第8話 どんな方かしら?
一日中ニマニマしていたエルナは、嬉しすぎて、いつものようにユリアーナ様とお昼ご飯を食べているときに、実はねぇ、と話し出した。
「実はねぇ…私、ラブレターを貰ってしまって。うふふっ。」
「へえ。良かったじゃない、エルナ。で、お相手は誰?」
「それが、恥ずかしがり屋さんみたいで、匿名なんです。うふふっ。」
まあ…自慢にもならないが…ユリアーナ様に今朝机に入っていた手紙を見せる。ホントを言うと、誰かに話したくて話したくてしょうがなかったから。うふふっ。
「へえ…」
と、お茶を飲みながら私宛の手紙を広げて読んでいたユリアーナ様が、ふっと目を細める。
「これ、他に誰かに言った?」
「言ってませんよ。うふふっ。」
「…そう。まあ、気を付けて行ってきてね。」
「はい!どうなったか、明日報告しますからね!誰でしょうかねえ…うふふっ。」
*****
エルナは放課後になると、さっさとカバンを持って…一応化粧室に行って、髪をチェックして…そそくさと西校舎の裏に行って待った。
西校舎は移動教室用に使われているので、音楽室だの科学室だの…放課後は人気がない。そわそわしながらエルナは待った。
(1年生は授業が終わっているけど、2.3年生はまだだしな。1年生とも限らないしな。うふふっ。)
どこまでもポジティブシンキングなエレナは、辛抱強く待った。
小一時間ぐらいは待っただろうか。
(クラブ活動を抜けれなかったとか?先生に呼び出された、とかかな?)
寮の夕食の時間に間に合うように来てくれたらいいなあ…とエレナが思っていた時、ざくっ、と砂利を踏む音がした。お!来た?
夕日を背に現れたのは…まさかの殿下の護衛係のデニス?黒髪がさわやかに刈り込んである。
(え?まさかの、デニス様?え?ユリアーナ様の隣の私に惚れちゃった?いいかも、子爵家同士だしね…。いい男だし…。え?マジか?)
…って…その前を歩いているのはイザベラ様かい?
(あ…ひょっとしたら、お二人は…逢引き?)
エルナがいけない妄想に走りかけていると、イザベラが切り出した。
「まあ、貴女がユリアーナ様の取り巻きのエルナさん?」
「……」
「思ったより…地味ね。」
「……」
しょっぱなから失礼な奴だな。取り巻き?に見えるのか。まあ、ここのところなんだかんだと一緒だったしな。意外なことに、運動不足解消のために選択科目で剣術を取ったら、ユリアーナ様もいてびっくりしたり。お昼も一緒だし。席も隣だしな。
「たかだか子爵家の娘を取り込んでも、何のメリットもないじゃないのね?」
「……」
いやいや何の同意?…貴女の後ろにいらっしゃるデニス様も子爵家ですけど?
「最近、ユリアーナ様は地味な振りをして殿下の目を引こうとしているらしいじゃないの?お昼も一緒に取らないで、すねたふりまでして。Bクラス落ちしたくせに、悪あがきが過ぎるわよね?貴女もそう思わない?」
「……」
(いや…別に?)
「私は王子妃争いになんか興味ありません、みたいな顔してさ。気に入らないのよね。辞退します、とか言う割に、辞退もしないし。」
「…え、と…結局のところ、イザベラ様は何を言いたいので?」
「あなた。あの人の取り巻きをやめなさい。私の取り巻きにしてあげるわ。どうせ領地の援助とかもくろんでるんでしょ?王妃の友達になりたかったら、私に乗り換えなさい、って言ってるのよ?あの人になんか脅されたりしてるんでしょ?それともやっぱり、お金?」
(あーなるほど。いわゆる、真・悪役令嬢ってこんな感じね。それで、ユリアーナ様を悪役令嬢、味方もいない、みたいな?設定にするってわけかしら?というか、してきた、んだろうな。それにしても…驚く位の自信ね?)
夕日の中で仁王立ちになって、腰に手まで当てて顎をあげるイザベラ様は…まあ、カワイイ系なんだろうけど…。おいおい、こんなのが王妃とか…国が亡ぶぞ?
「私がお小遣いもあげるわよ。」
あげくに、ぐいぐいと布袋を私に押し付けてくる。手渡されて…かなりの重さのお金が入っているらしいことが分かった。脅しの次は…ワイロ?
あ…この展開は小説で読んだことがある。これを断ると、後ろに控えているデニス様に私はバッサリ切られるんだわ…。
んなはずあるかい!!
「は?バカじゃないの貴女?貴女みたいなのが王妃だなんて、国が亡ぶわ!!」
エルナがイザベラ様の高い鼻目掛けて、布袋を投げる。クリーンヒットですわね。おほほっ。




