34 夢を見ていた
【S：イズホ】
夢を見た。
いや、一面真っ黒な世界で何かを聞いた、と言った方が正しいのか？
その言葉を言っていた者の姿は見えなかったが、確かに聞こえはした。
――119年前から待っていた、と。
それ以外にも何やら言っていたようだったが、ノイズが走り聞こえなかった。
正直、その言葉の意味は一切分からなかったが、いずれ分かる時が来るのだろうか。
まぁ取り敢えず起き上がるとするか。
目は閉じたままだが、背中の感触からして馬で荷台を走らせている最中だろう。
この状況から察するに、あの盗賊に勝ちそのまま走り去り今、という事かな。
「ん？ おぉ、起きたんか、イズホ。大体1時間ぐらいか？ 寝てたんは」
「1時間も気絶してたのか。それで、盗賊には勝てたのか？ まぁ、今の状態を見るとそうなんだろうとは思うけど」
「そうそう、最後の最後でなんとか勝てたわ」
そういうスヴァさんの防具は所々切り裂かれて、はないな。
ほんとにギリギリだったのか？ とてもギリギリには見えないが。
まぁいいか。現にこうして無事だから。
「今はどのくらい進んだところなんだ？」
「今は、そうだな、ヴィデュールの森まであと、だいたい13時間ぐらいの距離、か？」
「いや、俺に訊かれても」
でもそうか、あと13時間で森にたどり着くのか。
俺たちの残りログイン時間は5時間弱か。途中で野宿かな。
「あぁでも、途中で『アグセフト』という街によって、そこで休憩をする予定ではある。その街はちょうど王都から7時間強くらいの場所でな。
お前たちの休憩にはちょうどいいだろう」
異邦人にとってちょうどいい所に街があるもんだなぁ。
あ、でも馬とその荷台で7時間なら徒歩の場合もっとかかるか。それならちょうどいい場所ではないか。
まぁ休憩地点になり得る街がある時点で、異邦人関係なく有難いだろうけど。
盗賊に会う前の情報と今までの時間経過を合わせて考えると、あと5時間半ぐらいでその街に着くらしいけど、それまでは暇だろうな。
まぁこういうファンタジーな世界での移動は少なからず、暇なのが多いだろうけど。
「イズホ今、暇やろなぁ、思ったやろ」
「ん、まぁそうだな。実際ここから5時間半、何もなければずっと虚無のような時間を過ごすことになるんだろうし」
「そう言うと思って、これを持ってきたで」
そう言ってスヴァさんがアイテムボックスから出したのは、トランプの様なものだった。
トランプ。トランプなぁ。
「トランプで何するかにもよるけど、だいたいのやつのルール知らないんだけど」
「まぁまぁ、知らんくても、やるうちに覚えたらええねん」
その様にして突発トランプゲームが始まった。
途中から、馬の操縦から離れたアセヴィルも加わり、順調に敵襲などもなく休憩所代わりの街、『アグセフト』にたどり着いた。
因みに馬はどうやったのか知らないが、勝手に走ってくれていた。
ログアウトまで少しだけ時間があったので街を軽く見て回り、時間になったら適当に宿を取ってログアウトした。
△▼△▼△
13時間12分後(22:00)。本日3回目のログイン。
ゲーム内では朝10時。
昼のログインでは森の手前まで歩きで行き、そこにテントを張ってログアウトした。因みに馬と荷台はアセヴィルがどこかに何らかの術陣で飛ばしていた。
今日最後のログインで森の中腹ぐらいまで行き、そこに居るであろうジャイアントベアを倒して、そのあと時間がなければすぐ奥にあるらしいセーフティエリアでまたもやテントを張ってログアウト。時間があれば進めるだけ進む。
そういう風にいくらしい。
まぁそもそも、森の中を迷ってボスのところに行けるかすらも分からないが。
ヴィデュールとかの国へ行くために倒すべきボスの強さはレベルにして、35前後らしい。
俺たちはそれより奥、というか先であろうボスのところに行くわけだが、肝心のジャイアントベアの強さがいまいち分かってないんだよな。
たぶんな話だが、正規ルートのはずの他の国への道を阻むボスよりは強いんじゃないかと俺たちは思っている。
まぁこっちが正規ルートじゃないと決まっているわけでもないが。
「ん、起きたか」
俺たちがログアウトしている間、アセヴィルがどんなことをして暇を潰しているのか知らないから何とも言えないが、テントの周りが何やら荒れてるんだよな。誰がやった、とかそういうのを知りたいわけではないけど、心配する気持ちが出てくる。
まぁ大丈夫ならいいんだけど。
「因みに、ジャイアントベアのいる場所にあたりはついてるのか？」
「ん？ あぁ、だいたい3時間ぐらい歩いたところに居るはずだ」
「いやそうじゃなくて」
そうではあるんだけど、そうじゃないんだよな。
まぁいいや。3時間で行ける範囲のどこかにジャイアントベアはいるんだな。
「まぁ大丈夫だ。近づけば解る」
「本当に？」
「あぁ、ジャイアントベアは自身の棲み処を周囲30メートルは真っ平にしているからな。
……それはそうと、ウスヴァートはどうした？」
「さぁ？」
そういえば確かに。数分もすれば来ると思うが。
でもまぁ、そもそもが7倍の世界なんだから、時間のズレはしょうがないよな。
「いやぁ、すまんすまん。遅れてもうたわ」
「では行くか。準備は大丈夫か？」
「あぁ」
「大丈夫や」
少ししてスヴァさんがログインしてきたのでログアウト用のテントを片付け、武器防具を装備して森に入っていく。
森に入って5分ぐらいで熊の魔物が出てきたが、レベル25だったのですぐに片付いた。
この調子で行けるといいが。
