第49話 妊婦
夜、聖君とお風呂に入っている時、聖君が、バスタブで後ろから抱きつきながら、
「あの二人、くっつくと思ってたんだよな~~」
といきなり言った。
「あの二人?」
「桐太と麦ちゃんだよ」
「ああ、あの二人か~~」
私はなんだか、他人事なのにドキドキしていた。
「桐太、自分が麦さんを好きか、悩んだまま帰っちゃったね」
「麦ちゃん、もっと意思表示したら、桐太、いちころなんじゃないの?」
「え?意思表示?」
「桐太のことが好きだってさ。告白しなくたって、態度で示せば、わかるんじゃないのかな~~」
「あ、あれ?聖君、麦さんが桐太のこと好きって、知ってたの?」
「何言ってくれちゃってるの?桃子ちゃんが教えてくれたんでしょ?」
「私が?」
「うん」
「え?私、聖君にばらしてた?」
「しっかりと。うそ、覚えてないの?」
「…」
ガ~~ン。
「あ、でも気にしないでもいいよ。母さん、俺に言ったんだよね。妊娠中は精神的に不安定になったり、物忘れがひどくなることがあるから、ちゃんと桃子ちゃんのこと、見てあげなさいよって」
「物忘れがひどくなるの?」
「母さんもあったらしいよ。風呂沸かしたつもりでいて、沸かし忘れてて、冷たい風呂に、父さん、入る羽目になったとか、買い物に行っても、買った物をお店に忘れてきたとか、そりゃもう、いっぱい失敗したって言ってたよ」
「そうなの?信じられない。しっかりして見えるのに」
「いや、もともとぼけてるほうだけど、妊娠中はさらにひどかったらしいから」
「そっか…」
「あとね、なんでもないことで落ち込んだり、突然泣きたくなったりって、そうとう情緒も不安定になったりもしたんだって。そのたび、父さんが慰めたり、励ましたりしてたらしい」
「落ち込みやすくもなるのかな」
「かもね」
「あ、でも、私の場合はもともと、落ち込みやすいから…。それにもともとドジだし」
「じゃ、それがさらに上回っちゃったら、大変だね」
「…」
聖君、フォローする気まったくないな、こりゃ。
「そういえば、昨日、変に落ち込んじゃったの。あれも、それでなのかな」
「落ち込んでたの?桃子ちゃん。ああ、そういえば、ごめんなさいっていきなり謝ってきたっけね」
「うん」
「俺が怒ってると思ってたしね」
「うん」
「桃子ちゃん、落ち込んだら俺に言ってね。大丈夫、俺、こう見えても、すごい楽天家だし、明るくその落ち込みも吹き飛ばすから」
「…こう見えてもって、見るからに楽天家だよ、聖君」
「あれ?クールに見えてなかった?」
「…」
「桃子ちゅわん。なんでそこで黙り込むのさ~~」
聖君は後ろから、むぎゅうって抱きしめてきた。
「だって、私にはクールじゃないから。いつも優しいし、可愛いし」
「あ、そっか…」
聖君は耳にキスをして、
「まじで、何か落ち込むようなことがあったら、俺に言うんだよ?」
とまた優しくそう言ってくれた。
お風呂から出ると、また二人で日記を書いた。それから、聖君は、
「明日、桃子ちゃんちに帰るんだよね?俺、ちょっといろいろと用意しちゃうから、桃子ちゃん、先に寝てていいよ」
と言って、自分の部屋に行ってしまった。
そうか。明日帰るのか。じゃ、桐太と麦さんのこれからのこと、見守ることもできなくなっちゃうんだな。
ちょっとつまらないな。あ、これって、もしや、他人事だと思って私、楽しんじゃってたかな。
だけど、本当にうまくいったらいいなって、それだけは思ってるんだ。
私は布団にごろんと横になった。聖君の枕を抱きしめ、あ~~、早く聖君来ないかなって、寂しくなりながら待っていた。
それにしても、そうか。妊娠中って、物忘れがひどくなったり、情緒不安定になったりするのか。
じゃあ、麦さんの時も不安になったり、変な夢も見たけど、あれも今思えば、情緒不安定だったからなのかな。
し~~~ん。やけに部屋が静かに感じる。エアコンの音だけが響いていて、寂しさだけじゃなく、怖ささえ感じてしまう。
この部屋、今までこんなに静かだって感じたことないな。いっつも、聖君が隣にいたからだな。
聖君の部屋に行ってこようかな。なんだか、どんどん寂しくなっていくみたいだ。
どうしよう。あと5分待ってみようかな。それとも手伝うって言って、聖君の部屋に行こうかな。
どうしようかな。
ガチャ。聖君がドアを開け、入ってきた。
「なんだ、まだ起きてたの?桃子ちゃん」
ぎゅむ!!!私は起き上がり、いきなり聖君に抱きついた。
「え?どうしたの?」
「寂しかったよ~~~」
「へ?!」
むぎゅう~~。聖君の胸に顔をうずめ、もう一回抱きついた。
「え?え?俺、ちょっといなかっただけだよ?」
「でも、寂しかったもん」
「まじ?」
私は黙って、こくんとうなづいた。
「か、可愛い~~~~~~~!桃子ちゃんってば」
聖君もぎゅって抱きしめてきた。
「あ、もしかして、思い切り甘えるのを、まだしているの?桃子ちゃん」
「ううん」
「あれ?違った?」
「本当に寂しかったの」
「そうなんだ」
「それに怖かったの」
「え?」
「だって、この部屋、静か過ぎるんだもん」
「あ、そうか~~」
「こんなにいつも聖君と一緒にいたら、一緒にいるのが当たり前になっちゃって、離れられなくなったらどうしようかな」
「え?」
「今だって、この部屋、いつも聖君と一緒にいるから平気だったけど、一人になったら、すんごく寂しかったし、怖かったから」
ぎゅ!聖君も私を抱きしめてきた。
「俺も。桃子ちゃんとずっと一緒にいるから、離れられないかも」
「聖君も?」
「うん。あ~~、夏休み、終わっちゃうんだよね~~~」
「うん…」
「ぎゅ~~~~」
あ、またぎゅ~~って言ってる。
「桃子ちゃん、大好きだよ。こうやって、いっつも俺に甘えてきていいからさ。ね?」
「え?」
「めちゃ、嬉しかった!」
あ、本当だ。顔がにやけまくっている。
「もう寝ようか?」
「うん」
電気を消して、聖君と布団に横になった。私は聖君にべったりとくっついた。
「でもさ、桃子ちゃんは一人じゃないけどね」
「え?」
いきなり聖君に言われて、聞き返すと、
「だって、お腹には凪がいる。生まれるまでは一心同体でしょ?いいね、羨ましいな」
「あ、そうか」
私はお腹をさすった。そうだった。凪がいつも一緒にいるんだった。
「ちょっと出てきたかな?お腹」
「うん、ジーンズ、きつくなってきたもん」
「そうなんだ。今度の検診はまだまだだっけ?」
「うん、まだまだ」
「あ~~、早く凪の写真が見たいな」
聖君はそう言うと、私のお腹をさすった。
「そうだね。どれくらい大きくなってるんだろうね」
「楽しみだな。桃子ちゃん似かな。それとも俺かな」
「聖君に似たらかっこいいね。女の子ならすごい美人さんだ」
「桃子ちゃんに似ても可愛い女の子になるよ?男の子だとしても、可愛い感じのイケメンになるね」
「そ、そうかな」
「桃子ちゃん、可愛いもん」
聖君は私の顔をじっと見つめて、そしてキスをした。
「おやすみ、桃子ちゃん。また俺の夢見るのかな?俺、どんな寝言言うか、ちょっと楽しみ」
「いいよ。そんなの楽しみにしないで」
私は顔がほてるのをかくすために、聖君の胸に顔をうずめて、
「おやすみなさい」
と言って、目を閉じた。
聖君の鼓動、聖君のにおい、聖君のぬくもり。全部が嬉しい。
「く~~~~」
あ、もう寝てるし。ほんと、早すぎだよ。
寝息を聞きながら、寝顔を見た。ああ、今日も可愛い。聖君の寝顔、ちょっと幼くなるんだよね。
大好きだよ、聖君。心の中でつぶやき、また聖君の胸に顔をうずめた。
いつの間にか寝ていた。夢の中で聖君は、
「ぎゅ~~」
って言って抱きしめてくれていた。私も聖君に抱きついた。ああ、すごく幸せだ。幸せだけど、
「重い…」
なんだか知らないけど、聖君が重い。
「重いよ…」
そう言って私は、目を覚ました。目の前に聖君の顔があり、私は抱きつかれていた。
あ、現実でも抱きつかれていたのか…。それで、聖君の腕が重たかったんだな。
「でへへ」
いきなり聖君が笑った。いや、にやついたってほうが、ぴったりくるかな。いったい、どんな夢を見てるんだろう。
「もう、桃子ちゃんってば」
え?何?何?私が何?ああ、どんな夢なの?気になる。
そうだ。いつも私、鼻を聖君につままれて起きていたっけ。鼻をつまんだら、聖君起きるのかな。
私は聖君の鼻をつまんでみた。起きるかな…。
「ん~~~~」
聖君が、ちょっと苦しそうな顔をして、目を開けた。あ、起きた!
「…」
聖君は私を見ると、
「うひひ」
と笑うと、また目をつむってしまった。
う、うひひ…?あ。く~く~寝息立てて、寝ちゃったし!ああ、夢、聞けなかった~~。
私は、私の胸の上にある聖君の腕をどけた。すると、聖君は、う~~んと言いながら、寝返りを打ち、
「ぎゅう~~」
と言って、タオルケットを抱きしめていた。もしかして私に抱きついた時も、ぎゅ~~って言ったのかな。あ、夢の中で聞いた「ぎゅ~~」は、聖君の寝言だったりして。
時計を見ると、まだ5時半だ。でも、かすかに窓の外が明るくなっている。朝晩は、だいぶ過ごしやすくなったな~~。もうすぐ秋なんだな~。なんて、そんなことを感じながら、聖君の背中にくっついて、私は目をつむった。
どこからか、鳥のさえずりが聞こえる。
聖君の家で過ごすのも、今日までなんだな~。なんて、またすぐに来ることになるかもしれないし、わからないけど。
私はいつの間にか寝ていた。次に目が覚めた時には、聖君がじっと私を見ていて、目が覚めると同時に、キスをしてきた。
「おはよう、桃子ちゃん。今日は寝言言ってなかったよ」
「…」
私はまだ、寝ぼけていて、夢なんだかなんなんだか、わからなかった。
「桃子ちゃん、まだ、寝てるの?目、開けたまま、寝てるの?」
「おはよう、聖君。もう朝?」
「うん、もう朝」
「…あ、思い出した」
「何を?夢?」
「ううん、5時半ごろ目が覚めたの。聖君が寝言言ってた。ねえ、なんの夢見てたの?」
「え?俺なんて言ってた?」
「もう、桃子ちゃんってばって言って、でへへって笑ったり、うひひって笑ったり」
「うひひ?」
「うん。うひひ」
「な、なんだ、そりゃ。え~~!夢覚えてないよ、俺」
「そうなの?なんだ~~。どんな夢だったか、知りたかったのに」
「そういう時は、そんときに起こして」
「鼻つまんだの。起きるかなって思って。でも起きなかった。それに寝返り打って、またタオルケットを抱きしめて、ぎゅ~~って言ってた」
「桃子ちゃんを抱きしめてる夢だ。それは確実にそうだな」
「やっぱり?」
「あ!あ!思い出した!桃子ちゃんが俺にね、寂しかった~~って抱きついてきたんだ。俺が、どこに行ってたかわからないけど、家に帰ってきたら桃子ちゃんが思い切り、抱きついてきた夢だよ」
「昨日のことがあったからかな?」
「そうかもね。でも、家、ここじゃなかった。桃子ちゃんの家でもなかったな~」
「ふうん」
「それで俺、すげえ嬉しくって、それで…、うひひ?」
「でへへならよく言ってるけどね」
「で、でへへ?うそ。俺、言ってる?」
「うん」
「あ、寝言で?」
「ううん、ふだん、言ってるよ」
「まじ?」
「うん。あれ?自覚してなかった?」
「う、うん。げ~~。そうなんだ。そうとうにやけると、もしかして、でへへって言ってるのかな」
聖君はそう言うと、頭をぼりぼりって掻いた。
「さて、起きるか。どうする?桃子ちゃんはまだ、寝てる?今日はお店も休みだし、夏休みだし、母さん寝坊してると思うよ?」
「聖君は起きるの?」
「うん。クロの散歩に行ってくるよ。それから朝ごはん作るから、できたら呼ぼうか?」
「いいよ。私が作る」
「いいって、ゆっくりしてて」
そう言うと、聖君はぱっと起き上がり、着替えをしながら部屋を出て行った。すごいな。Tシャツを着ながらっていうのは、今までにもあったけど、短パンをはきながら出て行ったよ…。
私も、ぱっと起き上がりたいところだけど、体がすぐには動かない。妊娠してからさらに、動きが鈍くなった気がする。
聖君は、行動がいつも早い。思い立ったら、即行動ができるところが羨ましい。それに、けっこうせっかちかもしれない。
でも、気が短いわけでもない。私のゆっくりの行動や、話にもずっといらいらしたりせず、付き合ってくれる。
そうなんだ。本当にいつも優しいんだ…。すごく優しい表情で、話を聞いてくれるの。それに、髪を洗うのも、体を洗ってくれるのも、髪を乾かしてくれるのも、たまに体も拭いてくれるけど、それも全部、優しい。
それから、キスも、ハグも、全部が優しい。なんて思い出してるだけで、とろけちゃいそうだ。
聖君は、そういうの自分でもわかってるんだろうか。それとも、すごく意識したり、気を使ってくれているんだろうか。
前に、ガラス細工を触るように、気をつけてたって、言ってたことがあったな。今もなのかな。だから、優しいのかな。
ぼけ~~。しばらく、部屋で聖君の優しさやぬくもりに浸って、聖君の布団に寝転がってみたり、枕に抱きついてみたりしていた。ああ、こんなの見られたら、変態かな、私。
くんくん。聖君のにおいがする、幸せ~~~~。
私の家に帰ったら、一緒にお風呂は無理かな。ああ、あんなに恥ずかしかったのに、今は一緒に入れなくなるのが寂しいくらいだ。
ガチャ。
「桃子ちゃん、朝ごはんできた~~~。あ…」
聖君が突然、入ってきた。え~~。足音しなかったよ~~。
「桃子ちゃんってば!俺の枕に抱きついたりして、エッチ!」
「え?どうして?」
どうしてエッチになっちゃうの?
「はい。本人に抱きついてね!」
そう言うと、聖君は両腕を広げた。私は起き上がり、聖君に抱きついた。
「ね?本人のほうがいいでしょ?」
「うん!」
「ぎゅ~~~~」
聖君も抱きしめてきた。
「桃子ちゃん、朝、オレンジジュース飲む?」
「え?うん」
「じゃ、用意しておく。顔洗って、お店に来てね」
そう言うと、聖君はさっさと一階に下りていった。
「…」
ああ、やっぱり私のほうが先に起きて、朝ごはんを用意して、聖君、起きて、朝よ…なんてできないんだな。
なんであんなにも、目覚めが良くて、朝から元気なんだろう。血圧のせいかな~~。
私は着替えをして、顔を洗い、髪をとかして一階に下りた。今日も髪が、爆発していたけど、聖君がそれも可愛いって言うから、最近は気にならなくなった。
寝癖のある聖君も、可愛いって思うのと一緒かな。
それから、寝起きで目をこすってる聖君なんて、めちゃ可愛い~~~!動画撮っておきたい~~~って思うのなんて、変態に近いかもしれないよね。それは、聖君に言ってないんだけどさ~~。
お店に行くと、カウンターの席に二人分の朝食が用意されていた。
「クロ、おはよう」
クロが私の足元に来て、じゃれついてきた。
「散歩行ったんでしょ?良かったね」
そう言うと、尻尾をぐるんぐるん振っている。
「彼女に会えたし、超ご機嫌だよね」
聖君がカウンターの席に着きながら、そう言った。
「彼女?クロの?」
「そう。あれ?会ったことないか。白のラブラドールで、名前はユキっていうんだ」
「そうだね、会ったことないかも」
「散歩の時間がまちまちだから、なかなか会えないしね。だから、会えた時には、クロ、ハイテンションになるんだよね」
そうなんだ。
「な?クロ。今日も異常な喜び方してたよな?」
「ワン!」
あ、すごく嬉しそうに尻尾を振ってる。
「会ってみたいな~。クロの彼女」
「そう?…、あ、でも駄目駄目」
「なんで?」
「飼い主には会わないほうがいいから」
「え?どうして?」
「…さ、食べようか。いっただきま~~す」
え?今、スルーされたよね?まさか、可愛い女の子とか、綺麗な女の人とかで、聖君、めちゃ仲良かったりとか?
聖君は私がじっと聖君を見ているにもかかわらず、ばくばくとご飯を食べている。
「聖君。飼い主さんのことが気になって、私はご飯食べられないよ」
「え?まじで~~?」
「うん」
そりゃ、そうだよ。あんな中途半端に話を終わらせたんじゃ…。
「俺よりも一つ下。今高校3年」
う。私と同じ年か~~。可愛い子なのかな…。
「なんとかってアイドルにも、ちょっと似てる」
「え?そそ、そんなに可愛い子なの?」
うわ。顔がひきつる。
「う~~ん、可愛いっていうか、かっこいいっていうか?」
「かっこいい?」
へ?ボーイッシュな感じなのかな?
「今、彼女募集中なんだとさ。夏に入る前に、別れたらしく、寂しい夏を過ごしたようで。でも、あいつすげえもてるんだから、彼女くらい、すぐできそうなのにな」
「え?お、男の子?」
「そうだよ。あれ?女の子だと思ってた?」
コクコク。私は無言でうなづいた。
「女の子なら紹介してるって。男だから、会わせたくないんじゃん」
そうか。そういうことだったのか。ああ、焦った。良かった、男の子で…。
「聖君よりはもてないでしょ?」
「え~~、どうだろ。あいつも高校じゃ、もてちゃって大変らしいし、中学まで、モデルとかしてたみたいだしさ」
「へ~~、なんのモデル?」
「CMとか、雑誌とか出てたらしいよ」
「すごいね。でもやめちゃったの?」
「高校で部活はいったから、やめたらしい」
「部活?」
「軽音。人気あるらしいし、そのうちスカウトが来て、デビューしちゃったりしてね」
「そうなんだ、すごいね」
「…」
聖君が私のことを、じっと見た。
「なあに?」
「すげえ、興味深そうに聞いてくるけど、会ってみたいの?」
「ううん、全然」
「あれ?そうなの?今、目を輝かせてなかった?」
「え?そう見えた?」
「うん」
「…」
私が今度は、聖君をじっと見た。それから、
「聖君よりもかっこいい人なんて、この世にいないし、興味ないよ?私」
と言うと、聖君は照れくさそうに下を向いた。
「でもね、あっちが桃子ちゃんに惚れたら、やっかいだから、やっぱ、会っちゃ駄目」
聖君はそう言うと、またご飯を食べだした。
聖君って、けっこうやきもちやきだと思う。だけど、そういうのもすごく嬉しいんだけど。
こんなことを言ってくる聖君、すごく可愛いし。
「そうか~~。クロも彼女いるんだ。へ~~~」
「そのうち、赤ちゃん、生まれたりしてね」
「クロの?」
「うん。黒いのも白いのも、生まれてくるかな」
「犬の赤ちゃんって、めちゃくちゃ可愛いよね」
「うん」
そうか~~。それも楽しみだな。って、でもまだ、クロ、いくつだっけ?そんなお年頃になっちゃってるの?
私は安心して、いただきますと手を合わせ、ご飯を食べだした。私は、そんなかっこいい人が、聖君以外にもいるのね~~。でも、聖君が一番よ、なんてのんきなことを思っていた。その彼が、これから一波乱巻き起こすなんて、まったく思いもしないで。