47 逸竜の狂踊-防衛-2-竜と術と属性と
俺が杖を振るうのと連動するように天から地に墜ちる水のハンマーだったが、その対象である竜がその背中にぶつかる直前で辛うじて避けたことで、その水の6割は攻撃に消え、残り4割はそのまま俺たちの立つ大地に墜ちていった。
幸いにして、術により現出した水などの物質は攻撃対象が定められている場合、それに当たらなかったと結果が確定した瞬間、その部分は世界に溶けるように霧散する。だから墜ちた水によって俺たちが流される心配はない。今にもちょうど地面にぶつかった水から溶けていっている。
竜がどうやって水を確認したのかは疑問だが、それを言ったら一番初めの壁に当たる直前で竜が後退したのも疑問だから今は考えないようにして。
俺の発動させた水打陣により現出した水の6割ほどがその背中にぶつかった竜はと言うと、痛痒も感じていないかのように飛び続けていた。どうなっているんだ?
さすがにあの攻撃で少しはダメージが入ってふらついたりするもんだと思っていたが、その様子もないんじゃあ、予想以上にあの竜のレベルが高いという事か。
今の俺がここに来る道中でレベル46から上がって47だから、20以上は離れて最低でもレベル70はあるか? 鑑定は、無理だな。やってもいいけど、それをやったら俺とその周辺が瞬く間に更地となるな。
俺だけがリスポーンすることはあってもいいけど、住民が死ぬことは極力避けないと。あ、でも俺も死ぬことは避けないとか。現状のリスポーン位置がどこになってるのか分からないから。
今、竜がそれほど積極的に攻撃してきていないという事がどれだけ助かる事か。
これで竜が攻撃に積極的だったならば、今ここに俺たちは、街は存在してないんじゃないか? 過去の竜も攻撃に消極的だったのかは分からないが、この消極的がいつまで持つか。
そして、その消極的の間に竜を別のところに行かせることはできるのか。確かこの竜は順繰りに街を襲撃するとアナウンスに書いてあった気がする。
もちろんこれは過去の竜の行動からの予測だろうから、今回の竜を他の街に行かせないという選択肢はあるにはあるだろう。だが、それを取っても何も変わらないんじゃないかと思う。
……ゲーム的に考えすぎかな。いや、ゲームだからいいんだけど。
水打陣の発動に魔力の6割を消費してしまったのでMP回復薬を飲んで回復し、周囲の騎士たちと同じようにチマチマと細かく術を発動しては竜にぶつけ、時々竜から繰り出される風系統の術らしきものを避けて、を繰り返していると隣で同じようにチマチマ繰り返していたアセヴィルが何やら呟いた。
「変わり映えしないな」
どうやらこの状況が退屈になってきたようだ。俺も少し飽きてきたがそれ以上っぽい。
「仕方ないんじゃないか? 竜はそんなに攻撃してこないし、その竜に対しての俺たちの攻撃も一定以上の威力では攻撃するなってハフィニストさんからの指示が来てるし。明確に指揮下に入ってるわけじゃないけど、共闘状態なのは変わらないんだから最低限は同じようにしないと」
「そうは言うがな」
俺が今言ったことはアセヴィルも百は承知だろう。それでも言わずにはいられないか。
どうしたもんか。
「イズホは初めに比較的大きい一撃を入れることができただろう? まぁ痛痒を感じさせることはできなかったようだが。俺はそれができていない」
え、つまりはストレス発散がしたいという事か。ちょっと余計な言葉が混じっているがそういう事だろう。
それを聞かされて俺にどうしろと。せめてこの指示を出してるハフィニストさんに言うべきじゃなかろうか。
「いやしかし、うーむ」
俺が答えなかったからか、1人の世界に入り込んでしまった。
うん、取り敢えず放置するか。しばらくすれば戻ってくるだろ。
「全ての魔を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを貫く、貫通の魔の力を。」
――魔矢陣!!――
アセヴィルの独り言で止まってしまった竜への攻撃を再開し、さっきまでで分かったことを自分なりに纏める。
騎士のヒト達と共に術を撃っていく中で、1つ気付いた事がある。それは、竜に対しては純粋な属性の方が効果的だという事だ。
純粋な属性、つまり今のところ魔属性と聖属性の2つ。
竜はどうやら水属性などには耐性を持っているというか、不純物があるから余計にダメージを与えられないみたいだ。
なんて言えばいいのか、水属性などの水術は自分の中にある魔力、聖力のカタチを変えてから術陣に流し術を発動させる。
そのカタチを変えた時点で、魔力、聖力に水属性と言う不純物が付与されるらしい。
それに対して、魔術、または聖術は自分の中にある魔力、聖力をそのままのカタチで術陣に流して術を発動する。
つまるところ、竜と言う存在は四大属性、火水風土と光闇の二属性に耐性があり、聖魔の純粋な二属性には比較的耐性がないという事。
どうやらこの世界は聖魔二属性を基に、派生的に属性を作ることができるらしい。
結果、水術でチマチマ攻撃するより、魔術でチマチマの方が効率はいい。
まぁ、そんな些細な工夫をしたところでチマチマなのは変わらず、魔術で大きい一撃を出すことができれば違ったかもしれないが。
時々魔力を回復しながら魔術を放ち、重点的に攻撃していた竜の右翼に明確に傷が見受けられたころ。
俺の隣でずっと考えこんでいたアセヴィルが何かを決めたのか、急に「仕方ない、か」とまたもや呟き、俺に天候操作の幻双剣を使い、天候を変えろと言ってきた。




