70 天使に創造されし聖霊
『話をしましょうとは言ったものの、今の貴方に話しても意味の無いものが殆どだと思われます。ですので、簡潔に、最低限だけお話しします。
先ほども言った通り、私は天魂の熾天使様に創造された下級聖霊です。他にも同じように創造された聖霊、魔霊は存在しますが、私以外のみんなは父上からの制限は無く、次々に中級、上級へと進化していきました。私だけが父上から明確な指示を頂いたのです。
それが『来るべき時に備え、力を制限しろ』というものです。そう、きっと私は今日この時、父上の匂いのする貴方に呼ばれるため、父上に創造され永き時を殆ど無為に過ごしたのでしょう』
特に俺が言葉を挟むという事は無く、ただルテリアの言葉を聞いていたが、結局のところ最初に呟いていた事と殆ど同じか。父上の匂いがどうとかは分からないけど。
その父上とやら、『何とかラ何とかル』の言葉を律義に守って今まで生活していたのだろう。何でこういう風になるような伝言というか指示をしたのか知らないけど。
『この空間についても父上から教えてもらいました。曰く、戦闘を行い召喚した存在が勝った場合、召喚した側の目的が達成したと世界に判断され、この空間から解放されるようです。また、召喚された存在が召喚した存在と契約をすることでも同じく、目的が達成されたと判断され解放されるのだとか。
私としてはどちらでも構いません。戦ってそのまま殺しても、戦わず契約していただいても、戦った上で契約していただいても、その何れでも私はその判断を受け入れましょう』
本当に少しの話だったが、だいたい解った、かな?
つまりはその父上とやらの匂いのする俺の判断ならば、問答無用で従うという事だろうな。
そんなに俺の事を信用してくれるのは有難いやら何やらだけど、なんでそんなに信用してくれるのか。父上の“匂い”が原因だろうけど、そんなにその父上とやらの事を慕っていたというか、信じていたという事かな。
まぁそんな、『信じてくれるのは……』、って考えてはいるものの、実際のところ答えは出てるんだよな。
俺の答えは『何も、戦いなどせずただ契約する』というもの。本当は戦ってもみたいけど、契約する存在を契約する前とは言っても傷つけるのはなんか違うなっていうので、除外する。
「まぁたぶん理解できたと思う。理解できてなかったとしても、取り敢えずはここから戻るために契約するという選択を取るよ」
『やはりそうですか。貴方ならその選択をすると思っていました』
なんか知ってた風に言ってるけど、俺の言葉の後に言ってるから実際には知らなかったけど、っていうのもあり得るよな。
まぁいいや。そんなことはどうでも良いし。
「じゃあ契約するぞ。
全ての契約を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全ての獣霊と契約する力を。」
俺の手首とルテリアの手首の位置にそれぞれ術陣が展開され、その両方に俺が魔力を注いでいく。
少しだけ力の差があるからなのか、ルテリアの方の術陣への魔力の通りがよくないが、魔力量にモノを言わせ無理やり術陣を完成させる。
――中位契約陣――
術の名を零した瞬間にそれぞれの術陣が鎖で繋がれ、すぐにそれは術陣諸共消え去った。しかし確かに、獣霊契約は完了したという感覚は存在する。
『これで私は貴方の契約獣霊となりました。貴方……、そういえばまだ名前を訊いていませんでしたね。貴方の名は何というのでしょうか?』
「俺はイズホだ」
『イズホですか。ではそうですねイズホと呼ぶこと、に、いえ、仮にも契約主を呼び捨てにするのは駄目ですね。名前を訊いておいて申し訳ありませんが、これからはマスターと呼ぶことにいたします』
まぁいいけど。それに呼び方云々以前の話、名前は知っておいた方がいいだろうし。
『マスターは召喚系統の術を発動することはできますか?』
「いや、できないな」
『そうですかでは……、いえ、やはりこれは私が言うモノではないですね』
なんだろう。召喚系統……?
アセヴィルがウニコルヌスを呼び出したときに使ってたやつとか、いつぞやの聖職位配りおじさんが帰る時に使ってた、次元術やら次元術陣やらの事かな?
それがどうしたんだろうな。
「まぁいいか。で、いつになったら元の場所に戻されるんだ?」
『そこまでは私も分かりません。直に戻されると思いますが……』
じゃあもう少し待つか、と思った瞬間に戻されるんだよ。
『どうやらきちんと試練を通過したと判断されたようですね。
……それではいつでもお呼びいただいて構いませんので、マスターの呼び出しをお待ちしております』
「それじゃあまたな」
その言葉を最後に俺の視界は再び光に溢れ、何も認識できなくなった。
《聖王族の秘術・聖力の試練をクリアしました》
《霊力:聖属性を獲得しました。詳細につきましては別途、現地の住民にお尋ねするか、ヘルプをご覧ください》
《称号:“秘術試練をクリアしたモノ”を獲得しました》
《2属性の霊力を確認しました。――――が解放されました》
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