35 副作用
2時間ぐらい歩いたかな。
道中は当然聖物や魔物が襲ってきたが、そのどれもがレベルにして25から30後半だったから楽だった。
出てきた聖、魔物の種類は殆どが熊系だったが、時々蛇や狼も出てきていた。
やっぱりエリアボスがジャイアントベアという事で、その付近が縄張りのような感じになっているのだろうか。
襲って来る聖、魔物と戦っていたのは俺とスヴァさんのみで、アセヴィルは襲ってきたのを対処する俺たちを呑気に見ているだけだった。
傍から見たら呑気に見ているように見えるだけで、実際には呑気に見てなどいないかもしれないが。
盗賊のカシラとの戦いの顛末は2人ともそんなに話そうとしなかったから少ししか知らないが、簡単に言えばアセヴィルの補助系の術で強化されたスヴァさんが圧倒したとのこと。
アセヴィルの助けが入ると俺たちが簡単に聖、魔物を倒してしまうから、今は傍観に徹してるのかな?
まぁ単純に面倒なだけという可能性も無きにしも非ずだし、その補助系の術の反動か何かで力が出せない状態であるのかもしれないが。
「なんや知らんけど、盗賊倒した後からスキルレベルの上がりが異常な事になっとるんよなぁ」
「異常?」
「そうなんよ。前までは聖物か魔物を複数体倒して、どんどんスキル経験値的なのが蓄積されてようやくレベルが1つ上がる、って感じやったやろ?」
「まぁそうだな」
「それが今は1体倒すごとに1以上上がっとるんよなぁ、身体強化と霊力強化が」
確かに異常だ。このゲーム、一気に2つレベルが上がる時は普通に上がるから特に珍しいことでも無さげだが、それが続くとなれば何かおかしなことが起きているとしか言えないな。
1体倒すだけで得られる経験値なんて体感で、その時のスキルレベルにもよるだろうけど、せいぜい1レベル分の6分の1か5分の1ぐらいという感覚だ。
それがどうして連続で1以上上がることになるんだか。
「ふむ。それはたぶん、俺の術の影響だろうな」
「アセヴィルの? それはどういう意味や?」
「詳しく説明は出来ないが、簡単に言えば盗賊騒ぎの折にウスヴァートへかけた術の副作用で、魂魄許容領域が大幅に拡大したからだろう。
それ故に能力の習熟が速くなり、身体に流し込まれるチカラも増えたのだと思われる」
チカラというのはつまるところ経験値の事かな?
でも、そうか。そういうのもあるか。
術というのは何らかの効果を持った物だ。故にそれに付随して副作用があるものも存在するか。薬と同じで。
「へぇ、そうなんやな。因みにその副作用ってなんかこれからヤバくなったりする奴なんか?」
「いや、あと複数回一気に強くなればそれも収まるだろう。そこまで俺はあの時ウスヴァートの魂魄を拡張した覚えはないからな」
「ほな、一応は安心やな」
安心。安心か。
まぁ強くなるに越したことはないだろうから、逆にその副作用で得たモノが無くなる心配が少ないと知れただけで安心するか。
△▼△▼△
時々他愛もない雑談をしながら、更に歩くこと1時間弱。
ようやくというか予定通りにジャイアントベアの棲み処?寝床?が見える位置にたどり着いた。
まだその寝床まで距離があるのでゆっくり、静かに近づいていく。
あと一歩踏み出せばその広場に入れるというところで足を止め、その全貌を見渡す。
どうやらここの主は今の時間は寝ているようで、右奥に見える穴の中で丸まっているのが確認できる。
「どうする? 奇襲するか?」
「いや、確かエリアボスのフィールドはそこに入った瞬間、ボス戦が開始されるらしい。
その時ボスがどんな状態であろうと、強制的に戦闘状態に移行されるんだとか」
「じゃあ、普通に戦うしかないんか」
「たぶん」
掲示板で見た限りではそんなことが書かれていた。
ここのジャイアントベアもエリアボスだろうから、他と同じだろう。
この世界こういうところはゲームチックなんだよな。
まぁそうしないといけないような事情があったりするのかもしれないけど。
「この大熊もお前たち2人で倒してくれ。俺はここで見ている」
「了解」
「分かったで」
アセヴィルが戦わないのは何か理由があっての事だと信じて、絶対に面倒くさいからだと思わずに返事をする。
それにこのジャイアントベアは俺たちの強さの指標。だからアセヴィルは一緒に戦わない方がいい。
ボス戦はその広場というフィールドに入らないと始まらないとはいえ、ずっとここで眺めているだけでは終わらないので装備の確認と、回復薬などの確認を素早く済ませる。
「準備はええか? イズホ」
「あぁ、俺は大丈夫だ」
「ほな早速、呑気に寝とるあの熊を叩き起こして、すぐにまた眠らせるとするか」
スヴァさん時々こういうシャレにならないというか、ちょっと怖いこと言う時があるんだよなぁ。
まぁいいか。俺はその言葉の責任は負わないという事で。
2人とも準備が終わったのでその足を一歩進め、広場となっている熊の寝床へ侵入する。
――――――――――
エリアボスの展開する結界に侵入しました。
エリアボス『聖水大熊』との戦闘を開始します。
――――――――――
「――グオォォ!!」
そのアナウンスが聞こえた瞬間熊は寝床の穴から6メートルはあるであろう体躯を縦に伸ばし、鼓膜に響く咆哮をお見舞いしてきた。
「今回俺は剣のみで戦うのでスヴァさんは火術とか弓でお願いします。でもまぁ臨機応変に」
「はいはいりょーかい。ほな早速、寝起きの熊に一撃、咆哮のお返しとするわ。
全ての火を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。消えることの無い、連続する火の力を。」
事前に相談して決めていた役割分担を再度声に出して確認し、俺は両手に1本ずつ鉄剣を握り走り出す。
――火連陣!!――




