表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/64

第1話 「国の救世主」から「魔女」に……無情の火あぶり処刑

 スザンヌ・マルクの体は処刑台の高い柱に(くく)り付けられている。

 足元にくべられた(まき)には敵兵たちが存分に油をかけている。

 やがて火がつけられ、スザンヌは火あぶりにされる。


 広場に集まった市民たちの目は彼女に釘付けだ。

 敵の兵士たちから怒号が飛ぶ。


「魔女を灰にせよ!」


「異端教徒は消えろ!」


「生意気な女を処刑だ!」


 スザンヌは思う。


〈なぜ、こうなってしまったのかしら〉


 戦う乙女、スザンヌ・マルクはセーヌ国の滅亡危機に現れた。

 セーヌ国の騎士たちは彼女の勇敢さとカリスマ性に心酔。

 彼女を深く敬愛した。

 猛者たちを従えたスザンヌの部隊は無双の強さを見せる。

 敵のグランド国軍に連戦連勝。

 セーヌ国の救世主となった。


 しかしスザンヌは敵軍に捕まってしまう。

 そして運命は急転した。

 魔女裁判にかけられ、有罪の判決が下った。

 これによりスザンヌは火刑(かけい)に処せられる。


〈バトラー、レオ……〉

 

 スザンヌはセーヌ国で共に戦った騎士たちを思う。

 男性ながらその姿は勇ましく、そして美しかった。


〈あなたたちのために運命を変えられたらよかった……〉


 処刑台が設けられたのはサン・フォール広場。

 セーヌ共和国の領土だが、いまは敵国占領下にある。

 スザンヌの危機は騎士たちが常に救ってきたが、今回はさすがに無理だ。


 占領下にある市民たちは声を出せない。

 固唾(かたず)をのんで成り行きを見つめている。


 敵軍の最高司令官・ストリーニの顔が見える。

 怒りに満ちた表情だ。

 スザンヌに負け続けて国民から批判され、過去の勲章も剥奪(はくだつ)された。


 スザンヌの魔女裁判で有罪判決を出したグレールもいる。

 彼もスザンヌに恨みを持っていた。

 セーヌ国軍に攻め込まれ、命からがら家から逃げ出した。

 裁判ではスザンヌを冤罪(えんざい)(おとしい)れるよう、あらゆる汚い手を使った。


 スザンヌの体は処刑台に、きつくロープで固定されている。 

 まったく身動きが取れない。

 後手で手首を縛りつけられ、足首も縛られている。

 手も足も痛みを通り越して感覚がなくなってきた。


〈天使様、聖女様。なぜこうなってしまったのかしら〉


 スザンヌをここまで導いてくれたのは「天からの声」だ。

 しかしいま、その声は聞こえない。

 大切な道しるべだったのに……。


 数人の兵士たちが処刑台の下にやってきた。

 スザンヌの足元にくべられた(まき)に火をつけようとしている。


 スザンヌは、自分の両側に付き添う修道士2人にこう頼んだ。


「私の目の前に十字架を立ててもらえるかしら?」

 

 修道士たちは床から十字架を拾って掲げた。

 スザンヌは神に祈りを捧げる。


〈せめて、どうか神様のもとに行けますように〉


 兵士たちがついに(まき)に火をつけた。

 グランド国派の司教が告げる。


「魔女よ消えよ、二度とこの世に復活することのないように」


 勢いよく燃え上がる(まき)の炎。


 熱い、足の裏から脚全体、そして体へと広がっていく、恐ろしい熱さ。


「神様……神様……」


 スザンヌが呼びかける。神様からの返事はない。

 彼女の体が炎に包まれていく。

 体が焼ける、熱い、痛い、苦しい。

 体の全体に苦痛と熱さが駆け回り、声にもならない。

 煙と炎でまったく呼吸もできない。

 息が苦しい。

 痛い、熱い、苦しい……。


「ああ、神様……」


 スザンヌは最後の言葉を発した。

 

 そのとき一羽の白い鳩がサン=フォール広場の上空へと舞い上がっていった――。


 ********************************


〈長い旅から帰ってきた感じ〉


 意識が戻る。目覚めとはなにか違う。


 火あぶりにあったことだけは覚えている。

 自分の体が全身から火に焼かれていって殺されていく苦しみ。

 

 熱さ、痛み……。

 恐怖、パニック……。

 終わりのない最悪の拷問……。

 この世の苦痛をすべて集めたようだった。


〈なぜ殺されたのかしら?〉


〈そう、私が「魔女」として火あぶりにあったから〉


 スザンヌは、そう思い出す。


〈で、どうして私は生きているのかしら?〉


 スザンヌは自分の腕を見る。

 白くてツヤツヤした肌。

 きれいなままだ。焦げていない。


〈だけどなんだかこの腕、細すぎないかしら?〉


 ベッドも懐かしい色と匂い。

 

〈まるで故郷・フルーレ村のお家のようじゃないかしら〉


 とスザンヌは思う。

 

〈フルーレ村?〉


 そう、ここは間違いなくスザンヌの実家だった。

 そしてスザンヌの体も、もっと幼くなっていた。

 女性の体に変化していく前の体。

 胸もぺったんこで、腕も脚も少年のように細い。

 

〈若返ったのかしら?〉


 と思うスザンヌ。

 しかし自分の右手の中の違和感に気がついた。

 何かを手のひらの中に握っている。


 右手で作っていたこぶしを開く。

 手のひらに現れたのは――。

 スザンヌにとって誕生石であるガーネットの指輪だった。

 大切な人からスザンヌに贈られたものだ。

 もともとはベキリーブルーという神秘的な青色の宝石だ。

 だが長時間高熱にさらされた結果……。

 見るも無残な黒こげになっている。


 これを贈ってくれたのは……。 

 忘れるはずもない、セーヌの騎士のなかでもとびきりの美形。

 バトラーから贈られたものだ。

 セーヌ共和国を救うため共に戦った戦友。

 すべてを分かり合った大親友だった

 誰よりも大切な……。

 スザンヌの目から涙がこぼれ落ちる。


〈間違いない、私はもう一度、人生をやり直しているのだ〉


 そしてスザンヌは、ひとつだけ、固く心に誓った。


 あの熱さ、苦しさ、痛み、恐怖。


〈もう、まっぴらゴメンです――〉

 

 せっかくやり直せたこの人生。

 

〈火あぶりだけは、絶対に回避しなきゃ!〉


毎日、20時過ぎに投稿しますね♡

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ