第131話 胸キュン
聖君の胸に顔をうずめながら、聖君の腕を指でなぞった。腕の筋肉が固い。なんでそれだけで、ドキッてしてるんだろう。
あ~~~。今、思い切り聖君のにおいに包まれてるな、私。
聖君に抱かれた後って、もしかして私からも聖君のにおいがするのかな。
「桃子ちゃん」
「うん?」
聖君は私を呼んだのに、何も言ってこない。
「なあに?」
「呼んでみただけ」
「え?」
「呼んでみたかっただけ」
それ、ちょっとわかる。私もただ、聖君の名前を呼びたくなる時あるもん。
「すげえ、癒された」
「え?」
「すげえ、今、胸が満たされてる」
「うん。私も」
「俺、どんだけ桃子ちゃんといて、いつも癒されてるのか、わかった気がするよ」
「え?」
「いつも一緒にいるから、それが当たり前のようになってたけどさ」
聖君はそう言うと、私の胸を触ってきた。
うわ。今、ドキンッてしちゃった。
「桃子ちゃんって、まじで、すげえ優しいオーラだよね。それにあったかくって柔らかい」
「聖君も優しくてあったかいよ?」
「それ、桃子ちゃんと居るときだけだよ」
「そうかな」
「カッキーに言われたもん、俺」
「え?なんて?」
「聖君は楽しい人だけど、隣にいても、壁を感じるってさ」
「壁?」
「そうだろうね。俺、一線引いて接してるもん」
「カッキーさんみたいな人でも、苦手?」
「うん」
「そっか」
「似てないよね?」
「え?」
「桃子ちゃんと」
「うん」
「こんなに俺、一緒にいて癒されるのは桃子ちゃんだけだと思うよ」
「私だって、聖君だけだよ。でも、聖君は…」
「ん?」
私がちょっと黙ると、聖君が顔を上げて私を見た。
「安心もするけど、でも、ときめかせてくれる」
「え?」
「今日だって、ずっとドキドキしてた」
「俺が抱いてる間?」
「うん」
「…も、も~~。桃子ちゃんってば!」
聖君はそう言うと、私のおでこにキスをして、
「そっか。そういえば、今日の桃子ちゃんの鼓動早かったかもな」
とそんなことを言った。
「今もだよ?」
「ほんと?」
聖君は私の上に乗ってきて、胸に顔をうずめた。
「あ、ドキドキしてる」
「でしょ?」
「桃子ちゃん、かわいい」
ドキ。ああ、そんな言葉にまでときめいてる。
「あ、首から胸まで、真っ赤になってく。今もときめいちゃってるの?」
「うん」
「…」
聖君は目を細めて私を見ると、キスをしてきて、
「やばいね」
とぽつりと言った。
「え?」
「また抱きたくなっちゃった」
「…」
どどど、どうしようかな。私もまた、愛されたいな。う、でも、凪大丈夫かな。
私が黙っていると、聖君は優しく私のほほをなで、
「だけど、桃子ちゃん、明日学校だし、もうそろそろ寝ないとね」
と優しくそう言った。
「うん」
本当は残念がってる。だけど、凪のことも考えると、今は我慢かな。
「聖君」
「ん?」
「聖君」
「なあに?」
聖君は優しく私を見た。
「また聖君に、惚れちゃったと思う」
「え?」
「聖君の胸に抱かれてるの、すご~~く嬉しい」
「…」
聖君が、どうやら照れてるらしい。黙り込んだ。
「すご~~く幸せ」
「うん、それは俺も」
「愛されてすご~~く嬉しかった」
「え?」
「聖君に愛されて、私、すごく幸せ」
「う、うん」
むぎゅ。聖君に抱きついた。
「聖君の胸、大好き」
「うん」
「…」
駄目だ。これはきっと、きっと。
「聖君」
「うん?」
「やっぱり、やっぱり」
「ん?」
「もう一回、愛されたいな」
「え?」
「でも、凪のこともあるし、その…」
「うん」
「さっきみたいな激しいのはちょっと」
「あ、やっぱりちょっと、激しかった?」
「うん」
「…」
聖君は黙り込んだ。あ、なんか私変なこと言ったかな。
「じゃあ…」
聖君は私を優しく見ると、
「めちゃ、優しくするね?」
と言ってきた。
うわ!その言葉にもまた、ドキッてしてるよ。
どうしちゃったんだ、今日の私。なんでこんなにも、聖君の表情や言葉にときめいちゃってるんだろう。
聖君が大好きで大好きで、めちゃくちゃ大好きで、たまらないくらい大好きで。
聖君は本当に、優しかった。甘くって、とろけそうな時間が過ぎていった。
私は、聖君に腕枕をされて、うとうとしてしまった。
「桃子ちゃん、パジャマ着よう。裸じゃさすがに体冷えちゃうよ?」
「うん」
「桃子ちゃん、だから、寝ちゃダメだって」
「うん」
聖君の声が、まるで子守唄のように聞こえる。瞼が重くてあかないし、とても気持ちがいい。
「桃子ちゃんってば、しょうがないな~」
「…」
半分すでに、夢の中。聖君の優しいオーラ、なんて気持ちがいいんだろうって、夢の中でも思っている。
って、あれ?聖君、もしかして、私に下着やパジャマ、着せてくれてる?
パチ。目があいた。
「聖君?」
「あ、桃子ちゃん、起きた?でもいいよ、寝てて。あとはパジャマのボタンはめるだけだから」
うそ~~。
「もしかして、全部聖君が着せてくれてた?」
「うん」
うわ~~~~!恥ずかしい。
私が思い切り照れてると、
「あれ?なんで恥ずかしがってるの?脱がしてるのも俺だよ?だから、着せても別に、恥ずかしいことじゃないでしょ?」
「は、恥ずかしいよ」
「そう?」
聖君は不思議そうな顔をして、
「はい。ボタンもはめられた。寝ていいよ」
と優しく言った。そして、
「おやすみ」
と聖君は私に、優しくチュってキスをして布団をかけてくれた。
なんで、こんなにも優しいんだか。その優しさでとけそうだ。
「おやすみなさい」
私は目をとろんとさせ、聖君をうっとりと見つめてそう言った。
「あはは。すげ、眠そう。俺といちゃついてる夢でもみてね」
聖君は笑ってそう言った。
眠いんじゃなくて、聖君にうっとりしてたの。と言いたかったけど、聖君のほうがさっさと目を閉じてしまい、言えなかった。
そしてすうって、かわいい寝息を立てて聖君は寝てしまった。
その寝顔をしばらく見ていた。無防備で、子供のようにかわいい寝顔だ。
まいった。かわいすぎちゃう!私は思わず聖君にキスをして、むぎゅって抱きしめた。
「ん~~~。桃子ちゃん、俺、3回は無理」
え?
今の、寝言?寝てるよね。それとも起きてるの?
「駄目だってば、桃子ちゃん…」
え?私何もしてないよ。
「だから、もう○▽×××…むにゃ…」
やっぱり寝てる。寝言だ。
いったいどんな夢~~~?!
「でへへ」
あ、思い切りにやけた。絶対にエッチな夢だ~。もう~~~。
あ~あ。こんなにやけ顔、もし合宿のときの同室の人に見られたら、どうするの~~?
っていうか、聖君のこのかわいい寝顔も見てたりしたら、いくら男の人だって、かわいい!ってならない?
…。ならないか。
でもでも、桐太だったらわからないよ?聖、かわいい~~ってなったりするかも。
そっか。男の人だから安心だってことは、ないんだよね。
「愛してるよ」
え?
「愛してるよ、桃子ちゃん」
今のも寝言?
うわ。顔が思い切りほてった~。寝言だ。しっかり寝息立ててるし。寝言で愛してるって言ってくれたんだ!
ク~~~!!嬉しいやら、照れくさいやら、聖君がかわいいやら。
駄目だ~~。嬉しすぎて目がさえた。寝れそうにない。
私はまた聖君の胸に、びとってくっついてみた。ああ、髪に聖君の息がかかる。
もそもそ。ちょっと起き上がり、聖君の顔をまじまじと見た。それから、そっとキスをして、鼻にも頬にも、おでこにもキスをしてみた。
「ん~~」
聖君が、ほんの少し目を開けた。あ、起こしちゃったかな?
「…」
あ、目があった。
「襲わないで、桃子ちゃん」
え?!
あ、また目閉じた。すうすうって寝息を立て始めた。
起きてたの?寝てたの?どっち~~~?
翌朝、誰かに抱きしめられてる感覚で、目が覚めた。あ、聖君が背中にくっついてたのか。
ん?それどころか、胸触ってきてる。
「聖君」
「あ、起きた?」
「朝から襲わないで」
と自分で言って、昨日の夜のことを思い出した。
「聖君、どんな夢見てたの?」
「夢?」
「昨日、寝言いっぱい言ってた」
「なんて?」
「えっと、桃子ちゃん、襲わないで、とか」
「俺?そんなこと言ってた?」
あ、やっぱり寝てたんだ。
「言ってたよ」
「覚えてないな。どんな夢かな。桃子ちゃんに襲われるっていう夢だよね、やっぱり」
「…」
まだ、胸触ってる。
「聖君、胸」
「むぎゅ~~」
あ、抱きしめてきたし…。
「こうやって、1日抱きしめていたい」
「え?」
「なのに、バイトに行かなきゃいけないし、桃子ちゃんは学校だし…」
「うん」
「寂しいね」
「うん」
それは私だって!
「あ、今突然思い出した」
「何を?」
「夢だよ。桃子ちゃんが、すげえ色っぽい顔をして、俺に迫ってくるの。抱きついてくるし、あちこちキスしてくるし」
ドキ。それ、してたかも…。
「それで俺、もう3回は無理だよって言ってるんだ」
うん、言ってた、それ。
「そしたら、桃子ちゃん、すねちゃって。すげえかわいくって」
「…」
「俺、思わず抱きしめちゃうと、桃子ちゃんがまた、俺のこと襲ってくるの…」
「お、襲うって、どんなふうに?」
「キス攻め。メッチャうれしいんだけど、ほら、昨日はさすがに俺も、へばってて…」
「…」
「今度、俺が元気な時に、キス攻めしてきてね?」
「しないよ~~」
恥ずかしくてそう言うと、
「なんで~~?いいじゃん、してくれても」
と聖君はまた、ぎゅって抱きしめながらそう言った。
「…」
「ね?」
「う、うん」
実はすでに、昨日の夜、寝てるすきにキスしてたけど。それは内緒。
「起きなくっちゃね」
「うん」
そう言ってもまだ、聖君は私に抱きついている。
「もう、7時過ぎてる」
「うん」
「聖君、腕どけてくれないと私、起きれないし、着替えられない」
「着替え、してあげようか?」
「い、いいよ~~~」
昨日パジャマ着せてもらっただけでも、かなり恥ずかしいのに。
「じゃ、脱がせるのだけでも手伝おうか?」
「いいってば!」
もう、朝っぱらからスケベ親父だ。
「大丈夫だよ。さすがに今朝はそんなに元気ないし、その気にはならないって」
「そういう問題じゃないの!」
もう~~~。って、なんでパジャマのボタンはずしてるの?
「聖君、いいってば」
え?なんで首筋にキスしてくるの?その気にはならないんじゃなかったの?
「あ~~~。ずっと抱きしめていたい」
聖君はそう言うと、胸に顔をうずめてきた。
「離れたくないよ~~~」
ああ、もう。そんなかわいいこと言わないで。
「桃子ちゃん、学校休まない?」
「休まない」
「じゃ、せめて遅刻」
「遅刻もしない」
「ちぇ~~」
ちぇじゃないよ、もう。駄々っ子だな、こりゃ。
「しょうがない。夜まで我慢するか」
「え?」
「あ。今日は一緒に風呂入ろうね」
「うん」
聖君はようやく起き上がり、ベッドを降りた。そして着替えをすると、一階に下りて行った。
「もう…」
ボタン外されたり、首筋にキスされただけでも、ドキドキしちゃうのに。
ああ、私ってば、今日も聖君にときめいちゃってるよ~~。本当は私だって、1日聖君にひっついていたいよ~~。
そんな気持ちで下に行くと、父とめちゃくちゃ爽やかに笑いながら、ダイビングの話をしている聖君がいた。
あ~~。さっきの駄々っ子聖君と同一人物とは思えないよ。何、この変わりよう…。
でもさ、そんな爽やかに笑ってる聖君も、めちゃくちゃかっこいいんだけどさ。
そして、まだ日焼けの色がおさまらない、真っ黒な聖君に、いまだに胸キュンしてる私がここにいる。