第146話 大好きな家族
ガク…。聖君がベッドにうつっぷせた。
「お母さん、タイミング良すぎ…」
それ、嫌味かな?
聖君はしばらくベッドに、うつ伏せていたけど、
「一階に行こうか。きっとおばさんのことで、何かあるんだよね?」
と言い、ベッドから降りた。
私も、正直がっかりしている。もうすでに、聖君の優しいオーラにとろけちゃってたし、このまま寝てるふりをするのはダメかな~と、時計を見たら、まだ10時。さすがにこの時間じゃ、寝たふりも無理か…。
下に行くと、リビングになぜかウキウキ顔の母がいた。父とひまわりはソファーに座り、何かを一生懸命に見ている。
「お姉ちゃん!私はやっぱりチャペルがいいと思う」
「へ?」
「このホテルなんか豪華だな~~。聖君はどこがいいかい?」
「え?」
私と聖君は目が点になっていたが、2人が見ているものを見て、ようやく理解ができた。
2人は、結婚式場のパンフレットを、あれこれ眺めていた。
「どうしたの?これ」
私が聞くと、母が、
「おじいちゃんが、揃えてくれたのよ」
とウキウキしながら答えた。
「なんでいきなり?」
聖君はまだ、目を点にしている。
「お姉さんが来るから、わざと揃えていたんじゃないかしらね?今日もお姉さんの前で、このパンフレットを並べだして、どこがいいかなっておばあちゃんと相談を始めちゃってたし」
「なんで?」
私が聞くと、
「お姉さん、反対してたから、結婚式場のパンフレットをたくさん集めて、これみよがしに、楽しそうに嬉しそうにしたかったんじゃないかしら」
と母が答えた。
「これ…、みよがし?え?どうしてっすか?」
まだ聖君は目を点にしている。
「おじいさんは、桃子が幸せになることを望んでいたし、聖君のこともすごく気に入っていたし、実果おばさんが反対したことが、気に入らなかったんだと思うよ。だから、2人の結婚は素晴らしいもので、自分はこんなにも喜んで祝っているんだってことを、見せたかったんじゃないかな」
父が冷静に、そう聖君に言った。
「…おじいさん、本当に喜んでくれてるんですね」
聖君は感動しちゃったみたいだ。
「そりゃ、そうだろう。僕もだけどね、聖君のことがすごく、気に入ってるしね。この結婚には大賛成だからなあ」
父はそう嬉しそうに言うと、またパンフレットを見た。
「ああ…」
私もパンフレットの一つを手に取って、そこに載っている新郎の写真を見て、つい声が漏れてしまった。真っ白のタキシード。聖君が着たら絶対に似合う。この新郎役のモデルよりも、100倍はかっこいいだろうな。
「桃子、目がいっちゃってるわよ?」
「ほえ?」
「お姉ちゃん、お兄ちゃんがその真っ白のタキシード着たところ、想像したでしょ」
うわ、ひまわり、するどすぎる!
「ほんと、桃子ったら、聖君にベタ惚れなのねえ、ねえ?聖君」
「…」
「聖君?」
母に呼ばれても聖君は、返事もしない。どうやら聖君は聖君で、パンフレットを片手に、妄想中だったようだ。そのパンフレットを見ると、白無垢姿の花嫁さんが写っていた。
「お兄ちゃん!」
ひまわりに肩をたたかれ、聖君はようやく我に返った。
「え?何?」
「今、お姉ちゃんの白無垢姿を想像してた?」
「え?!なんでわかったの?」
「あ~~あ、この夫婦は」
ひまわりがやれやれって顔で、私たちを見た。
父と母も、苦笑した。でも、
「二人ともきっと、似合うわよ。和装も洋装も。ちゃんとお色直しもしたいわね。お姉さんが羨ましがるほどの結婚式を、挙げちゃいましょうよ。そうしたらお姉さんもきっと、幹男君にも早く結婚してほしいとか、あれこれそんなこと思っちゃうわよ」
と母が言い出した。
「ああ、幹男君のことも何かもめたのかい?」
父が母に聞いた。
「い~~っぱい愚痴ってた。聞いてて嫌になったわ。あれじゃほんと、幹男君がかわいそうよ」
と、母は眉をしかめてそう言った。
「双子なのにまったく違うんですね、性格」
聖君がそう言うと、
「そういうものよ、きっとね」
と母はふって笑った。
「幹男君は一人息子だし、お姉さんもきっと期待してるんだろう。いろんな意味でね」
父がそう言うと、母は、
「その期待が、幹男君にはプレッシャーだって気が付かないのかしらね、まったく」
とぼやいた。
「…」
聖君はそんな母の言葉を、全く聞いていないようだ。パンフレットをあれこれ眺め、にやついている。
「いいな~~。絶対に似合うだろうな~~」
ぼそっと聖君がつぶやいた。
「お姉ちゃんのこと?」
ひまわりはその独り言を、聞き洩らさなかった。
「え?ああ、うん」
聖君が頭をぼりって掻いて、照れくさそうにうなづいた。
「ほんと、お兄ちゃんって、お姉ちゃんが好きだよね」
ひまわりの言葉に、聖君は口をぱくぱくさせたが、何も答えられなかったようだ。
「ははは、お姉さんも、こんな二人を見たら反対なんてできなくなるんだろうなあ。2人と会わせちゃえばよかったのに」
父が笑いながらそう母に言った。
「でもほら、桃子は妊娠しているし、変なストレスがかかったらよくないって、おばあちゃんが思ったみたいだから」
「おばあちゃんが?」
そうか、私のこと心配してくれたんだ。
「心配性だからな、おばあさんは」
父がそう言ったが、私は嬉しかった。一回は結婚のことも反対されたけど、今は認めててくれて、お腹の子のことまで心配してくれてる。それが嬉しかった。
「聖君」
私はパンフレットを眺めている聖君のそばにより、聖君の腕をつかんだ。
「ん?なに?」
パンフレットをテーブルに置き、聖君が私を見た。
「今度の土曜も昼間、お店のバイト?」
「ううん。大学始まってるし、もう平日も土日も夜だけ出ることにするけど、なんで?」
「おじいちゃんとおばあちゃんに、お礼を言いに行きたいの」
そう言うと聖君はすごく優しい目で私を見て、
「うん、俺も行きたいって思ってたとこ…」
とにこっと笑った。
「土曜日、おじいちゃんに絵の教室がないかどうか聞いてみるわね」
母が優しくそう言って、父が、
「聖君と桃子が会いに行ったら、2人とも喜ぶだろうなあ」
とそう言った。
私は横で、ひまわりが羨ましそうにしているのがわかった。
「ひまわりも来る?」
私が聞くと、
「土曜はかんちゃんとデートがあって、そのあとバイト」
とひまわりが言った。
「かんちゃんか~。ひまわりにも彼氏ができたし、お父さんは複雑だなあ」
父がそう言った。ひまわりは、
「でも、お兄ちゃんのこと気に入ってるんでしょ?かんちゃんのことも、気に入ってよ」
と父に言い寄った。
「そうだね、ひまわり。でも今はどうやら、かんちゃんのほうがお父さんを避けてるみたいだからな」
父がちょっと苦笑いをしながらそう答えると、母が、
「かんちゃんは、お母さんにもまだ、心開いてくれてないものね。あ、でも聖君にだけはなついてるわねえ」
と聖君を見ながらそう言った。
「あ、きっと年が近いから、話しやすいのかもしれないっすよね?」
聖君がそう精一杯フォローをすると、
「かんちゃん、いい子ですよ。ぶっきらぼうだったり、シャイみたいですけど、なんつうか、けっこう純粋って言うか。ひまわりちゃんも純粋だから、俺は合ってるって思います」
と、これはどうやら本音らしい。目を輝かさえてそう続けた。
「聖君が言うなら、そうなんだろうな」
父がそう言うと、ひまわりは驚いていた。
「お兄ちゃんが言うことなら、お父さん、信じちゃうわけ?」
「う~ん、聖君の人を見る目は、確かなものだと思うからね」
と父は、ちょっと考えてから、ひまわりに向かって答えた。
「そうなんだ」
ひまわりはまだ、びっくりしている。なんでそんなに、驚いているのかな。
「お兄ちゃんってやっぱり、すごいんだ」
「?」
多分、私同様、聖君もひまわりの言うことを、理解できないでいた。
「そうだね。きっと聖君はすごいんだね」
父がそう言った。
「???」
ますます、私も聖君もわけがわからなくなっていた。
「聖君って、人の何かを感じ取ったり、その人の奥にあるものまで見えちゃうんじゃない?」
母がそう言った。
「え?俺がっすか?」
聖君が今度は驚いている。
「それに、人を魅了する力も持っているね」
父がにっこりと笑ってそう言った。ああ、それは私も感じているし、実際そうだと思う。聖君と心を交わしたら、聖君のとりこになっちゃうもん。
「俺よりも、桃子ちゃんのほうが、人の心を溶かす力を持っていますよ?」
聖君がそう言うと、父は笑って、
「ははは、確かに桃子は、人を癒す力を持っているね」
と私に言った。
「ひまわりとは対照的に見えて、どちらも人の心をほっとさせる力だよな」
今度はひまわりを見て父がそう言った。
「私も?そんな力あるの?」
「うんうん。あるよ。ひまわりちゃんって、ここにこうしているだけで、ひまわりちゃんの周りはぱっと明るくなる。そんな力持ってるよ。あ、それって、お母さんもそうですよね?」
「私?じゃ、ひまわりの明るさは私似かしらねえ?」
母は嬉しそうにそう言ってから、ひまわりににこりと微笑みかけた。
「かんちゃんにも言われたことがある」
「え?」
「ひまわりは、一緒にいるだけで元気になれるって」
「あはは!かんちゃん、ちゃんとひまわりちゃんの良さ、見抜いてるじゃん」
聖君がそう笑って言った。
「だから、大丈夫っすよ。お父さんもそんなに心配しないでも」
聖君は今度は父を見てにこりと笑った。
「そうだな。あまり心配することはなさそうだな」
父もつられてにっこりと笑った。
リビングは家族の笑い声で、とてもあったかかった。ああ、なんだかまさにこれって、ホームドラマのワンシーンのようじゃない?すごく不思議だ。
父が忙しくて、あまり家にもいなくて、こんな会話をしたこともなかった。父は私のことなんて、どうでもいいんじゃないかって思っていたのはきっと、ひまわりも同じだ。
それが今じゃ、父は私やひまわりのことを、どれだけ大事に思い、どれだけ愛してくれているかが、手に取るようにわかるし、ちゃんと言葉で言ってくれるようにもなった。
聖君と部屋に戻った。聖君はにんまり笑い、もらってきたパンフレットをテーブルの上に並べて、また妄想の世界に浸りかけていた。
「聖君」
そんな聖君に抱きついた。
「え?」
聖君はすぐに我に返り、私のことを見た。
「私、お父さん大好き」
「うん」
「お母さんもひまわりも」
「うん」
「ありがとうね」
「へ?なんで俺にお礼言ってるの?」
「うん、だって、聖君のおかげだから」
「?」
聖君は不思議そうに私を見ている。
「前にお父さんとケンカしたとき、聖君、ちゃんと心を開いてって言ってくれたでしょう?」
「うん」
「あれがなかったら、今、お父さんとはこんないい関係でいられなかったと思う」
「そうかな」
「うん。だから、ありがとう」
「…」
聖君はすごく優しい目で私のことを見て、
「桃子ちゃん、大好きだよ」
と耳元でささやいてきた。
「あ、そうだ。忘れてた。つい結婚式の妄想ばかりしてて」
聖君はそう言うと、いきなり私のパジャマのボタンを外しだした。
「え?」
「途中だったんだよね?さ、続き続き!」
「…」
聖君はあっという間にボタンを外すと、するするとパジャマを脱がしていく。
「聖君」
私はされるがままになっていたけど、聖君に話しかけた。
「なに?」
聖君は、ブラジャーのホックをはずしかけていた手を止めて、私の顔を見た。
「ボタン外すのとか、すごく早くできるようになっちゃったよね?」
「…」
聖君は一瞬黙り込み、それからホックをはずすと、胸を触ってきて、
「ホックはずずのも、得意かも」
と言ってきた。
「その特技、他の場所では披露しないでね」
「ええ?!あったりまえじゃん!」
聖君はそう言うと、私の鼻をむぎゅってつまみ、それから、私のことをぐいって抱き寄せた。そして優しくベッドに私を寝かせると、思い切り優しい目で私を見つめた。
「桃子ちゃんの目、好きだな」
「え?」
「鼻も、口も」
「…」
なんだか、照れくさいし、くすぐったい。
「絶対に、花嫁姿、かわいいんだろうな」
ああ、聖君の目が垂れた。思い切りにやけちゃったよ。そんな顔もかわいいんだけどさ。
私は聖君の首に両手を回して、聖君を抱き寄せた。
「聖君だって、絶対にかっこいい花婿さんだよ。タキシードも紋付き袴も、絶対に似合っちゃう」
耳元でそう言うと、聖君がくすぐったそうな顔をした。
あ、聖君もやっぱり耳、弱いんだ。そう思って耳にキスをした。すると、聖君は、
「駄目。そこ、感じちゃうから」
と小さな声でつぶやいた。
わあ。なんか、かわいいっていうか、色っぽいっていうか。そんな聖君にドキッてしちゃった。もう一回、私は聖君の耳にキスをした。もう一回かわいい聖君が見てみたい。
「桃子ちゃん、もしかしてわざとしてる?それとも、キス攻めにしようとしているの?」
「うん」
「まじで?」
聖君が顔を上げて私を見た。
「うん。だって、聖君可愛いから、キスしたくなっちゃうんだもん」
「まじで?」
私は聖君をまた抱き寄せて、首にキスをした。
「…キス攻め?」
また聖君が聞いてきた。私は何も答えず、聖君の頬にキスをして、あごにキスをして、鼻にキスをして…。
「わあ、まじでキス攻めだ」
聖君の顔がにやけた。そんな聖君の唇にもキスをした。
「俺、このまんま桃子ちゃんに襲われちゃう?」
「ううん」
私は首を横に振った。
「あれ?じゃあもう、おしまい?」
「うん」
「なんだ、キス攻め、おしまいなの?」
聖君は私のおでこにおでこをくっつけ、聞いてきた。
「うん、おしまいなの」
「もう?」
「うん。だって…」
「ん?」
「聖君からキスしてほしいもん」
はれ?私、何をこんな恥ずかしいこと言っちゃってるんだろう。言った後で、顔がぼぼって熱くなった。
「…真っ赤だ。言ってから照れた?」
あ、ばれてる。
「くす。いいよ」
聖君はそう言うと、長いとろけるような優しいキスをしてきた。うわ~~~。溶ける~~~。
そうして、甘い甘い時間を今度は誰にも邪魔されず、私は聖君のあったかいオーラの中で溶けていった。