59 銀髪
俺たちの事をじっと見つめていた銀髪の女の子を見つめ返していると、急にその姿が消えた。
気を抜いていた訳ではないけど、見失ってしまった。ちょうど人が被ったタイミングだったからそれで見失ったのかもしれないけど、何らかの効果で姿を消した可能性もある。
「どうしたイズホ?」
俺がキョロキョロしていることに気が付いたのか、アセヴィルが声を掛けてきた。
「いや、何か見られてる気がしたから――」
「――気のせいだろう」
さっきまでの状況を説明すると、食い気味にそう返された。
いつものアセヴィルなら言葉を遮るようなことはしてこなかった様に思うけど、何かあったのかな?
何もなかったらそんなことはしないと思うし……。何だろうな。
「なんや食い気味やったけど、それはアセヴィルがそう思い込みたいだけとかそういうんではないんよな?」
「ん、? いや、そういうわけではないと思うが」
なるほど? その可能性があったか。
アセヴィル自身は否定してるけど、それもなんか軽いというか自分でもよく解ってないみたいな感じだな。
というかその前に俺たちを見てた女の子についてはどういうあれなのか。それが判らないな。
銀髪で女の子。
そもそも俺はこの世界でそんなに人と関わっているわけじゃないし、しかも聖王国に来るのも初めてなんだよな。
そんな中でただ1人の特別そうな住民について、わかるはずもなく。
「因みになんだけどアセヴィルって銀髪の女の子に心当たりってあるか?」
「銀髪といえばこの国の王族だが、……それがどうかしたか?」
銀髪はこの国の王族?
つまるところつまり? さっきの女の子は王族だったと、そういう事か?
「それはつまり、普通の国民には銀髪はいない言う事か?」
「いや、そこまでは知らないが、ここの王族が銀髪なのは確かだ」
あ、普通にそこらを歩いてる人が銀髪の可能性もあったか。
アセヴィルはそこまでは知らないようだけど……、どっちなんだろうか。
まぁ取り敢えずそれについては放置か。
俺達を見ていた人はどっかに行ったようだし、俺達のログアウト用の宿は見つかったようだし。
アセヴィルが宿を取るのを待っている間に、残り2時間30分近くをどう過ごすか話し合う。
……話し合うが結局、最終的には何らかの討伐となるな。
そもそも、時間を潰すという考えになっていること自体おかしいというか、いやその言葉は間違ってるか。時間が余ってたら“潰す”んじゃなくて“使う”の方がいいな。
その時間を使ってレベル上げなりなんなりするか。
……何かを忘れている気がするけど、何だったか。
聖王国に来たら何かするべきことがあったような気がする。
「まぁいいか」
「ん? なんや?」
「いや、何か忘れてる気がして」
スヴァさんが反応したけど俺の忘れている事は欠片も浮上はしてこない。
仕方ないから今は忘れたままにしとくか。モヤモヤした気持ちで過ごすことになるだろうけど。
「宿は取れたぞ。……ん? どうした?」
「何か忘れてる気がするけど、いいやってなってるだけだ」
アセヴィルが戻って来て少し違和感を覚えたのか疑問符を打ってきた。
それに返すと考えこんだかと思ったらすぐに口を開いた。
「そう言えばイズホはし、じゃなくて何だったか、そうだターラフェルだったな。何か紹介状を貰っていなかったか?」
紹介状、紹介状? そういえばそんなのもあったような気が……。
アイテムボックスを漁ってみると、確かに師匠に貰った紹介状があった。
忘れてたけど教え子か何かが聖王国で店を開いてるとか何とかって言ってた気がするな。
「先にこれ片付けてくるか。スヴァさんはどうする?」
「俺は……、どうするか。……そうやな、イズホかアセヴィルのどっちかに付いて行こか」
「俺は特に何も無かっただろうから、イズホの方に付いて行くと良い」
自分が何も無いからって押し付けられた感じになってるな。
まぁ取り敢えずアセヴィルと別れて、冒険者ギルドなり生産者ギルドなり行って目的地を探すか。
まずは冒険者ギルド行くか。いや、生産者ギルドの方から行くか。
錬金は生産系だし。
生産者ギルドの場所を知ってそうなアセヴィルに場所を訊いてから、そこへスヴァさんと共に歩いていく。
木が並び立ってできた道、というか家が木だからあんまり道という道の感覚ではないけど、家である木の隙間を縫って教えてもらった方角に進む。
しばらくして木が乱立する街で珍しい建物が複数見えてきた。
中央に噴水ではないけど湖があり、フレイトゥルなどで言う一番初めの場所だろう。
つまりこの建物群は冒険者ギルドだったり職業登録組合だったりするはずだ。
扉の上に打ち付けられた看板を見て生産者ギルドを探す。
北西から順に見て回り、南東の位置で見つけたので入る。
一直線に受付へ行き紹介状を見せてその店の場所などを訊き、すぐにその場所へ行くため外に出る。
またしばらくスヴァさんと話しながら歩き、目的の店に辿り着いた。
それはこの街、というか国では珍しい、ギルドと同じような建物の形をしていて、所々師匠の店と似たところがある様に思える。
早速扉を手前に引いて店に入る。
「いらっしゃいませー!」
店に入った瞬間はつらつとした声が空間に響き、今までの俺たちの静けさが一気に吹き飛んだ。
声のした方を見てみるとそこにはカウンターがあり、そこから何か動物の耳のようなモノを覗かせていた。
それはゆっくりとカウンターの端に寄っていき、最終的に小さい女の子が顔を出した。




