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第141話 相合傘

 ホームルームが早く終わった蘭と花ちゃんは、私たちのクラスが終わるまで待っててくれて、菜摘、蘭、花ちゃん、そして私とで、一緒にさっさと駅に向かった。

「今日、家に帰ってから、基樹に電話してみる」

 蘭がそう言った。

「うん」

 他の3人は同時にうなづいた。


「私は、昨日籐也君からメールが来て」

 花ちゃんが頬を染めながら、そう話し出した。

「それで?」

 私と菜摘が同時にわくわくしながら聞いた。

「今度の土曜、練習見に行くことになって」

「うん」


「その前に、ご飯も食べに行こうって誘われた」

「デートだ~~」

 菜摘がひやかした。

「それもデートのうちなの?」

 花ちゃんが、そんな拍子の抜けるようなことを聞いてきた。

「そうでしょ?二人で会ったら、何でもデートだよ」

 菜摘はそう言うと、うりうり~~って花ちゃんの腕をつついていた。う~~ん、こんなところ、聖君に似てるかも。


「あ~~~~、私もデートしたい」

 蘭が突如、でかい声を上げた。

「基樹君と?」

 私が聞くと、

「当たり前でしょ?他の誰がいるの」

と言われてしまった。


「そういえば、彼はどうしたの?」

 菜摘の質問に蘭はちょっと困った顔をして、

「それがね、もう一回会ってくれって、ちょっとしつこいんだ」

とため息交じりに言った。

「は~~、困ったもんだね」

 菜摘もため息をつきながら、やれやれって顔をした。


「桃ちゃん、今日検診でしょ?」

 花ちゃんがにこにこしながら聞いてきた。

「うん。あ、その帰りに小百合ちゃんのお見舞いにも行って来るよ」

「うん。それでお願いがあるんだ」

 花ちゃんがカバンから、袋をだし、

「これ、お見舞いなの。暇だろうから、漫画とCD」

と手渡された。


「わあ。小百合ちゃん、喜ぶよ」

「花~~、私たちにも言ってよ。みんなでそろえたのに」

 蘭が花ちゃんにそう言うと、花ちゃんは、

「でもこれ、漫画は咲ちゃんの単行本だし、CDは籐也君のだし、ちょっと押しつけがましいお見舞いだから、言い出しにくかったんだ」

と、申し訳なさそうに言った。


「咲ちゃんの?最近会ってないけど元気?」

 私が聞くと花ちゃんは、元気だよとにっこり微笑んで答えた。

「もしや、兄貴が載ってる漫画?」

「あれは、まだ、単行本になってないもん。あ、でもあの週刊誌の新刊、昨日出たんだよね」

「へえ!本屋行って、立ち読みしよう」


「蘭、ちゃんと買ってあげようよ」

「そうだね。聖君がモデルなんでしょ?買って友達にも見せようかな」

「今週号、どんなのかな。聖君も楽しみにしてるんだけどさ」

 私が聞くと、花ちゃんは、

「主人公と彼が、お店の外でキスしちゃうんだよ。なんかドキドキしちゃったよ~~」

と目を輝かせて、教えてくれた。


「へえ。それってさあ、彼のほうからキスしてきちゃうって感じ?」

「うん。突然、キスしてきちゃうの」

 ドキ。私と聖君みたいだな。あれ?でもキスのシチュエーションまで教えてないだろうから、違うよね。

「そのうち、主人公が赤ちゃんできて、高校生なのに結婚とか、そんな展開になっていかない?」


「ええ?」

 菜摘の言葉に私は思い切り、戸惑ってしまった。

「あはは。それ、ものすごい展開になっちゃうから、描けないって言ってたよ。少女漫画の週刊誌じゃ、そこまで描けないって」

「対象の読者って、10代くらい?」

「中学生とかからの感想も多いらしいよ?でも、一応高校生、大学生対象かな?」

「じゃ、いいじゃんね」


「それがね、こんな展開どうでしょうって、一応担当の人に聞いたらしいんだけど」

 え?聞いたの?OKでたら、そうなっていったってこと?!

「そんな突拍子もない展開、現実離れしすぎてて、もうちょっと現実に起こりそうなハプニングにしてって言われたんだって」


「あはははは」

 蘭と菜摘がいきなり笑い出した。

「え?」

 私と花ちゃんが、2人を見ると、

「だって、ここにその突拍子もない展開を、現実に起こしてる人がいるっていうのにさ~~」

と菜摘が言い、

「やっぱり、あり得ないようなことなんだよね、聖君と桃子の結婚」

と蘭が言った。


「そうだよね」

 ぽつりと私が下を向いて言うと、

「あ、でもいい意味でだよ?高校生で結婚して、それもこんなバカップルって、ほんと現実離れしててすごいことだよ」

と蘭はフォローした…ようだ。でも、それ、フォローになってる?


「バカップルか~~。私思うんだけどさ、桃子と兄貴って、私たちが思ってる以上に、2人でいるときいちゃついてるでしょ?」

 ギク。なんで、そればれたの?

「兄貴って、私らが思ってる以上に、桃子に甘えてるでしょ?」

 あれ?なんでそれも知ってるの。


「実は、すごい甘えん坊なんでしょ?」

「…」

「ほんと、桃子ってわかりやすいよね。やっぱりそうなんだ」

 菜摘に言われてしまった。うわ。どうしよう。誰にも言わないでねって言われてたのに。

「あ、どうかな。きっと葉君くらいの甘え方なんじゃないかな?」

 必死で私はフォローした。


「そうかな~~~。葉君だって言ってたもん。あいつ、絶対他の子にはクールでいるけど、桃子ちゃんと2人の時は違うよって」

「え?」

「たまに、みんなといたって、桃子ちゃんのこと見てにやついてるもんな~~って」

 え?


「今日車の中でも、にやついてた。それに思い切りバカップルだって、自分でばらしてたよ」

 蘭に言われてしまった。

「やっぱり~~~」

 菜摘が今度は私のことをつついてきた。

「羨ましいよ~~」

と突然叫んだのは、花ちゃんだった。


「籐也君じゃ、絶対にない。すごくいつも、クールっていうか、一緒にいて楽しいのかな?って疑っちゃうくらい、そっけないっていうかさ」

「それはかっこつけてるだけじゃない?」

 蘭がそう聞くと、

「ええ?かっこつける意味なんてある?」

と花ちゃんが逆に蘭に聞いた。


「そりゃ、好きな子の前では、かっこつけたいでしょ」

 蘭がそう答えると、菜摘も、

「それに、本気の子とだと緊張しちゃって、うまく話せなくなっちゃうみたいだしね~」

と、にやけながら花ちゃんに言った。

 花ちゃんは何も言わずに、真っ赤になった。


 電車は、終点に着き、そこでみんなと別れた。それから家のほうに歩いていくと、前から聖君が傘を持って歩いてきた。

「聖君?」

「お帰り!」

「迎えに来てくれたの?」


「雨降りそうだし、相合傘したいし」

 え~~!!

「あ、ほら、降ってきた」

 置き傘をちゃんと、持って帰ってきたのにな。

「はい、桃子ちゃん」

 聖君は傘をポンってさすと、私のほうに向けてくれた。私はその傘の下に行き、聖君の腕にしがみついた。


「迎えに来てくれて、ありがとうね、聖君」

「どういたしまして」

 聖君は私の顔をわざわざ覗き込み、そう言った。うわ。目の前に、聖君のかわいい笑顔だよ。キュンってしちゃったじゃないか。


「今日は、何をしてたの?」

「試験勉強したり、家の掃除手伝ったり」

「お母さん、聖君のこと、こきつかってない?」

「あはは。ないない。でも…」

「でも?」

「洗顔の仕方とか、教えてくれてさ。日焼けしたからかさついてるって、化粧水だのクリームだの塗ってくれちゃって、ちょっと俺、困っちゃった」


「…」

 お母さん!何を聖君にしてるのよっ!もしかして、じかに聖君の肌に触れたわけ?顔だとしても、嫌だよ~~。

「ねえ、桃子ちゃん、どう?」

 また私の顔の真ん前に、聖君は顔を持ってきた。

「どうって?」

「俺、綺麗になった?」


 聖君の声色が変わった。

「ええ?ど、どうかな」

 やだな。これを機に、まさかエステも受けたいだの、わけわかんないことになったりしないよね?

「あはは!」

 え?

「桃子ちゃん、困ってる?おもしれ~~」

 なんだ~~?からかってきたの?


「女の人は大変だよね。いつもあんないろんなもの、顔にくっつけないといけないわけ?あれ?桃子ちゃんって、なんにもしてないよねえ?」

「うん」

「でも肌綺麗だ」

「そんなことないよ。そばかすあるし」


「ええ?そのそばかすが、めちゃかわいいんじゃん!」

「それは、あばたもエクボと同じだよ」

「そうか、そばかすもほくろも、かわいく見えちゃうのは、そんだけ桃子ちゃんに惚れちゃってるからか」

 きゃわ~~。もう、聖君さっきから、顔から火が出ることばっかり言ってくる。


「あ、真っ赤だ。もしかして照れてる?」

「もう~~。赤くなるのわかってて言ってるでしょ?」

「もちろん!」

 もちろん?あ~~。もう~~。いつもこうやってからかわれてる。

「あははは!今、怒ってる?すねたり怒ると、口とがらせるよね?わかりやすいな~、桃子ちゃんは」

 

 今朝、尻に敷かれてるって言ってたけど、あれ、絶対に違うと思う。聖君はいつもこうやってからかって、私の反応を見て楽しんでる。私のほうが、いつもそれに踊らされてる。

「…」

 聖君は黙って優しい目で私を見た。


「な、なあに?」

「うん」

 まだ、優しい目で私を見ている。それから、ふって笑って前を向いた。

「なあに?私、何か変だった?」

「ううん、いつもと一緒」


「じゃ、何で見てたの?」

「だから、いつもと一緒で、俺の言うことに真っ赤になって、俺のこと好きな桃子ちゃんなんだなって、安心してた」

「え?」

「ごめん、ずるいやつで。そんなことして確認してて」

 ああ、前にもそんなようなこと言ってたっけ。


「そんな確認しなくても、私、聖君が大好きなのに」

 私は聖君の腕に、もっとしがみついた。

「うん。だよね?ああ、それと、真っ赤になるかわいい桃子ちゃんを、見たいってのもあるんだけどさ」

「…」

 う、そんなこと言われると、さらに顔が赤くなっちゃうよ。


「相合傘っていいね?桃子ちゃん」

「うん…」

 しばらく聖君は黙って歩いていた。私の速度に合わせて、ゆっくりと歩いてくれる。雨のにおいに混ざって、聖君のにおいもしてくる。ああ、ほっとする。どうして聖君の隣は、こんなに安心するんだろう。傘にあたる雨の音ですら、優しい音に聞こえてくる。


 聖君とだと、ただ黙って歩いてるだけでも、ものすごく心が満たされていく。聖君の優しいあったかいオーラを感じられて、私の心が喜んでいるのがわかる。

「凪、どんだけ大きくなってるかな。楽しみだね」

 聖君は優しい声でそう言った。

「うん」

 私はその言葉にうなづいただけだけど、聖君はそんな私を優しい目で見ていた。


 家に帰り、私はすぐに着替えをしに2階に上がった。聖君はキッチンにいた母に、何やら話しかけていたけど、何を話にいったのかな。

 着替えを済ませ、一階に下りると、

「病院の帰り、夕飯外で食ってくる?」

と聖君が聞いてきた。


「うん!」

 嬉しい。聖君とデートだ。ああ、さっきの菜摘の言葉を思い出す。2人でいたら、何でもデートなんだよって。

「じゃ、桃子のことよろしくね。お母さんもエコーで凪ちゃんを見たいけど、これから、おばあちゃんのところに行かないとならないし」

 母がそう言ってきた。


「もしかして、またぎっくり?」

「ううん。お姉さんが来てるのよ」

「え?実果おばさん?どうして?」

「あんたたちのお祝いを持ってきたのと、あと、幹男君のことできたんじゃないかしらね」

「お祝いを持ってきてくれたのに、俺ら挨拶行かないでいいんすか?」


「いいの。会うつもりなら、向こうからうちに来るはずだから」

「え?どういう意味?」

 私は母の、ちょっと嫌そうにしている顔が気になり、聞いてみた。

「あまりよく思ってないみたい。桃子の結婚」

「…」


「ずっとおじいちゃんとおばあちゃんに、あれこれ言ってたみたい。でも、おじいちゃんがそんなの気にするなってお母さんには言ってくれてたし、これは桃子の耳には入れないほうがいいって言われてたんだけどね。でも、いずれはわかっちゃうことだもんね」

「そうなんすか」

 聖君はちょっと、がっくりしてるようにも見えた。

「お姉さん、常識人間だから。幹男君が同棲してるのも、反対してたみたいだし。それも文句言いに来たんじゃないの?」

「そっか~、お母さんとは正反対なんすね」

 聖君がそう言うと、母は思い切りうなづき、

「幹男君も、あれじゃ大変だわ」

とそう言って、またキッチンで夕飯の準備を始めた。


「お母さん、ご飯は家で食べるの?」

「お父さんとひまわりの分よ。多分、お母さんは遅くなりそうだから、向こうで食べると思うわ」

「じゃあ、私がみんなの分、帰ってきてから作ろうか?」

「いいわよ。聖君とデートしてきなさいよ。さっきも聖君が夕飯作ってくれるって言ってくれたんだけど、桃子とどこかで食べてきてって話したところよ」

 母にそう言われ、私は聖君を見ると、聖君はニコって笑って、

「はい、そんじゃ遠慮なく、デートしてきます」

とうなづいた。


 聖君と車に乗り込んだ。

「もうシートベルト苦しくない?」

「うん、まだ大丈夫だけど」

「今日先生に聞いてみようよ」

「うん」

 聖君は、シートベルトを締めながらそう言ってくれた。そして、チュッてキスをしてきた。


「桃子ちゃん」

「え?」

「あのお母さんでよかったって思わない?」

「え?どういうこと?」

「俺、あのお母さんのあっけらかんとしたところ、好きだな。っていうか、俺に似てるって思うよ」

「そうだね、私もそう思う」


「あと、おじいちゃんも、俺好きだな。あ、絵を描きにおいでって言ってたっけ。試験終わったら行こうかな」

「うん」

 聖君は車を注意深く発進させた。

「聖君」

「ん?」


 私は聖君の横顔をじっと見ながら声をかけた。聖君は前を向いていたけど、すごく優しい声で返事をしてくれた。

「私もお母さんや、おじいちゃん、大好き。おばあちゃんもお父さんも」

「ああ、俺も。お父さんやおばあちゃんも好きだよ?」

「聖君がね」

「うん」


「私の家族のことを好きで、大事に思ってくれてるのがすご~~く嬉しい」

「あはは。それ、逆でしょ?」

「え?」

 聖君は爽やかに笑いながら、話を続けた。

「みんなが俺を大事に思ってくれてる。それ、痛切に感じちゃってるよ?俺」

 聖君は私の手を、ぎゅうって握ってきた。


「そういうふうに言ってくれる聖君が好き」

「え?」

「大好き」

「うん。俺も桃子ちゃん、大好き」

 聖君は優しく私に微笑みかけ、また前を向いた。


 ああ、やばいな。今、すんごく幸せで、とろけちゃいそうだ。

 あ!今、凪が動いた。それも、ぐにょ…だけじゃない。ぐにゅ~~、ぐにゅ~~って動いているのがわかる。お腹の中で揺れてるんだろうか。

 もしかして、聖君の優しいオーラを感じて、気持ちよくって揺れてるのかな。

 検診で、凪のことを見れるのも、心臓の音を聞けるのも楽しみにしながら、私はしばらくの間、2人の時間に酔いしれていた。




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