第五話 仮説
今回の登場人物
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・三ツ谷 華 (みつたにはな)
蓮太と同じく乙名学科を専攻、卒業し、沙汰人として、周囲からは女史と称える人格者。監査人といわれる権力に打ち克つ役職として、活動を開始した。前髪パッツンのボブスタイル、青いタータンチェックのベレー帽を被り、服装も気品漂うお嬢様スタイルに変貌。
・伊集院 千毬 (いじゅういんちまり)
乙名専攻学科卒業。学童会長の座も無事終え、その後、守役として学童の育成を行う。ただし、その実、九狼党としての暗躍も健在で、光と闇を使い分け、その利益を得る。髪は二つに分けて結び、カチューシャを着けて、黒と白の配色の服装が、可愛いながらも大人の雰囲気と共に、千毬の二つの顔を暗示させる。
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奉日本 灯から夢占いについて聞き取りをする華と千毬。
ただ一緒に寝て、その夢が占いの結果だという灯に驚愕する華。
そしてその夢は、ほぼ悪い夢ばかりであると言うが…
そう言って奉日本灯は出て行った。
「本人が未来の不幸な夢を見る…だけが夢占いなの?」
華は腑に落ちない感じががするも、千毬は逆にシンプルで納得がいくと答える。
「わかったわ。大凡の夢占いの効果が。」
千毬が頷いてみせる。
「え?夢占いが…わかった?」
華は千毬に顔を向ける。
「これは、危険予知能力よ。」
「危険予知?」
「そう。」
「あ、6桁の数…◎◎月、▽▽日の■■時に起きる、危険を予知夢として…ってこと?」
「恐らく。そしてそれは1年以内に訪れる最初の危険。」
「だから和都歴の数字はないんだ。なるほどね。」
灯の予知夢の仕組みを解き明かす華と千毬。
「確かにすごい。これが本当なら、お金を払って危険を回避したい人もいるよね。」
「今はそれも美咲さんの手によって禁じられているみたいだけど。」
夢占いの価値を実感する二人。
「でも、問題は何を以って危険とするかじゃない?」
「え?」
華が素朴な疑問を感じ、それに反応する千毬。
「危険て命の危険だけじゃないみたいでしょ?じゃ、転ぶだけも危険?その線引きが人それぞれじゃないのかな?」
「・・・」
華の疑問に考え込む千毬。
(確かに…危険を予知する=死の危険と思ったけど、確かにそうじゃない。盗みに遭う夢を見る人もいるって言っていた。華の言う通り、危険とするなら人それぞれじゃー あ!!)
千毬は閃いた。
(ー! 人それぞれ…対価を払うに値する危険だったと後悔するくらいの!それだ、それなら納得がいく…そして、臆病な者ほど直近に占い効果が出るだろうし、その実も大したものではない。)
「千毬?」
「そうね、華の言う通り、対価に対する人の気持ちがどのくらいの危険を避けたいと無意識に思って寝るかで結果は変わるのかも。」
千毬は一つの仮説を立てる。
「対価に対しての…なるほど。」
「無意識…とは言ったけど、もしかしたら意識することで固定的な危険を回避できるのかもしれないわね。」
「固定的な?」
「例えば、人を殺した奴が、どのタイミングで証拠が見つかってしまうのか、とか…」
「捕まってしまうのか、とか?」
「ええ。受け身の占いも、もしそれが出来るなら、かなりの能力だと思う。」
「そうね、少なくとも特定の事案が分かっているなら、それに対しては最大の防御となる。」
華もその価値に恐怖感を抱く。
「美咲園…本当に灯ちゃんへの女性蔑視からの気持ちだけで彼女の能力を禁じたのかしら?」
「千毬?」
「もしこの仮説が正しいと美咲園は既に実証しているとしたら…?それを独り占めするための詭弁ていう可能性も…」
「千毬?美咲さんは内政派よ?そんなもの独り占めにして何をしようっていうの?」
「・・・そうね。ごめんなさい、つい。」
(そうね、彼女の平和思想はここ最近の話じゃない。けれど…)
「千毬?」
「え?」
「行きましょう。まずは小さい案件から解決する、でしょ?」
「ふふ、そうだったわね。」
そういって二人は寺院を後にした。
次回2025/8/9(土) 18:00~「第六話 茶談」を配信予定です。