第3話:ついに彼の番だと思った
――晴人視点――
昼休み。
教室の隅、あの席には誰もいなかった。
(あれ…?どこ行った?)
この時間なら、相沢は隣の席で弁当を広げているはずだ。だが今日は姿が見えない。俺がクラスメイトや友人たちと話している間に、いつの間にか消えていた。
(まさか…)
ドアの方に目をやると――相沢文也と静川美月が、弁当を持って一緒に教室を出ていくところだった。
(え…?マジか)
声が出そうになるのを必死でこらえた。
美月はクラスで一番人気のある女子の一人だ。
その彼女が、相沢と二人きりで――
驚き以上に、胸がじんわり温かくなった。
(どうやらついに…)
(アイツの番が来たようだ)
相沢文也。
俺の親友で、唯一無二の存在。
小学生の時からずっと。
ケンカもした、バカみたいなことで笑い合った、
辛い時にはいつもそばにいてくれた。
周りが「クール」とか言い始めても、
相沢だけは変わらず友達でいてくれた。
(アイツがいなかったら、多分…今の俺はいない)
周りにはたくさん人がいる。
でも本当に信頼できるやつは少ない。
相沢はその中でも特別だった。
――だから、少し寂しかった。
昼休みにいない相沢を見て、
あいつがどれだけ大切か気づかされた。二年生になってから、俺は相沢との友情について真剣に考え始めた。彼のためだけじゃない、俺自身のためにも。
でもそれ以上に…
(なんだか…嬉しい)
誰かが見つけてくれたこと。
誰かと繋がれたこと。
たとえそれが――
少しずつ俺から遠ざかることだとしても。
本気でアイツの幸せを願ってる。
***
放課後、俺はすぐに相沢のもとへ向かった。
「文也!」
「わっ!? 晴人…いきなり叫ぶなよ…」
「見たぞ!昼休みに!ついに彼女できたのか?」
「ち、違うって!そうじゃない!」
「じゃあなんだ?二人きりだったろ!美月ちゃんと!」
しつこく食い下がると、相沢の耳が赤くなった。
「その…相談されてて…」
「相談?」
「…あーもう、俺にしかできないことなんだ…」
これ以上は聞かなかった。
相沢が言葉を選ぶ時は理由がある。
詮索しないのが、俺たちの信頼の証だ。
「そうか…ま、理由は何でもいい。俺は嬉しかった」
「…え?」
「お前がああやって誰かと話してるの…新鮮だったよ。
お前を本当に見てくれる人がいるなんて…安心した」
「…晴人」
「だってお前、地味で目立たないくせに――
誰よりも頑張ってて、誰よりも人を見てる。
なのに誰も気づかないんだから!もったいない!」
俺の言葉に、相沢はかすかに笑って言った。
「…ありがとう」
「なんで?」
「言葉に、だ」
いつも通りの笑い合い。
そうだ。
周りにどれだけ人がいようと、
どんなに違う道を歩もうと――
俺たちは親友だ。
それは変わらない。
そう信じていた…――