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第10話 新婚生活

 父は、出張で遠くまで行っているらしく、帰りも遅くなるようだ。ひまわりは、バイトから帰る途中、かんちゃんと夕飯を食べて帰ってきたらしい。いつもよりも1時間半も遅くなり、ちょっと母に小言を言われていた。


 ひまわりは、一応謝ってはいたが、かんちゃんと何かいいことでもあったのか、嬉しそうに浮かれながら、お風呂に入りに行った。

 なんとなくそれを私と、聖君はリビングで見ていて、

「あれ、キスでもしちゃったとか?」

と聖君が私に、耳打ちをした。


「え?」

 私は、真っ赤になってしまった。

「でででも、まだ付き合ってちょっとしかたってないし、ひまわり、まだ高校1年だよ」

「え?桃子ちゃんのファーストキスも、付き合って間もない頃だったし、高校1年だったよね?」 

 聖君にそう言われ、その日のことを思い出し、

「あ、そうだった」

と赤くなってしまった。


「いやらしい~~。思い出して照れてるの?」

 聖君に言われた。私はバシッと聖君の腕をたたいて、

「もう!だいたいあのときは、聖君が」

と言いかけ、ダイニングでこっそりと耳をダンボにしている母に気がつき、話すのをやめた。


「聖君、私、そろそろ部屋に戻るね。髪も乾かしていないし」

「あ、うん。俺も一緒に行く。髪、俺も乾かさなくっちゃ」

 私が先にシャワーを浴び、リビングでちょっと休んでいる間に、聖君もぱぱっとシャワーを浴びて、今、二人でのんびりとしているところだったんだけど、そうか。母がしっかりと私たちのことを、うかがっていたのか。


「あら、いいわよ。ここでのんびりしてて。さ、お母さんもひまわりが出たら、お風呂にはいろうっと。寝室行って、用意しないとね~~」

 母はものすごくわざとらしくそう言うと、寝室に入っていった。

「桃子ちゃん、やっぱ、2階行こう」

「うん」


 聖君に手を引かれ、2階に行った。

 ベッドに座ると、また聖君は髪を乾かしてくれた。今日こそ私も!と、聖君の髪は私が乾かしてあげた。

 ああ、つむじが2個。可愛い~~。


「聖君、つむじが2個あるの、知ってた?」

「知ってるよ。だから、その辺、朝、変な寝癖がつくんだよね」

 ああ、それで、朝、このへんが、飛びはねてるのか。

「可愛いね」

 私がそう言うと、

「桃子ちゃんにかかると寝癖も、つむじも可愛くなるのか」

と聖君は照れながらそう言った。


「だって、可愛いものは可愛いんだもん」

「……。桃子ちゃんも可愛いけどね」

「え?」

「起きたての顔とか…」

「……うそだ」

「本当に。寝顔も、寝息も、寝言も可愛い」


「寝言?私、何か言ってる?」

「よく言ってる」

「うそ、どんなことを言ってる?」

「たとえば、聖君、待って!とか」

 ああ、聖君が麦さんと去っていく夢のときだ。


「それとか、ずいぶん前、うちに泊まった日は、聖君、って言いながら、にやついてた」

「え?!」

「あと、は~、かっこいいっていきなり、色っぽくため息をついたときもあって」

「ええ?!」

「あれって、きっと俺の夢だよね?ね?」


「…」

 うっそ~~。何、その寝言!

「もしかして、俺の夢ばっかりみてない?」

「う、そうなのかな。覚えていないことも多いんだけど」

「もう!桃子ちゃんってば!」

 聖君はそう言うと、いきなりぐるっと後ろを向き、私に抱きついてきた。


「明日は俺、休みだけど、どうする?」

「あ、そうか!」

「一日、べったりとしてる?つわりあるから、出られないよね」

「うん」

「今日、3本くらいDVD借りてきたんだ。それでも観る?あ、前に桃子ちゃんと観ようと思って観れなかった映画も借りてきたよ」


「聖君が熱出して、観れなくなったやつ?」

「そうそう、それ」

「わあ、観たかったんだ、あれ」

「じゃ、それ観ようね」

「うん!」

 一日、聖君といられるんだ。嬉しすぎる!


 それから、電気を消し、聖君とベッドに横になり、べったりとくっついた。聖君はどうせ脱いじゃうからって言って、今日はTシャツとパンツだけになっていた。

「聖君、石鹸の匂いがする」

「桃子ちゃんは、シャンプーの匂いかな?」


 そう言うと聖君は、私の髪にキスをした。

「あのね」

「うん」

「まだ、ドキドキしちゃうんだ」

「え?何が?」

「聖君にキスされると」

「そうなの?」


「うん。でも、嬉しい」

「くす」

 あ、聖君が笑った。

「俺も、桃子ちゃんに抱きつかれたりすると、すげえ嬉しい」

「ほんと?」

「うん。ほんとうは、飛び上がるくらい嬉しいのを、ちょっと我慢してる」


「ええ?」

「えへへ」

 聖君はそう言うと、むぎゅって抱きしめてきた。

「おやすみ、桃子ちゃん」

「おやすみなさい」

 ああ、めちゃくちゃ、幸せだよ~~。


 いつの間にか、私は眠っていた。夢の中で、聖君は、私を抱きしめていた。

 私は抱きしめられながら、ドキドキしていて、でも、一生懸命に何かを説明していた。

「聖君の、目、まつげ、まゆげ、鼻、耳、耳たぶ、つむじ」

「それから?」

「えっとね、あ、爪も、手も、指も、あと、のど仏も、鎖骨も」

「それから?」


 いったいなんの説明をしてるんだ。私。

「声も、笑ったときの声も、寝息も、鼻歌も、それにね」

「まだあるの?」

「うん!まだまだ!」

「数え切れないね」

「うん。あとね、前髪をあげる仕草も、にっこりと微笑んだときも、ちょっとすねてる顔も、真剣に何かをしている顔も、全部素敵」


 もしや、聖君のどこが好きかを説明してた?

 それを聞いている聖君は、にこにこしていた。あれ?照れないの?

「じゃ、俺の番ね」

 え?俺の番?

「俺が桃子ちゃんのどこを好きかって言うとね…」

 わあ。教えてくれるの?でも、恥ずかしい。


「聖君、恥ずかしいよ」

「なんで?ちゃんと聞いてて」

「でも、恥ずかしいよ」

「だって、桃子ちゃんも教えてくれたのに」

「だけど、恥ずかしいから」

「えっとねえ、まずは桃子ちゃんの…」

「聖君、やだ。恥ずかしいからやめて」


 ぐに~~~。痛い。ほっぺた、つねられた。なんで?

 パチ…。目が覚めた。聖君が赤い顔をして、私の顔を見ている。

「ど、どんな夢見てた?」

「え?」

「思い切り、にやけてたけど、どんな夢?」


 …夢?

「あれ?私、寝てた?」

「もう、朝だけど」

「え?」

「だから、桃子ちゃん、どんな夢?」

「…」

 ぼけ~~。どんな夢って、聖君が私の好きなところを、言おうとして…。


「なんかものすごく、エッチな夢だったとか?」

「え?ううん、まさか!」

「またまた~~」

「本当に違うよ」

「だって、すごい寝言だったけど?」


「どどどど、どんな寝言?!」

「どんなって、うきゃ!」

 うきゃって…。そこで本当に頬染めたりしないで、聖君!

「どんな寝言?でも、変な夢じゃなかったよ!?」


「うそだ。だってさ、聖君、恥ずかしいって3回も言って、最後には恥ずかしいからやめてって言ってた。いったい、夢の中で俺、何をしてたの?」

 聖君は、すでににやけながら聞いてきた。

「え?!私の好きなところを、説明してくれようとしてただけだよ」

「は?何それ」

「私が先に、聖君の好きなところをいっぱい並べて、今度は俺の番ねって言って、聖君が言おうとしてたの」


「で?」

「恥ずかしいから聞けなくって、だから、恥ずかしいからやめてって」

「はあ?」

「そんな夢…」

 聖君は、しばらくはあ?って顔をしてから、

「もう少し俺、寝ようっと。まだ、7時前だし」

と言って、後ろを向いてしまった。


 あ、あれ?呆れた?

 私は聖君の背中に、ひっついてみた。腕を聖君のお腹に回すと、その腕をぎゅって握ってきて、

「桃子ちゃんは俺のどこが好きだって言ってた?」

と聞いてきた。


「いろんなところ、言ってた」

「たとえば?」

「うんとね、目、まつげ、眉毛、鼻、耳、耳たぶ、つむじ、爪、指、鎖骨、のど仏、声、笑い声、鼻歌」

「……そ、そうなんだ」

 聖君は後ろから見ていても、赤くなっていくのがわかった。耳が真っ赤だ。


「それからね、前髪をあげる仕草、真剣な顔、笑った顔、すねた顔」

「いい!もういい!聞いてて俺が恥ずかしい!」

「え?」

「桃子ちゃん、俺、夢の中でも、もういいって言ってなかった?」

「ううん、にっこにっこで聞いてたよ」


「その夢の俺はにせものだ」

「は?」

「そんなの聞いてたら、恥ずかしくって、俺どうにかなっちゃうよ。今、どうにかなりそうだから」

「どうにかって?」

「聞かないで!」


 聖君はさらに赤くなった。私の腕を握っている手が、汗ばんでる。ああ、そうだよね、本当に聖君は、すんごいシャイだもんね。

「可愛い。そういうところも、大好き」

「桃子ちゃん、もういいって!」

「聖君の背中も好き」

「だから~~」


「肩甲骨も好きだな~~」

「あ~~~。もうやめてくれ~~~」

 くすくす。

「本当に、もう。めっちゃ照れるよ、俺。ああ、恥ずかしい」

 心底照れているのがわかる。ああ、夢の中の聖君よりも、本物のほうが可愛いな。


 夢の中の聖君は、あの先、何を言うつもりだったのかな。私のどこが好きだって、説明しようとしていたんだろうか。

 ちょっと気になる。でも、本物の聖君は、言ってくれそうもないな。今、思い切り照れてる最中みたいだし。


 すう。聖君から寝息が聞こえた。

「え?」

 寝ちゃったの?すう、すう…。聖君の可愛い寝息が聞こえてくる。寝ちゃったんだ~~。あっという間に。

 私は聖君の背中にひっついたまま、目をつむった。ああ、こんなにいっつも、聖君のぬくもりを感じていられるなんて。


 でも、ちょと暑い。さすがに夏だし。私はエアコンをいれ、聖君と自分にタオルケットをかけ、また聖君の背中にひっついて、目を閉じた。聖君の寝息が子守唄のように聞こえてきて、知らない間に私もまた眠ったようだった。


 次に起きたのは、ドアを誰かがたたき、

「桃子、聖君、出かけちゃうけど、いいわよね?」

という声がして、目が覚めた。あ、母だ。

「うん?」

 聖君が寝返りをうった。私は聖君の背中に、むぎゅってつぶされそうになり、あわててその場をずれた。


「桃子、行ってくるわよ」

「は~~い」

 ぼ~~っとしながらも、そう返事をすると、母の階段を下りていく音が聞こえた。

「…すげ、寝坊した。もう9時だ…」

 聖君は時計を見ながらそう言うと、

「ふわ~~~」

と、伸びをした。


「いつの間に、もう9時」

 私もびっくりした。確か、さっき、7時前に、目が覚めたのに。

「ほえ~~。よく寝た~~」

 聖君は起き上がり、私を見た。

「おはよう。なんか、また寝ちゃったんだね?俺たち」

「うん」


 聖君はにこって笑って、私にチュッてキスをすると、すぐさま起き上がり、着替えをしだした。相変わらず、早い。

「聖君、洋服ダンスの中を、片付けたから、聖君の服もそこにしまってね」

「え?いいの?」

「うん」

 昨日から、聖君は自分の持ってきたカバンから、服を出して着ているもんな~。


「じゃ、あとで、持ってきたもん、片付けるね」

「うん」

「さ、顔洗ってこよう。桃子ちゃんは、朝、何か食べられる?」

「う~~ん、フルーツくらい」

「わかった。用意しておくよ」


 聖君はそう言うと、さっさと一階に下りていった。

 ぼけ~~。聖君のいたところに、寝転がり、聖君の枕に抱きついた。ああ、聖君の匂いがする!

 今日は一日、聖君といられるんだ!

 嬉しい~~~!!


 それから、一階に下りていくと、ひまわりがおしゃれをして、聖君と話しをしていた。

「ひまわり、どっかに行くの?」

「デートだって。映画見に行くらしいよ」

 聖君が答えた。

「かんちゃんと映画見て、そのままバイトに行くから。今日も夕飯いらないかも。お母さんにそう言っておいて」


「うん」

「聖君、ほんとに、これ、変じゃない?」

 ひまわりは、聖君の前で、ぐるりと一回転した。

「うん、すげえ似合ってるよ。大丈夫」

 聖君はそう言うと、にこりと微笑んだ。


「じゃあ、行ってくるね!」

「いってらっしゃい」

 聖君は玄関に、ひまわりを見送りに行った。私はダイニングから手をふり、さっさとバスルームに行き、顔を洗った。

 バスルームからダイニングに行くと、グレープフルーツの切ったのが出ていて、聖君はトーストを焼いていた


「あ、先に食べてていいよ」

 聖君はそう言うと、コーヒーも淹れだした。我が家のキッチンのどこに何があるのかを、すでに把握している。さすがだ。もう立派にここで、主夫もできるかもしれない。

「いただきます」

と、私は席に座って、手を合わせた。


 聖君もトーストにジャムを塗り、コーヒーを持ってダイニングに座り、

「いっただきま~~す」

と食べだした。

「うめ!このジャム、最高。なんか特別なジャムだよね。そこらで見たことないけど、どこのか知ってる?」

「お客さんがくれたの。この前、軽井沢だかどっかに行ってきたお土産だって」


「なるほど。だから、旨いのか~」

 聖君は納得して、また食べ始めた。ああ、今日も、美味しそうに食べるな~~。

「なんか、こうやって二人っきりでいると、新婚って感じがひしひしとわいてくるよね」

 聖君がそう言って、思い切りにやついた。う。私には、ひしひしとわいてこなかったから、返答に困ってしまった。


「私はね」

「うん?」

「私がエプロンつけて、朝食を作ってて、聖君がここで新聞広げたりして、なんてやってると、新婚って感じがすると思うんだ」

「ああ、そっか~」

「そういうの、夢見てたから」


「ふうん」

 ふうん?

「聖君は違うの?」

「俺?俺は、桃子ちゃんが寝坊して起きてきたところに、はい、桃子ちゃん、朝食できてるよって言って、一緒に食べだすってところを想像していたから、まさに、想像どおりだなって」

「……」

 聖君の中での私って、どんななの?いったい。


 朝食を終え、聖君は、

「映画観る?DVD持って来るね」

と言い、さっと2階に上がっていった。そしてまた、にこにこしながらリビングに来ると、DVDをセットした。


「これ、確か悲恋ものだったっけ?」

 聖君が聞いた。

「ううん、確か、最後はハッピーエンドになると思うけど」

「ふうん」

 映画を二人で、ソファーに座り、べったりとくっつきながら、観始めた。


「聖君」

「ん?」

「どうして、そうやってお尻を触ってるの?」

「桃子ちゃんの?」

「うん」


「だって、可愛いから」

「…」

 どういう感覚?それ。

「ひ、聖君」

「うん?」


「じゃ、なんで、胸…」

「なんで?駄目?」

「駄目だよ。何言ってるの」

「え~~。いいじゃん」

 聖君~~?

「なんか、大きくなった?胸」


「え?私?」

「うん」

「じ、実は、妊娠してから大きくなったみたいで」

「まじで?」


「もっと大きくなるのかな。Cとか、Dとか、Fカップとか」

「え、エフ…」

 聖君がちょっと顔を赤らめた。

「あ、でも妊娠してるときだけだよね」

「授乳してるときもでしょ?」


「あ、そっか」

「うわ」

「うわ?」

「赤ちゃんに桃子ちゃんの胸、取られちゃうんだね?俺」

「は?」

「……」

 なんで、寂しそうな顔をするの?!


 むぎゅ!聖君がいきなり私の胸に、顔をうずめて抱きついてきた。

「聖君?!」

「今のうちだよね?こうやって、桃子ちゃんの胸、独占するの」

「えええ?!」


 ど、どういう反応をしたらいいのっ!

「あったかい~~」

「え?」

「やわらかい~~」

 きゃわきゃわ。ど、どうしよう。


「映画観ようよ、聖君」

「映画?どうでもいいや、俺」

「ええ?!」

「桃子ちゃん、観てていいよ。俺、こうやってるから」


「こうやってる?」

「桃子ちゃんにひっついてる」

「……」

 駄目だ。クラってきた。もしかして、私に甘えて…る?う。可愛い。

 ああ、聖君の髪が、あごにあたる。くすぐったい。それに、聖君の匂いがして、思い切り愛しくなる。


 ぎゅむ!

「桃子ちゃん?」

 思い切り、聖君を抱きしめてしまった。だって、可愛いんだもん。それに、うずうずうず。胸の中で、うずうずが…。でも、これは我慢しないと。だって、お腹の赤ちゃんが…。

「桃子ちゃん」

「え?」

「やっぱり、映画観ようか」

「うん」


 私たちはちゃんとソファーに座りなおして、またDVDを初めから、観始めた。どうやら、聖君もやばいって思ったらしく、私からちょっと距離を置いて座っている。でもしっかりと、手は握ってくれてる。

 ああ、お腹の子が安定するのは、4ヶ月だっけ?まだ、2ヶ月あるんだよね。それまで、我慢できるのかな。


 お腹に手を当てていると、聖君はそれを見て、

「お腹の赤ちゃんのこと、1番に考えないと…だよね?」

と言ってきた。ああ、きっと同じようなことを感じていたんだな。

「うん。だから、我慢だよね」

「え?」

「うずうずしても、我慢だよね」


 私がそう言うと、聖君は、目をまんまるくさせ、

「桃子ちゃんも?え~~!」

とそう言って、驚いていた。

「もう、桃子ちゃんのエッチ」

「え?何それ~~。だって、聖君がスケベ親父みたいに」

「ひで~~。スケベ親父はないだろう?これは、あれだよ」

「え?」

「新婚だから、いちゃいちゃしてたってだけのことだよ。なのに、スケベ親父って、ひで~~」


 聖君は本当にすねちゃったみたいだ。

「ご、ごめん」

 そうか。こういうことが、いちゃつくっていうことか。

「ごめんね、私、その…、いちゃつくってのが、いまいちわからなかったから」

「ブッ」

 聖君は、いきなりふきだした。


「え?」

「あははは。桃子ちゃん、可愛い」

 そう言うと、むぎゅって抱きしめてきたけど、すぐに離れ、

「ああ、映画だった、映画」

とテレビの方を向き、聖君は黙り込んだ。そして、私と聖君は、映画にのめりこみ、二人して、感動して泣いていた。ああ、ほんと、変なカップルだよね…。私たちは。

 

 でも、そうか。いちゃつくって、こういうことで、思い切りいちゃついているのか、私たちって…。そう思ったら今度は、恥ずかしくなり、顔が真っ赤になった。ふと視線を感じて、聖君を見ると、真っ赤になった私をじっと見ていて、

「桃子ちゃんは、忙しいね、泣いたり、照れたりさ」

と、ちょっとまだ目を潤ませていた。






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