第22話 立ち上がる市民兵たち
指揮官のデシャンはパナークで大量の食料と補給物資を調達した。
しかしパビリオンに届けるためには大きな試練がある。
敵の砦に国に囲まれるバーレル川を渡らなくてはならないことだ。
デシャンは風向きなどを考慮して川を渡るルートを決めた。
その結果、敵の「レーヌ・サム砦」が最も危険だと判断した。
デシャンはスザンヌに通信使を送った。
手紙には、
〈明日、レーヌ・サム砦を攻撃せよ〉
と記されていた。
その間にデシャンは補給部隊を引き連れて川を渡る算段である。
スザンヌはセーヌ軍に指示を下し、攻撃の準備を整えた。
しかし翌日、スザンヌは失態をしてしまう。
攻撃開始の時間にうたた寝をしていたのだ。
スザンヌ以外の部隊は、すでにレーヌ・サム砦への攻撃を開始している。
「スザンヌさん、なに寝てるんですか? 援軍の攻撃が始まりましたよ!」
従卒の少年兵が慌てた声でスザンヌに呼び掛ける。
その声でスザンヌは飛び起きた。
おそらく単独で偵察を続けていた疲れが出て、眠ってしまったのだろう。
初日から大遅刻となったスザンヌだが、まったく気後れする様子はない。
白い軍旗を握って、外へ飛び出す。
そしてスザンヌは集まったていた兵士たちに檄を飛ばした。
「グランド国を、叩きのめしましょう!」
スザンヌに率いられた兵士たちの動きは、これまでとまったく違っていた。
誰よりも驚いたのはグランド国の兵士だろう。
スザンヌが来るまでは、自信なさげに腰が引けていたセーヌ国軍。
ところが今や、闘志に満ちて、怒涛の勢いで突っ込んでくる。
それを率いるのが、白馬に乗ったスザンヌだ。
兵士たちの先頭に立って、スコット王太子から贈られた白く輝く軍旗を掲げる。
「行きましょう! 神様がこの戦いの勝利をお待ちになっています!!」
スザンヌに率いられたセーヌ国軍はグランド国軍を圧倒した。
レーヌ・サム砦を短時間で占拠した。
約150人のエール国軍兵士を倒し、50人を捕虜にした。
あっという間の電撃的勝利だった。
近くの教会に逃げ込んだ30人ほどのグランド国兵士も捕えられた。
「無駄な殺生は避けてください」
スザンヌの依頼で彼らは命を助けられ、捕虜となった。
翌朝、スザンヌは、総指揮官のデシャンのもとを訪れた。
そしてドラガン要塞への攻撃を提案した。
ここにはグランド国の主力部隊が集まっている。
敵の心臓ともいえる主要拠点。
「勢いに乗った今、一気に勝負をかけるべき時です!」
しかしデシャンは慎重な姿勢を崩さなかった。
ドラガン要塞はまさに敵の本拠地。
おそらくセーヌ国軍の総力をかけなければ倒せないであろう。
「まだ今の段階では危険すぎる」
とスザンヌをなだめる。
それとともにデシャンは、兵士たちの疲労を心配していた。
「本日は休息日にさせてほしい」
スザンヌは納得いかなかった。
しかし戦いの中で、デシャンが全兵士から信頼されていることは実感していた。
だから素直に従うしかなかった。
翌日に戦略会議が行われた。
スザンヌは再び、敵の心臓部・ドラガン要塞への攻撃を主張する。
しかし指揮官のデシャン同様、他の騎士たちの猛反対にあった。
そこでデシャンは、段階的な攻撃を提案した。
「まずはバーレル川の通行権を取り戻すことを目指そう」
川にかかる橋は今、グランド国軍が支配している。
彼らは橋に沿って複数の砦を築いた。
橋と砦とが合体した複合施設をグランド国は「ブルギール」と呼んでいる。
「ブルギールの攻略から始めよう」
デシャンはそう呼びかけた。
ブルギールは3つの砦からなる。
橋の真ん中に作られたのが難攻不落と呼ばれるロンドダート砦。
橋を渡った先にあるのがスッドオージュ砦だ。
ブルギールのメインとなるのはこの2つの砦である。
そして、ここを守るために見張り役を果たす砦がある。
それがスッドオージュ砦から少し上流に位置するケイトリー砦である。
作戦の決行は明日。
船で川の中州に渡り、これらの砦を攻撃する作戦が立てられた。
翌朝、パビリオンの東門の前。
攻撃開始時間よりかなり前に人だかりができていた。
「どうしたのですか?」
スザンヌは彼らに声をかける。
「聖なる乙女よ、私たちも戦いに連れて行ってほしい」
それは市民兵を志して集まったパビリオン市民だった。
彼らは、スザンヌと司令部の意見が対立していることを知っていた。
「司令部に任せたら戦いは長引いていく一方です」
「今すぐ、グランド軍を叩くべきだ!」
市民兵たちはものすごい熱気に包まれている。
彼らの強烈な使命感がスザンヌにも伝わってくる。
「いいでしょう。勇気あるものは、私とともに来なさい!」
スザンヌは自分の部下と、市民兵たちを率いて船着き場に導いた。
作戦開始時刻はずっと後だ。
しかしスザンヌは彼らとともに船や筏に分乗して出発した。
川の中州に船をつけると、大きな船を使って、南岸への臨時の舟橋を作る。
兵士たちは次々と対岸に上陸する。
目指すはケイトリー砦だ。
ここを獲れば、セーヌ国の砦に変えることができる。
相手への攻撃の拠点にすることもできるだろう。
しかし近づいていくと、砦にあるはずの防衛壁がない。
「壁が、すべて取り去られているぞ!」
先頭の兵士が叫ぶ。
そしてケイトリー砦には、人の気配がない。
もう誰もいなくなっていた。
グランド国軍はこの砦を放棄して、防壁を壊して無力化した上で立ち去ったのだ。
呆気にとられる兵士たち。
しかしスザンヌは、彼らを鼓舞する。
「グランド国は逃げたのです!」
市民兵たちが、一斉にスザンヌを見る。
スザンヌは白く輝く軍旗を掲げて言う。
「我々がこの砦を取ったのです!」
市民兵たちが一斉に歓声を上げる。
スザンヌは前進しながら呼びかける。
「目の前には橋の上のロンドダート砦がある。次はここを獲りに行きましょう!」
市民兵たちはさらに大きな声をあげ、彼女に続いて進む。
すると耳をつんざくような轟音と、稲妻のような光が兵士たちを包んだ。
「大砲だ! 身を伏せて!!」
スザンヌが市民兵たちに必死で呼びかける。
しかし大砲は密集した兵士たちの体を次々にふきとばしていく。
グランド軍が仕掛けた罠だった。
彼らはケイトリー砦を捨てて、残る2つの砦に戦力を集中させていた。
大砲は遠方のスッドオージュ砦から発射されていた。
市民兵たちは大砲に狙われる絶好の的となった。
爆発のたび、次々と犠牲者が出る。
「いったん退却するしかないぞ」
セーヌ国兵士たちは我先に、上陸地点に戻ろうと敗走していく。
すると砲撃が止み、近くのロンダート砦からグランド国兵士が飛び出してきた。
これがグランド国の必勝パターンだった。
弱気になったセーヌ国兵を一気に追撃して叩くのだ。
今日はお休みだったので早い時間に投稿してみました♡
今夜も20時過ぎに会いしましょう♡♡




