第三話 噂
今回の登場人物
■ ▢ ■ ▢
・三ツ谷 華 (みつたにはな)
蓮太と同じく乙名学科を専攻、卒業し、沙汰人として、周囲からは女史と称える人格者。監査人といわれる権力に打ち克つ役職として、活動を開始した。前髪パッツンのボブスタイル、青いタータンチェックのベレー帽を被り、服装も気品漂うお嬢様スタイルに変貌。
・伊集院 千毬 (いじゅういんちまり)
乙名専攻学科卒業。学童会長の座も無事終え、その後、守役として学童の育成を行う。ただし、その実、九狼党としての暗躍も健在で、光と闇を使い分け、その利益を得る。髪は二つに分けて結び、カチューシャを着けて、黒と白の配色の服装が、可愛いながらも大人の雰囲気と共に、千毬の二つの顔を暗示させる。
・白峰 雪 (しろみねゆき)
沙汰人の家系で、現・学童会長。千毬に負けず劣らずの知恵を持つ。仲間想いで、勘も鋭い。肩まで伸ばした髪を綺麗に巻き、フリルのブラウスにドレススカートを愛する。
・森 幸兵衛 (もりこうべえ)
乙名や、沙汰人、親世代からは信頼のある、実直で経験豊富な守役として知られ、守役主まで実力でなった。ただ、奇妙な事件に遭遇しており、本人はそれを否定している。
・羽芝 菖蒲 (はしばあやめ)
女性の守役では若くしてトップに立つ。次期・守役主を巡り、千毬と同盟関係になる。くノ一としての才もあり、妹の霞 (かすみ)も忍者学科の守役を務める。本気モードの際に着替える彼女の忍者衣装姿は未だ謎のままである。
・折島 仙内 (おりしませんない)
忍者学科の守役補助。妖卒業後は愚老の守役として存在するに留まる。忍者上がりだが、目も出ず、無駄に悪知恵と弱者の切り捨てで生き残って生きた。
■ ▢ ■ ▢
・和都歴451年 1月4日 10時 置田村・本置田 寺院
千毬の誘いを受け、お茶をしに寺院へ立ち寄る華。
そこへ千毬と華を呼び止める学童、白峰雪に会う。
「雅なら、万屋で買い物しに行ってまして。間もなく帰ってくるかと思います。」
学童一、美人と称される、月乃木雅。万屋で買い物を済まそうと、金銭を支払っているところであった。
遠くの窓からその姿を覗き見る、不気味な息遣いをする影があった。
「はぁ…はぁ…み…雅…」
男は自分の身体を抱き締め始めるー
《コンコン》
⦅失礼します。⦆
・和都歴451年 1月4日 10時6分 置田村・本置田 寺院
扉を開き部屋に入る華。
「ん?三ツ谷さん…いえ、もう守役よね。どうも癖が取れないわ。」
「構いません、羽芝守役。あ、それこそ菖蒲守役とお呼びしなければ、羽芝霞守役と混同されますよね。」
「そうね。で?監査人の話は伊集院さんから聞いてるわ。私に何か用かしら?」
窓を眺めていた菖蒲が席に着くと、華にも椅子へ手を伸ばす。
「失礼します。」
華も席に着く。
「私を捕らえに来たんではないと思うけど?」
「滅相も御座いません。ただ、前に一つ聞いた❝噂❞のことを、今一度聞いておきたかったので。」
「噂…かぁ。なるほど、監査人として、もうしっかり仕事をしているわけね。」
「個人的にも気に掛かっていました。教えてください。」
華が真剣な眼差しになると、菖蒲も真剣な態度に変わる。
「そうね…実はー」
・和都歴451年 1月4日 10時2分 置田村・本置田 寺院
万屋を出る雅。
「やぁ、月乃木さん。」
「あ、折島守役。」
「買い物かね?」
「はい。」
「どれ?筆記用具を購入したのかね?」
折島はわざとらしく覗いてくると、雅は少し嫌そうに身を引く。
「感心だ。ははは。」
嫌らしい目つきで雅を見る。
「すみません、急いでますので。」
颯爽と雅は折島の横を抜けていった。
「月乃木雅…か。」
月乃木 雅。沙汰人の家系で白峰雪らと同級。学童一の美貌と噂されるも、大人しく優しい性格が災いして、寺院でも男からの目線が常に絡みつくことに悩む。所謂、大和撫子の服装を心掛ける。
・和都歴451年 1月4日 10時1分 置田村・本置田 寺院
《コンコン》
⦅失礼します。⦆
「伊集院…守役か。何の用じゃ。」
窓から振り返ると千毬の顔を見て不機嫌になる幸兵衛。
「森守役主、調子は如何かなと。」
躊躇いなく、千毬は幸兵衛の真横まで距離を詰めると、窓を見つめる。
「調子?」
「ここからは万屋が良く見えますね?」
「…別にここ以外でも見える部屋は沢山ある。何しに来たのだ?」
「監査人になった華が、今来てますよ。」
「何?」
少し動揺を見せる幸兵衛。
「あれほど憧れていた華も、今や彼方の生徒ではなく、同業の守役から、一気に乙名管轄の監査人へとなり、今じゃ敵対関係とは。」
「黙れ!儂は何も捕まる道理はないぞ?」
「ええ。華は私の様に突っ込んだ話はしてこないでしょう。しかし、逆にその時は彼女の中に彼方を捕らえるに足る証拠を持ってくる時でもあります。」
「・・・わざわざ警告しにきてくれたのか?」
「勘違いしないよう。彼方が捕まれば、私の事も色々と話される恐れがあるという理由からです。」
「なるほどな。では華の傍に居て、しっかり監視しといてくれぬか?千毬は信用されておる。千毬と儂が組んでいればお互い安泰ー」
幸兵衛が振り返ると千毬の表情に肝を冷やす。
「…千毬とは、気色が悪いので呼ばないでいただきたいです。」
「す、すまん…」
「素行には、注意してくださいね。」
千毬は出口へ向かいながら話す。
しばらくすると幸兵衛は、再び窓を見つめる。
次回2025/6/16(月) 18:00~「第四話 夢占い」を配信予定です。