第十三話 違法宝石
今回の登場人物
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・三ツ谷 華 (みつたにはな)
蓮太と同じく乙名学科を専攻、卒業し、沙汰人として、周囲からは女史と称える人格者。監査人といわれる権力に打ち克つ役職として、活動を開始した。前髪パッツンのボブスタイル、青いタータンチェックのベレー帽を被り、服装も気品漂うお嬢様スタイルに変貌。
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夢占いにて自身の危険を察知した美咲。
赤島の強襲日時、それに伴う祖母屋の裏切り。これに対し、美咲は祖母屋に改めて話を聞く。
尋問ではない、一人の女性として、恩師として、話を聞いた。
「そういえば、何か不満はないのか?」
祖母屋は、何も不満などなかった。ただ唯一、人生を終える時に後悔するとしたら、それは青春の謳歌。
「そうですねぇ。私も歳を取りました。それが不満です。」
そう語る祖母屋の闇は深く、常軌を逸するモノであったが、美咲はそれをまだ知らない。
一方で、違法宝石の流通を探る華は、末端の宝石商を客として巡り、潜入捜査を開始して、数か月の時が経とうとしていた。
・和都歴452年 2月10日 14時 置田村・日輪 某・茶屋
「いらっしゃい。あら、また来たのかい?」
「はい。お店の宝石を愛でるのが好きでして。その前にまたここのお茶を頂こうかと。」
「庶民じゃそうそう買える代物でもないしね。私は娘さんがこうして来てくれるから助かるけど。」
華は、客を装い、怪しい宝石商をマークしていた。
壺装束に、市女笠で顔を隠す、如何にも身分の高そうな女性。
(あの女性…)
身分の高い女性が買うような宝石商は数多ある中、彼女は定期的にこの店に通う事に疑惑を抱いていた華。
いつも通り、暫くしても、貴婦人は出てこない。
華はサッと店に入るも、誰もいない。
(あれ…?)
華は、暖簾が掛かる奥から声が聞こえ、そっと盗み聞く。
「いつも助かりますわ。」
「いえ、こちらこそ。また来週、新しい石が入るんですよ。」
「左様か。では、それも頂きに来ますわ。」
「お待ちしてます。」
(出てくる?)
華は咄嗟に店の外へ出る。
「御機嫌よう。」
「また御贔屓に。」
貴婦人が店を出ると、華はすれ違うなり、店に入る。
「いらっしゃいませ。」
「今の人の買った石を頂きたいわ。」
「え?」
「噂を聞いてきたの。」
「・・・」
「お金ならー」
「今の人はこの石ですよ。」
商人が店に並ぶ石を手に取って話す。
「この石ならー」
「来週、入る石というのは?」
「…聞いてたのか。」
「偶然です。でも望みの金額を払うわ。悪い取引かしら?」
「ダメなんだ。帰ってくれ。」
「え?」
「命に関わる。命は買えないからな。さぁ、さっさと帰ってくれ。」
宝石商は暖簾の奥へと入っていってしまった。
「あ…あの…?」
沈黙する店内。
「あの石をお譲りいただけるまで、何度も来ます。」
華の言葉に返事はない。
「・・・」
華は店を出ると、宝石商の看板を見る。
「宝石商・生駒…」
華は違法宝石の実物は手に入らないまでも、その取引自体が命に関わり、行われていることを知る。
その後も、毎日通う華は、同じようにあしらわれてしまっていた。
・和都歴452年 2月15日 21時 置田村・日輪 宝石商・生駒
「ーそうか…」
「何とかしないと危険です。」
「わかった、慌てるな。私にすべて任せておくのだ。」
「お願いします。」
「ちなみに例の石は?」
「ここに。」
「念のためだ。私が預かろう。もし何か言われても、売り切れたとでも言っておけ。まぁその必要もない様に、手を打っておく。」
「さすが、❝黒水晶❞ー」
「ーしっ!」
「あ…」
店主はバツの悪い顔をする。
「名簿も貰っておく。」
「はい。」
「その娘は官人ではないと思うが、妙な探りが入れば、この商売も終わる。一時的に普通の宝石商に戻るのだ。顧客には私から伝える。」
「わかりました。」
暗闇の店内で、店主と、謎の男の話し合いがされていた。
次回2025/11/3(月) 18:00~「 第十四話 奇妙な二人組」を配信予定です。
※今回を以って1周年記念・強化月間を終了します。
11/3(月)~11/28(金)は秋の読書・強化月間です。
期間中は毎週(金) 及び祝日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。




