第5話 悲劇の修道女・テレサさん
スザンヌは教会へ家族でお祈りに行ったとき、こっそり単独行動をした。
修道女のテレサさんに声をかけたのだ。
テレサさんは若くて美しい金髪で青い目の女性だ。
体型もスラリとして細身。
スザンヌはいつも憧れの目で彼女を見ていた。
「テレサさん、相談があるの」
スザンヌが声をかけると、テレサは、
「何かしら、スザンヌちゃん」
と柔らかな微笑みを浮かべる。
スザンヌは読み書きを教えて欲しいこと、でも親は反対していることを伝える。
するとテレサは、
「心配しなくていいわ」
と、修道院が子供たちのために学校を開いていることを教えてくれた。
修道院の集会場で定期的に授業を行っているという。
出席は自由、授業料はなし。
すべての授業に通ってくる子供もいれば、時々顔を出す子もいる。
「貴族でもない限り、子供を学校に行かせたい親はそんなに多くないのよ」
この村では、男の子は家のために働き、女の子は家事をする。
それが毎日の日課になっているのだ。
「家に内緒で通ってくる子もいるわ。親に学校に行きたいというと、反対されてしまうからね」
テレサがスザンヌにウィンクする。
スザンヌの顔が、ぱっと明るくなる。
「私、行きたいです。修道院の学校に」
家での仕事と家事の合間を見て、修道院の授業に通うスザンヌの日々が始まった。
とても大変になったが、ものすごく楽しい。
家に内緒で学校に通う子たちとはすぐに仲良くなった。
そしてテレサの「セーヌ語」の授業の日は、さらに楽しい。
授業終わりにセーヌ語の不明点の質問に行ったスザンヌ。
これまで聞けなかったことも、思い切って聞いてみた。
「テレサさんはなぜ、修道院にいるんですか?」
ずっと気になっていた。
美人で頭のいい人テレサさんはなぜ、神に仕える道を選んだのか?
テレサさんは一瞬、遠い目をした。
そして静かな口調で言った。
「そうね。いろいろな試練が、私をここに導いたんでしょうね……」
そしてテレサさんは語り始めた。
「私は小さいころから、やがては誰かと結婚するつもりでこの村で暮らしていました。ですが……」
テレサが悲しい目をする。
「グレゴリウス家の息子・ミシェルに乱暴されて気を失い、体を汚されてしまったのです」
〈またあのミシェル!〉
スザンヌは衝撃を受ける。
テレサが言う。
「信心が深い家庭では、結婚前にそういうことがあった女は”傷もの”と見られます」
「そんな。悪いのはミシェルなのに!」
と思わずスザンヌが声を上げる。
「事件はその後、グレゴリウス家の力でもみ消されました」
〈そんなことがあっていいのか〉
とスザンヌは思う。
「それ以来、私は家に居場所を見つけられなくなりました」
というテレサ、こう続ける。
「でも、ここに来られて、私は自由になりました」
確かに修道女のテレサは美しいだけではなく神々しいと、スザンヌは思う。
「修道院には文化の中心地として最高の叡智が集まります。ここにいると、いままで見えなかった景色が見えるんですよ」
それを聞いて、スザンヌは自分に問いかける。
〈テレサさんは運命を逆転させた。私はできるのだろうか〉
奇しくもミシェルに運命を翻弄された女2人がここにいる。
いずれも深刻な被害者である。
もう、のさばらせておくわけにはいかない!
今日は早めにひとつ投稿しました♪
15時過ぎにもう1エピソードお届けするつもりです♡
いつもどおり20時過ぎにもアップしますね♡♡






