第14話 彼に似ている
12時頃、お店が忙しさのピークを迎え、聖君のおばあさんがまた、手伝いに行った。リビングには、私とおじいさん、そしてクロが残った。聖君のお父さんは部屋に行き、仕事を始めていた。
クロは、聖君のおじいさんのすぐ隣に寝転がり、ものすごく甘えている。
「桃子ちゃんって、聖のどこに惚れたの?」
聖君のおじいさんに、突然聞かれた。
「え、どこって、はじめは海の家で聖君がバイトをしていて、私が客で、聖君の笑顔に一目惚れしちゃって」
「へえ!そうなんだ」
「じゃ、聖のどんなところが一番好き?」
「え?どんなところって…。えっと、えっと」
困った。どこかな。
「あの、いろいろとあって、一番って言われても」
「ああ、そっか~。あはは、ごめん。じゃあ、質問を変えようね。聖って、どんなやつ?」
「どんなって」
う~~んと…。
「優しいです」
「優しい、それだけ?」
「限りなく優しいです」
「あははは、限りなくか~~。でも、本当にそれだけ?」
「……、笑い上戸です。あ、けっこう意地悪です」
「あはは。そうなんだ」
「それから、シャイです。でも、甘えん坊です」
「ふうん」
「あ、あ、こういうこと私が言ってたって、内緒にしてください。聖君、あとですねそうだから」
「怒るんじゃなくって?」
「あまり怒らないです」
「ふうん。じゃ、全部聞いたこと、内緒にしてあげるよ」
「はい」
「で、他には?聖って、どんなやつ?」
「…可愛いんです」
「へえ。どういうところが?」
「どういうって、全部が」
「はあ…」
「それにかっこいいし」
「え?どんなところが?」
「何をやらせても、できちゃうんです。すごいんです」
「そうなんだ…。あはは。なんか思い切りのろけられてるだけだね、こりゃ…」
聖君のおじいさんは目を細めて笑うと、
「聖、思いっきり惚れられてるんだな~~」
とそう言った。
「それ、よく言われます」
「え?」
「桃子ちゃん、俺に惚れすぎ、やばいよって」
「あははははは、そうなんだ。なんだな~~、聖、そりゃ、喜んでるわけだよな~~」
「え?」
「桃子ちゃんの話をするとき、いつも顔がにやけっぱなし」
「そうなんです。年中、にやけてます」
「あれ?桃子ちゃんの前でもそうなの?」
「はい」
「その顔は?さすがに呆れちゃう?」
「いいえ。そんな顔も可愛いんです」
あ、言ってて恥ずかしくなって、顔が思い切りほてっちゃった。ポ…。
「ああ、そう。そうなの。にやけ顔までもが、可愛いんだ」
聖君のおじいさんは、呆れながらそう言うと、
「クロ、どう思う?聖のお嫁さん。え?何々?お前も大好きなの?ああ、そうなの」
と、クロに突然、話しかけた。それから、ワシワシってクロの背中をなでまくると、クロは、嬉しいって思い切り尻尾を振った。
「あはは、可愛いな、クロ。でも我が家にも、クロがいるんだよな」
「え?」
「伊豆の家にね、ボーダーコリーがいるんだ」
「クロって名前ですか?」
「そう、昔から、クロって名前ばっかり」
「そうなんですか」
「クロが正月に来たら、うちのクロと、めちゃ仲良くなってた。ね?」
「へ~~」
「桃子ちゃん、今度伊豆においでね」
「はい」
「ケーキ作るの得意なんでしょ?俺の娘も得意なんだ。一緒に作ってみたら?」
「はい!嬉しいです。えっと、春香さんですよね?」
「そう。聖から聞いてる?」
「はい、パテシエだって」
「ふうん。聖、うちの家族の話、よくするの?」
「はい」
「桃子ちゃんは、元気だね」
「え?」
「元気よく、返事をするなって思って。聞いてて、気持ちがいいね」
「あ、あれ?」
「え?どうしたの?」
「いつもは、大人しいとか、声が小さいとか言われるんですけど、なんでかな?そういえば、私、さっきから、元気いいですよね?」
「あはは!なんだ~~。いつもは違うの?もしかして、緊張してるとか?」
聖君のおじいさんは、また目を細めて笑った。
「いいえ、私、緊張すると話せなくなるし、声も小さくなっちゃうから」
「じゃ、リラックスしてるの?だとしたら、こっちの桃子ちゃんが本当の桃子ちゃんじゃないの?」
「え?そうなのかな」
「クス。面白いね、桃子ちゃん」
あ、その笑い方も、聖君に似てる。
不思議だ。血はつながっていないのに、聖君は、おじいさんと似てるんだ…。
「聖といても、リラックスしてる?」
「はい。すごく落ち着くし、安らぐし」
「ふうん」
「でもまだ、ドキドキしちゃうし、笑顔見ると、胸キュンしちゃうし」
「あはははは。そうなの?可愛いね」
あれ?なんで私、こんなことさっきから、べらべらと話してるんだろう。
それから1時間くらい、おじいさんと二人で話をしていた。伊豆の話、若い頃のおばあさんとの恋愛話、それに聖君が小さいときの、思い出話。あっという間に時間は過ぎていった。
「じいちゃん、桃子ちゃん、昼食べて」
聖君が二人分のランチを、リビングに持ってきた。
「あと、ばあちゃんもこっちで食べるから、もう一人分持って来るね」
「おお、悪いな」
そして、もう一人分持ってきたあとから、おばあさんがコーヒーを二人分と、私にはホットミルクを持ってきてくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
おばあさんが、リビングに座ると、おじいさんが、
「瑞希、どうだった?店、混んでた?」
と聞いた。
「混んでたわよ~。大繁盛。久しぶりのれいんどろっぷす、活気があって楽しいわね」
「伊豆の店は、毎日、客がまばらだもんな~。ま、それがいいんだけどね」
「そうね~。あんなに混んでたら、くるみさんも大変だわ」
3人で、いただきますと手を合わせ、食べだした。
「でも、聖はすごいわね。よく働くのなんのって。とにかくなんでもできちゃうのが、すごいわね」
「なんでもって?」
聖君のおじいさんは、すごく美味しそうに食べながら、聞いた。
「なんでもよ。野菜切るのも、炒めるのも、味付けも、盛りつけも、それにコーヒー淹れるんでも、なんでも。あ、ケーキも作れるし、スコーンも焼けるのね。すごいわ」
「へ~~。うちの店でも手伝ってもらえばよかったな」
「それにね~、圭介。ものすごくもててる!さっきから、女の子がよく来るんだけど、みんな聖のこと目をハートにして見てるのよ。聖、ものすごい笑顔で対応してて、みんなして目がとろん…」
「え?そうなんだ。桃子ちゃんみたいな子がいっぱいいるんだね」
「あ、そうそう。なんかね、どこかに行ったおみやげってのをくれた子がさっきいて、リビングで食べてって、聖がくれたのよね」
そう言うと、おばあさんは、エプロンのポケットから、3個、小さな袋を出した。
「クッキーかしらね。食後に食べましょう」
「お土産?」
「そうみたい。たまにくれるみたいよ。ご家族でどうぞって」
「もてるね~~。聖に結局は、くれるわけでしょ?」
「そうみたいね。ありがとう、みんなで食べるねってにっこりと笑って、受け取ってた」
「え?!」
私がびっくりすると、二人が同時に私を見た。
「どうしたの?桃子ちゃん」
聖君のおじいさんが聞いた。
「あ、いえ。お店だからかな?聖君、女の子にはすごくクールで、硬派だから、ものをもらったりしないんですけど」
「そうなんだ。へ~」
聖君のおじいさんは、そう言うと、またご飯を食べだした。
しばらくは、静かに3人で食べた。聖君のおじいさんは、すごく味わって喜んで食べている。そして、
「ごちそうさまでした」
と言うと、
「ああ、うまかった」
とすごい笑顔でそう言った。ああ、こんなところまで、似てる…。
その表情をじっと見ていると、聖君のおばあさんに気づかれた。
「圭介がめずらしいの?」
「え?」
「じっと見てたから」
「い、いえ、聖君に似てるなって思って」
「あら、どういうところが?」
おばあさんに聞かれた。
「美味しそうに食べるところとか」
「あ~~。これね!爽太がそうなのよ。だから、聖もそうなっちゃったんじゃないの?」
「あ、そうですよね。聖君のお父さんも美味しそうに食べますよね」
そうか。遺伝じゃなくって、見て育ってるから、似るのか。
「そうだ。瑞希、俺、ここでず~~っと桃子ちゃんのおのろけ話、聞かされていたんだよ」
「え?どんな?どんな?」
3人で、お土産のクッキーを食べながら、そんな話が始まった。
「お、おのろけじゃないです!おじいさんが、聖君はどんなやつって聞いたから、それに答えてただけで」
「まあ、聞かせて!」
「え?」
聞かせてって、目を輝かされても…。
「瑞希~~。覚悟が必要だよ、覚悟が。すんげえ、のろけ話だから」
「そ、そんなのろけてないです~~」
「あはははは。真っ赤だ、真っ赤。すげえ可愛いね。桃子ちゃんってさ」
ああ、そんなところまで、聖君に似てる…。
「もしかして、圭介、桃子ちゃんとすごく仲良くなっちゃったんじゃ」
「うん!もうめっちゃくちゃ仲良くなった~~~」
「ずるいわよ。ちょっと、あっち行って、今度は圭介が手伝ってきなさいよ。私が桃子ちゃんとお話しするから」
ずるい?
「え~~。かったるい。店なんて行かないよ。そうだ!クロ、散歩行く?」
「外~~?暑いわよ?」
「いいよ。行こうか、クロ」
ワン!クロは尻尾を思い切り振ると、おじいさんと外に行ってしまった。
「かったるい?」
おじいさんの、発言にびっくりだ。
「圭介と本当に、いっぱい話していたの?」
「はい。いろんなこと」
「圭介って、誰とでも仲良くなっちゃうのよね~」
「聖君もですよね」
「ああ、そういえば、そういうところ、似てるわね。爽太はけっこう、苦手な人は苦手だし、顔にも出ちゃうし、人見知りもするほうだけどね」
「え?そうなんですか?」
「桃子ちゃんのことは、すぐに気に入っちゃったようだから、受け入れちゃったと思うけど」
「はい。初めて会ったときから、優しかったです」
「そう」
「聖君のお母さんも優しいし、杏樹ちゃんは可愛いし、私、みんな大好きで」
「ふふ。くるみさんも、桃子ちゃんは、すんごい可愛いって言ってたわね~」
「え?そうなんですか?」
「もう、可愛くって、娘にしたいって言ってたのが、叶っちゃったものね~」
「え?娘に?」
「そう。杏樹ちゃんとは違ったかわいらしさがあるって。でも、わかるな~~。それ。本当に可愛いもの」
おばあさんからそう言われ、真っ赤になってしまった。
「あら、真っ赤」
ああ、おばあさんにまで言われた。
「くすくす。こりゃ、聖が惚れまくるわけよね~~」
ああ、おばあさんにまで、言われてる…。
しばらくすると、聖君のお母さんが顔を出した。
「あれ?お父さんは?」
「クロ、連れて散歩に行った」
「え?こんなに暑いのに、真昼間から?」
「そう」
聖君のお母さんも呆れたって顔をした。
「そうだ。桃子ちゃん、店に桐太君が来てるの。桃子ちゃんが来てるって言ったら、会いたいって」
「え?桐太?」
「うん、どうする?こっちにあがってもらう?」
「いえ、私がお店に行きます」
お店に顔を出すと、桐太と聖君が、カウンターでご飯を食べていた。お客さんはテーブル席に二人いるだけで、お店はすいていた。
「麦ちゃんも、食べちゃって~~」
という聖君のお母さんの声に、キッチンから麦さんが顔を出した。い、いたんだ。麦さん。今日のバイトは、桜さんじゃなかったんだ。
「あれ?あなた来てたの?」
私を見て、麦さんが冷たくそう言った。う、視線が痛い。
「なんだよ、麦女もいたのかよ」
桐太が、麦さんにそう言った。
「あんたも来てたの?暇ね」
麦さんは、桐太にもきつい言葉をあびせた。
麦さんは、桐太の隣に用意してあったランチセットを、わざわざ聖君の隣に運び、聖君の横に座った。
「いただきます」
とそう言ってから、桐太の方においてあったソースを、
「聖君、ソース取って」
と聖君の腕を触りながら、そう言った。
あれか!ひまわりが言ってた、タッチをして話をするってのは!それもちょっと触るなんて、ものじゃない。手で、思い切り、聖君の腕を掴んでいた。
ムカ。あ、私、ムカッてしてる。
「ほい」
桐太がわざわざソースを持って、立ち上がり、麦さんのところに持っていった。
「え~~。聖君に頼んだんだけど」
「俺の前にあるんだから、俺に頼めば!」
桐太がそう言った。
「それに持っていってやったんだから、ありがとうだろ?」
桐太は、半分怒っていた。
あわあわ。もしかして、この二人は、犬猿の仲…とか?間に入っている聖君は、複雑な顔をして食べていた。
「ごちそうさん」
聖君はあっという間に食べ終わると、さっとお皿を片付けにキッチンに行った。
私は桐太の横に座り、桐太は、食べながら、話をしていた。
「聖のばあちゃんとじいちゃん、来てるんだって?会った?桃子」
「うん。今、ずっとお話してたよ」
「ああ、リビングで?今日はずっとここにいんの?」
「うん、いるよ」
「じゃあ帰りも寄ろうかな。あ、可愛い桃子にあいそうなTシャツ、また入ったよ。いる?」
「え?う~~ん、どうかな。サイズ…」
「Sもあるよ」
「Sが入るかな」
「え?」
「そうね。なんだか、あなた太ったみたいだし」
横で聞いてた麦さんが、口を挟んだ。
「え?」
「しばらく見ないうちに、太ったんじゃない?それに夏だっていうのに、真っ白。だいたい、まったく店にも顔を出さなかったし、花火の日もいなかったし、なんだか具合が悪いって聞いたけど、何してたのよ」
「…何って」
これは、困った。
「私、本当は聖君と別れたんだと思ってた。だから、最近、聖君、女の子に愛想よくなったんだって」
「え?」
何それ。
「さっきも、旅行のお土産もって来た子がいたの。ああいうの前は、ごめん、受け取れないってさっさと断ってたのに、最近、受け取るのよね、ありがとうって喜んで。今まではあなたが、そういうのはやめてって言って、やめさせてて、別れたから、受け取るようになったのかと思ってたんだけどね」
な、何よ。それ~~~。
「桃子と別れるわけないじゃん。な、桃子」
「あなたは黙っててよ」
「なんでだよ。だいたい、桃子との会話に割り込んできたのは、そっちだろ?」
「あなただって、聖君と桃子さんが別れたほうが、嬉しいんじゃないの?」
「なんでだよっ!」
「ああ、もう。店の中で喧嘩はすんなよな」
聖君が、慌ててキッチンから顔を出した。
「麦ちゃんも食べ終わったんだったらさ、悪いけど、洗い物手伝って。それと、桐太は仕事だろ?食ったらさっさと戻れよ」
「なんだよ。ひさびさに桃子に会えたから、いっぱい話があったのに」
「直接話しなくても、メールしあってるくせに」
え?なんで知ってるの?私の携帯見たとか?!!!
「それは、そうだけど…。ちぇ。また帰りに寄るよ。いるよね?桃子」
「え?うん」
「じゃあな。金、ここに置いてくから」
「ああ。はいはい。毎度あり!」
聖君はそう言いつつも、手で桐太のことを追っ払っていた。
「あ~~あ。帰りも寄らなくてもいいのにな。まじで、桃子ちゃんと会えて、喜んでるじゃん、あいつ」
「メールしてるの、知ってた?」
「桐太が、よく桃子ちゃんとはメールしてるって、言ってたから」
「…」
桐太~~。そういうのもばらしちゃ駄目なのに~~。あの悪代官め。口が軽いじゃないか!
「ばあちゃんとじいちゃんと、仲良くなった?桃子ちゃん」
「うん。すごいいっぱい話しちゃった」
「あはは。やっぱりね。緊張しなかったでしょ?」
「うん。すごく安心してた」
「やっぱりね」
聖君はそう言うと、にっこりと笑って、私の耳元で、
「また、リビングで休んでて。夕方、朱実ちゃん来るから、そうしたら俺、2時間くらい、休憩もらうからさ」
とささやいた。そして、
「そうしたら、俺の部屋行って、いちゃつこうね」
と言い、そっと耳にキスをした。
うわわ!焦って、あたりを見回すと、いつの間にか、テーブル席のお客も消えていて、店には誰もいなかった。麦さんも、キッチンに行き、洗い物をしているようで、キスしてるところも見られずにすんだ。
「真っ赤だ」
聖君は私にそう言うと、くすって笑って、キッチンに入っていった。
もう~~~。耳、弱いの知ってるくせに~~。そう思いながら私は、リビングに赤くなったまま、移動した。