第48話 新たな展開
聖君と部屋に行き、日記も書き終え、寝る準備も万全にしてから、布団に寝転がり、二人で漫画を見た。
聖君は、黙って漫画を読み終えると、
「何これ。俺と桃子ちゃんのお話?」
と私に聞いた。
「男の子は聖君がモデルになってるけど、主人公の子は、私の名前とも性格とも、まったく関係ない子なんだ」
「うそ。桃子ちゃんそのまんまじゃん。髪型とかは違うけど、ほら、すぐ赤くなるところとか、そっくりだよ」
「うん」
でも、それ、実は咲ちゃんがモデルだし。なんて聖君に言っていいものかどうか。
「だけど、あれか。俺、女の子苦手だし、桃子ちゃん以外の子に冷たいし、その辺は違うか」
「それ、お店での聖君の印象で描いたみたい。誰にでもさわやかな笑顔で、接してるから」
「営業用スマイルなんだけどな」
「…」
営業用って、自分で言っちゃう?
「桃子ちゃんは、俺が桃子ちゃんにだけ特別!ってのがわかるから、こんなふうに落ち込むことはないよね」
「え?」
私が特別?
「この聖一ってのはさ、野乃ちゃん以外にも優しいんだろ?だから、自分だけ特別じゃないんだって、落ち込んじゃってるけど、俺、桃子ちゃんにだけ優しいから、桃子ちゃんは落ち込むことないじゃん?」
「…麦さんにも優しかったよ…」
私がぽつりと言うと、聖君の顔が青ざめた。
「あ、あ、あれは…」
そう言うと、しばらく黙り込んでしまった。
「そういえば、俺と麦ちゃんでどっかに行っちゃうっていう夢、みたんだっけ?」
「うん」
「桃子ちゅわん。そういうの俺に言ってね?桐太じゃなくって」
「…」
「なんで無言?」
「これからは言う」
「俺に言いづらかったの?」
「また、俺のこと信じてないの?とか言われちゃいそうで。聖君に怒られるかなって思って」
「……」
聖君はまた、黙り込んだ。
「そっか。ごめん。でも、不安にさせちゃったんだよね?」
「…」
「ごめん…」
そう言うと聖君は、私の髪を優しくなで、
「やっぱ、俺、桃子ちゃん以外の子には、前みたいにクールでいようか?きっぱりさっぱり、すっぱり突き放して…」
「いいよ、そんな。本当の聖君は優しいのに、そんなことしなくても」
「でも、桃子ちゃんを傷つけるのは嫌だな、俺」
「…。えっと、じゃあ、あの…」
「うん」
「必要以上に、近づくのはやめてくれたら」
「え?」
「だ、抱きしめちゃうとか、そういうの」
「あ!あれは、まじで反省してます。もうしません。だってほら、もう俺の胸は桃子ちゃん専用って書いてあるし!」
聖君は慌てて、そう言った。
「うん」
聖君は、ちょっとばつの悪そうな顔をして、
「桃子ちゅわん」
と言って、甘えてきた。
「俺、まじで桃子ちゅわんだけだから」
そう言うと、私の胸に顔をうずめてくる。ああ、犬みたいだよな~~。可愛いな~~。
「私ね、聖君」
聖君の髪をなでながら、私は話し出した。
「野乃ちゃんみたいに思って、勝手に落ち込んだことあるよ」
「え?なんのこと?」
聖君が少し顔をあげた。
「聖君が、花火大会ではぐれた私を探してくれたり、足の指すりむいて、痛がってる時、肩を貸してくれたりしたでしょ?」
「ああ、うん」
「あの日の帰り、蘭が、良かったねって言ってくれたの」
「何が良かったの?はぐれたりして桃子ちゃん、大変な思いしたのに」
「聖君に、接近できて良かったねって。それに、必死に探してたよとか、肩も貸してくれたりして、優しくしてくれて良かったねって」
「あ、そういうことか」
聖君は私の隣に寝転がり、腕枕をしてくれた。
「だけど、私、ひねくれてて、聖君は私にだけ優しいんじゃなくて、他の子にも優しいから、私が特別ってわけじゃないしって、そう思って勝手に落ち込んでたんだ」
「まじで?」
「うん」
聖君は黙っていた。
「それにね、花火見た後、すぐに葉一君たちのところに行っちゃったし、もし特別って思っていたら、あんなにさっさと置いて行ったりしないだろうし、やっぱり、私なんてどうも思われていないんだよって、勝手にそう思って」
「グサ~~~~ッ!」
え?グサ…?聖君、顔引きつらせてる。あ、図星だったとか。
「俺、そういうこと、菜摘に指摘されたことがある。あ、父さんにも」
「え?どういうこと?」
「桃子ちゃんと海行っても、俺一人ではしゃいで、海に一目散に泳ぎに行ったり、男友達とばかり話して、桃子ちゃんのことほっぽらかしたりして、もう少し、桃子ちゃんのこと、ちゃんと見ていたら?って」
「え?」
「あとで、やべえ!って気がつくこと多くて、途中からすげえ、気をつけるようになったんだけどさ」
「え?え?何を?」
「桃子ちゃん、一人で浜辺に残すと、変なやつ寄ってきてたりするし、まじで、桃子ちゃんから、目離せないなって、途中で思い知ったって言うか…。だから、花火の時もどうでもよかったんじゃないんだ。桃子ちゃんは後ろからついてくるもんだと、思い込んで行動してたっていうか…。きっと、あの時付き合ってたとしても、同じことしてたかも」
そうだったの?
「だから、後ろ向いて、桃子ちゃんがいなかった時、すげえあせったんじゃん。げ~~って血の気、まじで引いたんだから」
「……」
「前にも言ったじゃん。あの時から、大事だって。いなくなって、あれだけ俺、血の気引くほどあせったことってなかったよ。そんで、大事にしないといけないんだって、思い知って。とか言いながら、そのあとも何度か、同じようなこと繰り返してたけど」
「え?」
「海でも、沖に一人ぼっちで置いてきちゃったり、浜辺でも桃子ちゃん一人にしたら、ナンパされてたり…」
「でも、すぐに聖君、すっとんで来てくれたよ?」
「そりゃ、もう、やばい~~って、必死だったから。ほんと、ごめんね。俺、ぬけてたって言うか、アホだったよね」
「…」
そうだったんだ。
「もうしない。何度も心臓止まりそうなくらい、焦ったり、自分のこと責めまくったから。もうあんな思いはしたくないし、桃子ちゃんに不安な思いもさせたくない」
そう言うと、聖君は腕枕の腕を外し、私を抱きしめてきた。聖君の腕からは、私のことを本当に大事にしてるんだって、そんな思いが伝わってくる。
ぎゅ!私も聖君を抱きしめた。しばらく私は聖君を、ぎゅって抱きしめていた。
「もう寝ようか?桃子ちゃん…」
と聖君に言われ、私は聖君を抱きしめてる腕を離した。聖君は漫画を布団の横に置くと、
「おやすみ、桃子ちゃん」
と私のおでこにキスをして、それから電気を消した。
「おやすみなさい」
私の横に寝転がった聖君に、手を伸ばすと、聖君は手をつないでくれた。
聖君は目をつむると、また数秒でく~~って寝息をたてた。その寝顔を見ながら、私は幸せに包まれていた。
私って、どれだけ大事に思われてるんだろう。
あ、そんなことを思っていること自体が不思議。昔なら、そんなこと思いたくても思えなかった。大事にされてるとか、好かれてるとか、そういうことですら、信じられなかったし。
その日もまた、夢に聖君が現れた。これまた不思議な夢だった。海で雨にぬれ、私は雨宿りをしに、れいんどろっぷすに入った。聖君がいて、聖君はタオルを貸してくれたり、すごく優しくしてくれた。
私は聖君の笑顔に、一目惚れした。でも、聖君は他のお客さんにも優しくて、タオルを貸してあげたり、傘を貸してあげたりしていた。
優しさも、笑顔も私のことを特別に思って、そうしてくれてるわけじゃないんだ。誰にでも優しいんだ。私は落ち込みながら、家に帰った。
家について、部屋に入ると、そこは聖君の部屋で、聖君がお帰りって笑顔で出迎えた。
私は落ち込みながら、聖君に言っている。
「聖君にとって、私は特別じゃないんだよね…。他のお客さんと同じで、誰にでも優しいんだよね?」
本人に言っちゃってるよ。私ったら。
「まさか!あれは営業用スマイルだよ」
聖君はそう言うと、私を抱きしめ、
「桃子ちゃんだけが、特別に決まってるじゃん」
と言って、髪に優しくキスをする。
「私だけ?」
「そうだよ。桃子ちゃんだけ」
「本当に?」
「うん、本当に。信じていいよ。信じられない?」
「…ううん」
私は聖君を抱きしめた。
「私も、聖君だけだよ」
「うん」
「聖君だけ、大好きだからね?」
「うん」
「聖君のことだけを、愛してるからね?」
「…」
あれ?無言?なんで聖君、もしかして照れてる?
ぐに。鼻をつままれた。え?なんで?
真っ赤になって聖君が私を見ている。
「やっぱり、照れてたの?」
と、そう聞くと、聖君は思い切り恥ずかしそうに、
「すごい夢だね。嬉しいけど」
とそう言った。
夢?あれ?
「あ、あれ?夢?また私寝言言ってた?」
「言ってた」
「なんて?」
「…きゃ。言えない」
「え~~!なんて?」
待って。覚えてるよ、私。聖君だけが大好きとか、聖君のことだけを、愛してるとか。
「あ!」
「え?」
「すごいこと言ってた~~」
思い出して、私が真っ赤になると、聖君は私の前髪をかきあげ、おでこにキスをしてきた。
「え?」
「桃子ちゃんってば、夢の中でも俺に、告白しちゃうなんて。もう~~」
きゃわ~。
「で、どんな状況の夢?」
「え?」
「どんな状況で、俺に告白してたの?」
「…聖君が私だけ、特別って言うから、私も聖君にそう言ってた」
「な、なるほど。俺が最初に、桃子ちゃんに愛の告白してたんだね?」
「う、うん」
「それにしても、桃子ちゃん、毎回毎回、俺ばっかり登場してるよね」
「え?」
「夢の中でも、俺ばっかりだよね?」
「うん」
きゃわ~~。本当だ。顔がほてる~~!
「まあ、俺もだけど」
「え?」
「桃子ちゃんの夢見たけどさ」
「どどど、どんな?」
「教えない」
「ずるい!」
「一緒に、風呂に入ってる夢。夢の中だと、桃子ちゃん、素直なんだよね」
「え?どどど、どんな風に素直?」
「これは絶対に内緒」
「なんで?ずるい!」
「さ、起きようっと」
「え?」
「もう7時になるよ」
「ええ?」
聖君はさっさと着替えて、さっさと部屋を出て行った。ああ、今日もまた、早い。聖君、自分の夢は内緒なのか…。ずるい。
そして今日もまた、私は寝言を言ったのか…。
もしかして今までは一人で寝ていたから気づかなかっただけで、ずっと、寝言を言ってたのかな。私…。
その日は、体調も良かったので、お店のお手伝いをしていた。
そしてお客さんが一区切りついた頃、聖君とカウンターで、お昼を食べているところに、桐太がやってきた。今日はお店が休みの日のようだ。
あ、今日、麦さんがバイトだったら良かったのにな。今日は菊ちゃんなんだよね。
「よう~~、桃子」
桐太は私の隣に座りながら、
「俺も、ランチください。アイスコーヒーで!よろしく」
と、キッチンにいる菊ちゃんに叫び、は~~ってため息を吐いた。
「何?どうした?悩み事か?」
聖君が、ご飯を食べながら、桐太に聞いた。
「あ~~、ちょっとな」
桐太は、ぼそってそう言うと、またため息をついた。
「どうしたの?お店のこと?店長がどうかしたとか?」
私が心配してそう聞くと、桐太は、
「桃子にあとで、相談に乗ってもらいたいんだけど、いい?」
と私に聞いてきた。
「え?いいけど」
そう私が答えると、聖君は口を尖らせ、
「なんだよ、俺には言えないことか?」
と、ちょっとすねてそう桐太に聞いた。
「そう。お前にはね」
桐太ははっきりと、聖君にそう言った。
「なんなんだよ。のけもんかよ」
聖君はそう言うと、ばくばくっとご飯を食べ、
「ごっそさん。ほら、俺はもうキッチンに行くから、ここでゆっくり話せば?」
と自分の食べた食器を持って、キッチンに行ってしまった。
「聖君のこと?」
私が小声で桐太に聞くと、桐太は、
「いや、違う」
と首を横に振った。じゃ、なんだろう。聖君には聞かれたくないことだよねえ?
「今日も、麦女とサーフィンいったんだ」
「あ、そうだったの?なんだ、桐太。今日バイト休みなら、一緒にご飯食べに来たら良かったのに」
「…朝食は一緒に食べた。マックで」
「そうなんだ」
「…」
桐太は黙り込んだ。うつむいて、しばらく考え込んでいる。
「どうしたの?」
「桃子、聖のこと好きだって意識したの、いつ?」
いきなり桐太が聞いてきた。
「え?私?私は、もう会ってすぐに」
「あ、そっか。一目惚れだって言ってたっけね」
「うん」
何~?いきなりどうしたの?
「なにかあったの?」
桐太にそう聞くと、桐太が、ほんの少し顔を赤らめた。
「え?どうしたの?まさか、誰かに恋しちゃったとか?」
「し~~!」
桐太が私の口を押さえた。
「誰かに聞かれるだろ?」
「大丈夫だよ、私の声、小さいし」
私がそう言うと、桐太は、
「聖、地獄耳だからな。桃子のどんな小さな声でもキャッチするから、油断ならないんだよ」
と、そんなことをキッチンの様子を伺いながら言ってきた。
「大丈夫だよ。聖君、奥で洗い物でもしてるみたいだし、聞こえないよ」
「…」
桐太はまた、うつむいた。
「聖君に聞かれたくない話なの?」
「なんとなく、聖を裏切ったような気がしちゃって」
ドキ!それってまた、男の子に恋しちゃったってこと?
「どうして、好きだってわかったの?一目惚れ?」
「違うよ。俺、一目惚れしないしさ。なんつうか、性格とかいろいろと知ってからじゃないと、好きになれないから」
「そうなんだ。じゃ、性格とかわかって好きになったの?」
ってことは、身近な人?あ、まさか、店長とか?
「好きかどうかも、まだ、はっきりとわかんない。ただ」
「うん」
ドキドキ。私のほうがドキドキしちゃうよ~。
「なんだか、意識しちゃってて、俺」
は!そうだ!そんな人が現れちゃったなら、麦さんの思いはどうなっちゃうの?
ああ、一気に、心が重くなってきた。桐太が恋したなら、それを応援したいけど、でも、麦さんのことも応援したいし!どうしたらいいんだろう、私。
「やっぱ、気のせいだよな」
「え?」
「俺の気のせいだよ、うん」
「どう意識しちゃったの?」
「どうって、それはなんだか、ドキってしてみたり、そういうやつだよ」
「え?どうしてドキってしちゃったの?どんなシチュエーションで?」
「それ、聞いてきちゃう?」
「うん」
「…」
桐太は、赤くなりながら、うつむいた。
「手、触れたんだよ。そしたら向こうが、赤くなってぱっと手を離したんだよ」
「え?」
「それで、俺、それ見て、なんかドキってしちゃって」
「もしかして、相手のほうも、桐太のこと?」
「そういうことだと思う?それとも、嫌がってかな?」
「赤くなったんだったら、嫌がってじゃないんじゃないの?」
「やっぱ、桃子もそう思う?」
「うん」
「じゃあ、なんか俺がその子のためにしてやったら、顔を少し赤くして、ありがとって言うのは、どう思う?」
「え?」
「俺のこと好きだからかな?」
「かもね…」
その子…。ってことは、店長じゃないか。あ、まさか、店長の妹さん?前に聖君がふったって言う…。
「でも、その子さ、前は他のやつが好きだったんだよ?俺に心変わりでもしたのかな。どう思う?」
「他のって、聖君だったりして」
「げ!なんでわかんの?」
ええ?じゃ、本当に妹さん?
「待って、桐太。桐太はその子が、自分のことを好きかもしれないって思って、それで意識してるの?」
「っていうかさ。なんか、今までは別にどうも思わなかったんだけど、今日はやけに、可愛く見えたっていうか」
「え?」
「可愛くっていうか、なんかこう、今までと違う仕草や反応するから、そのたびドキって。え?こいつ、こんな顔するっけ?とか、こんな可愛い仕草するっけ?とか」
「…それで?」
「それで、いちいちドキドキしてて、その…、そういうのってまさか、好きになってるってことかなって」
「…」
そういえば、聖君は、私の反応見て、可愛いって思ったんだっけな。どんくさいやつとか、変なやつとか思わずに。
「可愛いって思うの?」
「え?ああ、まあ…」
「そうか~~。じゃあ、やっぱり好きなのかな」
「や、やっぱり?」
「わかんないけど、聖君も言ってたし」
「知ってる。桃子のどこをとっても可愛いんだ。って前に言ってたし」
うわ。そんなこと桐太に言ったの?
「どこをとっても可愛いってほどじゃないんだけど、前はこいつ、にくらしいとか、頭にきてた憎まれ口まで、ちょっと可愛く感じたりってのは、あるかも」
「憎まれ口?」
「前よりは言わなくなったけど」
「え?まさか、それって麦さん?!」
「し~~!声でかい!今のはマジで、声でかいって!」
桐太にまた、口を押さえられた。
桐太は、真っ赤だった。
「桃子から見て、どう思う?やっぱ、信じられないよな。ずっと聖のこと好きだったあいつが、俺のこと好きになるわけないよな?」
「…」
「そんなにも驚くようなことだよな?やっぱ、ないよな、それ」
「え?」
「桃子、今、目が点になってたし、あいた口閉じなくなってた」
「あ…」
それは、あまりにもの衝撃で、つい…。
だ、駄目だ。口がほころびそうだ。やったよ、麦さんって叫びたいくらいだ。
「そりゃ、そうだよな~~。あれだけ、俺嫌われてたし、今さら俺に惚れるわけないって、思うよな~。う~~、でもさ、今日のあいつ、まじでなんか、可愛くて、俺のこと見て、何度も赤くなってた…ような気がしたんだけど、それって俺の勘違いだよな~~」
勘違いじゃない、ない!
「は~~~~~~。俺に惚れたの?なんて聞けないし、俺が告ったところで、本気にするわけないと思わない?」
「こ、告る?」
「…もしもの話だよ、もしもの…」
「それ、麦さんのこと、桐太が好きになってるってことだよね?」
私はすごい小声で、桐太に聞いた。
「だから、それを聞いてるんじゃんか。俺、麦女のこと好きになってると思う?」
「え?」
「自分じゃわかんないんだって」
「なんでわかんないの?」
「わかんねえよ。だって、俺、あいつのこと嫌ってたっていうか、ああいうタイプは、昔から苦手だしさ」
「どういうタイプ?」
「口の悪いところとか」
「桐太に似てるじゃん」
「わかってるよ!だから嫌なんだろ!」
あ、そういうことか。
「あ~~~。あ~~~~~~。あ~~~~~!わっかんねえ!」
桐太はしばらく頭を、抱え込んだ。
「だ、大丈夫?」
私が桐太にそう聞くと、いつの間にか桐太の横にやってきていた聖君が、
「すげえ、悩んでるんだな。そんだけ悩んでりゃ、もう好きだってことじゃん。認めたら?」
と桐太に言った。
「げえっ!!なんで聖、ここにいんの?!っていうか、いつから話聞いてたんだよっ?」
「聞こえたんだよ。桃子ちゃんが、それって麦さん?って言っていたの…」
「だから、桃子、言っただろ!こいつは他の事は耳に入らなくても、桃子の声にだけは、敏感なの!」
と私に向かってそう言ってから、真っ赤になった。
「いいじゃん、なんで俺には内緒なんだよ。俺、麦ちゃんにばらしたりしないし、口堅いよ?」
「だって、だってさ」
「ああ。別に、裏切られたとも思わないから、安心して」
「そ、そこも聞こえてた?」
「うん」
「げ~~~!まじで、こいつ、地獄耳~~~!」
桐太がそう言って、もっと顔を赤くした。
「まあ、麦ちゃんがお前のことをどう思ってるかは、俺、知らないけどさ。あ、でも、俺のことはすっぱりきっぱり、あきらめてるから、その辺は安心していいよ。ね?桃子ちゃん」
「え?う、うん」
そう言うと、桐太は、聖君にくいつき、
「本当か?絶対にそう思うか?確信してるのか」
と真剣なまなざしで聞いた。
「あ、ああ。だって、本人が言ってたし、それに、新しい恋もしたいようなことも言ってたし」
「…まじでか?」
「あ、ああ」
「それで、新しく恋をしたってことは言ってなかったか?」
「いや、聞いてないけど」
そうか。聖君には麦さん、いっさい桐太のこと言ってないんだ。
「そうか。お前のことはあきらめたのか」
桐太はそう言うと、また、はあってため息をして、私と聖君に聞いてきた。
「で、俺って、麦女のこと好きだと思う?やっぱ、そう見える?」
あ~~~~~。振り出しに戻ってるし。聖君はやれやれって顔をした。
でも、私はさっきから、ずっと、二人は両思いなんだ~~!麦さんの思いは、こんなにも早く、届いちゃったよ~~と叫びたいのを、こらえるのに必死だった。