濡れる
三題噺もどき―きゅうひゃくにじゅういち。
何もかもが溶けるような暑さの中に。
ほんの少し、冷たい風が吹く。
数秒前まで雨が降っていたアスファルトは黒く染まっている。
空は晴れることなく、まだ黒い雲に覆われている。
「……」
久しぶりに雨が降ったような気がする。
御盆に入ってからこちら、若干曇って雨の気配はするものの、降ることはなかったのだけど。今日はバケツが限界を超えたのか、パラパラと降り出した。
「……」
とはいっても、さして強い雨ではない。
傘をさそうかどうしようか、合羽をきようかどうしようか、と迷う程の些細な雨。
本格的に降ることもなさそうで、すぐに止みそうなほんとにちょっとこぼれたくらいの、たいしたことのない雨。
―だが、それが続くと濡れるのは当たり前で。
「……」
夏休み中だと言うのに、午前中の授業を受けに行った帰りだ。
学校を出た時点で雨は降っていたので、鞄は袋に入れている。
だから、こちらは濡れることなく自転車を漕ぐたびに、ゆらゆらとキーホルダーが揺れていた。
「……」
今朝、登校した時にあの子にもらったキーホルダーだ。
よく見る玩具のあひるを小さなフィギュアみたいにしたもの。
何であひると思ったが、あの子の親戚は温泉が有名なところに住んでいるらしい。それであひるなんだと。よく見ればあひるの頭にタオルみたいなものが乗せられている。
「……」
おそろいーと言いながら、あの子のリュックにもついている所を見せてくれた。
思わずにやけそうになるのを我慢するのが大変だった。
まぁ、多分あの子は気づいたかもしれないけれど……申し訳ないものだ。
「……」
それでまぁ、貰ったばかりのキーホルダー濡れなかったことはよかったし。
バックの中に教科書やら筆箱やらが入っているので、その辺が濡れなかったのはよかった。
……のだけど。
「……」
明日も学校があるのに。
制服が想像以上にぬれて。
もう、どうしたものかと。
「……」
あと数分で家に着くと言うタイミングで雨が止んだ。
家から学校までは自転車で、大体30分くらいかかるのだけど。
その間中パラパラと小雨が降っていたという事だ。
「……」
蓄積された雨が、制服をじっとりと濡らしていた。
風のおかげか若干涼しさはあるし、夏には丁度いいかもしれないが。
明日学校があるという事を考えると、制服が濡れて良いことなんて一つもない。
休みだったとしても制服なんて濡らすもんじゃないんだけど。
「……」
上は予備があるからいいんだけど、下の予備は少し前に冬服と一緒にクリーニングに出された。今のタイミングで出すのかと思ったし、普通に学校あるからと言ったのだけど、気づいたら母が持って行っていた。
返ってくるのは今週末だ。それまで、このスカートで耐えなければいけない。
「……」
いいのか悪いのか分からないが。
とりあえず、帰ったらこのスカートを浴室乾燥にでもかけておこう。
それでまぁ、ファブリーズでもしておいておけば匂いも大丈夫だろう。
雨でぬれると制服って独特な匂いしない?嫌いでも好きでもないが、匂いがするのは避けたいものだろう。
「……」
とりあえず、もう降ることもないだろうし。
家までの一本道が見えてきたから。
気持ちスピードを上げて、帰るとしよう。
さっさと制服をどうにかしないといけない。
「……」
それに、雨のせいで頭は冷えているが。
喉が渇いてきた。
夏場のこの渇きは危ないのだから、さっさと帰って水分補給をしなくては。
「……」
それに、普通にお腹もすいたし。
今日は何食べるかなぁ……。
お題:あひる・溶ける・傘




