにしようか、桃子ちゃん」

「うん」


 こりゃ、どうなっちゃうのかな、生まれたら。もうすでに、目じりは垂れ下がってるし、もっとでれでれになっちゃうのかな。

 聖君はおもちゃも、手に2~3個持って、どれにしようか真剣に悩んでいた。ああ、赤ちゃん用のおもちゃを持って、真剣な表情をしている聖君を写メに撮りたい。


 カシャ!

「何、写真撮ってるの?」

 聖君に驚かれた。

「日記に貼るの。凪のおもちゃを真剣に悩んでるパパの図。絶対、凪喜ぶよ」

「ほんと~~?喜ぶかな」

 聖君はそう言ってからも、さんざん悩み、結局2個、おもちゃを買ってしまった。


「ああ!俺ってば、優柔不断」

「めずらしいよね。買い物は直感で、すぱすぱ決める聖君が」

「うん。だってさ、右手にこれを持って、左手にこれを持っていたら、絶対に可愛いと思わない?そういうイメージが浮かんじゃって、どうしても、両方ともほしくなっちゃって」

 聖君はそう言いながら、思い切りにやついた。あ、またイメージしているな。


「聖君は買い物の時、イメージして買うの?」

「そうだよ。さっきだって、桃子ちゃんがこれを着たら、あ、絶対に可愛いって、そうイメージでぴんときたし」

「じゃ、お店のものも?」

「うん。イメージして、あ、いいかもってぴんときたら、買う」


「じゃ、自分の服も?」

「俺の?それはイメージしない。ただ、これ、いいって思ったのを買う」

「それが似合っちゃうんだもんね、すごいね」

「そう?似合ってる?俺の場合、似合っていようがなんだろうが、俺が着たいのを着てるってだけだよ?」


「え?そうなの?」

「それが一番でしょ?誰に見せて喜ばれるかっていうよりも、俺が着たいのを着て、俺が喜びたいじゃん」

「でも、聖君、たいていがシンプルなデザインや、色だよね」

「ああ、うん。なんかごちゃごちゃとしてるの、嫌いなんだよね。着てて、いらいらしてくるの」

「…」


 そうか。聖君って、性格もわかりやすいっていうか、すぱってしてるし、着るものもそうなんだね。なんだか、これだけ一緒にいるのに、また新たな聖君を発見しちゃったな。

「だけど、俺が小さい頃は母さんのおもちゃのようだったけどさ」

「え?」

「服とか、全部自分の好みのものを買ってきて着せられてた。俺が小学校まで、そうだったかな。一応、母さんが喜んでるし、俺、着てやってたんだけど、中学入って、もう自分で選ぶって言って、それからは自分で買ってるけどさ」


「でもたまに、ピンクの服着てるのは、お母さんが選んだって」

「そう。年に2回くらい、買ってくるの。どうしても、似合うと思うから買っちゃったってさ。しょうがないよね、すげえ期待されちゃうし、それは着ないとさ。まあ、すげえ派手なものでもないし、デザインはシンプルだし、着てるけど」


「派手なのは着ないのか」

「着ないよ。母さんもそこは心得てるみたい。派手なのは、聖、絶対に着ないだろうって」

「そうか~~」

 そうだったのか。

「なんだか、また聖君のことを知って、嬉しいな」

「嬉しいの?」

「うん!」


 聖君はつないだ手をぎゅって握り、

「桃子ちゃんってば。俺も、俺のことを知って、喜んでる桃子ちゃんのことを知れて、超嬉しいよ」

とにっこにこの笑顔でそう言った。ああ、この笑顔もキュン死にしそうだ。


 なんて二人の世界に浸って、いちゃついていたけど、5分後、二人で我にかえり、まわりを見回すと、すごい注目を浴びていることに気がつき、慌てて、私たちはお店から出た。


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