8 初陣
職業登録を終えた俺は噴水広場に戻り、そのまま南西の冒険者ギルドに移動した。
こっちは職業登録組合と違いそんなに混んでいなかったので、さほど待たずに冒険者登録をすることが出来た。
冒険者ランクは一番下のEから始まり、順にD、C、B、A、A+、Sと上がっていくらしい。
これは冒険者ギルドで定められている聖、魔物の危険度が基となっているらしい。
冒険者登録をすると同時にこのギルドの建物の施設としての機能も説明してもらった。
それによると、建物一階部分には受付や依頼掲示板などがあり、二階には簡易的な宿があるそうだ。そして三階部分にはギルドの会議室等、ギルドの業務に関する部屋があるらしい。
まぁ要するに普通の冒険者としては一階のみないし二階までで完結するようにできているという事だ。
取り敢えず冒険者ギルドに登録することは出来たし、レベル上げついでに何らかの依頼でも受けるかと依頼掲示板を見てみる。
するとそこには街の人の軽い手伝いやこの街の西にある草原の聖、魔物退治、近くの森林の調査などランクの低い依頼から、国境付近に居座る大型聖魔物の討伐というBランク以上の依頼も張り出されていた。
沢山の依頼が張り出されているが、俺が受けられるのは現在のランクのEの依頼とその1つ上のDランクの依頼までである。
そして聖、魔物の討伐系の依頼は基本Dランクかららしいので、戦闘でのレベル上げをするならば必然的にDランクの依頼を受けることになる。
張り出されている依頼の中で興味を惹かれたのは『D:西の草原の下級狼討伐』、『D:南東の森での怪奇現象の調査』、『E:城下町地下の調査』。こんなところか。
『西の草原』と『南東の森』の依頼は連続ログイン可能な8時間という短さでできる物ではなさそうだから、この2つを一緒に受けるという事は無理だな。
興味がある中から組み合わせで選ぶとしたら『西の草原』と『城下町地下』。『南東の森』と『城下町地下』。この組み合わせだな。
このどちらかと言われれば、他2つよりも直接的に戦闘行為の示唆がされてるという観点から『西の草原』だな。
よし。
取り敢えずDランクの『西の草原の下級狼討伐』にでも行ってみて、序盤で無理そうなら戻ってきて『城下町の調査』を受けるか。
これら低ランクの依頼などの一部の依頼は基本的に常設の依頼らしいから、依頼が達成できなかったとしても違約金の支払いはないみたいだし。
早速依頼を受注した俺は回復薬などの準備に取り掛かった。雑貨屋で下級HP回復薬を買い、店を後にし西門に続く大通りへと向かった。
大通りに入り少しした頃、大きな門から伸びている数人の並ぶ列が見えた。
△▼△▼△
西門に続く列に並び始めて5分が経過した頃。
「こんな夜から冒険か? 暗闇だから気を付けてくれよ。
……よし、通っていいぞ。この門が閉まるのは深夜0時頃だから戻ってくるのならそれまでにな」
「分かりました」
門兵の人に冒険者ランクEと新しく記載された職業カードを提示し、何らかの確認をしてもらった俺はカードに西門通行の情報が記されたことを確認し、そのまま大きな西門をくぐった。
西門の先には広い草原が広がっていた。門に近いところは踏み固められているのか雑草などは生えていないが、門から20メートルほど離れると俺の腰くらいの高さの草がたくさん生えている。
門の近くで立ち止まっているわけにはいかないので草原を探索していると、一匹の灰色の毛皮を持った狼が俺の周りを5メートル近くの距離を取り、ぐるぐると歩き様子を伺い始めた。
取り敢えず相手の正体を知るため鑑定を発動する。
――――――――――
名称:無し
種族:下級狼
職業:――
状態:Active、冷静
Lv.3
世界の様々な草原に出現する狼の最下位種。
好戦的な性格をしているが明らかな上位者に対しては群れの長などの命令がないと攻撃をしない。
――――――――――
鑑定して出てきた情報を必要最低限だけ読み、未だ俺の周りをまわっている下級狼を敵と認識し、腰に下げていた初心者の木剣を抜き放ち警戒の態勢を取った。
俺が警戒したとほぼ同時に下級狼も回るのを止め、唸り声をあげた。
「俺の初陣はこの狼か。現実でもこの世界でも、戦った経験なんて1ミリもないからどんな感じになるのか」
独り言をよそに木剣を両手で右側に構え、下級狼に向かって走り出す。俺の動きを見て下級狼は真正面から迎え撃つつもりなのか、先ほどまでよりも一段と背を低くして、迎撃の構えを取った。
俺が動き出してから1秒に満たない時間で彼我の距離が1メートル強となり、ここにきて漸く下級狼もアクションを起こしてきた。
「――ガウッ!!」
横薙ぎに振るおうとしている剣を持つ両手の手首を噛み千切ろうとしているのか、俺の身体の右側に向けて口を向けている下級狼。
それを迎え撃つべく少しだけ手を引き、下級狼の頭のある位置よりさらに下からの攻撃に切り替える。
目の前から狙いが消えた下級狼は少し戸惑っているようで、攻勢意思が少しだけ弱まったような気がした。
その少し弱まった隙で下級狼の首の下まで剣を持っていき、そこから掬い上げるようにし首を叩き上げた。
視覚外からの攻撃に下級狼は気絶したようだ。
《只今の戦闘行為によりLv.1からLv.2に上昇しました。スキルポイントを10獲得しました》
《只今の戦闘行為により剣術Lv.1からLv.2に上昇しました》
気絶した下級狼を木剣で殴っていると、いつの間にかその身体から力が抜け、ただの骸となっていたようだった。
戦闘前は不安だったが終わってみると意外に呆気なく感じたな。俺が戦闘のみに集中していたからだろうか。
いや、それだけじゃないな。戦ったことはないはずだが、何故か戦ったことのあるような動きになっていた気がする。
戦闘時の動きについては自分でもよく解らないため置いておいて、特に疲れも感じないのでこの狼の死骸を回収して、次の狼を探しに行くか。




