第一話 監査人
⦅注⦆サイドストーリー❝わらべうた❞はこの話の前日譚となるため、読了されていることを強くお勧めします。
和都歴451年 12月5日 8時 置田村・本置田 置田の館
ある災厄を経て、数年が経過し、その災厄・龍の行水という長雨は深刻な被害をもたらした。
雨は止んだとはいえ、多くの被害を残す現状で、多くの問題が山積みとなっていた。
その内の1つ、治安。
そして、乙名、その下の沙汰人・刀禰、守役などいった役職持ちの横領、強姦、脅迫。
いわゆる不適切事案を、もっと切り込んで解決する役職を必要としていた。
「鈴谷殿からの手紙にも、我々と気持ちは同じであると。」
「そうであろうな。特に女子供を陰で良い様に食い物にする輩は後を絶たない。」
美咲と藤香が話し合っている。
「それも半ば奴隷市のような存在すら蔓延っていて、その中には同意のない女性もいるとか。」
「逆らえば、年貢の増加や子供を売るなど、非道極まることは恐らく多数あるだろう。」
「相島のような輩がいる以上、下にもきっとウジ虫は沢山いて、現状困っているものも多いはず。」
「その声を、直に私も聞いております。」
副統括となった蓮太も参加し、声をあげていた。
「ただ、忍者らに探らせてもキリがありませんし、他に偵察、防衛などやることもあります。ここは官人をまとめて対処していくしか現状は…」
香本も声をあげる。
「しかし、官人は野盗や山賊を取り締まれど、権力には太刀打ちできませぬ。」
美咲が反応すると、藤香が立ち上がる。
「それだ、権力に立ち向かえる新たな役職を施行し、その者は証拠を掴むことで乙名にすら罰を与えれる、❝監査人❞を作っていは如何だろう?」
「しかし、その者も賄賂や欲望に負け、結果同じことにはなりませぬか?」
「そこは我々の人選に掛かっているわけだ。」
美咲の心配に応える藤香。
「その人選を、年末に3人で出し合い、年明けから監査人を施行しましょう。」
和都歴451年 12月31日 9時 置田村・本置田 置田の館
再び藤香と美咲、鈴谷を初め、副統括の蓮太と春浪、神籬の代理として、渋々事後承諾した野崎が人選票を出し合い、今ここで開票する。
「では、1枚目、開封します。・・・三ツ谷華。」
「2枚目、開封します。・・・三ツ谷華。」
「3枚目開封します。・・・」
~ 監査人・三ツ谷 華 ~
三ツ谷 華。蓮太と同じく乙名学科を専攻、卒業し、沙汰人として、官人の育成を行う傍ら、守役として学童の教育にも力を入れ、時間の合間にボランティアや、陳情を熟す、そんな彼女を皆は女史と称え、尊敬の眼差しで迎えていた。
権力に打ち克つ役職として、彼女に白羽の矢が立つのも、また一つ必然と言える。
大人に近づいた彼女は、肩まであった髪をボブにまで切り、前髪はパッツン。青いタータンチェックのベレー帽を被る。
服装も白のメルヘンティックなブラウスに、白と青のギャザーシフォンジャンパースカート、オーバーニーソックスに、ショートブーツという、気品漂うお嬢様スタイルに変貌。
和都歴451年 1月4日 9時 置田村・本置田 置田の館
「…ーそういう理由だ。理想の役職は施行しても、中に修まる人間は限られる。ほぼ全員一致で三ツ谷華、お前にそれをお願いしたい。引き受けてくれぬか?」
「わかりました。お引き受けいたします。」
「官人の育成は羽黒宗助が引き受けてくれるし、守役の学童教育の方は伊集院千毬に引き継いでもらうことにした。」
藤香の引継ぎ説明に、頷く華。
「他、困ることは我々内政派をはじめ、乙名が全面協力する。小さいことでも、権力を傘に着た不届き者は、その号令によって処分する。ある意味責任の高い役職だ。華がその正義の天秤を傾けてはならない。お前の事、信頼しておるゆえ、大丈夫だとは思うが、念のため伝えておく。良いな?」
「お任せください。」
藤香の監査人としての心構えを拝聴し、華も冷静に答えた。
「ならば私からはここまで。あとは村を回り、困る人の声を拾い上げ、解決へ導いてくれ。」
華が置田の家から出て、馬車へ向かう。
「よっ!監査人の三ツ谷さん!」
「私たちも帰りの馬車、御一緒して良いかしら?」
「宗助?千毬ちゃんも…ええ、是非。乗って頂戴。」
成長を遂げた宗助と千毬も馬車に乗り込んだ。
次回2025/5/6(火) 18:00~「第二話 使命」を配信予定です。