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73 意識するまでもなく


「いらっしゃい、イズホ君! 久しぶりだね!」

「俺の感覚では言うほど久しぶりじゃないけど、まぁ久しぶり、ムーちゃん」


 夜、21時50分にログインしてすぐ、城から街へ降りてムーちゃんの工房へと直行した。

 ムーちゃんにあの翼の事を訊いたりするためだ。


 昼のログインの8時間では光と闇の術それぞれ、レベルにして10と11まで上げることができた。ついでに聖術も取ってそっちも少しだけ上げておいた。

 レベルが10と11になって、あと少しだから今からでも上げたらいいじゃんかという思いは有れど、先に錬金をやっておきたい気持ちの方が大きかった。

 それにスヴァさんが今日はもうログインできないらしいからちょうどいい。


 閑話休題。

 カウンターで何やら書き物をしていたムーちゃんの後ろを通って工房に行き、補充しないといけないアイテムを確認する。


「何が足りないかなぁ、と」


 ……言うほど減ってない、か? 滅多に被弾することなく、必然、HP回復薬は使用することが無くなってるか。

 まぁMP回復薬だな。そっちは順当に減ってきてるから作らないとな。


 倉庫へ行き下級MP回復薬の材料を取ってきて作業を開始する。

 すでに下級MP回復薬を作る動き自体は体に染みついているので、特に意識せずとも失敗することは無いだろう。なので別の事を考えていたりしても大丈夫、なはず。


 そういえば、と今作ってる下級MP回復薬についてだが、今のレベルで下級を使っても満足するほど回復できないんだよな。今の品質だとどうなのか分からないけど確かレベル51以上だと12%しか回復しなかった気がする。

 中級を使うとそれが改善されるとかそういう確証があるわけじゃないけど、HP回復薬と同じ仕組みと考えると中級を使った方がレベル50以下で下級を使うのと同じぐらいには回復するはずなんだよな。


 どうなんだろ。ムーちゃんに翼の事訊くついでにこれも訊いてみるか。

 もしかしたらレシピだったり作り方を教えてもらえるかもしれないしな。


《只今の生産行動により錬金Lv.29からLv.30に上昇しました。『抽出』、『属性操作』が使用可能になりました》

《聖力操作Lv.3からLv.4に上昇しました》

《精神強化Lv.36からLv.37に上昇しました》

《霊力強化Lv.22からLv.23に上昇しました》


 魔力を籠めたり聖力を籠めたりと、ランダムに霊力を選択して次々に作って、次を作ろうと手を伸ばすもそこに倉庫からとってきた材料は無く。

 作った先からアイテムボックスに入れてたのでアイテムボックスを確認してみると、今日ここに来て最初に確認した数を優に5倍は超える量が作られていた。


 作りすぎたかもな。

 というか俺はいつの間にこんなに作った? 無意識に作りすぎたな。もうちょっと作業に思考を割いていても良かったかも。

 最初から、明らかに作りすぎた分はムーちゃんに渡して店の在庫にしてもらう予定ではあったけど……。それでも多いな。


 まぁ過ぎたこと、やってしまったことについては今後注意するとして。

 ちょうどいいからムーちゃんに時間作ってもらうか。


「ムーちゃん、今から少し時間大丈夫か?」

「ん? 良いよ! お客さんもこの時間はいつも滅多に来ないし、来ても呼び出しベルあるから大丈夫だよ!!」


 店の部分に移動して後ろから声を掛け、大丈夫らしいのでそのまま方向転換して工房へ戻る。

 移動中に軽くだけ概要は話して、ついでにMP回復薬の件も伝える。

 それを訊いたムーちゃんは驚いていた様子だった。どっちへの反応かは分からないけど、取り敢えず教えてはくれるようだ。


「まずは……、どっちからしようか? 翼と中級MP回復薬、どっちからがいい?」

「そうだなぁ、じゃあ翼から」


 MP回復薬の方はいつでもできることはできるからな。

 翼の方もいつでもできるっちゃできるけど、危なそうだからな。先に片づけられるのなら優先的にやっておきたい。


「了解! じゃあその件の翼を出してもらっていい?」

「何もない所に出して大丈夫?」

「あー、じゃあそう、だね。これの上にお願い」


 そう言って示されたのは何の変哲もなさそうなトレイのようなモノ。ここの工房の主がこれでいいって言ってるから大丈夫だろう。たぶん。

 アイテムボックスに手を突っ込み、目的の翼を取り出す。仮想ウィンドウを操作して取り出すこともできるけど、こっちの方が今のような場合は楽に取り出すことができる。取り出すものを頭に思い浮かべるだけで勝手に手に収まってくれるからな。

 まぁもちろん、沢山取り出す場合とかはウィンドウ操作の方が楽だけど。


 アイテムボックスの空間の歪みから顔を出した『侵霊成竜の翼』は前に見た時よりも少しだけ、表面に張り付いたキノコの大きさが大きい、ような気がする。本当に少しの差異だから気のせいかもしれないけど……。


「うわっ! 訊いていたやつよりも悍ましいね。それで、これをどうしたいんだっけ? 燃やすのはすぐにでもできるけど……?」

「いや、燃やすのは最終手段だな。この翼に含まれてる精霊を取り出せないかな、っていう話だ」

「んー? あ、本当だ。精霊さんの力、少しだけど確かにあるね」


 ポケットからルーペを取り出して観察していたムーちゃんはそう零した。ちゃんと、って言い方はあれだけど鑑定の通り精霊の力は入ってるんだな。

 どうやったら取り出せたりするのかな。


「そうだねぇ、『分離』だと駄目、かな。精霊さんの存在を維持したまま分離したいなら『抽出』でやった方が確実だね」

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