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33 ―― S:U、―


 取り敢えず、荷台から降りる、前に。

 弓で戦うわけにいかんやろうし、何で戦うか。相手と同じ短剣でやったとしても千日手には、……ならんか。

 イズホを一撃で倒したようやし、奴さんの強さは俺と比べもんにならんやろうな。


 じゃあどうするか。

 色々武器はアイテムボックスの中に入っとるけど、やっぱり短剣が一番使っとるからなぁ。

 ……仕方ない。奴さんと同じ土俵で戦うか。


「どうした? 降りてこないのか? もしかして、戦う気が失せたか」

「いや、今から降りるとこやってん」


 せっかちやなぁ。


「それで、死ぬまでやるんか?」

「死ぬまでやらないでどうするってんだ。衛兵にでも突き出すか?

 それとも仲間にでもしてくれるか? 俺はどっちでもいいが、時間稼ぎは無しだぞ」

「時間稼ぎなんて、ミリも思っとらんわ」


 奴さんとの実力差を考えると、時間稼ぎなんて意味ないやろうし。


「あ、そこの盗賊の男。最後に1つ、確認しておきたいがいいか?」

「あん? まぁいいぜ」


 と、楽し気に俺たちを見とったアセヴィルがなんか口を挟んできたわ。

 何を言うんやろか。


「先ほど、お前は俺の乱入は禁止といったが、それは“直接的に”戦闘に乱入するのが禁止という意味で大丈夫か?」

「あぁ、そうだよ。あんた含む1対2はちょっときつそうなんでね」

「そうか。男に二言はないな」

「あん? これ以上の条件があるっていうのかよ」

「いいや、これ以上の条件などないさ。ではウスヴァート、初めてもいいぞ」


 なんや、何が言いたかったんや? アセヴィルは。

 ルールの再確認? そんなもんなくても……、いやそういう事か。

 分かったで、アセヴィル。信じるとするわ。


「はいはい、りょーかい。ほな、始めるとするか。

 あんた、名前は? なんて、ヒトじゃない奴に(盗賊)に訊くことでもないか。

 今のは忘れてや」

「盗賊にも名乗る名があってもいいだろ。まぁもとより教えるつもりはなかったがな。

 ……そうか、俺と同じで短剣か。どうなっても知らねぇぞ」


 今はアセヴィルを信じて、精一杯この男の短剣に対応するだけや。


「ふん、途中から武器を変えたいなんて言っても、聞いてやんねぇぞ、とっ!!」

「途中から武器変えたいなんて言うわけないやん、か!」


 その言葉と共に2つの短剣を逆手に持って敵のリーダーが走ってきた。

 見た限り聖力は籠ってなさそうやったから、こっちは逆に籠めて武器が負けん様にする。


 武器の差はつまり、どれだけ打ち合いで長く持つかやと思っとるから、こっちはせめて聖力でも何でも使って、向こうのよさげな短剣に少しでも食いつけるように。


「どうしたどうしたぁ! 手も足も出ねぇかぁ!?」

「うっさいなぁ! こっからどうするか考えてんねんから!」

「そんなもん考えてどうする!? こっからお前は俺の短剣にグサグサされんだよぉ!」


 こいつはすぐ先の未来じゃなく、ずっと先の未来を逆の立場で考えとるらしいわ。

 こいつをそうするんは俺の短剣やのになぁ。って、んなこと考えたらこいつと同じやな。


 今は手加減されとるのか、全然普通に対応できるぐらいの攻撃のみやけど、時々対応できるギリギリの攻撃が飛んでくるんよなぁ。

 ほら、今も来よった。下からの頭を狙った素早い短剣での突き。

 こいつはこれが好みなのかよく飛んでくる。だから少しは予測できるようになってきたけど、それもいつまでできることか。


 正直、手加減されてるであろう今のうちに猛攻を仕掛けたいけど、そうしようとしたら見計らったようにさっきの攻撃が飛んでくるもんやから、できんのよなぁ。

 手加減しとる理由は、何やろな。……、あぁイズホが思ったより柔かったことと関係しとんのかな。

 すぐに楽しみが無くならん様に。最大限楽しめるように。


「ほら! さっさと仕掛けて来いよ! このままじゃお前の方が先にくたばっちまうぞ! まぁ俺はそれでもいいが!」

「俺が仕掛けたら、反応できるギリギリの攻撃出してくるくせによく言うわ!」

「そうしないと俺が楽しめないんだから、仕方がないだろう!?」

「イズホの首を斬ろうとする前に甚振るのは好きじゃないとか、言うてなかったか?」

「ん? あぁ、そんなことも言ったな! まぁそれとこれでは訳が違うんでね!!」


 まぁ今のまま、手加減してくれとる方が俺とアセヴィルにとっては好都合というもんやな。


 そんなやり取りをした後、再び数回短剣を打ち合った直後、どこからともなく魅了されるような声が聞こえてきた。



     △▼△▼△

【S:――】


「我は(―――)故に我に願う。今一時、我の御魂を目の前の助力を願うモノに貸し与えることを。

 又、我は“世界”に願う。魂の均衡の一時の崩れを見逃すことを。」


 唐突に、この場のすべての存在に聞かせるためのような声が、音が、発された。

 それはこの場にいる全てのヒトに向けて話し、それでいてこの場のただ1人、ともう1つの存在に向けて話しているようであった。

 ようであった、というより話しているのだろう。


 それはもちろん、盗賊の格好をした、その声が聞こえてから腕を振るうことなくただただ呆然としている男、ではなく。

 それに相対する、これまたその声に魅了されたかのように、動かなくなった身体の中にいる1人の異邦人、でもなく。

 少し前に気絶したもう1人の異邦人、でもなく。


 その音を発している“その存在”に向けて、“その存在”がそれを許すように。

 また、それを聞いているであろう――(ぼく)に向けて。


 ――いいよ。今この場で起きることは全て“記憶”されないだろう――


 ――誰かがこの“記憶”を覗き見ようと、そこにこの出来事の影形はない――


「“―――”としての権能、――を行使する。魂魄改変及び魂魄操作を発動。対象者を“ウスヴァート”に設定」


 やがてこの思念(こえ)が聞こえたのか、そのチカラが“再び”世界に刻まれる。

 “その存在”が行使する、世界でたった1つのチカラ。


「――の発動を確認。

 一時的な魂魄の贈与を実行。対象者ウスヴァートの魂、魂魄(スキル)を拡張し、新たな領域を身体強化及び霊力強化として最大まで改変する。

 また、この改変は30秒後に対象者から離れ、行使者の魂魄として吸収されることとする」


 魂を操るという人の身には、目には禁忌として映るであろう、過去現在未来並行世界、その全てにおいて“その存在”しか得ることの無かったチカラが。



 ――せいぜい頑張ってくれたまえ――


 ―― ――(ぼく)は君の事を待っていたのだから――


 ――“119年前から”――


 ――そこに眠っている、異邦人としてやってきた君の事もね――

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