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第166話 自分と向き合う

 お店には2時頃着いた。お店に入ると、テーブル席は全部埋まっていたけど、カウンターはあいていた。そして、エプロンをつけにこにこと接客をしている紗枝さんがいた。

「あ、桃子ちゃん」

「紗枝さん、今日土曜日だけど、バイト入っているんですか?」

「うん。でも、3時までなんだ。桃子ちゃん、久しぶり。元気そうだね」

「はい」


「紗枝ちゃん、3時になったら朱実ちゃんと交代かな?」

 聖君が聞いた。

「うん。今日は特に何もないから、5時まででも大丈夫なんだけど」

「ああ、でも悪いよ。本来は土日、シフト入ってないのにさ」

「だけど、ここで働くの楽しいし、全然平気だよ」


「ほんと?そう言ってくれるとまじで嬉しい」

 聖君はそう言うとにこりと笑い、それから私の背中に手を回しキッチンの横を通り、今度は麻生さんに声をかけた。

「お疲れ様です」

「あら、聖君。今日も奥さんが一緒なのね。ほんと、仲良しなのねえ」

 麻生さんにそう言われると、すかさず聖君は、

「麻生さんだって、旦那さんとラブラブなんでしょ?新婚なんだから」

と、顔を赤くしてそう言い返した。


「聖君たちほどじゃないわよ。付き合いも長かったし」

「長いって、どのくらい付き合ってたんですか?」

 私が麻生さんに聞くと、聖君も私の背中に手を回したまま、立ち止まった。

「7年、あ、8年たったかな」

「へえ、長い付き合いだったんすね。でも、結婚はなんでずっとしなかったんすか?」

 聖君も、興味を持ったらしい。麻生さんにそう聞いた。


「タイミングかな~~。あまり、結婚したいってお互い思わなかったのよね」

「じゃ、なんで結婚したんすか?」

 まだ聖君、くいついて聞いてる。よほど、気になったのかな?

「親がうるさくって。子供もそろそろ考えろとかね」

「ふうん、そうだったんだ…」

 聖君が麻生さんとそんな話をしていると、お客さんのオーダーを紗枝さんが言いに来た。


「ほら、聖は4時からでいいから、それまで桃子ちゃんとリビングで休んでなさいよ」

 聖君のお母さんが、キッチンの奥からそう言ってきた。

「桃子ちゃん、何か飲み物でも持って行くから、リビングで休んでて。あ、聖もなんか飲む?」

「あ~~、じゃ、アイスコーヒー飲みたい」

「あら、めずらしい。コーラじゃないの?」

「コーラはもう飲んできた」

「そういえば、お昼どこで食べたの?」


 聖君のお母さんが、エプロンで濡れた手を拭きながら、私たちのほうに来てそう聞いてきた。

「ああ、杵島さんのところ…」

 聖君がちょっと言いづらそうに、鼻の横を掻きながらそう言った。

「亨君、元気だった?」

 聖君のお母さんが聞いた。亨さんって杵島さんのことだよね。

「うん、料理の腕も落ちてなかった。ね?桃子ちゃん、うまかったよね?」

 聖君が私のほうを向いて、聞いてきた。


「うん、すごくおいしかった」

「よかったわよね、店を閉めるって噂も聞いてたから、心配してたのよ」

 聖君のお母さんが、ほっとした顔でそう言うと、

「…でもまだ、以前みたいな陽気さはなかったかな」

と聖君は、うつむき加減にそう答えた。

「そう…」

 聖君のお母さんはちょっと暗い表情をしたが、またキッチンの奥に戻って行った。


「桃子ちゃん、俺の部屋先に行ってて。飲み物持って行くから」

「え?部屋?」

「そ。あと2時間もあるし、部屋でいちゃつこうね」

 聖君は耳元で小さく、私にそうささやいた。ボワッ!私の顔が真っ赤になった。こんなの言われなれてるのに、店で聞いちゃったからか、思い切り恥ずかしくなった。

「も、もう~~」 

 私は顔を手であおぎながら、家に上がった。


 リビングには誰もいなかった。クロもいなかったから、お父さんの部屋にいるのか、散歩かな~。

 私が聖君の部屋のベッドに座り、のんびりとしていると、聖君はすぐにやってきた。聖君はドアを開けると、にこにこしながら飲み物を机の上に置き、ベッドに座っている私にいきなり抱きついてきた。

「桃子ちゅわん」

「…」

 いきなり甘えてきちゃったんだな~~。


「…」

 あれ?抱きついたまんま、静かになっちゃった。私の横に座り、黙って抱きついてる。

「どうしたの?」

「うん…。ちょっとね…」

 もしかして、落ち込んでる?


「杵島さんのことで落ち込んでるの?」

「…うん。あ、っていうかさ…」

「?」

「ちょっと、考えちゃった。俺…」

「何を?」


「なんか、いろいろと」

 なんかいろいろと?何をいろいろとだろう。

「桃子ちゃん、とりとめのない話だけど、聞いてくれる?」

「うん、いいよ」

「俺、自分のことよくわかってないなって思ってさ」


「え?」

 いきなり何?

「だから、まじでわけわかんないこと言うかもしれないんだけど」

「うん…」

 聖君は私から離れ、ベッドの上に横になった。

「桃子ちゃんは、ここ」


 聖君は手を伸ばした。ああ、どうやら腕枕をしてくれるようだ。私も聖君のすぐ横に寝転がり、聖君の腕に頭を乗せ、聖君にひっついた。

「俺さ、桃子ちゃんのことあれこれ言ったり、菜摘や葉一や基樹のこともあれこれ言ったりしてるけど、自分のことが一番わかってなかったかもって…、なんか最近そう思うんだよね」


「…」

「ちゃんと自分に向き合ってなかったなってさ」

「それが、杵島さんと関係するの?」

「…う~~ん、直接関係するわけじゃないけど、杵島さんと今日話してて、なんていうのかな」

 聖君は天井を見たまま、黙り込んだ。自分の心の中を見てるのかな。言葉を探してるのかな。それから私に腕枕していないほうの手を、天井のほうに伸ばした。


「う~~ん」

 聖君は目を細めて、伸ばした手を見つめたまま、考え込んでいる。手のひらをグーにしたり、パーにしたりしながら。

「杵島さんさ、まだ苦しんでたよね」

「え?」

「って、感じなかった?桃子ちゃんも」

「うん、なんとなく感じた」


「最近運悪いって、杵島さん言ってたじゃん」

「ああ、そういえば」

「運じゃないよね、きっと」

「え?」

「自分が変わらない限り、抜け出せないんだ、きっとさ」

「何から?」


「何って、なんていうのかな。ぐるぐるってしてる中っていうのかな」

「ぐるぐる?」

「そう、渦みたいな、厄介な奴」

 厄介な奴?なんだろう…。

「苦しみっていうかさ、辛さっていうかさ…」


「…抱え込んでる何かってこと?」

「うん。闇っていうのかな…」

 ああ、なんだかわかる気がする。それから抜け出せないでいるのか。

「桃子ちゃんさ、俺は人の心を開かせることができるって言ってたでしょ?」

 聖君がこっちを向いて話してきた。


「え?うん。聖君にはそういう力あるって思うよ」

「俺は、そういうのないと思うよ」

「え?どうして?どうしてそう思うの?」

「人って、自分から開こうとか、変わろうとかしない限り変わんないんじゃないかな」

「…」

「ほら、芹香さん。なんだか知らない間に、まったく生き方変わっちゃってたじゃん」

「え?うん」


「確かに、俺と桃子ちゃんが結婚したとか、赤ちゃんができたとか、そういうの影響してるかもしれないし、籐也のことも影響してるかもしれないけど、でも、やっぱり本人が変わりたいって思ったから、変わったんじゃないかな」

 聖君はそう言うと、私をじっと見た。


「桃子ちゃんもだよ」

「え?私?私は聖君がいたから」

「そう?だけど、変わらないでいたかもしれないよ、俺がいくら隣にいたってさ」

「え?」

「桃子ちゃんが変わろうってしたんだよ」

「…」


「ちゃんと前向いてさ。お父さんの時だってそうだよ。俺が何を言ったとしても、頑なに心を閉じてたら変わんなかった。でも、桃子ちゃんからお父さんに心開いたでしょ?」

「あれは、だって…」

 私が言葉に詰まっていると、聖君がまた話を続けた。

「それだけじゃない。水泳習いに行ったのなんて、俺、なんにもしてないよ」

「…」

 う。だってあれは、幹男君が背中を押してくれたから…、って今言ったらすねちゃうかな。


「桐太とのピンチも、ああ、そうだ。菜摘や蘭ちゃんとの仲が壊れそうになった時だって、桃子ちゃん、ちゃんと自分であの二人と向き合ってたよ」

「…」

「それに、何よりも自分と向き合ってたんじゃない?」

「私が?」


「そうやって、前に進んできたんだと思う」

「…」

「だけど、俺はまったくだったよね」

「そんなことないよ」

 聖君、どうしちゃったの?なんでいきなりそんなこと…。


「ああ、いいんだよ、桃子ちゃん。俺、そんなに落ち込んでるわけじゃないから」

「え?」

「そんな悲しい目で見ないでもさ」

 うわ。私、そんな目で見ちゃってた?

 聖君はまた、天井を眺めた。それから今度は手をおでこに当てて、目をつむって話し出した。


「俺さ、女の人苦手じゃん?」

「うん」

「だけどさ、文化祭ではステージであんなことしてたの、不思議に思わなかった?」

「え?」

「女性のかん高い声とか、苦手なのにさ。そんな声がする中で俺、歌ってたんだよ。本当なら絶対に嫌がりそうじゃない?」


「ああ、そういえばそうだよね」

「それに店でも。女性苦手なのに、よく話したり笑ったりしてたって思わない?」

「う、うん。でもあれは、仕事だったからでしょ?その辺聖君ちゃんとしてるなって、ずっと思ってたよ」

「…仕事だから、うん。そうなんだ。そうなんだよね」

 聖君は目を開けて、それからまた私を見た。


 その目は、穏やかだった。暗い表情もない。よかった。落ち込んじゃってるわけじゃないんだな。

「ウエイターっていう仮面をかぶると、俺、不思議と平気になれた」

「え?」

「ステージでも、違う自分になれることに気がついて、なんだ、俺、女性平気じゃん。見られても、きゃ~きゃ~言われても、全然平気じゃんって、いい気になってたんだよね」


「…」

「だけど、あれは俺じゃない。店の俺も俺じゃない」

「え?」

「あ、キッチンでは別ね。裏に行くと本当の俺になる」

「…」

 そういえば、そうかもしれないな。ホールに出た聖君は、いつもと違うって感じてた。だけど、それは仕事だからそうしてるのかと思ってた。


「仮面かぶってさ、違う自分演じてさ、結局無理してたんだなって、最近思った」

「無理してた?」

「前は気づけなかった。だけど、桃子ちゃんの前では素の自分になれるじゃん?キッチンに桃子ちゃんがいると、俺、すごく楽になってるの。そういうのを自分で知っていってさ、あ、こっちの自分が本当の自分じゃないかなって思ってたんだ」


「…」

「だから、桃子ちゃんといると素になれるし、楽だし、気持ちいいし、仮面をいくらかぶってても、仮面を外せるところがあるからいいやって、そんなふうに甘えてた」

「え?」

 なんで甘えたら駄目なの?全然いいのに。


「それで、俺、ちゃんと自分と向き合わなかったし、トラウマとかあったのに、そういうのからも目を背けてた」

 聖君はまた、天井を見た。ちょっと目を細めて、ふって息を吐いた。

「ちっとも俺、前に進もうとか、壁を乗り越えようとかしてなかったんだよなあ」

「…」

 聖君、そんなこと思ってたの?


「他の奴にはあんなに、大きな口叩いて、俺ってかなり嫌な奴だよね」

「ううん、そんな…」

「自分のことは棚に上げてってやつだよ。壁作んないで、心開けよとか言っておいて、俺が一番壁作ってたじゃんかって、そう思うよ」

「…」


「きっと、どっかで逃げてたんだ。だけどさ、逃げてるとずっと繰り返すんだよね」

「え?」

「カッキーのことでそう思ったんだ。紗枝ちゃんもそうだった。苦手だってことが、ちゃんと向き合わないと何度でも来る」

「でも、紗枝さんとの間の壁はもうないんでしょ?」


「紗枝ちゃんと向き合うんじゃない。俺は俺と向き合わなくちゃいけなかったんだ。だから、カッキーもそうだ。カッキーのことをどうにかしてあげるんじゃない。俺が、俺と向き合わないとならないんだ」

「…」

「それに、カッキーのことをどうにかしてあげるなんてさ、思い上がりもいいところだってそう思わない?」


「思い上がり?」

「だって、カッキーはきっと自分で変えていけるだけの力を持ってるよ」

「…」

「だから、俺がすることは、カッキーと向き合うことじゃなくって、自分と向き合うことなんだ」

「聖君が自分と向き合ってなかったなんて、そんなふうに思えない。いつだって、いろいろと自分のあり方も考えて、未来も考えて行動してたのに。私よりもよっぽど、考えてたよ」


 私がそう言うと聖君は、腕を私の首の下からそっと外した。そして、うつ伏せになり、両手を組んでその上に自分の顔を乗せ、私の顔をじっと見ている。

「桃子ちゃんとの未来は考えてた。いっつも。これから俺がしたいことはなんだろうとか、そういうことも」

「うん」


「だけど、俺の苦手なこと、そういうことを克服っていうのかな。乗り越えて行こうってことは、考えてなかったよ」

「…」

「桃子ちゃんは、してきたじゃん」

「私が?」

「泳ぐのだって、勇気いったでしょ?」

「う、うん」


「すげえよ。俺、まじですげえなって思うよ」

「そ、そんな…」

「俺はさ、自分ができることはしてきた。だけど、苦手なことは目を背けてきた。見たくない自分は見ないようにしてたし、そんな自分を人に見せるのも嫌だった」


「見たくない自分?」

「高校ではクールで、硬派でなんて言われてたけど、本当はただ、女子が苦手で怖いだけのヘタレ男子」

「え?ヘタレ?」

「そう。なのに、かっこつけてたんだ、どっかで。弱いとか、駄目な奴って思われたくなくて。それに自分でもそういう自分は見たくなかったし」

 聖君はそう言うと、目を細めて優しい目で私を見た。


「だけどさ、桃子ちゃんといると弱いし、甘えん坊だし、なんか、駄目な俺どんどん見えてきてさ」

「駄目なんかじゃないよ?全然」

「あはは」

 聖君は自分の両腕に顔をうつっぷせて笑った。

「そうやってさ、桃子ちゃんはどんな俺でも受け止めてくれる」


 聖君はそう言うと顔をあげて私を見た。

「だから俺、桃子ちゃんの前では、どんな俺でも見せられたし、いや、たまにもう呆れられちゃったかなって、不安になった時もあるんだけどさ」

「え?そうなの?」

「うん。時々ね、桃子ちゃんの態度が冷たいと、焦ってたよ?知らなかった?」

 あ、そういえば、そういうこと言ってたっけね。


「ね?嫌われるのが怖いただの、ヘタレでしょ?」

「そんなことない。私だって同じだもん。聖君に嫌われたくないってそう思ってるよ」

「ふ…」

 聖君は目をつむって笑うと、また両腕の上に顔を乗せ、可愛い顔で私を見た。


「サンキュー。桃子ちゃんはまじで、俺をいつでも、元気にしてくれるよね」

「え?そ、そうかな」

「そうだよ」

「…」

 そうなのかな…。


「桃子ちゃんがいるから、もしかして俺、ちゃんと俺と向き合おうって思えたのかな」

「え?」

「弱い自分、自分でちゃんと見てみようってさ」

「…」

「本当はけっこう、きついんだけど」

「え?」


「また、あんときみたいに吐いたり、調子悪くなったらどうしようって、そんなことも思ったりしてる」

「…」

 聖君…。

「でも、前に進まなきゃね」

「…」

「凪も生まれるしね」


「え?凪?」

「弱い自分をちゃんと見て、受け止めて、強くなっていかないとさ。もう父親になるんだしさ」

「…」

 そうなんだ。そんなこと思ってたんだ。

「…」

 聖君はしばらく私を見て、黙り込んだ。


「聖君?」

「桃子ちゃんのこと、まじで好きだなって思ってたとこ」

「え?」

「それから、桃子ちゃんってまじですげえなって思ってたとこ」

「私が?」


「俺、自分でも弱い俺見たくなかったよ。駄目な俺、受け止めたくないし、そんな俺嫌いだし。なのに、そんな駄目な俺を見ても、桃子ちゃん、嫌いにもならないで、ずっと好きでいてくれてたなんてさ、すげえよなって」


「へ?」

「俺だったらこんな男、付き合って数か月でふってるね」

「ええ?」

 聖君を?私がふるってこと?

「ありえない」

「え?何が?」


「私が聖君をふるなんて」

「あ。あははは」

 あれ?なんで笑うの?

「だから、桃子ちゃんはすげえって」

「すごくないってば。聖君のことが大好きな子はいっぱいいる。聖君をふるなんて、考える子なんかそうそういないってば」


「中学の時、俺、ふられたよ?」

「あ、あれはだって、聖君の良さを知らないからだよ」

「そうかな。俺の良さがどんななのかよくわかんないけど、たいていは俺の見てくれを好きなだけでしょ?」

「え?」


「文化祭で歌ってた俺も、ホールにいる俺も、仮面かぶった偽の俺だよ。そっちがみんな好きなだけで、仮面取った俺を好きでいてくれる子なんて、この世に一人くらいしかいないって」

「そんなことない」

「そんなことあるし、一人で俺十分なんだけどな」

 聖君はそう言うと、熱い目で私を見た。

「…」


「桃子ちゃんだけで十分だよ」

「聖君…」

「あ、そっか。桃子ちゃんがいてくれるから、仮面取ろうって気になってきたのかも」

「え?」

「仮面かぶってる必要、もうないじゃん?」

「…」


「ね?」

 聖君がめちゃくちゃかわいい顔でそう言った。私は聖君にぴったりとくっつき、聖君の顔を見た。

「聖君」

「ん?」

「もし、辛かったら辛いって言ってね」

「え?」


「自分と向き合うのが辛かったら」

「…うん」

「私、なんにもできないけど、そばにいるから」

「そばにいてくれるだけで、すんげえ力になってるって」

「ほんと?」

「本当」

 聖君は私にチュッてキスをした。


「桃子ちゃんパワーはまじで、すげえんだからさ」

 そう言うと聖君は優しく笑って、今度は私の鼻の頭にキスをした。

「大好きだよ」

「うん。私も…」

 どんな聖君だって、大好きだから。


 仮面を外して、本当の聖君と聖君は向き合うんだ。硬派でクールで、そんな聖君じゃなく、本当の…。

 でも、なんの心配もいらないね。だって、壁を作って閉ざしちゃってたその奥には、もっともっと光であふれた聖君がいるから大丈夫。その光を私は知ってる。

 実をいうと、みんなにその聖君を知られてしまうのが、おしい気すらする。その光を独り占めしていたいっていう気もしてる。


 だけど、やっぱり、聖君が自分と向き合って、壁を取っ払って、心を開こうとしてるんだもん。

 うん。私は私ができることをしていこう。私のためとか、私だけの聖君でいてとか、そんな自分本位の考えはポイって捨てなくちゃ。

 だって、それは聖君を閉じ込めたままにしちゃうことになるんだもんね。

 聖君を狭い籠の中に入れたりしないって、決めたんだ。だから、聖君のすぐそばで見守っていくよ…。


 


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