第八話 黒の仲介人
今回の登場人物
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・三ツ谷 華 (みつたにはな)
蓮太と同じく乙名学科を専攻、卒業し、沙汰人として、周囲からは女史と称える人格者。監査人といわれる権力に打ち克つ役職として、活動を開始した。前髪パッツンのボブスタイル、青いタータンチェックのベレー帽を被り、服装も気品漂うお嬢様スタイルに変貌。
・羽黒 宗助 (はぐろそうすけ)
乙名専攻学科卒業後、官人を束ねる官人所役となって活躍。黒の燕尾服に白のウィングシャツに黒のリボンにシューズを履いて如何にも紳士的な服装。
・冴島 五郎 (さえじまごろう)
乙名専攻学科卒業。日輪在住。時が経ち、宗助と同じ官人所役・日輪支部にて活躍。正義感が強く人道的だが応用の利かないところもある。今はスーツにネクタイ、シューズという姿で、祖柄樫山の闇の事件を追う。
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夢占いの巫女、奉日本 灯を美咲は金で買ったという豊倉。
それでも何処か釈然としない華。
3ヵ月の月日が流れ、華が細かな事件の報告と手続きに、宗助と料亭・伊佐で会食する。
夢占いの事件とは別に、解決して欲しい案件を提示される華。
乙名学科の同期・冴島からの案件でもあり、そこへ招待されていた冴島も到着する。
彼から伝えられた事件、それは違法宝石と奴隷商人が、ここ日輪での暗躍しているという内容だった。
「待ってくれ。違法宝石は兎も角、奴隷市場も日輪にあるっていうのか?」
「まぁ、正確には仲介人さ。俺はこれを❝黒の仲介人❞と呼んでる。」
宗助の疑問に、正確な答えを述べる冴島。
「仲介人…か。」
「ああ。これがまた本人らはどこまで知らされずに、いや、知らずにやっているのか。官人が出張っても直ぐ隠されてしまうしな。」
「そこで華…か。これは少し危険か?」
「大丈夫よ。危険になったら退散するわ。」
「三ツ谷さん、この事件は正直、何年越しで解決するモノと思っている。一朝一夕で解決できるものじゃない。日輪は攻勢派の野崎さんが統括し、商業は豊倉さんが、治安は福本さん、税は石井さんが執り仕切っている。その裏側、闇市場は誰の支配なのかは不明だ。」
「なるほど。つまり、危険も未知数…」
冴島の説明に納得する宗助。
「わかってる。それでもやるわ。それが監査人の仕事、そうでしょ?」
華が不敵に微笑むと、冴島と宗助も頷く。
「冴島君さ?」
「なんだ?」
「私、今夢占いの巫女?って事件も追ってるんだ。」
「奉日本灯…だね?」
「そうそう。何か知らない?」
「上手く説明できないがー」
「構わない。」
華が即答する。
「彼女の占いがピークの時に、この日輪の闇市場も大きくなったと思うんだ。」
「!」
「恐らく、闇の主は、この地にそんな闇市場を短期間で広げるには危ない橋を何度も渡ったと思う。」
「それを、夢占いで回避した?」
華の明確な答えに頷く冴島。
「とすれば、この地の闇市場の成り立ちと現状にもしっくりくるんだ。」
「そういうことか。夢占いを悪用された…わけね。」
冴島の予想に消沈する華。
「ただ、もし、そんな闇の主がいたなら…いや、これはよそう。」
「え?何?教えてよ。」
「冷静に聞いてくれ。君らが闇の主だったとして、夢占いで闇の資金を稼げたら、夢占いの巫女をどうする?」
「…!」
「そう、俺なら手放さない。監視下に置く。」
「ちょ、ちょっと待って。それじゃまるで…」
「あくまで俺の予想だ。」
冴島の予想に動揺を隠せない華。
「しかし、華。これは夢占いの事件も同時に解決することにならないか? つまり、手がかり1つにしても、その価値は上がる。断る理由は無くなった。違うか?」
「元より断るつもりもないけど…時が来たら、やはり美咲さんに会ってみようと思う。」
「その時は俺も行く。声かけてくれ。」
「いいの?」
「さすがに今の話の流れで美咲は危険だろ?何かあってからじゃマズイ。俺も行くさ。」
「…ふふ、ありがと。」
宗助の優しさに微笑む華。
「じゃ、方向性は決まったな?俺は他にも違う事件を追わなくちゃならない。悪いがこの件は二人に任せる。」
「ああ、構わない。お前も大変だな。」
冴島に嫌味を言う宗助。
「じゃ、ごゆっくり。」
冴島が部屋を去ろうという時ー
「冴島君、他の事件て何の事件なの?」
「…まだ正確にまとまってもいない事件でね…そうだな、禍津社、と言っておこう。」
「禍津社?」
冴島の言葉に疑問しか残らない華と宗助。
しかし、この言葉が、大きな意味となることを、まだ二人は知る由もなかった。
次回2025/10/10(金) 18:00~「第九話 3月20日14時 ~前編」を配信予定です。




