余命10分
余命10分へようこそ!
この番組は『もし突然、余命10分を宣告されたら』を観察する、今あの世で最もホットな絶命リアリティショーです♪
普段から無意識に死を遠ざけ、まるで自分は死なないと思っている人間に残酷な現実を突き付ける! 信じない? でも、もうカウントダウンは始まってますよ。ひひひ。
人は残り10分で何をするのか? その時暴かれる本性。否応にも意識せざるを得ない、これまでの自分の生き様。何よりその、恐怖に引き攣った間抜け顔。ひひひひひ。ドッキリじゃありません、ホントに死ぬんです。さぁ早速、今夜のターゲットを覗いてみましょう……。
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深夜。俺がベッドに寝っ転がり、ぼーっとスマホで動画を眺めていると、突然こんな映像が割り込んできた。まーた下らない広告だ。俺は舌打ちして、右下にスキップボタンが出現するのを待っていた。ところが、しばらく経っても映像は続いている。
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今夜最初のターゲットは……この人! ××田×ロウ。34歳会社員。結婚して5年目、2人の子供がいるみたいです。本人はひた隠していますが、大学受験に失敗し、学歴コンプレックスなんだとか……おっと。今、死神がターゲットに接触しましたね。さぁ、カウントダウンスタート!
いやいや、何とも訝しげなご様子。この番組ではもう見慣れた光景ですが……怪しげな宗教勧誘か何かだと思っているのでしょう。ハナから信じてないようです。少し怒った顔をして、死神を振り切り、横断歩道を足早に突っ切って行きます。良いんですか? 貴方の人生、もう10分切ってるんですよ?
おや、どこかに電話をかけていますね。死神権限でちょっと盗聴してみましょう……と、取引先ですか。最後の最後に会話するのが、愛する家族でなく、仕事の相手だとは。スマホの待ち受けは家族写真なのにね。まだ間に合うのに……あと5分……随分長々と話していますねぇ。見てください、あの作り笑い! 美辞麗句に塗れた社交辞令! それ、貴方は心から笑っているんですか? 本当にそう思って喋ってるんですか? あ……死にました。
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なんだこれは。
画面の中で、突然サラリーマンが地面に突っ伏した。カメラがグッと近づいていく。苦しそうに顔を歪め、胸の辺りを掻き毟りながら……やがて彼は動かなくなった。横断歩道を渡っていた高校生が、少し驚いた様子で倒れた男に駆け寄った。
気がつくと俺は生唾を飲み込んでいた。新手のドラマの宣伝だろうか? だとしたら良く出来ている……まるで本物みたいだ。
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あーあ。せっかくあと10分だって教えてあげたのに。もったいない人生の使い方だなぁ。ひひひ。気を取り直して。さて次のターゲットは! ×山×実。15歳の女の子、将来の夢は飛行機のパイロット! 好きな食べ物はお肉で、ペットのゴン太とお散歩するのが趣味。まぁ、これから死ぬんですけどね。
さてここは……自室ですか。なんと、こんな深夜なのに勉強中とは。素晴らしい。まさか夢が叶わないとも知らず、彼女は毎日遅くまで、パイロットの勉強をしているようです。何とも泣かせる話じゃないですか。もし大学に合格したら、ライブやコンサートに行ったり、友達と遊園地に遊びに行ったり、素敵な彼氏と恋愛をしたり……でも今は、勉強に集中。見てください、床に積まれた参考書の山。その上に置かれた、飛行機のプラモデル。嗚呼、私、もう涙が滲んできました。
我慢我慢我慢……好きなことも、楽しみにしていたことも、やりたかったこともぜーんぶ後回しにして……私には良く分かりませんが、夢を叶えるというのは、どうしても何かを犠牲にしなければならないのでしょうか? あっ、今死神が彼女の自室に現れました。さぁ、カウントダウンスタート!
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なんて悪趣味な番組なんだろう。
胸糞悪くなりながらも、俺はその映像から目が離せなかった。突然部屋に現れた、黒装束の骸骨仮面を前に、彼女は筆記用具を取り落とした。まだ若い分脳も柔軟なのだろう、死神の話を聞いた彼女は……素直にそれを信じたようだ……みるみるうちに青ざめ、目に涙を浮かべた。
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泣いてます、彼女も泣いていますが、私も泣いてます。パイロットになるために、それだけに人生の時間を費やしてきたのに。泣かないで。もう時間がないよ? あっあっ。犬が乱入してきました! あれがゴン太でしょう……飼い主を守るかのように、必死に死神に向けて牙を剥いて吠えています。これはもう、神回確実です。いや、死神回か……あと1分。騒ぎを聞きつけて、ご両親も起きてきました。現場は混沌としています。飛び交う怒号、悲鳴……あ、死にました。
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俺は息を呑んだ。まだあどけなさを残す少女が、まるで糸の切れた人形のように、ゴトンと音を立てて床に四肢を投げ出した。死んだ……? ホントに??
いや……嘘だ。俺は首を振った。嘘に決まってる。こんなものを放送したら、たとえネットだろうと、炎上どころの話ではない。絶命リアリティショー? バカな。こんなふざけた話がリアルであってたまるか。しかし、この臨場感は……気がつくと俺は額に脂汗を滲ませていた。
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嗚呼……仕事とはいえ、辛い。こんなことになると分かっていたら、もっと別の生き方もあったかも知れませんね。もっとも残り10分では、取り返しはつかないでしょうけど。ひひひ。気を取り直して。さて、次のターゲットは……おや、良いんですか?
そう、今これを観ている、そこの貴方ですよ。私は別にふざけてません。決して画面の向こう側の話じゃありませんよ。作り話でもなんでもなく、人はいずれ死ぬ。誰もが中途半端に。唐突に。道半ばに。これはその10分前に寿命を教えてあげようという、とても優しく親切な、感動的な、人道的な番組なのです。ひひひひひ。そして今夜最後のターゲットは……そう、貴方です!
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突然、司会者らしき人物がこちらを指差し、けたたましい嗤い声を上げた。その途端、俺の背後で奇妙な物音がして……誰かがいる気配がして。俺は思わずスマホを取り落とし、ごくりと唾を飲み込んだ。




