第12話 妹の彼氏
8月1日、ひまわりは母に、浴衣を着せてもらい、かんちゃんと花火大会に行った。帰りは、もしかすると聖君が二人を車に乗っけて、帰ってくるかもしれない。
花火大会、いいな~。去年もおととしも行ったんだっけ。
私は部屋で、編み物をしていた。菜摘は葉君と見に行ってるようだし、ああ、私ってば、なんだか孤独かも…。
なんてね、9時を過ぎれば、聖君が帰ってくるんだけどさ…。
と、思って待っていたら、9時を過ぎても、10時になっても帰ってこなかった。
なんだか、気になり、一階に下りていくと、
「遅いわね、ひまわり」
と母が、気をもんでいた。
「ただいま~~」
玄関の鍵を開ける音と、ひまわりの元気な声がした。
「かんちゃん、寄ってく?」
なんと聖君の声もする。あ、やっぱり、聖君が、車に乗っけてきたんだ。
母は玄関にすっとんでいき、
「お帰りなさい。聖君、二人を乗っけてきてくれたの?」
と、笑顔で出迎えた。聖君がいてよかったよ。じゃなきゃ、またひまわりに遅いって、小言を言ってそうだ。
「すみません、ちょっとれいんどろっぷすで、お茶していたから、遅くなっちゃって」
聖君が謝った。
「あら、そうだったの。ひまわり、寄らせてもらったの。あ、かんちゃんもどうぞ、入って」
「お邪魔します」
わ。かんちゃん、寄っていくの?大変。母につかまったら、きっとベラベラと長話が…。
と思っていたら、かんちゃんはずっと、聖君と話をしていた。海の話や、ダイビングの話で盛り上がってる。
「どうしちゃったの?かんちゃん、聖君に取られてるよ?ひまわり」
浴衣がきついから脱ぐといって、2階にあがったひまわりが、着替えてダイニングに来たから、そっと聞いてみた。
「れいんどろっぷすで話をしたら、なんか意気投合しちゃって、あの二人。帰りの車でも、あの調子だった」
「へ~~」
そうなんだ。ほんと、聖君って、誰とでもすぐに、仲良くなるな~。
あはははは!聖君の笑い声が部屋に響き渡る。そこへ、なんと父も帰ってきてしまった。
「ただいま。おや?」
父は、前にかんちゃんと顔を合わせているけど、話まではしていないよね。っていう私もだな。
「あ、お帰りなさい」
聖君が父に、にこやかにそう言った。かんちゃんは緊張しながら、ぺこってお辞儀をした。
「えっと、名前はなんだっけ?」
「神林です」
「ああ、神林君だっけ。今日もバイトの帰りにひまわりを送ってくれたのかな?」
「いえ、今日は江ノ島の花火を見に行って、さっき、聖さんに送ってもらって」
「ああ、聖君が江ノ島から、車で乗っけてきてくれたのか」
そんな会話をリビングでしていると、母が父に、
「食事は?済ませてきたの?」
と聞いた。
「ああ、食べてきたよ。お風呂に入っていいかな。今日も疲れた」
「いいわよ。どうぞ。今誰も入っていないし」
「じゃあ、神林君、ゆっくりしていって」
そう言うと、父は寝室に入っていった。
「なんだ、お父さん。ここに居座って、話し出すかと思っていたのに」
ひまわりもリビングのソファーに腰掛け、そう言った。
「疲れてるのよ、相当。聖君、かんちゃん、冷たいお茶持ってきたから、ここに置いておくわよ」
「あ、すみません」
二人は、同時に母に頭を下げた。
「かんちゃんは、何年生だっけ?」
母が聞いた。
「あ、2年です」
「ひまわりよりも、一個上?」
「はい」
「かっこいいから、もてるでしょ?」
「え?俺ですか?いえ、ぜんぜん」
「またまた~~」
母につっこまれたが、かんちゃんは赤くなり、黙り込んでしまった。うわ。シャイなんだな~。
「お母さん、あんまりかんちゃんをからかわないでよ。あっち行ってて!邪魔だから」
「え~~。何よ、いいじゃない。ここにいても。ねえ?聖君」
「え?あははは。俺は全然、いいですけど…」
俺は全然いいですけど、かんちゃんはどうかな、と、聖君は言いたかったんだろう。ちらっとかんちゃんの方を見た。でも、かんちゃんは麦茶をゴクンと飲んで、また、黙り込んでしまった。
それを見た母は、
「あ、そうだった。明日エステのお客さん来るんだった。準備しなくっちゃ」
と言って、
「じゃ、かんちゃん、今日はひまわりのこと、ありがとうね」
と、客間に入っていった。
「エステ?」
かんちゃんが、ひまわりに聞いた。
「お母さん、家でエステの仕事してるの」
「へえ、そうなんだ」
かんちゃんの顔は明らかに、緊張がとけたって感じだった。
私は、リビングに行くきっかけを失い、ダイニングの椅子に座っていた。すると聖君が、こっちを向いて、
「あれ?なんで桃子ちゃん、そこにいるの?こっちに来たらいいのに」
と私を呼んでくれた。
私は、いそいそと聖君の横に座りに行った。
ちょこん。聖君の隣に座った。かんちゃんは、私を見て、ちょこっと頭を下げた。私も、ぺこってお辞儀をした。
「なんか、あれっすね」
かんちゃんが私を見て、
「ひまわりのほうが、お姉さんみたいですよね」
とそう言った。
あれ、ひまわりって呼び捨てなんだ。って、そうじゃなくって、今、けっこう傷つくこと言われたような気が…。
「お姉ちゃん、幼く見えるから?」
とひまわりが、もっと傷つくことを言った。
「え?いえ、あの…。ひまわりの方が、しっかりして見えるから」
ううん。それも、傷つくんですけど。フォローしようとしてる?してないよね?
「でも、中身は桃子ちゃんの方がお姉さんだよ?」
聖君がそう言った。えっと、中身はっていうのも、ちょっとフォローになってないような気が…。
私は黙って、みんなの顔を交互に見ながら、話を聞いていると、
「桃子さんは、大人しいんですね」
とまた、かんちゃんに言われた。
「え?」
「その辺も、ひまわりと違うんですね」
「なんだか、私がうるさいって言われてるみたい」
ひまわりがそう言うと、
「え?違うよ。ひまわりはいっつも明るくって、楽しいから、俺、そういうところがよくって。大人しい子だと、何話していいかわかんないし」
と、そう言ってから、顔を赤くして照れてしまった。
待って、待って。今、照れるところじゃなくって、私に対してかなり、傷つけること言ってる気もするんだけど…。
聖君に何か、言ってほしいって顔で見たけど、聖君はにこにこしながら、かんちゃんとひまわりを見ているだけだった。
聖君、何か、そこで、フォローをしてくれても…。
「そうか~。ひまわりちゃんの明るくって楽しいところに、惹かれたのか~~。でも、わかるよ。一緒にいて楽しくなるもんね?」
聖君はそう言った。あれ?あれれ?私へのフォローじゃないよね、それって。
「そうなんです。なんか、いっつも明るいから、俺も元気になれて」
かんちゃんは嬉しそうにそう答えた。
「ふうん。そうか~~。お似合いのカップルだよね。ね?桃子ちゃん」
聖君が私にふった。
「え?う、うん」
いきなりふられて、驚いてしまった。
私はまだ、大人しいと言われたのと、大人しい子は、何話していいかわかんないという、かんちゃんの言葉に、ひっかかっていて、顔が暗くなっていたかもしれない。
「あ、聖さんは、その…、桃子さんみたいな人がタイプだったんですよね?」
「うん、そう」
聖君は、うなづいた。え?違うじゃない。初めは、やっぱり菜摘みたいな、元気のいい子が好きだったじゃない。
「あ、違った」
いきなり聖君は、思い出したかのように、そう言った。
「え?」
かんちゃんが、聞き返すと、
「俺もやっぱり、明るい元気のいい子、タイプだったっけな、そういえば」
と、かんちゃんに言った。
「え?じゃあ、なんで桃子さん」
かんちゃんがちらっと私を見て、そう聞いた。
「……。だって、桃子ちゃん、すげえ面白かったから」
「え?面白い?」
かんちゃんと、ひまわりが同時に聞き返した。
「ひどい、聖君」
私がそう言うと、聖君は私の方を向き、鼻をむぎゅってつまんだ。え?なんで~~?
「でもね、桃子ちゃん、すげえ可愛くって」
と聖君は私を優しく見てそう言ってから、かんちゃんの方を向き、
「あ、えっと」
と話すのをやめてしまった。
「可愛いんすか?あ、そうですよね。そんな感じしますよね」
かんちゃんは、そう言ってから私をちらっと見た。
「あ!違う、違う。いや、違わないけど、いや」
なんだか、聖君が慌てている。どうしたのかな。
「あのさ、いいんだよ。かんちゃんはひまわりちゃんが、タイプなんでしょ?桃子ちゃんとは、何を話していいかもわかんないんでしょ?」
聖君は、そうかんちゃんに言った。え?いきなり、なんでそんなこと言い出すの。
「え?あ、はい。あ!すみません。それって、桃子さんに失礼でしたよね」
あ、やっと気がついたか。
「いいんだって。ひまわりちゃんと仲良くしていたら、それで」
?もしかして、ひまわりに気を使ってそう言ってるの?ひまわりも、きょとんとしながら、聖君を見ていた。
「桃子ちゃんとは、仲良くしなくてもいいから。桃子ちゃんのこと、可愛いって思うのは俺だけで、いいからさ、うん」
へ?
聖君はそう言うと、頭をぼりって掻いて、
「あ、あんまり遅くなっても、家で心配するんじゃない?そろそろかんちゃん、帰ったほうがいいかもよ?」
と、かんちゃんに言って、席を立った。あ、追い返そうとしてる?
「あ、そうっすね。あんまり遅くまでお邪魔したら悪いっすよね。それじゃ、俺、これで失礼します」
「うん。また、遊びに来てよ」
聖君が言った。
「はい。俺、本当にスキューバ、興味あるから、今度また詳しく教えてください」
「ああ、いつでも聞きに来て」
「はい。ぜひ」
そう言うと、かんちゃんは、はいって嬉しそうにうなづき、玄関に向かった。
「お母さん、かんちゃん帰るよ」
ひまわりが母を呼んだ。母は慌てて、客間から出てきた。
「じゃ、気をつけて」
聖君がかんちゃんにそう言うと、
「はい。お邪魔しました」
とかんちゃんは頭を下げ、出て行った。
「あら」
最後に玄関に来た母は、かんちゃんに何も声をかけられなかった。
「…、聖君が、うちに住んでいるのを、かんちゃん、知ってるの?」
母が玄関から部屋に戻りながら、そう聞いた。
「え?知らないよ。私、そんなこと何も話してないもん」
ひまわりがそう言った。
「ああ、そういえば、俺も言ってない」
聖君が答えた。
「でも、なんだか、聖君がここにいるのを、違和感なく受け止めてたわよねえ」
母はそう言うと、また客間に入っていった。
「そういえば、そうだね」
聖君はそう言いながら、飲みかけだった麦茶を飲んだ。
父がお風呂から上がってきて、
「ああ、なんだ。神林君はもう、帰ったのかい?」
と聞いてきた。
「うん、今帰った」
とひまわりは言うと、
「私、シャワー浴びてくるね」
とさっさと、着替えを持ってきて、バスルームに行ってしまった。
「聖君、今日はありがとうな」
父は聖君にお礼を言ってから、キッチンに行き、ビールを冷蔵庫から取り出し、ダイニングテーブルについた。
「桃子ちゃん、部屋に行く?」
聖君がそう言うので、私はうなづき、二人で2階に上がった。
「疲れた~~」
聖君は、ベッドにドスンと倒れこんだ。うつ伏せのまま、また動かなくなってる。それもなぜか私の枕に顔をうずめて、そのまんまになっている。
「桃子ちゅわん…」
なんだ、その桃子ちゅわんっていうのは…。
「聖君」
「ん?」
うつ伏せたまま、聖君が返事をした。私は聖君の横に座り、
「枕でいいの?私なら、ここにいるけど」
と言ってみた。
「あ、そうだよね!」
聖君はがばっと起き上がると、私に抱きついた。
「桃子ちゅわん」
また、言ってる…。
「疲れた?もしかして、花火も見に行ったの?」
「行ってない。けっこうお客さんが来て、混んだから」
「そうなの?」
「うん。カップルが多かったよ。なんかさ、店でいちゃいちゃしてくれてさ。ちきしょう~~、俺も桃子ちゃんといちゃつきて~~って感じだったよ」
「…」
「桃子ちゃん」
「ん?」
「いい匂いがする」
「あ、先にシャワー浴びちゃったから。ひまわり出たら、聖君、浴びてきていいよ」
「そっか。シャンプーの匂いか…」
聖君はまだ、抱きついていた。
「かんちゃんと仲良くなっちゃったんだね」
「うん。スキューバ、してみたいって言うから、そこから一気に意気投合」
「そうなんだ」
「うん」
「かんちゃん、明るい元気な子がタイプなんだね」
「うん、良かった。桃子ちゃんみたいな子がタイプじゃなくって」
「そりゃ、そうだよ。ひまわりを好きになるくらいなんだから、私はタイプじゃないでしょ」
「うん。大人しい子は、何話していいかわかんないって言ったとき、俺、心の中で、じゃ、桃子ちゃんとはなんにも話すなよって、思ってたし」
「え?」
「桃子ちゃんとは、絶対に仲良くなるなよって、念じてた」
「何それ」
「だって、桃子ちゃんのこと、好きになられたら困るから」
「…」
それで、あの時、フォローも何もしてくれなかったんだ。やたらにこにこして、聞いていたけど、心ではそんなこと念じてたのね。
「むぎゅ~~~」
聖君は私を抱きしめてきた。声で、むぎゅうって言いながら。
「桃子ちゃん」
「うん?」
「可愛い」
「……」
ど、どうかしたのかな?何かあったのかな?
トントン。ドアをノックすると同時に、
「聖君、バスルーム開いたよ~」
とひまわりが声をかけた。おお!もう勝手にドア、開けなくなったんだ。
「うん、わかった」
聖君がそう言うと、ひまわりは、
「入ってもいい?」
と聞いてきた。
聖君は私から離れて、床に座ると、
「いいよ」
と声をかけた。
ひまわりはドアを開け、
「お邪魔します」
と言って、入ってきた。わあ。なんだか、すごい成長してる?
「あのさ、ちょっとお兄ちゃんに聞きたいことがあって」
「え?何?」
聖君はにこやかに答えた。ひまわりは、聖君の前にクッションを置き、その上に座った。
「あの、麦って人は何?」
「え?」
突然、そんなことを聞かれ、聖君は一瞬、固まった。
ひまわりの声は、ちょっと怖かった。
「なんで、お兄ちゃんにあんなに、馴れ馴れしいの?」
あれ?今日、なんで麦さんがいたの?
「店でバイトしてくれてるんだ。大学の友達なんだけどさ」
「友達~~~?」
ひまわりの声が裏返った。うわ。顔が怖い、顔が…。
「ひまわりちゃん、なんでそんなに怒ってるの?」
さすがの聖君も、恐れおののいている。
「だって、馴れ馴れしすぎるから!なんなの~~?見てて、彼女気取りしてたのわかったよ?」
え?
「特に私のことを、桃子ちゃんの妹って聖君が紹介してから、聖君にべったりとくっついて!」
ええっ?
「あれは!あれは、その…」
聖君が、たじろいでいる。どうして?
「なんなの?聖君と本当は、花火を見たかったとか、妹さんは来てるのに、彼女は来ていないの?本当は、彼女ともう、あんまり仲良くないんじゃないの?とか…」
「え?!」
私の顔がひきつった。それを聖君は見て、さらに慌ててしまっていた。
「違うよ、桃子ちゃん。桃子ちゃんとは、結婚して一緒に住んでるって言えないから、その辺をごまかすのにいつも苦労してるけど、今でも仲いいよって、いっつも言ってるよ?」
「…」
私が黙っていると、
「まじで、まじだから」
と、もっと慌ててしまった。
「お兄ちゃん、そんなに慌てるほうが、怪しいんだよ」
「え?」
「何か、やましいことでも?」
「ない、ないない。まったくない!」
聖君は、思い切り、首を横に振った。
「ど、どうして麦さん、お店に行ったの?」
私は勇気を振り絞って聞いてみた。
「え?なんでかな?家族で花火、見に来てたらしいけど、一人でお店に寄っていったんだよね」
「……」
私とひまわりとで、黙って聖君を見た。
「あ、でも、どっかで待ち合わせをしていて、家族と帰ったみたいだけど」
「……」
聖君は、顔が青ざめていっていた。でも、まだ私もひまわりも、黙って聖君を見ていた。
「あ、そうか!きっと、家族で花火を見にこれたって、報告したかったんだよ。嬉しそうに話してくれたし」
「そう。聖君のおかげで、家族と見にこれたの。ありがとうって言って、馴れ馴れしく、腕とかにべたべた触ってた」
ひまわりが、無表情のまま、聖君を見て、そう言った。
「う…」
う?
「い、一応、そういう時は、何気に、離れるようにはしてるんだけど」
聖君は、顔をひきつらせながらそう言った。
「そういう時?」
私が聞くと、
「だから、腕とか触ってくるとき。なんでかな?麦ちゃん、話すとき、どこかに触ってくるって言うか」
「え?」
何それ…。
「いるよね!話すときに、必ずタッチしてくる女!うちのバイト先にもいるの。私にも話しかけてくるとき、触ってくるけど、かんちゃんにもするんだよ!見ててすんごい嫌!私も触られるの、すんごい嫌!なんか勘違いしてるよね!」
「そ、そうなんだ」
聖君が、ひまわりがいきなり怒ったから、また固まった。
「かんちゃんは、そんなとき、どうしてるの?」
聖君が聞いた。
「なんだか~~、にやついてる!」
「え?」
「だから、頭にくるの!」
「あはは、なるほどね」
聖君は、ちょっと引きつりながら、笑っていた。
「お兄ちゃんも、嬉しかったりするの?女性からそういうふうに、されられると、嬉しいものなの?」
ひまわりがくいついた。それ!私も聞きたい!
「え?俺?俺は好きな子なら嬉しいけど、でも、もともと女の子苦手だし、駄目かな…」
「駄目って?」
私が聞くと、
「え?だから、その…。引いちゃうっていうか、あからさまに嫌がるのは、悪いかなって思うから、なんとなく離れるようにしたりしてるんだけど」
と、聖君は、私を見てそう言った。
「駄目、そんなんじゃ駄目!」
ひまわりが乗り出して、聖君にそう言って、
「思い切り、その手を跳ね除けないと駄目!じゃなきゃ、嫌がってるの気がつかないから!」
と怖い顔をさらに怖くして、そう続けた。
「そ、それはさすがの俺も…」
「じゃあ、今後、もっとべったべったくっついてきたら、どうするの~~?実は、嬉しかったりしてるんじゃないの~~?」
「……」
聖君が黙った。
「え?どうしてそこで、黙るの?」
ひまわりはさらに、身を乗り出して聞いた。
そうだよ、なんで黙るの?
「だって、ひまわりちゃん、怖い。さっきから、あれだよね?それ俺にじゃなくて、かんちゃんに言いたいことなんじゃないの?」
「…ばれたか」
ひまわりはそう言うと、体制をもとに戻してため息をついた。
「今度会ったら、お兄ちゃんから言っておいて」
「なんて?」
「彼女でもない子が、馴れ馴れしく触ってきたら、払いのけろって」
「へ?俺が?」
「うん」
ひまわりがうなだれた。
「そういうの、自分から言えないの?」
聖君がひまわりに聞いた。
「うん」
ひまわりは力なく、うなづいた。
「あはは、そうなんだ。ひまわりちゃんもそういうのは、駄目なんだね。そっか~~」
聖君は、笑うと、
「うん、いいよ。それは言っておくよ」
とひまわりに優しくそう言った。
「ほんと?」
「うん」
「良かった~~」
それ、聖君もそうしてよ。麦さんに…。とは言えないっ!
「じゃ、お兄ちゃんも麦って人に、馴れ馴れしくされたら、冷たくしてよね。ね?お姉ちゃんも嫌だよね?」
「え?う、うん」
ひまわり~~、ナイスフォロー!
「わかった。そうします」
聖君は頭を掻いてそう言った。
「でも、お姉ちゃんになら、いいんでしょ?べたべたされても」
「え?」
聖君は、一瞬固まってから、
「う、それはもちろん」
とちょっと頬を赤くさせてそう言った。あれ、照れてる…。
「じゃ、もっとお姉ちゃん、べたべたに甘えないとね!」
「え?」
「あ、でも二人っきりでいるときは、いつも抱き合ってるのか」
ひまわりがそう言うと、私も聖君も同時に真っ赤になってしまった。
「うわ、二人とも真っ赤だ。あ、私がここにいると、邪魔だよね?もう部屋に戻るね、それじゃ、お邪魔しました」
ひまわりはそう言うと、立ち上がり、ドアを開け、
「また、抱き合ってていいからね~~」
と言ってから、部屋を出て行った。
「ガク」
聖君が、口でガクって言って、その場に倒れこんだ。
「ど、どうしたの?」
私が聞くと、
「ひまわりちゃん、怖かった」
と言って、
「俺、エネルギー使い果たした」
と動かなくなった。
「え?え?」
どうしようって思っていると、もそもそと私のひざの上に顔を乗せてきて、
「桃子ちゅわん」
と、私のお腹に抱きついて甘えてきた。そのうえ、
「凪~~。パパにエネルギーちょうだい」
と言って、お腹をさすってくる。
可愛い!私が頭をなでて、髪にチュッてキスをすると、
「うお!いきなりエネルギー充電された」
と聖君は、元気になっていた。なんだか、面白いな~~。
充電されたのにまだ、聖君は私のひざの上に頭を乗せ、甘えていた。ああ、しっぽか茶太郎みたいだ。
今、ひまわりが入ってきたら、驚くだろうな~~。でも、もう勝手にドアを開けて入ってくることはないだろう。だから、こんな聖君を知ってるのは、私だけだよね。
そうか。麦さん、聖君にタッチしながら話をするのか。それはひまわりじゃないけど、嫌だな。
だけど、そんな麦さんも、こんな甘えん坊の聖君を見たことないんだな。なんてそう思うと、ちょっと私は嬉しくなっていた。
ああ、可愛い聖君を私は、独り占めしてるんだ。
「聖君」
「ん?」
「大好き」
「うん」
聖君はうなづくと、また私のお腹に抱きついて、顔をすり寄せた。
「凪に、パパは甘えん坊だって、生まれる前から思われてるよね」
聖君はそう言うと、お腹にキスをして、
「まあ、いっか。それでも」
と笑って言った。