38 vs聖水大熊-下
熊に近づいていきその背中側に回り、その大きな壁に向かって剣を縦に勢いよく振り下ろす。
剣は俺に気が付いていない様子の熊の背中に吸い込まれ、その大きな壁の中ごろから2本の深い切込みがクロスして残った。
「スヴァさん、そっちは大丈夫ですか?」
「あ? あぁ、大丈夫や。誰かさんが背中斬ったから、この熊悶えとるで。今のうちに叩き切らんと、というか今が叩き切るチャンスや」
「そうですね。それと疑似魔纏も大丈夫ですか?」
「魔纏だったり聖纏でやれるような自由に出力上げる、ができんから一定のダメージしか望めんけど、一定のダメージがあるだけで十分や。あ、魔力はまだ残っとる、大丈夫や」
「了解です」
熊を挟んで向こう側のスヴァさんに状況を確認して、振り下ろした状態だった両の剣を再び上に持っていき、魔力を流しながらついさっき付けたばかりの傷に沿うよう、振り下ろす。
「グォォッッ!!」
再びその壁に剣が吸い込まれ、さらにその溝を深くした瞬間、熊が俺の方を向きその両手を振り下ろそうとした。
それを後退して避けるのではなく一歩、熊に近づくことで避ける。その際、左の剣を手から離し、右の剣を両手で掴む。
避けた先で再び剣を振るうべく魔纏を発動する。
――ドォンッ!!――
今がチャンスだろう。これを逃したら次にまた熊の聖石を狙い撃ちできる状況がいつになるか。
俺の後ろで熊の両手が地面にぶつかった音を確認して、下から剣を突き刺すように、熊の聖石があるであろう胸の位置に狙いを定め、突き刺す!
押し出した剣はスムーズにその毛皮を貫き肉を貫き、とそこまでいった所で何かに押し返されるような感触がした。
もっと力を入れて剣を押し込むが、それが進む気配はない。
何かが剣を押し返してる? それなら、もっと魔力を籠めるか。それで何かは変わるだろう。
「グゥォォォッッッ!!!」
剣に魔力を籠めた瞬間、推定聖石からの反発が少し減った。
逆に熊自体の反発がやってきた。その身体を乱暴に振り回して俺の剣を抜こうとしているようだ。
「スヴァさんも後ろから剣刺して聖石狙ってください!!」
「分かったで!」
反対側に居るであろうスヴァさんにそう言ったが、そもそもこの熊は6メートルの巨体だ。後ろから心臓部にある聖石を狙うなんて、よくよく考えたら難しかった気がする。
まぁそれでもスヴァさんなら何とかしてくれると信じて、俺はこの剣にもっと魔力を注いで聖石の破壊を狙うのみ。
魔力を剣に流すことによって推定聖石からの反発、抵抗?が少なくなるのはなぜか。
そもそも、この反発する感覚が何なのかよくわかってないんだよな。
魔力と聖石から出る聖力がぶつかり合って対消滅したそばからまたぶつかり合って、を繰り返しているのか?
もしそうだとしたら面倒くさいし、俺の魔力が持つかどうか。
いや、魔力が持つかなんて考えるまでもないな。無くなったらその都度下級でも中級でも、MP回復薬を飲んで補充するだけだ。
そうと決まれば、とは違うけどさらに魔力を消費する。このまま魔力を限界まで注げば先に剣が壊れるかも、なんて思いながら。
熊が振り回す体にこっちが振り回されないよう足に力を入れながら、剣がその体に取られないよう手にも力を入れて、さらに押し込む。
無理やりにでも剣が聖石に触れるよう押し込みながら魔力を流し、魔力を流し、残る全てを流し、聖力を消滅させ押し込む。
「ぐっ!? 痛ぅ……、まだ、まだぁ! 押し込めぇ!!」
背中に衝撃が来た、が気にせず引き続き剣を押し込む。
魔力が無くなりかければこの状況が途切れない様、左手でMP回復薬を取り出し無理やり中身を流し込む。
どっちが先に魔力ないし聖力が途切れるか。
いや、そういう事を頭の片隅で考えている余力があるのなら。剣を押し込む力と魔力を流すという事を考える力に回した方がいい。
また魔力が無くなりかけた。
MP回復薬を飲んで魔力を回復させ、剣を押し込む力をもっと強くする。
「もっと! もっと! もっともっと!! もっと!!!!」
自分を鼓舞し、その奥底に眠っているであろう残りの力を引き出そうとする。
自分でもよくわからないが、そこにあるという確信をもってその力を使う、そういう気持ちを胸に剣を押す。
――ツッ――
それが功を奏したのか、それとも熊の聖力が枯渇しかけたのか、急に剣が熊の体の中を進み硬いモノにぶつかった。
聖石だろう。
今しかない。今しか、この熊の活動を破壊する“時”はない。
「うおぉぉぉっっ!!」
腕に力を、剣に魔力を籠め、それを押し込み――。
――パキンッッ!!――
――ついに聖石を破壊することができ、熊を倒すことができた。
ついでに聖石を破壊した剣も破壊された。
しかし、倒したはいいが、その巨躯がそのまま重力に従って倒れ、その下にいた俺は下敷きとなってしまった。
「スヴァさん……、俺を引っ張り出してくれ」
「お? おぉ、下敷きになってしまったか。ちょい待ちや、すぐ出してやる。
……というかこの熊仕舞った方が早いやんか」
そういえばそうだ。俺達にはアイテムボックスという便利なものがあるんだから、スヴァさんに助けを求めなくても自分で立ち上がれたな。
まぁ過ぎたことはいいとして。
「あー、疲れた」
「そうやなぁ、まぁ俺はほとんど何もしてへんけど」
スヴァさんとそう言葉を交わし、アセヴィルがいるであろう方を見てみるといつの間にか木を切り倒してその切り株に座っていた。
取り敢えずアセヴィルの近くに行くとするか。




