第36話 確信
「桃子ちゃんは、この近くなの?」
駅に向かって歩き出すと、藤井さんが聞いてきた。
「ううん」
私が首を横に振ると、聖君が、
「桃子ちゃんは今、うちに泊まって、店の手伝いしてくれてるんだ」
とそう藤井さんに教えた。
「え?泊まりで?」
藤井さんは驚いていた。
「ど、どうしてまた…。家、遠いの?何か、家にいられない事情でもあるとか?」
「ないない。ただ前から、夏休みは泊りがけで手伝いに来るって、そんな話をしてたんだ。ね?桃子ちゃん」
「え?うん」
どう説明したらいいものやら。まさか、もう結婚してて、今まではうちに聖君がいて、今は聖君の家に、泊まりに来てるの…なんて言えないもんね。
「でも、バイトじゃないんだよね?」
「そうだよな~。桃子ちゃんもいっぱい手伝ってくれてるんだし、バイト代、母さんからもらったほうがいいんじゃないかな~」
「いいよ、そんなに役に立てるようなことしてないし。私、休んでばかりだし」
「そんなことないよ。めっちゃ役に立ってるって」
「そうだよ。私なんかより、よっぽどお役に立ってる。私なんてコップも割っちゃったし、バイト代もらうの悪いくらいなのに」
「ああ、それはマジで、気にしなくっていいからね、紗枝ちゃん」
聖君は、頭を掻きながらそう言った。
「だけど、私、勉強させてもらってるようなものだから。スコーンの焼き方とか、他にもいろいろと。だからお金をもらうなんて、おこがましいもん」
私がそう言うと、藤井さんはすごく驚いた顔をした。
「勉強って何の?」
「桃子ちゃん、将来カフェしたいんだ。うちの店みたいなさ」
「そ、そうなんだ~~!」
藤井さんが、目を輝かせた。
「それでなんだ。どうして、お店の手伝いをバイトでもないのに、してるのかなとか、泊まりで手伝いをしてるのか、不思議だったけど、それでようやく納得できた」
「いつかお料理の学校にも行ったり、調理師の免許も取りたいなって思ってて。聖君のお母さんみたいになれたらいいなって、思ってるんだ」
藤井さんは、私の言う言葉に感心していた。
「私、桃子ちゃんにそんな夢があるなんて思ってもみなかった」
「え?」
「なんだか、箱入り娘の一人っ子で、ご両親にものすごく可愛がられて育ってて、将来は可愛いお嫁さんになって、ずっと専業主婦でもするのかなって、そんなふうに思ってたし」
え?何その、私の未来像…。
「カフェを将来したいとか、調理師の免許を取りたいとか、そのためにもう、カフェでお手伝いをしてるなんて、そんな自立した女の人だとは、全然見えなかった」
自立?!
「してないよ。自立なんて。私なんて全然」
「くす」
聖君が私と藤井さんの会話を聞いて、隣で笑った。
「桃子ちゃんのこと、そんなふうに見えてたんだ。見た目、大人しそうだからかな?」
「あ、うん。それに、なんだか可愛いっていうか、弱そうっていうか、誰かに守られて生きていきそうな、そんな感じがあったから」
「あはは。桃子ちゃん、弱くないよ。こう見えて、強いって」
聖君が笑った。
「そうなんだ。ちょっとびっくりだな」
藤井さんは、そう言って、でも、聖君に話しかけられたからか、顔を赤らめていた。
「俺は?どんなふうに見えるの?」
聖君が聞いた。
「え?」
藤井さんはますます顔を赤らめた。
「聖君は、なんでもできてしまう完璧な人に見える」
「完璧?まさか~~。そんなやついないでしょ」
「でも、何をしてもさまになるっていうか、そつなくこなしてしまいそう」
「そうでもないよ。できないこともあるよ?」
「だけど、器用そう。それに、人当たりもいいし。あ、スキューバダイビングしてるんだよね?海も、すごく似合ってる」
「そう?まあね、俺、海はマジで好きだよ」
「世界の海とか、行っちゃいそう」
「潜りに?うん、行くのが夢だな」
「やっぱり?そういう感じがした。すごく自由で開放的で、一箇所にとどまったりしなさそうで」
「へえ、そんな感じがするの?」
「うん」
藤井さんは目を輝かせ、いつもよりも声を大きくして話している。
「自由奔放なイメージがある。だから、結婚とか家庭を持つイメージはしない」
「え?」
聖君が目を丸くした。
「一人の女の人に、縛られそうもない感じ」
「それ、いろんな女性と付き合っちゃうってこと?」
「そうじゃなくて。一箇所にとどまらず、あちこち旅をしていそうだから、結婚とかそういう安定した生活はしてなさそうだなって」
「…そう見えるんだ。ふうん」
聖君の「ふうん」が出た。あ、納得しないって顔もしてる。でも、藤井さんはそんな聖君の「ふうん」に気がつかず、話を続けた。
「夢を追うタイプにも見える。一人の人を思ったり、家族を大事にするよりも、どんどん自分の夢を追っていくような…。海が俺の恋人なんだ、みたいな…」
「…」
聖君は黙り込んで、しばらく藤井さんを見ていた。それに気がついた藤井さんは、顔を赤らめた。
「あの…?」
聖君が黙ってるからか、藤井さんは困っていた。
「ああ、ごめん。ただ、俺ってそんなふうに見えちゃうんだなって、驚いたって言うか。人ってけっこう勝手に解釈してるもんなんだなって、びっくりしたって言うか」
「ごめんなさい。私、なんか失礼なこと言ったかな?」
「いや、いいけど」
聖君は頭をぼりって掻いた。
「だけど、人を大事にしないとか、優しくないとか、そんなふうに言ってるわけじゃなくって。それはむしろ逆で。聖君はすごく優しい人だなって思うし、そう見えるし」
まっかになりながら、藤井さんはそう言った。
「俺が?」
「うん。コップを割った時も、コップのことよりも私が怪我をしないかってほうを、気遣ってくれたし。ああいう時って、その人の人格が出るから」
「ああ、あれ?普通そうでしょ。あれが当たり前でしょ?」
「そんなことない。パン屋でやけどしても、みんな、気をつけろよとか言うだけだし、何かヘマすると、すごく怒られちゃうし」
「え?そうなの?」
私が驚いて聞き返してしまった。
「うん。やけどして水で冷やしてたら、そんなのあとでやれ、今忙しいんだぞって、怒られたこともあった。私、ヘマするたびに怒られてたから、ほんと、今のバイト先、怖くって」
「私もそこでバイトしたら、きっと毎日怒られていそう」
私が顔を青くしてそう言うと、藤井さんが驚いた顔をした。
「桃子ちゃんは大丈夫だよ。しっかりと今日だって、仕事してたし」
「ううん、私もドジだから、失敗ばかりだよ?」
「そんなふうに見えないよ」
「ううん、動きもとろくて鈍いし、聖君にだって、ドジだって思われてるし、ね?」
「え?桃子ちゃん?うん」
聖君が「そんなことないよ」と、もしかして言ってくれるんじゃないかって思って、ふったのにもかかわらず、うんとうなづかれてしまった。
「あ、でも、俺もドジだから、人のこと言えない」
「見えない!」
また藤井さんが驚いた。
「だから、紗枝ちゃん、俺のこと美化しすぎ。きっとがっかりするよ。人って確かに、第一印象大事だけどさ、それが当たってる時もあるけど、でも、まったく違う時もあるわけだし。俺なんて、紗枝ちゃんが思ってるイメージとまったく違ってるからさ」
「え?どこが?」
「俺、確かに世界の海、潜りにいきたいけど、家庭は持つよ。奥さんも家族も、めっちゃ大事にすると思う」
「え?」
藤井さんが驚いている。
「それに、夢よりも大事な人を取る。いろんなところに自由に行くより、安定や安住を選ぶ。俺、結婚して子ども持って、家族で幸せに暮らすってのが、いっちゃんの夢って言えば夢だし、もうそうなるって確信してるって言うか、そんな未来しかないってわかってるし」
「…」
藤井さんの目はまんまるになった。そして相当驚いたのか、言葉も失っていた。
「ね?全然違うでしょ?見た目のイメージなんて、当てにならないものだよ」
「…」
藤井さんはまだ、黙って一点を見つめている。
「桃子ちゃんのイメージも違ってたでしょ?桃子ちゃん、マジでしっかりしてるし、前向きだし、強いよ?俺なんて、桃子ちゃんに比べたら、てんで弱いって思うしさ」
「弱い?」
藤井さんはまた、目を丸くして聖君を見た。
「弱いよ、俺。てんで弱い。情けないし、甘えん坊だし、寂しがりだし。だから、家庭を持ちたいし、奥さんとなんてきっと、ずっとべったりしてると思うよ。あ、それにかなりの一途で、一人の人しか、愛せないと思うし」
「え~~~~~~!」
とうとう、藤井さんは声をあげて驚いた。
「そ、そんなふうには絶対に見えない」
「そう?でも、それが俺なんだけどな」
「…」
口をあんぐりとあけ、驚いている。藤井さんの中での聖君は、もう相当なイメージが膨らんでいたんじゃなかろうか、あ、そうか。自分の理想が服着て歩いてるって言ってたもんな。じゃ、今、ショックを受けてたりして。
「し、信じられない」
「そうは言われてもな~」
聖君は頭を掻いた。藤井さんは今度、私の顔を真剣なまなざしで見ると、
「桃子ちゃんはショックじゃないの?聖君のこと、やっぱり完璧だって言ってたよね?」
と聞いてきた。
「うん」
私がうなづくと、聖君は横でえ?って顔をした。
「あ、完璧っていうのは、その…」
私は返答に困ってしまったが、聖君も藤井さんも私の返答を待ってるのがわかり、話さなくちゃって、頭の中を整理した。
「あの、あのね。聖君のいろんな面を知って、人から見たら、弱いとか、聖君自身が駄目だとか、そう言ってるところも含めて、完璧ってことで。その…。もしかすると、藤井さんが言ってる完璧さとは、違うかもしれない」
今ので、わかってくれたかな。
「弱いとか、そういうのが見えて、完璧ってこと?」
藤井さんが聞いた。私はこくこくとうなづいた。聖君は頭をぼりって掻くと、ちょっと下を向き、照れているようだ。
「…なんでもできて、完璧ってことじゃなくって?理想の男性ってことじゃなくって?」
「理想っていうの、ないから」
私が言うと、藤井さんはえって驚いた。
「理想ないの?」
「う、うん。よくわかんないけど、聖君が見せる一面、一面、全部がいいなって」
「え?」
「あ、あの」
私、なんかものすごいことを、藤井さんに言ってる?それも本人目の前にして。
「あ~~~。その辺で、おしまいにしよう。俺、聞いてて恥ずかしいや」
聖君は赤くなっていた。藤井さんはそれを見て、また驚いていた。
「ひ、聖君、照れてるの?」
藤井さんが聞いた。
「そ、そりゃ、俺も、照れる時もあるって」
聖君はそう言うと、そっぽを向いた。ああ、今、いったいどんな顔をしているのやら。
「なんだか、イメージと違う」
藤井さんは、ショックを受けてるようだ。
「だから、言ったじゃん、違うよって」
聖君は顔を赤くしたまま、藤井さんに言った。
「…。そ、そうなんだ」
「紗枝ちゃんって、なんだっけ?母さんが言ってたけど、占いできるんでしょ?」
「オーラソーマのこと?」
「ああ、それ」
「うん。できるっていうか、ちゃんと習って、もう見れるようになったんだけど…。え?それが何か?」
藤井さんはちょっと、こわごわ聖君に聞いた。
「そういうのって、第一印象で相手のことあれこれ、決めつけたり、勝手なイメージ持ったらできないんじゃないの?」
「え?」
藤井さんは驚いて、目を丸くした。
「だって、占う前に先入観できちゃうじゃん。この人はきっとこういう人だって言う、紗枝ちゃんの勝手なイメージ」
「…。そうか、それでなのか」
「え?」
「今まで、オーラソーマ受けた人が、ちょっと違う気がするって言って、がっかりして帰る人とか、いたんだよね」
「ふうん」
「私は、その人のことを見ただけで、わかることができるって、そう思ってた」
「え?」
「それ、勝手な思い過ごしだったのかな」
「…そうだね。当たることもあるかもしれないけど、ちゃんと話したりしてからじゃないと、わからないこともあるもんね」
「う、うん」
藤井さんはすごく恥ずかしそうに、下を向いた。
「でもま、人なんてさ、自分でもこんな人間だろうって思ってたら、意外と違ってたとかあるしね、わからないから面白いのかもしれないよね」
聖君はそう言って、またくすって笑った。
「思い出し笑いか何か?」
私が聞くと、聖君は、
「いや、俺なんて、自分でもこんなだなんて、思ってもみなかったよな、わからないもんだよなって、今、思ってた」
「こんなって?」
藤井さんが聞いた。
「え?いや、なんていうか、すげえアホナやつで」
「え?」
「情けないっていうか、ガキっていうか、子どもっていうか」
「…」
藤井さんは黙り込んだ。それから私の方を見た。
「桃子ちゃんは、聖君のことよく知ってるの?知り合って、もう長いの?」
と聞いてきた。
「知り合ってからは、3年目になるかな、うん、ちょうど、3年目くらいだ」
「そんなに前から知ってるんだ」
「うん」
「その間にも、聖君の印象は変わったりしたの?」
「うん」
私は思い切りうなづいた。
「どんなふうに?」
藤井さんは興味津々で聞いてきた。聖君を見ると、言わなくていいっていうような顔をしている。
「えっと」
困ったな。言っていいのかな。
「うん」
ああ、藤井さんは、聞く気、満々だ。
「最初は、かっこいいとか、爽やかとか、優しい感じがした」
「でしょ?」
藤井さんが目を輝かせた。聖君は下を向いて聞いていた。
「でも…」
「でも?」
藤井さんが聞き返した。
聖君もちょっと顔をあげ、耳を傾けているようだ。
「だんだんと、可愛いなって…」
「どこが、どんなふうに?」
え~~。そんなことまで聞いてくるの?どうしよう。
「どこがって、例えば、メールとか」
「桃子ちゃん、もういいって」
聖君が顔を赤くして、話を止めた。
「と、とにかく、紗枝ちゃんは美化しすぎだから、ってことだけは言っておく。うん、あ、もう駅だよ。門限間に合うよね?」
「え?うん」
もう駅だよとは言ったけど、駅が見えたってだけで、まだまだ駅まで距離はある。
「もう一個聞きたいの、桃子ちゃんに」
藤井さんは私の方を向き、話しかけてきた。
「な、なあに?」
なんだろう。ドキドキ。
「その、可愛いところとか見て、桃子ちゃんはどう思ったの?」
「え?」
「桃子ちゃんだって、美化してるところあるんじゃないの?」
「美化?」
「聖君のことを、勝手にいいふうにイメージ膨らませたり」
それはどうかな。私は首をかしげた。
「桃子ちゃんは、変態なの」
「え?!」
私と藤井さんが同時に、聖君のことを目を丸くして見た。いきなり何を言い出すの?
「あ、変人って言ったほうがいいかな。俺の情けないところとか、どうしようもない駄目駄目なところを見て、可愛いとか、好きだって言ってくる変人なんだよ」
「ひ、聖君、そんなことばらさないで」
私がそう言うと、藤井さんはますます目を丸くして、固まってしまった。
「だから俺、いつも惚れ過ぎだって言ってるんだけど」
「わ~~。聖君!」
私は真っ赤になって、慌てふためいた。ああ、藤井さんの顔を見るのすら、恥ずかしい。
「惚れ…過ぎ?じゃあ、聖君は、桃子ちゃんが聖君のことを好きだっていうの、知ってるの?」
「へ?」
聖君は目を点にして、驚いた。
「あ、あれ?あれれ?」
聖君は私と、藤井さんの顔を交互に見て、聞いてきた。
「紗枝ちゃん、俺の母さんか、じゃなきゃ、桃子ちゃんから聞いてないの?」
「何を?」
「桃子ちゃん、俺の彼女だよ?付き合ってるんだけど」
「えっ!」
聖君の言葉に、藤井さんは微動だに動かなくなった。
「あれ?桃子ちゃん、言ってなかったの?母さん、俺の彼女だって紹介したんじゃないの?」
「うん、言ってない」
「なんで?!」
聖君が驚いていた。
「俺、てっきり俺の彼女だって、知ってるのかと思っていたから、俺もわざわざ言わなかったんだけど、知らなかったんだ」
藤井さんはまだ、顔を青ざめさせて、固まっている。
「そっか。だからか。さっき、彼女の前で、なんで俺が、一人の人を思ったりしなさそうなんていうのかと思ったんだよね」
「だから聖君、ちょっと黙り込んでたの?」
「うん、それもあるし、俺ってそんな印象なんだって、驚いてたのもあるけど」
私と聖君の会話にも、藤井さんははいってこようともしないで、無言で固まっている。相当、ショックだったようだ。
それもそうか。そうだよね。まさか、思ってもみなかったんだろうな。私が聖君の彼女だなんて。
「それじゃ、駅に着いたし、紗枝ちゃん、気をつけてね。今日はまじでありがとう」
聖君はにっこりと笑いながらそう言った。藤井さんは、顔を引きつらせた。
「じゃ、じゃあ」
それだけ言うと、藤井さんはパスモをかざし、改札を通っていった。
「聖君、藤井さんもう、バイト来ないかも」
「かもね。ま、それもそれで仕方ないんじゃないの?」
「うん」
両思いになるなんて、思ってもいないようなことを言ってたっけ。でも、彼女がいるなんて知ったら、ショックだよね。あ、彼女じゃなかった。もう結婚もしてるし。
もし、私が藤井さんの立場だったら、すごくショックを受けて、もう聖君には会えないかな。
家に帰って泣くかな。菜摘か蘭に電話して、なぐさめてもらってるかもしれないな。
聖君は私の腰に手を回し、
「海岸の方、まわってから帰ろうか」
と言ってきた。
「うん」
私と聖君はゆっくりと、海岸沿いの道を歩いた。
「桃子ちゃん、紗枝ちゃんのこと、気にする必要はないからね」
「え?」
「紗枝ちゃんが、桃子ちゃんと俺が付き合ってるって知って、ショックを受けようが、俺のことこれから知っていって、がっかりしようが、そんなの、桃子ちゃんには関係のないことなんだから」
「え?」
「俺は桃子ちゃんが好きで、桃子ちゃんや凪のことをこれからも、大事にしていく。それが俺の在りかたで、もし、それで他の子が傷つくようなことがあったとしても、それもしょうがないことだと思うんだ」
「…」
「それに、紗枝ちゃんには紗枝ちゃんの、ふさわしい人が現れるよ。それは俺じゃない。ただ、それだけのことだから」
「うん」
「俺の居場所は、桃子ちゃんの隣。ずっと、そうだから」
「うん」
「さっき、紗枝ちゃんに言ってて、自分でもやっぱりそうだよなって思ってたんだ」
「え?」
「俺は、安定を求めたし、夢よりも何よりも、自分が大事な人といるってことを、選んでいくんだって、自分でも確信したんだ」
「…」
聖君は腰に回した手に、さらに力を入れ、私の髪にキスをして、
「めっちゃ愛してるからね?」
と言ってきた。
うわ。こんな路上でいきなり言う?私が真っ赤になってると、
「あはは。可愛い。真っ赤だ」
と聖君は笑った。ああ、やっぱり、こうやって私が赤くなるのを、面白がってるんだろうな、この人は…。