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第十二話 歳月流転

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・美咲 園 (みさきその)

若くして蓮次と藤香の側近となり、一揆でも大きな活躍と信頼を得たことで、置田村の乙名として村設立に関わった一人。非常に平和的で、革新的。男尊女卑と古い掟から真っ向から異を唱える。


・祖母屋 宇禰 (そもやうね)

美咲に仕える女中頭で金庫番。元は寺院で守役をする知恵と人望の持ち主。今は秘八上の美咲に流れる金を管理している。人の良さそうな笑顔を振りまく老婆。


■ ▢ ■ ▢

違法宝石の取り締まりを決行した華は、しばらく末端の商人と客の取引を見極めるべく、潜入捜査を開始。

一方で、夢占いにて自身の危険を察知した美咲。赤島の強襲日時。それに伴う祖母屋の裏切り。これに対し、美咲は祖母屋に改めて話を聞く。

尋問ではない、一人の女性として、恩師として、話を聞いた。

「そういえば、何か不満はないのか?」

祖母屋は、何も不満などなかった。ただ唯一、人生を終える時に後悔するとしたら、それは青春の謳歌。

「そうですねぇ。私も歳を取りました。それが不満です。」



祖母屋は若くして優秀な守役候補だった。その期待を裏切らず、即、守役として学童の手本となる勤勉さと知恵を持つに至った。その結果、学童からは尊敬の眼差しが集まる。

同じ守役は勿論、様々な縁談も、その勤勉さから釣り合うこともなく、気付けば守役を引退する歳になっていた。

「祖母屋守役を好きでした。」

引退時に、学童からそう言われた時、祖母屋は自身の人生を考えた。

「お疲れ様です、祖母屋守役。」

若い新任の女性守役が自分に手向けの言葉をくれた時、その女性守役は輝いて見えた。

若さと相まった綺麗な服と、飾り石を付けた女性守役。

(私もこんな風に綺麗だった…はず。)

「祖母屋守役の代わりに、今後は君が学童の指導をしていくんだね。」

若い男の守役が、嬉しそうに彼女に近寄ると、彼女も笑みを浮かべて返す。

(私は、既に…)


すぐに祖母屋も宝石商へ向かう。

「ここの石も粗方、揃えたわね。」

「他人が持たない石こそ、女としての魅力を高めるものね。」

若い金持ちの女性二人が、そう言って店を出ていった。

「いらっしゃいませ。何をお探しで?」

「…店に無い…」

「え?」

「店にはない、綺麗な石を!」


祖母屋はそこから違法宝石を知る。

卒業した学童や、若い守役の相談に乗る、良い顔の祖母屋。それとは逆に、その相談者を売り、または利用する、悪しき顔の祖母屋。

二つの顔を使い分ける祖母屋に変化していったのだ。


若き時を、真面目一筋に過ごした女性は、晩年、自分には何も残らない虚しさを、ただ満たそうとした。


「歳…?歳月流転(さいげつるてん)とはいうが。歳を取ることは万人平等だ。一体何が不服だ?」

「…美咲様は、恋は?」

「…どういう意味だ?」

「恋の御経験は?」

「それは…無いとは言えないが、数える程だ。」

「そうでしょう。」

「…祖母屋の不満は、恋をしたい、ということなのか?」

「…歳を取れば、不満など感じません。強いて言えば…そんなことくらいです。」

「…」

(夢占いで祖母屋が金で裏切ることと、恋はリンクしないと思うが?赤島が恋の対象とでも言うのか?)

美咲は疑問を更に解消するため、質問を考える。

「では…今、恋をしておるのか?」

「してますとも。」

「…そうか。」

祖母屋の笑みに、更に疑問が湧く美咲。

(やはり、赤島なのか? しかし、これ以上詮索しても、絡まるだけか…。)

「わかった。時間を取らせて済まなかった。」

「いえいえ。」

美咲と祖母屋は、しばし茶を楽しみ、店を出る。


「では、またな。」

「御用があれば何なりと。」

美咲と祖母屋は旅館に着くなり、受付付近で別れる。

(祖母屋の本心は…やはり縹に調べさせる他は無いか。)

美咲はそう決めると、自室へ向かう。


「ちっ!」

(お姫様気取りの権力者が。)

祖母屋は自室へ向かう。


ーガラ!


「さあ、私の愛しき人よ。女としての魅力を引き立てておくれ!」

祖母屋は服を脱ぐなり寝床に入ると、縛られた若い男を抱き締める。

後ろには違法宝石が邪悪な煌めきを放っていた。

次回2025/10/31(金) 18:00~「第十三話 違法宝石」を配信予定です。

   

※10/10(金)~10/31(金)は1周年記念・強化月間です。

期間中は毎週(金) 及び祝日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。

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