第129話 似てる?人
「聖君、疲れてるの?」
突然、カッキーさんが聖君に聞いた。
「え?いや、別に」
あれ?聖君、言葉少ないし、笑顔もない。もしや、カッキーさん、苦手とか?
「本当?やたら静かだから、疲れてるのかなって思ったけど。ずっと車も運転してたし、早く帰って休みたかったんじゃない?」
「いや、運転するのは好きだし、それに飯も食ったし、大丈夫だよ」
聖君は静かにそう言った。
「でも合宿中はもっと、元気だった」
「ああ、今、静かだから?」
「聖はいつも大騒ぎしてるわけじゃないよ、なあ?」
木暮さんがそう言った。
「そうなんだ。ずっとわいわいはしゃいでいたし、明るく笑ってたから、いつもそうなのかと思った」
カッキーさんがそう言ってから、
「あ、でもそういえば、女にはやたら冷たいとか、クールだとか、女と話さないっていう噂は聞いたことがあった。彼女もいるし、あいつはやめときなって、同じ講義受けてる人にも言われたっけ」
と、思い出したって顔をして言った。
「そうそう。こいつ、男とははしゃぐけど、女性がいると静かなんだよ」
木暮さんにそう言われ、
「え~?でもでも、菊ちゃん先輩や麦ちゃんとは、いっぱい話してたよね?」
と、驚きながらカッキーさんは、麦さんに聞いた。
「私にも初めのうちは、冷たかったよ。聖君、心許せる人にしか、話しかけたりしないんだよね」
「え?」
「特に女性にはそうだよね。苦手なんでしょ?女の人」
麦さんが聞くと、
「うん」
と聖君はうなづいた。
「じゃ、今静かなのって私がいるから?」
カッキーさんは顔を曇らせて、聖君にこわごわ聞いている。
「あ、違うよ。今はほっとして、静かだっただけで」
「ほっとして?」
「っていうか、えっと。こっちも俺なの。静かな時もけっこうあるんだよ。だからあまり、気にしないでいいよ」
「…そっか。そうだよね。まだ、聖君のことは今回の合宿でしか知らないんだもん。わかるわけないよね」
カッキーさんがちょっと安心したって顔で、そう言った。
「奥さんが隣にいたら、そりゃほっともするわよねえ」
麦さんがにやにやしながら、聖君に言った。
「え?」
「本当はもっと、桃子ちゃんに甘えたいんじゃないの?いつもみたいに、いちゃついてもいいよ~~?」
麦さんがそう言うと、聖君は、
「だから、麦ちゃん、余計なことは言わないでいいから」
と慌てて言った。
きっと顔が赤くなってたと思う。でも、日に焼けて真っ黒だから、赤くなっているのがわからない。
っていうか、私がもしかして真赤かな。顔が熱いや。
「なんだよ。そんなにいつもいちゃついてるのか?」
木暮さんが聞いた。
「そうなんだよ。バイトの休憩中リビングで休んでいるときなんて、べったりくっついてて、ほんと迷惑なんだから」
麦さんに言われてしまった。
「め、迷惑って、別に麦ちゃんに迷惑かけてないでしょ?」
聖君が慌てている。
「かけてるよ。目の毒だよ」
「だから、桐太ともいちゃついていいって言ってるじゃんって、店で十分いちゃついてたか」
「いちゃついてないってば。もう~~」
「なんだよ、麦ちゃんも彼氏といちゃついてるのか。いいなあ、独り身には羨ましい話だよ。ね?カッキーも羨ましくない?彼氏いないって言ってたよね?」
「私は別に、興味ないかな」
木暮さんの言葉に、カッキーさんは白けた顔で答えた。
「あ、そうなの?彼欲しくないんだ」
麦さんが聞くと、
「うん。私、結婚にも興味なくて。それよりもっと、いろんなことしてみたくって。海外旅行も行きたいし。だから、あんまり桃子ちゃんが羨ましいとも思わない。逆にこんなに早くに結婚してもったいないって思う」
と冷めた表情で言った。
「え?」
もったいない?
「まだまだ遊んでいたくない?聖君だって。なのにもう家庭に収まっちゃうなんて、私じゃ考えられない」
「へえ、カッキーって見た目、結婚や奥さんになること夢見てる感じするのにね」
麦さんがそう言うと、カッキーさんは、
「そう見えるの?」
と驚いていた。
「確かにな。聖はまだ、大学1年だし、結婚早いなって俺も思ったけど、でも、こんなにかわいい子なんだし、羨しいっちゃ、羨ましいよな」
木暮さんがそう言って、聖君の肘を自分の肘でぐいぐい押した。
「そっか。相手が桃子ちゃんなら、いいんだ」
カッキーさんがそう言って、ちょっと口をとがらせた。
「そりゃ、料理も上手だっていうし、女の子らしいし、こんな子奥さんにしたら、最高だよなってタイプだもんな、桃子ちゃんは」
え?何それ。褒めすぎじゃない?
私は驚いて、木暮さんを見た後、聖君の反応を見た。聖君は下を向き、頭をぼりって掻いていた。
「桃子ちゃんは男の人が奥さんにしたいタイプなの?」
カッキーさんが木暮さんに聞いた後、聖君にも、
「女の子苦手なのに、桃子ちゃんは大丈夫だったの?」
とまっすぐに聖君を見て聞いた。聖君は、カッキーさんをちょっと見たけど、すぐに視線を外し、
「あ~~、桃子ちゃんは最初から、苦手じゃなかったかな」
とぽつりと言った。
「私も、男だったら桃子ちゃんをお嫁さんにするわ」
突然の麦さんの言葉に、私も聖君も驚いて、
「え?うそ」
と同時に聞き返した。
特に私はびっくりして、目を丸くして麦さんを見てしまった。だって、最初の頃、いつもとげのある言葉言ってたよね?私のこと嫌ってなかったっけ?
「最初の頃は、この女の子らしいところも、作り物かと思ってたんだよね。絶対に演技してるって。そうしたら、素なんだもん。ほんと、桃子ちゃんって、おっとりしてて、天然で、お人よしで、一緒にいると癒されるの。すごくかわいいし、絶対に私が男なら惚れるよ。女でも惚れそうだもん」
麦さんの言葉に、木暮さんが、
「麦ちゃんが女の子のこと褒めるの、めずらしいよなあ」
とにこにこしながらそう言った。
私は、どんな反応をしていいか、迷ってしまったが、それよりも聖君の反応が気になり、聖君のほうを見てみた。
あれ?聖君、目まんまるだ。すごく驚いてる?なんで?
「麦ちゃん」
「え?なに?聖君」
「いや、桃子ちゃんの良さを認めてくれるのは嬉しいけど、惚れるのはかんべんして?」
は?何を言ってるの、聖君。
「あはは。聖君、大丈夫だよ。あなたの大事な奥さんを取ったりしないから」
麦さんはそう言うと、しばらく笑っていた。
「ああ、焦った」
聖君は麦さんにそう言われ、ほっとしている。うそ。まじで、焦ってたの?
「癒されるの?」
カッキーさんが麦さんに聞いた。
「うん。桃子ちゃんは癒しの力があるよ」
「そ、そんなことないよ。私何もしてないもん」
「きっと桃子ちゃんは、人を受け入れる器があるんだよね」
「そ、そんな器もないよ」
私が麦さんの言葉を聞き、首を横に振ると、聖君はにっこりと優しく微笑み、
「あるよ。桃子ちゃん自身が気づいてないだけで、俺も太刀打ちできないくらいのでかい器持ってるよ」
と言ってきた。
「ないない。聖君のほうがすごいってば」
「あはは。何言ってるんだか。この前も平原さんのこと、簡単に許してたし、受け入れてたし」
「あれは、だって…。ほっとけなかっただけで」
「くす」
聖君は目を細めて笑って、私を見ている。
「えっと」
やばい。その顔がめちゃくちゃ素敵で、今、キュンってなった!きっと私真赤だ。
「あ、照れて赤くなってるし」
聖君がまたクスって笑った。う、違う。赤くなった理由は、聖君がかっこいいからだよ。
「そこ、いちゃつかない」
麦さんがいきなり注意してきた。
「ええ?さっきはいちゃついていいって言ったじゃん」
聖君が口をとがらせた。
「目の毒。木暮君がかわいそうだよ」
麦さんがそう言うと、木暮さんが、
「ほんと、目の毒だ~~」
と嘆いて見せた。
その横で、カッキーさんはつまらなさそうにしている。でも、その次の瞬間、麦さんのほうを向き、
「麦ちゃん、どうやって、聖君とは仲良くなったの?」
と突然聞いた。
「え?なんで?」
麦さんが驚いて聞き返した。
「あ、ううん。別に。ただ、なんとなく不思議に思っただけ。ほら、最初麦ちゃんにも冷たかったって言ってたから」
カッキーさんは、ちょっと慌てた。
「私が聖君に相談をしてからかな?」
「相談?何か悩み事を相談したの?」
「うん。前は家庭の中のことで、悩んでいたから」
「…」
カッキーさんは下を向き、何かを考えているようだ。もしかして、カッキーさんも悩みがあるのかな。
「それで、聖君だけじゃなくて、桃子ちゃんにも相談に乗ってもらって、2人と仲良くなったんだよね?」
麦さんがそう言って、私と聖君を見て笑った。
カッキーさんはその様子を見て、
「それで、聖君は心を許したの?」
と聖君に聞いた。
「え?うん。そうかな?」
「聖君は心を許した相手は、すごく大事に思ってくれるの。桃子ちゃんもだけど、そんな二人だから、一緒にいると安心できて、癒されちゃうんだよね」
麦さんの言葉に私は驚いた。そんなふうに思っててくれてたんだ。
「私の彼の桐太も、2人のことが大事で、大好きなんだよね」
「え?」
カッキーさんが驚いて、麦さんを見た。
「れいんどろっぷすって、みんな、心を開いてて、あったかいよね」
麦さんはそう言うと、はあって嬉しそうなため息をはき、
「私、2人に出会ってから、変われたもん。ほんと、出会えてよかったよ」
と目を細めてそう言った。
「なんか照れる。ね?桃子ちゃん」
あ、聖君、ほんと照れてる。
「うん」
っていう私も、すごく嬉しい。
「ふうん」
だけど、カッキーさんはまた、つまらなそうな表情で、愛想のない相槌を打っただけだった。
そしてしばらく、つまらなそうにそっぽを向いていた。
「カッキー、食べれないなら、食べようか?」
木暮さんがカッキーさんに聞いた。
「あ。うん、お腹いっぱいだから食べて」
カッキーさんはそう言って、自分の食べてたものを木暮さんのほうに渡し、また、つまらなさそうにぼけっと一点を見ている。
「ああ、美味しかった」
麦さんがそう言って、
「ごちそう様」
と手を合わせた。
「桃子ちゃんもよく食べてたよね」
麦さんに言われた。
「前は、カッキーみたいに残してたのにね」
「う、でもね、あまり太っちゃうとよくないらしくって、もっと気を付けないといけないんだよね」
「ええ?桃子ちゃん、小食だったし、今でちょうどいいんじゃないの?」
「そうかなあ。だけど、太ると、産むとき大変らしいし、赤ちゃんも大きくなりすぎると、大変になるみたいだし」
「ああ、そっか。帝王切開になったりしたら、大変だよね」
「帝王切開?」
聖君が麦さんの言葉に、びくんって反応した。
「桃子ちゃん、線が細いし、難産にならないといいね」
麦さんが心配そうにそう言った。
「う、うん」
そうか。難産か。そういうこともありえるのか。
「…」
聖君も、真面目な顔をして私を見てる。
「ええ~~。やっぱり私じゃ考えられない」
カッキーさんが突然そう言うと、すごく嫌そうな顔をして、
「帝王切開ってお腹に傷残るでしょ?それに、妊娠って体型も崩れそう。赤ちゃん産むの、私、嫌だな」
と低い声で言った。
「カッキー」
麦さんが、肘でカッキーさんの腕をつついた。
「え?なあに?」
「そんなこと言うもんじゃないよ」
「え?私変なこと言った?」
気まずい空気が流れた。麦さんは顔をしかめ、木暮さんまで黙り込み、聖君は私を見たまま、暗い顔をしている。
「私、赤ちゃんが無事なら、帝王切開もしかたないっていうか、嫌じゃないっていうか。だから、麦さん、あまり心配しないで」
私はそう言ってから、今度は聖君のほうを見て、
「聖君も。ね?」
と励ますつもりで、笑った。
「まじ、強いね」
木暮さんがびっくりした表情でそう言った。
「桃子ちゃんって、実は強いんだよね」
「え?」
麦さんの言葉にまた、驚いた。
「それに、もう母親なんだ。俺はまだまだ、父親にはなれないってのにさ」
聖君は、私のことを見ながらそう言って、みんなのほうを向いた。
「聖君だって、もうパパだよ?ちゃんとパパしてるよ?」
慌てて私がそう言うと、麦さんが、
「はいはい。な~~んだ。結局は仲がいいところを見せられちゃった」
と笑って言った。
あ、空気がほぐれた。よかった。と思ったのもつかの間、カッキーさんだけは、まだつまらなそうな顔をしていた。
お店を出て、まず、カッキーさんの家まで送っていき、そのあと、木暮さんを送った。
最後に麦さんの家に向かう途中、麦さんが、突然聖君に話しかけた。
「やっぱり、カッキー、全然似てないわ」
「え?」
運転している聖君は、突然そう言われ、ちょっと驚いている。
「桃子ちゃんと似てなかった。聖君が言うようにね」
「でしょ?」
聖君はバックミラーで麦さんを見て、ニコって笑った。
「聖君、カッキーってそんなに桃子ちゃんに似てないよって、言ってたんだよね」
麦さんは隣にいる私に、今度は話しかけた。
「そうなの?」
「自分で似てるって思った?桃子ちゃん」
聖君はバックミラーで、私を見ながら聞いてきた。
「ううん。全然」
「だよね~~」
聖君はうなづいた。
「カッキーさんのほうが、しっかりしてそうだし、明るいし、声だって大きいし、元気だし」
「ああ、そういうことで、違うって言ったんじゃないよ、私」
麦さんが私の言葉をさえぎった。
「え?」
「聖君も違うでしょ?そういうことじゃなくって」
「ああ、うん。違う」
なに?どこが違うのかな?
「桃子ちゃんのほうが、ずっと癒されるわ」
「あはは!そこだよね、そこ!」
聖君は麦さんの言う言葉に、思い切りうなづきながら笑った。
「やっぱり~~~?だから、最初から桃子ちゃんは大丈夫なんだよね?だって、警戒しようがないし、隣にいるだけで、ほわわんってなるもんね?」
麦さんは、そう言ってから、
「今もほわわんってしてるもん」
と私に抱きついてきた。
「あ!」
聖君がそれをバックミラーで見て、大きな声を出した。
「あ~あ。先こされた」
「え?もしかして抱きつきたかった?」
麦さんが聖君に聞いた。
「…」
聖君は無言だ。
「あ~~、みんながいたから遠慮してたでしょう?本当は抱きつきたかったんだ~」
「うっさいよ、麦ちゃん」
「あ~~、照れてるんだ」
「ちげえよ」
あれは、すねてる聖君だな。
「ちぇ」
聖君の小さな舌打ちが聞こえた。
「なんだ、すねてるのか」
それでさすがに麦さんも、わかったようだ。
「ま、いっけどさ。さっき隣に座ってただけでも、癒されたから」
聖君はそう言って、またしばらく黙り込んだ。
「ふ~~~~~ん」
麦さんはそんな聖君をまじまじと後ろから見て、
「やっぱりね。だと思った。あんなに静かだったのは、桃子ちゃんの隣にいて、ほわわんってなってたんでしょう?」
と意地悪っぽい声で聞いた。
「ああ、そうですよ。桃子ちゃんオーラに浸ってましたけど、それが何か?」
聖君が投げやりにそう答えた。あ、開き直ってる?もしかして。
「聖君、やっぱり、それだけじゃないか。カッキーがいて、いつもの聖君じゃなくなってたか」
「え?」
聖君はバックミラーを見ながら、聞き返した。
「カッキーのこと、苦手でしょ?」
「わかる?」
「わかるよ。あまり顔も見てなかったし、合宿中も会話なかったよね」
「だって、何を話していいんだか」
「そうなんだ。話しにくいんだ」
って私はぼそってつぶやいた。そうなんだ。女っぽい人じゃないのに苦手なんだ。
「みんなが、桃子ちゃんに似てるって言ってたけど、俺ずっと思ってたよ。いったいどこがって。なんつったって、放ってるオーラそのものが違う」
「オーラ?何それ。さっきも言ってたね」
麦さんが不思議そうに聞いた。
「ああ、なんていうの?空気?あるじゃん。その人のかもしだす空気って」
「ああ、あるね」
「それがまったく違うでしょ?」
「うん。桃子ちゃんのほうが、ほわわん」
「そう。隣にいても安心していられる」
「そうね」
麦さんはそう言ってから、
「ほんと、聖君って女性苦手なんだね」
とぽつりと言った。
「じゃ、私のことも駄目だったでしょ?最初」
「え、うん。そうかな」
「でも、話しかけてきたよね?」
「そう?」
「うん。バーベキューの時、けっこう話してきたよね?」
「だって、桃子ちゃんに意地悪するんだもん。ほっとけないよ」
「それで?それで話してきたの?」
「多分そう」
「…」
麦さんが黙り込んだ。しばらくすると、
「なんだ。聖君は本当に、桃子ちゃん一筋だよね」
とつぶやいた。
「え?」
「私にちょっとは興味あるのかなって思ってたけど、ほんと、私あの頃自惚れてたよね」
「あはは。正直だね、麦ちゃん。でも、興味はあったよ。なんか、同じ苦しみ持ってるなっていうさ」
「え?」
「俺は桃子ちゃんがいたから、抜けられた。でも、まだ麦ちゃんはその苦しみのど真ん中にいるなって、そういうことは感じたから」
「…カッキーは?」
「あの子?よくわかんない。でも感じたのは…」
「うん」
「自分のほうを見てもらえないと、急につまんなくなるみたいだね」
「あ、そういうところあるよね…」
聖君は黙って、運転を続けた。
「あれ?それだけ?」
黙っているから、麦さんが聞いた。
「え?うん。なんで?」
「カッキーのことも、相談に乗ろうとか、そういうことは…」
「しないよ」
聖君は淡々とそう言い返すと、
「なんで?なんでそんなこと聞いてくるの?」
と不思議がった。
「カッキーは全く、興味ないってこと?」
「うん。別にどうでもいいし」
「聖君はあっさりとしてるなあ。そのへんがクールって言われるところかな」
「え?そう?でも俺、そんなにいろんな人の悩み事聞く気ないけど?それに今は、俺の奥さん、妊娠中だし、そっちのが大事」
聖君はまた、淡々とそう言った。
「うひゃ。本人がいるのにそんなこと言っちゃうのか。参った」
麦さんはそう言うと、私のことを見て、
「ほんと、大事にされてるよね~~」
と笑った。私はひたすら、顔を手であおいでいた。熱い。もう、聖君が突然そんなことを言ってくるから。とか思いつつ、内心はすごく嬉しかった。